まるで、硝子片を砕くようなバラバラとした音だった。 《狂信者》たちの鱗はまるで風に散る花片のように剥がれ落ち、次々に青白い光の粒子を巻き上げ暗闇の中に漂った。 そうしてやがて、姿を現したのはぼんやりと薄く透けた人の姿たちだった。 年老いた男性や老婆、小さな子どもを抱えた妙齢の女性、それから若い青年……と数多の《狂信者》は本来の姿へと戻ったのである。 「**お嬢ちゃん。とても嬉しいわ。本当にありがとう**」 春の暖かい日差しのように、優しく穏やかな女性の声だった。 それは先程、これ以上進めないと言った狂信者だった者とすぐにキルシュは理解した。 その女性の姿は、ふくよかな体躯の中年女性だった。その相好はとてもにこやかで、人の良さが面輪から滲み出ていた。「**まだよ! ここは教会じゃない。まだ先よ?**」 キルシュは慌てて言うが、婦人の亡霊は首を振り、ふわりと優しく微笑んだ。 優しい面輪ではある。だが、今にも消えそうな程に儚くて、そんな笑みにキルシュの胸は痛い程に締め付けられた。 「**もう、ここで充分よ。私たちは、この先には進めない。意志に反して動き回って、とても苦しかったの。そして救ってくれた。私たちの願いを叶えてくれた事、とても幸せに思うわ。ここに居る人たちみんなそう思っているわ」 婦人の問いかけにそこに集まった幽霊たちは皆頷き、それぞれがキルシュに暖かな眼差しで向けていた。 「**お嬢ちゃんは、本物の聖女様だったのね。私たちを信じてくれて本当にありがとうね。ここまで導いてくれただけで本当に幸せよ**」 婦人の亡霊はキルシュに笑顔で礼を言う。 同時にキルシュが思い返す言葉は〝地縛霊〟だった。 本当に、死しても目的地には行けないのだろう。 そして、キルシュの頭に最悪な予測が頭を駆け巡る。 ……たとえ人の姿に戻ったとしても、また翌晩になれば闇の因子を取り込み、またも《狂信者》に成り果ててしまうのかもしれないだろうと。 先程、この婦人は言った。 意志に反して動き回って、とても苦しかった……と。つまりは、闇の因子を取り込んで《狂信者》に成り果てた時、彼ら自身もとてつもない苦しみの中にあったのだと。 それも、人としての意識があったのだろう。 だからこそ、真摯に向き合い話が通じたのだ。
Huling Na-update : 2025-06-07 Magbasa pa