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紅城真琴
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Nobela ni 紅城真琴

満天の星

満天の星

竹浦 樹里亜 26歳 救命医 × 高橋 渚 26歳 救命医 出生の秘密を抱えながら医師として働く樹里亜と、俺様で強気な救命医渚。同い年で同僚カップルの恋の行方。
Basahin
Chapter: 意外なお客さん2 ④
母さんの用意した昼食をみんなで食べた後、私は山口さんを送りに出た。「梨華の姉と分かっていて、私とお見合いをしたんですか?」駅までの道を歩きながら、気になっていたことを訊いてみる。「知っていました。竹浦からお姉さんの話は聞いていましたから、正直会ってみたいとも思っていました」隠すことなく、山口さんは認めた。梨華から私のことを?何を言われていたのか、考えただけでも恐ろしい。「樹里亜さんはご自分の生い立ちにコンプレックスを持っていたんですよね?」確かに、私は養女だ。梨華のように実子だったらどんなに良かっただろうといつも思っていた。「でも、竹浦も同じなんですよ。いつもあなたが羨ましくて、両親はいつもあなたを見ているような気がして、反抗することで自分の存在感を出そうとしていたんです」え?私は足が止まってしまった。「そんな、バカな」つい、本心が言葉に出てしまう。「本当です。良かったら、どこかで座りましょう」「ええ」私達は近くのカフェへと入った。「竹浦は勉強もスポーツも苦手ではないんです。でも、勉強の出来る兄や姉と比べられたくなくてわざとしていなかった。夜遊びだって、ご両親に振り向いて欲しいからだったんです」運ばれてきたアイスコーヒーを片手に、山口さんが当時を振り返る。確かに、梨華は小さい頃から足が速かった。勉強も中学まではそこそこの成績だった。それに、私だってそんなに成績が良かったわけではない。お金で医大へ行ったようなものだから。「同じ事をやっても、『お姉ちゃんはよく頑張った』って褒められるけれど、私には何も言ってくれないと言っていました。お姉ちゃんはかわいそうだからって、みんなががひいきすると」「そんな・・・」「樹里亜さん。僕は出来
Huling Na-update: 2025-06-21
Chapter: 意外なお客さん2 ③
「あの・・・」山口さんがいきなりリビングから出てきた。そして、梨華と目が合った。「お前・・・」「先生」二人はポカンと口を開けたまま固まった。んん?どういうこと?「知り合いなの?」母が梨華に尋ねる。「う、うん」梨華にしては歯切れの悪い返事。「妹をご存じなんですか?」私は山口さんい尋ねてみた。「ええ、彼女が高校時代に教えていました。担任は持っていませんでしたが、生徒指導をしていて何度も顔を合わせていたんです」生徒指導の先生ねえ。梨華の渋い顔も納得できる。「まあ、とにかく部屋にどうぞ。梨華も来なさい」「えー」母に言われ、梨華が唇を尖らせている。「なんだか聞き覚えのある声がしたので、つい出て行ってしまいました。すみません」「いえ、こちらこそお見苦しいところを」母と山口さんが大人の会話をしているあいだも、梨華はすぐにでもここから逃げ出したそうな顔。それなのに、山口さんは梨華の方に視線を向けた。「ところで、竹浦は朝帰りなの?」「えっ」梨華の表情が固まった。「無断外泊ってこと?」「それは・・・」何々、梨華がおかしい。わがままで強気な梨華は、誰にだって物おじせずにものを言う。こんなに挙動不審になるのは珍しい。「お前高校卒業するときに約束したよなぁ。大学に行って真面目になります。もう2度と心配をかけるようなことはしません。あとなんだっけ?」「もー、やめてください」梨華が必死に止めた。母も私もあっけにとられ、梨華は顔を真っ赤にして口ごもり、山口さんはジーッと梨華を見ている。「どういうことな
Huling Na-update: 2025-06-20
Chapter: 意外なお客さん2 ②
***「私、昼食の用意をします。山口さんお昼はまだですよね?」しばらくして、母が急に席を立った。確かに今は午前11時だ。「どうぞお構いなく」山口さんの方もまんざらでもない様子。その声に、母は台所へ消えていった。「すみません、気を遣わせましたね」照れくさそうに、山口さんが口にした。ああ、そういうことか。「体は大丈夫ですか?」「・・・」急に言われて、答えが出てこない。「樹里亜さんが急に家を出られたと聞いて、連絡先も言えないと言われれば、大体想像できますよ」確かにそうかもね。たくさんの子供達を相手に仕事をしている人だもの、勘は働く方だろう。「彼とは別れたんですか?」「・・・」「一人で暮らしていく気ですか?」「・・・」私は何も答えられない。「安心してください。僕は文句を言いに来たわけでも、あなたを誘いに来たわけでもありません。ただ、ちゃんと顔を見てお別れしたかったんです。今までありがとうございました」「こちらこそありがとうございました」いかにも山口さんらしい言葉に、私たちは右手を差し出し握手をした。その時、ガチャガチャと玄関の開く音がした。あっ、梨華だ。梨華は昨日の夜から帰ってきていなくて、いわゆる無断外泊ってやつ。「あなた、何してたのっ」ドタドタと足音が聞こえて、その後母さんの叱る声。「いいじゃない。金曜の夜くらい羽を伸ばして何が悪いのよ」当然、梨華も言い返す。ああああ、お客様の前なのに。「ちょっと、すみません」私は山口さんに断わって立ち上がった。「もー、何してるのよ。お客様なのよ」私が苛立った
Huling Na-update: 2025-06-19
Chapter: 意外なお客さん2 ①
実家に帰って1ヶ月ほどが過ぎたある日。 「樹里亜、お客さんだけど・・・」 部屋を覗く母の様子がおかしい。 「お客さん?誰?」 「山口さん」 山口さん?って、誰? 私は山口さんが思い当たらない。 「ほら、以前お見合いをした」 ああああ。 思い出した。 でも、なぜ? 「とにかく上がって頂くから、あなたも出てきなさい」 そう言うと母は足早に去って行った。 それにしても、山口さんがなぜ? 確か、東京に行って少しした頃にメールで『家を出てしまいもう会えなくなりました』と伝えたはず。 さすがに妊娠の話しはしていないけれど・・・怒ってきたのかなあ? 幾分怪しみながらリビングに出ると、本当に山口さんがいた。 スーツ姿で、以前と変わらない姿。 「こんにちは樹里亜さん、お久しぶりです」 「こんにちは。その節は失礼な態度を取って、すみませんでした」 私は頭を下げたが、山口さんはまったく気にしていない様子。 「何も失礼をされた覚えはありませんよ。僕が勝手に樹里亜さんを追いかけていただけですから」 そう話すのを聞いて、私も母さんも黙ってしまった。 だったらなぜ、山口さんは家にきたのだろう? 「もしかして、僕が突然お邪魔したから文句を言いに来たと思われましたか?」 「いえ・・・」 とは言いながら、他には思い当たらない。 「メールで一方的にお別れを言われてしまったから、ちゃんと顔を見てご挨拶をしたかったんです。ご迷惑でしたか?」 「そんな、こちらこそすみません」 私はもう1度頭を下げた。
Huling Na-update: 2025-06-18
Chapter: 意外なお客さん1 ②
「おめでただそうですね」どうやら病院のスタッフにも知れているらしい。「みんな、驚いたわよね?」本当は別のことが聞きたいのに聞けなくて、つい口を出た。「そりゃあもう。当分は噂の的でしたから」「そう、やっぱりね」独身の女性が妊娠したってだけで興味を引くネタなのに、私は病院長の娘で、病院で働く医師なのだ。噂のネタには格好だろう。「高橋先生も、休職されましたよ」桃子さんはじっと私の目を見ている。「高橋先生が、お父さんですよね?」「・・・桃子さん?」あまりに突然で否定することも出来なかった。確かにこのタイミングで姿を消せば、私との関係を詮索されてもしかたがないと思う。でも・・・「実は、高橋先生に頼まれたんです」「どういうこと?」桃子さんと渚ってそんなに親しかっただろうか?フフフ。桃子さんは急に笑い出した「何、どうしたの?」「実は、突然高橋先生に声かけられて告白でもされるのかって期待したんです。でも、自分は休職するけれど、樹里先生のことが心配だから何かあったときのために連絡先を交換して欲しいって言われたんです」「渚がそんなことを?」「はい。君は信用できそうだからって。女としてはあまり嬉しくないですけれどね」桃子さんは笑いながら、携帯を差し出した。「どうぞ、使ってください」そう言うと、桃子さんは持参したオーディオプレーヤーを取り出しイヤフォンをした。どうやら、私は聞いてませんからってことらしい。「ありがとう、桃子さん」ありがたく桃子さんの携帯を使わせてもらい、電話をかける。するとすぐに渚が出た。『もしもし』
Huling Na-update: 2025-06-17
Chapter: 意外なお客さん1 ①
父の怒りは本物のようで、私はスマホを取り上げられたまま渚との連絡できない日が続いた。さすがに1週間も連絡できないでいると不安になって、家の電話からかけてみようかとか、いっそのこと梨華にたのんでみようとか色々考えたけれど、どちらもやめた。家から電話をすれば着信からお腹の子の父親が渚とばれてしまうだろうし、梨華に頼んでも同じ事で父や母に渚のことで、正直どちらも避けたい。日々ストレスだけを溜めながら、私は実家で隠れるように過ごしていた。そんなある日、「樹里亜、お客さんよ」と母に呼ばれた。「お客さん?」当然、心当たりのない私は聞き返してしまった。母がお客さんと言うからには、知らない人なのだろう。一体誰だろうかと不安に思いながら玄関に向かうと、そこには見知った顔があった。「も、桃子さん」驚いてその先の言が出てこない。本当に意外だった。病院に勤めていた時にだってそんなに親しくしていたわけではなかったし、話をしたのも数回だけだ。そんな桃子さんがわざわざ訪ねてきてくれるとは思ってもいなかった。「そんなに驚かないでください。ただお見舞いに来ただけですから」驚いた私に、桃子さんはいつもの通りあっさりした口調。「わざわざ、ありがとう」なんだか久しぶりに知り合いに会えたのが嬉しくて、ウルッとしてしまう。その時、桃子さんの後ろから小さな女の子が顔を出した。「お嬢さん?」「はい。娘の、結衣(ゆい)です」「こんにちわ、結衣ちゃん」「こんにちわ」桃子さんの後ろからはにかみなが挨拶をする結衣ちゃんがすごくかわいい。「とにかくどうぞ、おあがりください」母さんがすすめてくれて、桃子さんと結衣ちゃんは私の部屋に向かったのだが、すぐに梨華が現れた。「結
Huling Na-update: 2025-06-16
強情♀と仮面♂の曖昧な関係

強情♀と仮面♂の曖昧な関係

27歳 新米小児科医♀ × 35歳 内科医♀の 素直になれない大人の恋。 『不器用で意地っ張りな彼女と、俺様で辛口な年上の彼の、もがきながら手にする幸せとは…』
Basahin
Chapter: 幸せな未来へ ③
6月の終わり。 梅雨明けの晴天の日に、私は出産した。 元気な男の子は、勇大(ゆうだい)。 名前は、公がつけた。 いい名だと父さんも喜んでいる。そして気づいた。 公ってとっても過保護なのだ。今日だって、 「だから、もう熱は下がってきてるんだから、このまま家で寝かせてやりましょうよ」 「そんなこと言って何かあったらどうするんだ?」 「だから・・・」 会話は完全に平行線をたどっている。今、3日前から風邪気味の勇大の熱が下がらないのを心配した公が、救急に連れて行くと騒いでいる。「だから、昨日小児科でもらった薬もまだあるし、熱だって上がってきているわけじゃないし、胸の音も綺麗なの。今夜は様子を見ましょうよ」 「ダメだ。何かあってからでは遅い」 「でも・・・」 この人本当に医者なんだろうかと、見つめてしまった。「ねえ、今救急に行っても診るのは救命医なのよ。仮に専門医を呼ぼうって話になったとして、呼ばれて出てくるのは小児科医なの。その小児科の私がいうんだから、信じてよ」 「それでも・・・心配なんだ」まるで小動物みたいな真っ直ぐな瞳で見られると、もう私の負け。「わかりました。そんなに言うなら行きましょう」私と公と勇大は救急外来へと向かうこととなった。***着いたのは、公の勤務先であり私の元の職場。 当然出てきたのは、元同居人。「元気そうだけれどなあ。小児科呼ぶか?」 やっぱり、翼が呆れてる。「呼んでくれ。もう3日も熱が下がらないんだ」記録してきたメモを見ながら細かく病状を説明する公。「紅羽が診れば良いと思うけれどなあ」ブツブツ言いながら、翼が小児科を呼んでくれた。 本当に、私もそう思います。 これで研修医とか出てきたら、自分で検査と薬のオーダーをしてやる。 10分後。 降りてきたのが小児科部長だった。 私と公を交互に見て、笑っている。「入院するか?」 「はあ?」 「熱も続いてるし、入院して点滴で一気に治すのも良いぞ」 「えー」 思わず、口を尖らせてしまった。だって、まだ入院するほどの状態ではないでしょう。しかし、公はすっかりその気のようだ。「お願いします」こうなったら誰も公を止められない。 結局、勤務していた病院での入院生活となった。***元勤務先への入院なんて、もう恥ずかしさしかない。
Huling Na-update: 2025-05-11
Chapter: 幸せな未来へ ②
それから数か月後の冬の終わり。私は、両親に祝福されて結婚した。ささやかだけれど、温かな結婚式。仲人は公の上司である内科部長。小児科部長も上司として参列し、挨拶した。それは私にとっても衝撃的な内容だった。「宮城くん、紅羽くん、結婚おめでとう。優秀な君たちのことだからきっと良い家庭を築いてくれることと、信じています。どうか、幸せになってください。僕は今日、新婦の上司としてここに呼んでいただきましたが・・・それだけではありません。実は、僕は生まれる前から紅羽くんのことを知っています。君のお父さんとは大学の同期であり友人でした。でも、新人の僕たちは友人を気遣うだけの余裕がなくて、助けてやれなかった。真面目で、嘘がつけなくて、いつも一生懸命だった君のお父さんは、生まれてくる子供のためにとそれまで以上に働いていた。危険だなとみんな思っていても、助けてやれなかった。すまなかった」一気に言うと、部長は深々と頭を下げた。そして静寂となった会場で静かに続ける。「君はお父さんにそっくりだ。だから危なっかしくて、つい辛く当たってしまった。申し訳ない。どうかこれからは少し肩の力を抜いて、幸せになってください。ご両親の分まで」声を詰まらせながらの挨拶に、みんなが泣いた。目の前の小児科部長のことは今でも好きにはなれない。もっと誠実で、真面目で、人当たりのいい医者はたくさんいる。でも、今日の言葉で、少しだけ見方が変わった。私にとって父の死が運命だったように、部長や父の同期達にとっても悲劇だったんだ。社会の現実を知り、医者として生き方を変えてしまう出来事だったんだと思う。だから、もう部長を恨む気はない。公に与えられる愛情が、憎しみや悲しみを浄化させてくれるように感じるから、もういいと心の底から思える。私は多くの人の祝福に包まれて、本当に幸せだった。***結婚式から半年。私は赴任先に勤務することなく産休に入った。公の僻地勤務は週に3日だけとなり、嘱託医として総合病院での勤務が続いている。一方私は、のんびり
Huling Na-update: 2025-05-10
Chapter: 幸せな未来へ ①
「紅羽と宮城先生がねえ・・」お見舞いに来た夏美はまだ信じられないって顔をしている。「ごめん、黙っていて」「いいよ。でも・・・信じられない」さっきからそればっかりだ。「あれ来てたんだ」買い物から戻ってきた降公が、チラッと夏美を見てから私が頼んだプリンを差し出す。「お邪魔してます」夏美は不思議そうに、私と公を交互に見ている。「何してるんだ、ちゃんと寝てろよ」いつの間にかベットを出てソファーに座っている私に、公が注意する。「だって、産科の先生ももう大丈夫だって」「それでも、用心しろ」「動かずにずっと寝ていろって言うの?」「ああ」「はあ?」最近の公は、時々暴君に見える。「言うことを聞け。産科の先生に1ヶ月自宅安静の診断書出させたから」「え?そんなことすれば、仕事が・・・」ただでさえ赴任先への出勤が伸びているのに・・・「大丈夫、いざとなれば俺がもらってやる」途端に、私の顔が赤くなった。一方夏美は、お腹を抱えて笑ってる。「もーやめて。宮城先生のイメージが崩れていく」本当にその通り。最近は公の二重人格がバレバレだから。***あっという間に、公と私の噂は病院内に広まった。しかし不思議なくらいお祝いモードで、今まで隠していたことが何だったんだろうと思うくらいだった。ただ一人機嫌が悪い翼を覗いては。「ありがとう、翼。お世話になったわね」主治医は産科に変わったのに、翼は日に1度は顔を出してくれている。そして、こうして交際が公になったからには翼の家に同居するのもおかしいだろうとの公の意見で、私は今引っ越しの準備中。翼はそれが不満らしい。「俺は別に、これからもお世話するけれど」冗談とも本気ともわからない翼の呟き。しかし、そういうわけにもいかない。「その必要
Huling Na-update: 2025-05-09
Chapter: 小さな命 ②
「オイ、しっかりしろ」聞こえてきたのは、翼の声だった。ここは・・・病院で、私は・・・倒れたんだ。赤ちゃんは?「紅羽、大丈夫か?」今度は父の声。私はゆっくりと目をけ、体を起こそうとした。「馬鹿、寝てろ」翼が肩に手を当て、私を止める。「そうだぞ、今はじっとしていなさい」父の言葉にウンウンと翼が頷く。父さんと翼は以前から何度か顔を合わせている。もちろん友達としてで、まさか一緒に暮らしているとは思っていないけれど面識はある。「心配いらないからな。落ち着くまで、もう少し寝ていろ」「うん」翼は優しく言ってくれるけれど、私にはわかった。自分の体だもの。わからないはずがない。今も・・・出血が続いている。「検査だな」「俺が診ますから」救命部長の声に対して、いつになく翼の語気が強い。てきぱきと処置をする翼に部長を含め反対する者はなく、みんな遠巻きに見ている。「とりあえず、師長、救急病棟の部屋を用意してください」「個室でいいですよね」「ええ、かまいません」なぜか翼が答えている。差額ベット代を払うのは私ですがと思ったけれど、今は黙っていよう。「検査は血液検査と、超音波は病室に上がってからにします」「レントゲンは?」「うーん、後でいいです。とにかく、病室に上げてやりましょう」「「はい」」師長の問いに翼が言い切り、救命部長も了承した。本来なら、この状況ではレントゲンが必須だと思う。でも、妊娠初期の私にレントゲンはできない。翼はわかっていて断ってくれたんだ。もしかしたら、部長も師長も気づいたかも知れないけれど、結局みんな黙ってくれた。***入院したのは救急病棟の特別室。朝方まで付き添っていた父さんが帰り、翼と2人になった。「救命部長、きっと気づいた
Huling Na-update: 2025-05-08
Chapter: 小さな命 ①
大学の時の担当教授に『お前、子供は好きか』と聞かれ、『いいえ』と答えた。すると、『じゃあ小児科に行け』と言われ驚いた。『意地悪ですか?』と返すと『違う。子供好きに小児科医は向かない。お前みたいな奴が小児科にはいいんだ』と。なぜだろうと首をかしげると、『小児科は子供が亡くなっていくところを見なくちゃいけない』と言われ納得した。ああ、なるほど。それを聞いて、私は小児科を希望した。「紅羽」「夏美、遅くなってごめん」「さっき亡くなったわ」「そう」やっぱり間に合わなかったか。NICUに入ると、小さなベットを何人もの大人が囲んでいた。「山形先生」唯ちゃんのお母さんが、駆けよって私の手を取った。ゆっくり歩み寄り、見えてきたのはベットの上で眠っている唯ちゃんの、2歳の誕生日を迎えたはずなのにとっても小さな体。いつもは何本もの管でつながれ機械の音がしているのに、今はすべて外されて安らかな顔だ。「お世話になりました」涙を流しお父さんがお礼を言っている。結衣ちゃんを囲む看護師達の目が、みなウルウルとしている。でも、私はここでは泣かない。医者は命を預かるんだ。『患者は医者を頼っているんだから、絶対に泣くな』研修医時代にそう教えられた。だから、私は患者の前では涙を見せない。***ご両親や今まで関わってきた病院スタッフにたっぷり抱っこしてもらった後、唯ちゃんは生まれて初めて病院を出た。私は、寂しさがこみ上げた。たった2年の短い命。病院から出ることもできず、痛いこともいっぱいされて、頑張って生きた人生。唯ちゃんの生きた時間って何だったんだろうと、自分が親になろうとしている今だからこそ思いが募ってしまう。「紅羽、帰るの?」「うん。父さんが車で待っているから」「ふーん」夏美が何か言いたそうにしている。辞令が出た後体調不良でずっと休んでいたから、きっと言いたいことも聞
Huling Na-update: 2025-05-07
Chapter: 患者の急変
実家に戻って数日、体調も良くて穏やかに過ごしていた。正直、仕事のことは頭になかった。そんなとき、突然鳴ったスマホの着信。時刻は夜の9時。何だろうと確認すると夏美からの着信で、珍しいなと思いながらすごくイヤな予感がした。「もしもし」「山形先生?」えっ?夏美がこんな呼び方をするのは仕事の時。って事は、誰かが急変?「どうしたの?」幾分自分の声が緊張しているのがわかる。「唯ちゃんが急変した」「嘘」「本当よ。あなた、月末まではこっちの病院に席があるんだったわよね?」「ええ」だったら来なさいと、夏美は言っている。私にも躊躇いはなかった。「少し時間はかかるけれど、向かうから」「ええ、待ってる」今から向かっても間に合うかどうかはわからないけれど、とにかく行こう。夏美からの電話を切ってから、私は身支度を始めた。駅まで行って電車があるか確認して、もしダメならタクシーを拾おう。こんな時間に黙って帰るわけにもいかず、私は両親の部屋をたずねた。「ごめん、受け持ちの患者が急変らしくて、一旦帰るわ」荷物を手に声をかけると、なぜか父が立ち上がった。「送っていく」「でも・・・」「お前車で来ていないんだろう?」それはそうだけれど。「無理したらダメよ。1人の体じゃないんだから」母にも言われ、素直に送ってもらうことにした。***結局父さんの車に乗せられ、家を出た。最初は駅まで行くのかなと思っていたが、車はそのまま高速へ。「駅で電車を探すのに」「この時間じゃあるかわからんだろう」「でも・・・」「いいんだ。着くまで寝てろ」私は、無性に胸が熱くなった。その後も、無言の車内。目を閉じても眠ることはできず、代わり映えのしない車窓を眺めて過ごした。
Huling Na-update: 2025-05-06
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