リノアとエレナが霧深い森を歩いていると、前方から杖をついた小柄な老婆が現れた。その隣に老婆に寄り添う形で、革鎧に身を包んだ背の高い女性戦士が腰に短剣を下げ、鋭い視線で周囲を警戒している。リノアと同じ年齢くらいだろうか。私よりは少し年上に見える。 老婆はリノアたちを見て立ち止まり、付き添う戦士もその動きに合わせて足を止めた。老婆の背は曲がり、濡れた白髪が顔に張り付いている。「お前たちも見に来たのかい? 森の変化を」 老婆のかすれた声が霧の中で響いた。 リノアはその言葉を聞いて、胸の奥にある違和感がさらに強くなるのを感じた。 森に足を踏み入れてからずっと森の異変を感じていた。耳を澄ましても、鳥や虫の声がまるで消え去ったかのように聞こえない。足音を立てても、それはすぐに霧に飲み込まれ、森に響くことはなかった。 リノアは足を止めて老婆を見つめた。 老婆の目には不安と鋭い洞察が宿っている。 付き添いの戦士は無言で手を短剣の柄に軽く添えている。しかし、それは二人を警戒しているからではないようだった。いつ周囲から何かが襲ってきても対応できるようにしている雰囲気を醸し出している。「うん、私たちも気づいてる。森の声が聞こえない。まるで沈黙しているみたいに……」 リノアと老婆が会話を交わすその隣で、エレナが弓を軽く握りしめながら周囲を見渡した。静寂に包まれた森は何かが潜んでいるかのような不気味さを帯びている。 エレナもだ。目の前の二人をまるで警戒していない。「こんなことは初めてじゃ。わしの村も周囲の村も森が沈黙し、人を狂わせ始めとる。いつもと異なることが起きる時、それは何かが動く兆しと思ったほうがええ」 その瞳には、長年生きてきた者だけが持つ深い知恵が宿っている。 老婆は言い終わると杖を突き、ゆっくりと歩き始めた。付き添う戦士がその後に続き、二人とも霧の中へと進んで行った。 老婆の姿が霧の中で不吉に揺らめき、戦士の革鎧が微かに軋む音が反響する。 「今の人たち、誰だろう? 村に行くみたいだけど」 リノアが呟いた。リノアの視線は霧の中へ消えていく老婆の背中を追っていた。「分からない……。でも何かを知っているみたいだったね」 エレナはわずかに首を傾げ、霧の向こうに目を向けた。その声には、どこか老婆の言葉が引っかかっている様子が滲んでいた。 霧の中を進
Last Updated : 2025-04-04 Read more