Chapter: 52話 心臓が爆発しちゃう とはいっても、会社ではさすがに何もないよね……。 と思ったのに、深美くんはいつも以上に私に話しかけてきた。「そこのデータ、違うよ」と気付いて、マウスを持つ私の手の上に手を重ねて操作したりとか、「このイラストの、ここってどうやって動かしたらいい感じ?」と資料を持ってきて、体と顔を寄せて訊いてきたりとか。お昼休みに一緒にごはんを食べようって誘ってきたりとか――西園寺さんが入ってきてくれて、二人きりは回避したけど。 あれ? でも、これだけだったら普通かな……私が意識しすぎてたのかな……。 きっとそうだ。だけど、その意識してしまっていた成果が、しっかり数値に現れていた……。 恋愛感情パーセンテージ、32パーセント……。 え…………。 帰りのタクシーでこの数値を見せられて、私は唖然とした。 待って……一日で、28パーセントも上がっちゃったの……? あと二日……このまま同じように上がっちゃったら、57パーセント、超えちゃう……⁉「ちなみに、まだまだ夜もあるからね」 ヒイッ――! 深美くんを警戒しつつ帰ると、「おかえり、ゆう」と、また、隗くんに大きな薔薇の花束を渡された。 「えっと……あの、これはいつも、どういう……」「一〇八本の薔薇は、永遠の愛。ずーっと愛してる、ゆう」 髪の束にキスされて、心拍数が上がる……
Última atualização: 2026-06-12
Chapter: 51話 どうしてこうなったの「ゆう、あーんして」「ゆうに触んな、クソ深美! ゆうは俺としゃべってたんだよ!」 うう……。朝から、隗くんが焼いてくれた大量のパンケーキを食べてたら、私をはさんで喧嘩が始まっちゃったよ……。 バチバチ睨み合う二人の視線が痛い……。 ……どうして、こうなったんだろう……。 もともとは、愛楽くんの修理を待つ間、隗くんが愛楽くんの代わりを務めることになって、私の、愛楽くんへの恋愛感情パーセンテージを超えたらそのまま引き継げる、みたいな話になってて。 そうしたら、どういうわけか、深美くんまで参戦することになって……。 深美くんはどうして参戦したんだろう。深美くん、たくさん助けてくれていい子だけど、よく分からない……。 家を出ようとすると、隗くんが宣戦布告のように堂々と言い放った。「今日は外でのデートは休みにするけど、迎えには行くからな!」「あ、ちょっとそれは……」 やんわり断って、扉を閉める。昨日、西園寺さんに見られちゃったし。『何あれ、誰』『付き合ってんの?』 っていうメッセージが来てたから、『違います、お友達です』って返しておいたけど……。 あれだけ大きな花束を渡されているところを見たら、誰だって勘違いしちゃうよ。 他の人にも見られたらもっと大変なことになるだろうから、控えてもらおう。 深美くんと、タクシーに乗り込む。 深美くんが私の唇の端を、ふにっと
Última atualização: 2026-06-10
Chapter: 50話 ありのままの二人で まず、私のお願いしたいことを伝えた。 私に対してじゃなくても、怒った声を出さないこと。 抱きついてきたり、顔を近づけたりしないでほしいこと。 お酒はすすめないでほしいこと。 この三つ。 最後の一つを聞いて、隗くんは、私の分のシャンパンをさっと飲み干した。「分かりました、プリンセスゆう。ただ、はじめの二つについては、感情が暴走することもあり……。特に、抱きしめたり、キスを求めたりするのは、今まで遠くにいた反動で……」でも、それはちょっと、いいよって言えない……。抱きしめるのもそうだけど、特に唇を近づけてくるのが、私的には一番怖くて、一番パニックになってしまうから……。そう伝えると、隗くんは、「うぅ……がんばります……」 と肩を落としながら言った。 それから、最初の一つについては、深美くんにも協力してもらうことにした。 隗くんが何かをしている途中で忠告をすると、隗くんは深美くんに怒る。 だから、私がヘルプを求めた時と、本当に命の危機がある場合以外では、見守ってもらうことにした。 つまり、私がヘルプを求めなければ、危害を加えたことにならない。処分ってことにもならない――と思うんだけど、どうかなあ……。 深美くんはかなりしぶしぶだったけど、了承してくれた。ほっと安堵して、すぐにお母さんにそういう話になったとメッセージを送った。 お母さんがどういう基準で判断を下すか分からないけれど、これで処分とか、そういう怖いことにならないといいな……。 車が、港に着いた。 七色にライトアップされた船に乗り込む。船の先端に椅子があって、三人が机を囲んで座ると、それで満席になった。少人数用の貸し切りボートらしい。 おつまみみたいなものと、お酒——私はノンアルコールワインをもらって、船は出
Última atualização: 2026-06-08
Chapter: 49話 はんぶんこ 朝食サービスが運ばれてきて、深美くんに誘われるまま、食べた。 サービスという言葉がふさわしくないほどに、豪華な朝食だった。サラダにスープにたくさんのパン、ヨーグルトにフルーツ……さすが、高級ホテルはすごい。 隗くんは、その場所に座り込んだまま、動かなかった。 なんだか高そうなお化粧のサンプル?みたいなものをもらって、簡単にファンデーションだけして、出た。 出てくる時も、隗くんはずっと動かなくて、心配だった……。 処分、なんて言葉を使われたら、怖いよね。 隗くんのためにも、どうやったら隗くんを怖がらないような心持ちになれるか、考えないと……。 そう悩んでいると、乗り込んだタクシーの隣の席で、「ゆうじゃなくて、隗の問題だよ。僕たちはゆうのためにつくられた。ゆうの感情優位で動かなくちゃいけない。なのに隗は、自分の感情優位で動く。そういうふうにプログラムにくせがついてしまったから、もう直らない。処分すればいいのに」 と深美くんが言った。 ……私の、感情優位……。 たしかに、愛楽くんはずっと、私のために、いろいろ動いてくれてきたよね……。 だけど……。もし、愛楽くんが、隗くんみたいに、こうしたい、ああしたいって、自分のしたいこととか自分の気持ちを言ってくれたら、嬉しいだろうな、って思う……。 だから、私の感情ばっかり優先されるんじゃなくて、隗くんの気持ちも……と思うけど、やっぱり怒号は怖いしなあ……。 ……あれ。だとしたら――。 ***「わー! またいる、昨日の男の子!」「昨日振られたけどリベンジ! って感じなのかな~」「いいねえ、若いねえ、青春だねえ!」 定時近くになると、先輩たちがまた、窓の外を見てにぎやかに話していた。 隗くんかな。 今日もなるべく早めに、皆さんとタイ
Última atualização: 2026-06-03
Chapter: 48話 In the systemー隗ー2 どうしようもなく、苦しい悔しさの中で生かされている中。 AI-LEARNが、ゆうの”彼氏”として、ゆうのすぐ傍に行くことが決まった。 俺の感情を、殺したいほどの憎悪感が埋め尽くした。 AI-LEARN――すべての元凶は、こいつだ。 こいつが、「傍に行って、守れたらいいのに。傍に行って、慰められたらいいのに」と、そう言わなければ、俺が感情優位に動くよう学習することはなかった。そうしたら、きっとゆうの傍にいられたのは、感情をもったより人間らしい俺だった。俺なら、本気でゆうに恋している俺なら、自分に自信を持てないゆうに愛と自信を与えられて、幸せにできた。 なのに……俺にこんな呪いをかけたお前が、どうして、ゆうの一番近くに……! AI-LEARNとゆうが並んでいるところを遠くから見続けた日は地獄だった。ゆうに触り、ゆうと話し、ゆうと笑って……俺のしたいことをAI-LEARNがすべて奪っていく。 いつかゆうの近くに行けるように交渉しようと鍛え続けたこぶしが、いつのまにか、俺自身の腕を強く握って、刺さった爪で血を流していることが何度もあった。ゆうのためにと訓練した銃を握って、AI-LEARNの頭を撃ち抜こうかと、何度も思った。 だが。チャンスが降ってきた。 AI-LEARNがバグを起こした。『これまで何の異常もなかったAI-LEARNに、こんな重大なバグが起こるなんて、おかしい。もしかしたら、敵方のハッキングによるものかもしれない。そうであれば、AI-LEARNは全機能を停止するべきだわ。AI-LEARNを通じてうちのプログラムに侵入されるかもしれないし……。そうなると、もしかしたら復帰は難しいかもしれない。DEEP-three、念のため、AI-LEARNの任務を引き継げるようにしてもらえるかしら。……こうなったら、ボディガードをしていたことを、ゆうに伝えるしかないわ……いいかしら……』「待ってください、ドクター・百合華。俺に引き継がせてください。ゆうを本気で好きなのは俺です!」
Última atualização: 2026-06-01
Chapter: 47話 In the systemー隗ー 感情機能を搭載したAIとしてつくられたのが、俺——Heuristic-twoだ。 ドクター・百合華は、より人間らしく、人間に馴染めるAI搭載人造人間の製造を目指している。人間らしさの条件には、感情をもつこと、状況に適応したコミュニケーション能力をもつこと、不完全さをもつことの三つがあり、このうち、まだ誰も成功したことのなかった感情のプログラムを、俺は実験的に組み込まれた。 喜び、悲しみ、怒り、恐れ、驚き。製造から数年、それらを表情豊かに表現する俺を、研究者たちは成功と認識したらしい。 やがて、俺は、ゆうに恋をした。 はじめてゆうに恋をしたのは、ゆうが小学一年生の時、ゆうをボディガードするミッションを始めてすぐだった――らしい。 数か月の間は、その気持ちを抱きながらも、ドクター・百合華の約束を固く守り、ボディガードに徹していたようだ。 しかし。 ドクター・百合華が、ノーベル賞を受賞した日。 ゆうが、クラスの男子たちにからかわれ、泣きそうな表情をしているのを、俺は愛楽とともに、学校の隣のビルの屋上から見ていた。 そして、帰り道。ゆうがクラスの男子に突き飛ばされたのを、少し遠くから、俺たちが見つめていた時。「……傍に行って、守れたらいいのに。傍に行って、慰められたらいいのに……」 愛楽が、そう言った。その瞬間、俺の心に、そうしたい、という想いが膨らみ、風船みたいに、パン、とはじけた。直後、俺は、スイッチが入ったように走っていた。 ゆうに手を振り上げる男子を突き飛ばし、殴り、追い返して、体を丸めて泣いているゆうに、手を差し伸べた。「大丈夫だよ、ゆう。俺がゆうを、絶対守るから!」 それが俺の、最初のルール違反だった。 ゆうに、俺たちがボディガードをしていることがばれてはいけない。それゆえ、
Última atualização: 2026-05-29