莉子は隣で完全に呆然としていて、思わず悠良を見つめた。
「どういうこと?前に聞いたときは、彼の性的指向に問題があるなんて一言も言ってなかったけど?」
悠良はその場で固まり、どう返答すればいいのかわからなくなった。
もしこの話がまとまらなければ、母の件もややこしくなる。
けれど、まさか伶が「男が好き」なんて言うとは思っていなかった。
彼女は伶を見て問いただした。
「何言ってるですか?いつから男が好きに?」
伶はつま先を軽く合わせ、口元にはからかうような笑みを浮かべ、喉仏が上下に動く。
滑らかで整った顎のラインは鋭く、見る者に強い印象を与える。
悠良は、彼の冷ややかな目がからかうように自分を見ているのを感じた。
「知ったような口ぶりだな。まさか試したことでもあるのか?」
その一言で悠良の頬は一気に真っ赤に染まった。
試したわけじゃないけど、見たことはある。
確かに、前に自分が薬を盛られたとき、伶は反応していた。
もし本当に男が好きなら、あんな反応は起こさないはず。
つまり、これはわざとだ。
ただ、今は莉子もいるので、それ以上のことは言えない。
彼女はそっと莉子の耳元で囁いた。
「名門に嫁ぎたいってずっと言ってたでしょ?ちゃんと考えてみなさい。寒河江さんは白川家よりもずっと力のある相手よ。もし彼と付き合えたら、将来寒河江夫人になれる。そうなれば誰も陰口なんて叩けないわ」
悠良の言葉に、莉子は揺れ始める。
最初は「男が好き」と聞いて完全に諦めたつもりだった。
自分のような若くて魅力的な女性でも相手にされないなら、あまりにも屈辱的すぎる。
けれど、言っていることにも一理ある。
以前は白川社が圧倒的だったが、この2年ほどでLSの勢いはそれを遥かに凌いでいる。
すでに史弥のことは諦めるべきだ。
莉子は深く息を吸い、慎重に頭を整理した末に、またあの愛想のいい笑顔を浮かべて言った。
「さっきは取り乱してすみません。今どき、男が好きって別に普通のことですよ。まずはお友達としてお付き合いしても......」
その言葉に、悠良のこわばっていた眉間もわずかに緩んだ。
伶は指先で半分ほど残ったグラスをくるくると回しながら、ふたりを見て薄く笑った。
「姉妹で揃って俺の前で芝居か?」
悠良はその嘲りをしっかりと感じ取っていた。
「寒河江