Semua Bab キミはまぼろしの婚約者: Bab 11 - Bab 20

47 Bab

シンデレラになる、魔法の一瞬 4

4「……律……!」 そこにいたのは恋焦がれる彼で、ドクンと大きく心臓が揺れ動く。 見たところ、今ここには律と私しかいない。ふたりきりだ。 バクバクと鳴る心臓の音が聞こえそうなくらいの静けさの中、私を見た彼も驚いたように目を開いた。しかし、すぐに柔らかな笑みを浮かべる。「あぁ、君はこの間の……小夜ちゃん、だっけ」 ぎゅ、と胸が締め付けられる。 やっぱり他人行儀であることの悲しさと、ふたりで話せることの嬉しさが混ざって変な感じだ。 複雑な顔をして固まったままでいると、「どうしたの?」と声をかけられた。一応、普通にしていなきゃ。平常心、平常心……。「あ、えっと……体育で足捻っちゃって。先生は?」「会議があるからって、さっき行っちゃったよ。でも、手当てくらいしていっていいんじゃない」「そ、そうだよね」 うわ、絶対私の笑顔ぎこちなくなってる……。無理だよ、何事もなかったように平然と接することなんてできっこない。 ……いや、ちょっと待って。何事もなかったようにする必要なんてないよね、よく考えてみれば。 律に合わせなきゃってなんとなく思っていたけれど、そんなことしなくていいじゃない。あの頃の想いはまだ生き続けているんだから。 私は私のままでいいんだ。律のことを好きな、私のまま。 そう思ったらなんだか肩の力が抜けて、自然と動き出せるし、言葉も出てくる。「……律はなにしてるの?」 湿布を探しながら、呼び方もあの頃のまま変えずに言うと、彼は特に気にした様子もなく笑みを向ける。「ちょっと用事あって、来たついでにのんびりしてただけ。俺、保健委員なんだよね」「そうなの!?」 委員会は強制とかいうわけじゃないし、まだ転入したばかりの律が入っているとは思わなかった。しかも保健委員を選ぶなんて、なんだか意外。 目を丸くする私に、彼は「真面目だろ」と言って口角を上げる。「先生俺に甘いから、こうやって好きなだけ居させてくれるし、ベッドも使いたい放題」 そう言っておもむろに腰を上げた律は、なぜか私に近づいてくる。 ドキッとして硬直すると、彼はどこか色っぽい表情で、とんでもないことを囁いた。「……一緒に寝てく?」 な、ななななに言ってんのっ!? ギョッとしつつ、一瞬で顔を真っ赤に染める私。冗談だとわかっているのに動揺してしまう。「っ……遠慮します!」 口をパクパクさせた後、なんとか声を出してバッと顔を背け
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-04-21
Baca selengkapnya

シンデレラになる、魔法の一瞬 5

 片足でぴょんぴょん跳ね、とりあえず律から離れようとしていると「そこ座りなよ」と声をかけられ、動きを止めた。 振り返ると、片手をポケットに入れた律が、もう片方の手でベッドを指差している。 ぽかんとする私に、彼はさらにこんな一言を告げる。「で、脱いで」「……はぁっ!?」 ぬっ、〝脱いで〟!? 冗談でもありえない! さっきの発言だけであれだけ動揺したのに、そんなグレードアップしたことを言われたら頭はパニックだ。 瞬間湯沸かし器みたいに一気に沸点に達する私を見て、律はぷっと吹き出した。そして、なにやら棚の引き出しを漁ると、なんとか笑いを堪えながら取り出したものをこっちに掲げてみせる。「脱ぎなよ、靴下。俺が手当てしてあげるから」「へ……?」 意外なひと言に、私は目をしばたたかせる。 律が手に持っているのは、湿布と白いテーピングらしきもの。も、もしかしなくても、私がはやとちりしただけ……?「なに考えたの? やらしーね」 いたずらっぽく右の口角を上げるチャラい王子様を前に、私は湯気が出るくらい顔を熱くしながら、「もぉ~~っ!」と牛のごとく叫んだのだった。 捻挫の時は湿布を貼るということくらいの知識しかない私は、律に任せてみようと思い、言われるがままベッドに腰かけた。 紺色のソックスを脱ぎ、湿布を袋から取り出す彼を眺める。 心底湧いた恥ずかしさはやっと落ち着いてきたものの、今度は緊張感が襲ってきてハンパじゃない。 律の手が、私の足に触れる。ただそれだけで、心臓がはち切れそうなくらいドキドキしてしまう。 「腫れはたいしたことないな、大丈夫」 私の前にしゃがみ、足首を観察する彼から優しい声がした。その手が、いたわりながら撫でるように滑るから、これだけで痛みが引いていくような気さえする。 とはいえ、緊張がほどけることはない。紛らせるために、なんでもいいから会話を続けたい。「ホームルーム、出なくていいの?」「もう終わったんだ。今日は特別早くて」「そっか」 たわいない話をして早鐘を打つ胸をなだめている間に、ひんやりとした湿布の上からテーピングが巻かれていく。 それを見下ろしながら、私は手際の良さに感心していた。「上手だね。さすが、昔からサッカーやってただけある」「そうかな、これくらい誰でもできるだろ」 なんてことない、といったふうに軽く笑って、手を動かす律。 伏し目がちな顔もとっても綺麗で
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-04-21
Baca selengkapnya

仲を深めよう作戦 1

 ねえ、律。 今度会えた時は、デートらしいことをしたいな。  映画を見に行ったり、水族館に行ったり……っていう定番のデートに憧れてるの。 一番行きたいのは遊園地。アトラクションではしゃいで(お化け屋敷以外)、いっぱい写真撮って、最後はやっぱりお決まりの観覧車ね。 なんて、ありきたりなデートを夢見てるけど、結局ふたりで一緒にいられるならどこでもいいんだ。 そんな日が来るのは、いつになるかな……。 * * * 捻挫した足首もすっかり良くなって、球技大会が間近に迫ったある日のお昼休み。私は購買でゲットしたカレーパンを持ったまま、キョウとありさにあることを話していた。 それを聞いて、私の前の席を借りているありさが、驚きと困惑が混ざったような顔をする。「逢坂くんが、本当はふたりのことを覚えてるかもしれない……!?」 私が言ったことを繰り返す彼女に、小さく頷いた。 今話したのは、以前保健室で律と交わした会話で感じた、あの引っかかりのことと、私の推測。 すでにご飯を食べ終えているキョウは、窓枠に寄りかかって腕を組みながら言う。「言われてみれば不自然な気もするけど、それだけじゃ証拠不十分だろ」「そうなんだけど……でも今もあったの。あれ?って思うことが」 それは、このカレーパンを買いに購買へ行った、ついさっきの出来事。 運よくひとつだけカレーパンがあるのを見つけて手を伸ばしたら、前方から誰かの手が伸びてきた。 まさか、またキョウ!?と思いバッと顔を上げると、そこにいたのは同じく顔を上げて目を丸くする律だったのだ。 あっ、と思った瞬間、律はカレーパンに伸ばしていた手を隣にスライドさせた。 そして手にしたのは、こちらも美味しいあんバタサンド。ぽかんとする私に、彼はにこりと微笑んで、軽く手を振って去っていったわけだけど……この行動も違和感がある。 だって、昔から律はあんこが苦手なはずだから。 もしかしたら克服したのかもしれないけれど、私にはカレーパンを譲ってくれたように思えて仕方ない。私の好物を律もよく知っていたから、そのせいじゃないかって。 「……それもいまいち説得力ねぇな」 真剣に話したっていうのに、キョウの間延びした声にムッとする。「律は、私が甘い菓子パンよりカレーパンが好きだってことを知ってたんだよ」「〝太るからやめとけ〟って忠告だったのかもしれないじゃん」「だとしたら律はすっ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-04-21
Baca selengkapnya

仲を深めよう作戦 2

 その数日後、キョウは四組の前の廊下に律を呼び出していた。私とありさも、一応彼の後ろにくっついている。 やってきた律は、私たちを怪訝そうに見て口を開く。「なんのご用で?」「謝罪と勧誘をしに」 ぶっきらぼうに言うキョウは、無愛想なまま腕を組んでさらに続ける。「この間は急にキレて悪かった。おわびに、〝俺たちとサニーサイドランドへ行こうの集い〟に誘ってやる」「……謝ってくれてるんだよね?」 なぜか上から目線のキョウに、律はぎこちなく笑い、私とありさも目を見合わせて苦笑した。 なんでこんな誘い方になるかなぁ……やっぱりついてきてよかったよ。 すると、ありさがひょこっとキョウの隣に並んで笑顔を見せる。「あたし、棚橋ありさっていいます、よろしく。サニーサイド行ったことある? 逢坂くんもどうかな?」 さすがありさ、フレンドリーだ。 助け船を出してくれた彼女を頼もしく思いながら、律の様子を伺う。予想はしていたものの、その表情はあまり気が乗らなさそうだ。 「……せっかくだけど遠慮するよ。俺、君たちとそんな仲よくないし」「仲よくなるための計画なんだよ」 間髪入れずに、キョウが言った。律は悩むように目を伏せる。やっぱり難しいかな……。 半ば諦めモードでいると、キョウがこんなひと言を口にする。「球技大会、どうせサッカー出るんだろ? 律のチームが俺たちに勝ったら来い」 ……ん? 〝勝ったら来い〟って、なんかおかしくない? 律も微妙な顔で首をかしげる。「そこは普通、〝負けたら来い〟って言うとこなんじゃ?」「負けたりなんかしねぇだろ、お前は」 ……ああ、そうか。キョウは律が勝ちに行くと信じているんだね。だから〝負けたら来い〟なんて命令は意味がないのだ。「……どうしても来てほしいみたいだな」 ふっと呆れにも似た笑いを漏らした律は、小さく頷くと、挑戦的な瞳でキョウを見据える。「絶対勝ってやる」「臨むところだ。ま、俺はソフトボールだから出ないけど」「出ないのかよ」 肩透かしをくらった律のツッコミに、私たちは思わず吹き出してしまった。つられたように律も笑って、一瞬昔にタイムスリップしたような感覚を抱いた。 この和やかな雰囲気、すごく懐かしいし、嬉しい。これからも、こうやって笑い合っていられたら幸せなんだけどな……。
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-04-21
Baca selengkapnya

仲を深めよう作戦 3

 球技大会当日、私たち女子四人組は、自分たちの試合の合間にサッカーの試合を見に来ていた。キョウがけしかけた、あの約束が懸かっている試合だ。 コートの中では、白いTシャツとジャージの姿も爽やかな律が華麗にボールを操っている。「さすが、逢坂くんカッコいいですね」「ほんとほんと。サポーターの歓声が一気に黄色くなったわ」 真木ちゃんと海姫ちゃんが、腕組みをしながら感心したように話している。黄色い声援は送っていないけれど、目をハートにしているのは私も同じ。 律がサッカーをやっている姿、久々に見た……本当にカッコいい。「あれでサッカー部入ってないなんて、もったいないねぇ」 ありさの言葉に、私も心底同意する。 少し前に真木ちゃんから聞いていたのだが、律は高校ではサッカー部に入っていないらしい。理由まではわからないけれど。 私はずっと続けるものだと思っていたから、ものすごく意外だ。「でもなんか、ちょっと手を抜いてるような気が……」 なんとなくだけれど、動きにキレがないように思えて、そう呟いた。 時々怠そうにしているし、あまり走り回ってもいない。足を気にするような仕草も見せている。 足が痛いのか、具合でも悪いのかな、と少し心配しながら彼の姿を追う私に、海姫ちゃんは軽い調子で言う。「彼にとってはお遊び程度なんじゃない? うちのクラス、とびきりサッカーが上手な男子ってそんなにいないし」「あー、そっか……」 五組でサッカー部に入っているのはひとりだけ。四組には数人部員がいるし、確かに律が本気を出すまでもないのかも。 納得していると、ありさが私にコソッと耳打ちしてくる。「それもあって恭哉はあんな挑発をしたのかもね。余裕で勝てるってわかってたから」「それ、うちのクラスの男子にかなり失礼だけどね」 少し離れたところで、友達と試合を眺めているキョウをちらっと見やり、私は苦笑いした。 結果はキョウの思惑通り、三対一で律のクラスの勝利。これで、私たちは四人で遊びに行くことが決定したわけだ。 望んでいたことなのに、ちゃんと決まると急に緊張してきてしまう。いったいどうなるだろう……。 球技大会から約二週間後の、六月中旬の土曜日。薄い雲がかかった空はそれほど日差しも強くなく、外で遊ぶにはちょうどいい。 今日の目的地は、サニーサイドランドという私たちの街から一番近くにあるテーマパーク。 遊園地をメインに、
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-04-21
Baca selengkapnya

仲を深めよう作戦 4

「あ、ふたり早ーい!」 そこへ、ショートパンツから細い脚を覗かせるありさがやってきた。彼女の隣には、今日も無愛想なキョウがいる。「一緒に来たの?」「まさか! コンビニ寄ってたら会っちゃった」 ありさと笑って話している横では、キョウが律と向かい合う。「ちゃんと来たな」「来なかったらまた教室に乗り込んでくるだろ」  冗談っぽく返す律だけれど、キョウは満足げな笑みを浮かべていた。 さっそく電車に乗った私たちは、程よく混んでいる車内の隅に立つ。こんなふうに皆で出かけるのは久々だ。わくわくしているのは私だけかな? 流れる景色を目に映していると、ありさがなにげなく言う。「サニーサイドって、なんかゆるキャラみたいなマスコットいたよね」「おひさまの妖精、サニーレ」 キョウがすぐ解答して、私もありさも「それそれ!」となぜか盛り上がる。サニーサイドとサニーレタスをかけているらしい、キモかわいいマスコットがいるのだ。「おひさまっていうくせに見た目レタスみたいなんだよな」「なんだそれ」 キョウの説明に、律が笑いながらツッコんだ。 無邪気な笑顔を見せる彼にまたキュンとしていると、ありさが「逢坂くんはサニーサイド初めて?」と問いかけた。律は少し考えるように、目線を斜め上にさ迷わせる。「いや、すっごい昔に行った……けど、中がどんなだったかはもう覚えてないね。その頃はそんなレタスの妖精もいなかった気が」「おひさまの妖精な」 珍しくキョウが即座につっこみ、私たちは爆笑した。 律も楽しそうに笑っていて、私は心底ほっとする。いつの間にかわだかまりはなくなっているし、このまま楽しい一日を過ごせたらいいな。 今日は律の昔のことに関してはなにも話題にしないようにしようと、前から三人で話していた。なので、質問するのは当たり障りないことばかりだったけれど、それでも確実に打ち解けてきているのを感じていた。 三十分ほど電車に揺られた後、最寄り駅からさらに十分ほど歩いてサニーサイドランドに到着。家族連れや、私たちと同じような学生らしき集団で賑わっている。「久しぶりに来たー! なにから乗ろう~」「まずは腹ごしらえじゃね?」「もう!?」 わいわいと話すありさとキョウの後ろで、私はポケットに片手を入れて歩くモデルのような律を見上げる。「律は絶叫系は平気?」「実はあんまり」 そうなんだ、これは初めて知った。ちょっと意外。 苦
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-04-21
Baca selengkapnya

仲を深めよう作戦 5

 空いている健全なアトラクションに少しだけ乗った後、フードコートでお昼ご飯を食べた。 なんだかダブルデートをしているような気分を味わえて、私は結構満喫している。皆、律ともすっかり仲よくなれているし、今日のこの計画はとりあえず成功かも。 その後もぶらぶらと園の中を歩いていると、なにやらひっそりとたたずむ古びたお屋敷のような建物を発見。……これは、まさか。「あ! あったよ~。遊園地といえばコレだよね、お化け屋敷!」 ありさは意気揚々と言うけど、お化け屋敷が大の苦手な私はギクリとした。「恭哉さ、前お化け屋敷の話した時、『俺のほうからオバケを脅かしてやる』とか言ってたよね」「あー、そういえば。だって作り物だと思えば全然怖くないじゃん」「そんなこと言って、本当はちょっとビビってんじゃないのー?」 顔を引きつらせて固まる私に気づかず、ありさとキョウは話しながらそちらに向かっていく。 うそ~私、絶対無理!「あたしも決して得意ではないんだけど、なんか挑戦したくなっちゃうんだよね。キョウの反応も気になるし」「俺も、ありさにキャー!って泣きつくくらいの女らしさがあるのか気になるわ」「ちょ、ちょっと待って……!」 なんでそんなに余裕で入れるの!? チャレンジャーなふたりの勢いを止めようと、ひとりあたふたする。その時、「小夜ちゃん」と後ろから呼ばれ、さらに手首を掴まれた。 驚いて振り返ると、律は先を行くふたりに声をかける。「ねえ、少し別行動しよっか」「別行動?」 突然どうしたのだろう。ようやく立ち止まって私たちを振り返ったふたりも、ハテナマークを浮かべているのがわかる。 しかし、すぐにありさがはっとして、私に向かって両手を合わせた。「あっそうだ、ごめん! 小夜お化け屋敷ダメだったっけ」「あ、うん……いや、こっちこそごめんね! 盛り上がってたのに」 ちょっぴり申し訳なく思いながら言うと、律が微笑んでこんな提案をする。「俺、小夜ちゃんと待ってるから、ありさちゃんたち行ってきなよ」 とくんと胸が波打ち、掴まれたままの手首が熱を持つ。 律、私に気を遣ってくれたんだ……。視線を私に向けた彼と目が合うと、さらに胸が高鳴り始める。 すると、キョウが「いや、いいよ」と言い、こちらに戻ってこようとする。「そんなすげぇ入りたいわけじゃないし、別んとこ……」「行こう、恭哉!」 あっさり諦めようとした彼の言葉を遮
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-04-21
Baca selengkapnya

仲を深めよう作戦 6

 彼が抱えている事情が気になって仕方ないけれど、それを問いただすわけにもいかず、私は下唇を噛んだ。 悶々と考えていると、律は「ごめん、トイレ行ってくるね」と言って腰を上げる。 私の手からコーンを包んでいた紙を取ると、途中でそのゴミを捨てて、アイスクリーム屋の裏手にあるトイレへと向かっていった。 些細な気遣いをしてくれる彼にほっこりしつつ、残りのアイスを口に放り込むと、ふぅと息を吐いた。 目の前をカップルが通り過ぎていくと、無意識に目で追ってしまう。皆、幸せそうだな……。 ひとりでぼんやり眺めていると、見慣れない服を着た人に突然視界が遮られた。 驚いてぱっと見上げたそこには、見知らぬ大学生くらいの男の人がふたり立っている。「ねぇ、君ひとり?」 私を見下ろして、そう尋ねた男のひとりが、にやりと怪しく口角を上げた。 ぞくりとしつつ、ぶんぶんと首を横に振る。「い、いえ、友達と来てます……」「友達って男? 女?」「女の子だったらさ、俺らと一緒に遊ぼうよ」 えぇ……これって、もしかしなくてもナンパ? まさか自分が声をかけられるとは! 当然断ろうとするものの、唖然としてしまってうまく言葉が出てこない。「あ、あの……!」「高校生くらいだよね?」「なんかめっちゃ怯えてる。可愛い~」 やだやだ、どっか行ってよ! 律、早く戻ってきて……! ひたすら話しかけてくる男たちに、肩をすくめてただ押し黙っていた、その時。「小夜!」 お化け屋敷があるほうから、そんな声とともに走ってくる足音が聞こえてきた。 キョウとありさ……! ふたりが戻ってきてくれて、心底ほっとする。「こいつになにか用っすか?」 キョウは普段あまり見ない険しい表情で、ギロリと睨みつけた。私まで萎縮してしまいそうなほど凄みがある。 男ふたり組は、へらっと笑って私たちから離れていく。「ちょっと話してただけだよ」「そーそー。じゃ、またね」 軽く手を振ってあっさりと去っていくふたりを、私は座ったまま呆然と見送る。「〝また〟はねぇっつーの」と、苦虫を潰したような顔をするキョウが吐き捨てた。「小夜、大丈夫!?」「あ、うん、全然! 本当に話しかけられただけ。ありがと」 心配そうに私の肩に触れるありさに笑い返した。まあ、びっくりはしたけれど。 よかった~と安堵の笑みを浮かべるありさの横で、キョウは辺りを見回して言う。「律はどこ行ってんの?」「トイ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-04-21
Baca selengkapnya

仲を深めよう作戦 7

 ──ところが、それから五分ほど待っても彼は来ない。さらに五分が経ち、さすがに心配になってきた。「どうしたんだろうね?」「俺、様子見てくるわ」 そう言ってキョウが一歩を踏み出したものの、すぐに足を止めてポケットからスマホを取り出した。どうやらなにかメッセージが来たらしく、画面をタップしている。「あ、律だ」 その名前が出されて、ひとまずほっとする。 今日の約束をした後、都合がいいだろうとキョウだけは律と連絡先を交換していた。それもキョウが半ば強引に聞き出して。 彼からの連絡は何なのか、私とありさも注目していると、キョウの表情がみるみる強張っていく。「どうしたの?」「……先、帰るって」 キョウの口から重々しく出された言葉に、私たちは「「えっ!?」」と戸惑いの声を上げた。 先に帰るって、どうして? さっき、楽しいって言っていたばかりなのに……!「なんで!?」「知らねーよ!」 眉根を寄せるありさに、キョウは怒ったように荒々しくスマホを渡した。私も一緒にその画面を覗き込む。【用事を思い出したから先に帰るわ。本当にごめん。でも、今日は楽しかったよ。ありがとう】 映し出されたのは、どこまでが本心かわからないメッセージ。「なにそれ……? あたしたちになにも言わず帰るってどういうこと!?」 ありさも憤りを露わにする。 本当にどうして……用事があるなんてきっと嘘だよね。漠然とそう感じた。「……あいつ、本当に変わっちまったな」 落胆してぽつりとこぼれたキョウの声が、胸にチクリと刺さる。「律……」 最後に彼が向かって行ったほうを見ながら、ぐっと手を握った。 私も疑問だらけだし、ものすごく悲しいけれど、なんだかそれ以上に胸がざわざわする。 いくら昔と変わったといっても、律はこんなに私たちの気持ちを考えないような、勝手な人ではないはず。きっと、なにか理由があるに違いない。
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-04-21
Baca selengkapnya

神様、願いを叶えて 1

 もうすぐ七夕だね。律はなにを願うのかな。 保育園の頃は、七夕になると毎年短冊にお願い事を書いていたよね。あの頃の律の願い事は、〝サッカーが上手になりますように〟だった。 きっと、その願い事は叶ったんじゃないかな。 キョウは確か、〝お腹いっぱい肉が食べたい〟だったっけ。あいつらしくて笑える。 私の願い事は、あの頃から変わってないんだよ。恥ずかしいから、今は簡単に言えないけど。 いつか、叶う時が来るといいな。 * * * 月曜日、ありさと一緒に登校すると、早々と朝練を終わりにしたらしいキョウが四組の前にいた。 彼が呼び出しているのは、やっぱり律だ。ありさと目配せして、私たちも彼らのもとに駆け寄る。「なんでこの間急に帰ったわけ? ちゃんとした理由があるなら言えよ」 怒っているというより、心配しているような口調で尋ねている。律は私たちと視線を合わそうとしないまま、覇気のない笑みを見せる。「ただの気まぐれだよ」「お前、そんなことする奴じゃなかっただろが」 いぶかしげに眉をひそめるキョウも、やっぱり私と同じことを思っているらしい。律があんなことをしたのには、きっとちゃんとした理由があるって。だから今、こうして聞いているのだろう。 本当のことを教えてほしい。そう強く思いながら律を見つめると、彼は目を伏せて力無く呟く。「……よくわかったんだよ。やっぱり俺は、君らとは一緒にいられないって」 ドクン、と重い音が身体の奥で響いた。〝一緒にいられない〟って、どういうこと? やっぱり律は、なにか大きな問題を抱えているんじゃ……。「律──!」「逢坂くーん」 たまらず彼に歩み寄ろうとすると、四組の教室の中から女子の呼ぶ声に遮られた。それに反応した彼は、一度彼女たちのほうを振り向いてにこりと笑みを向けると、またこちらに顔を戻す。「悪いけど、もう俺に関わらないで」 その時の表情は、地中深くにある洞窟みたいに暗く、冷たくて。私もキョウも、言葉をなくしてしまうほどだった。 教室に入っていく律を、私たちは黙って見ているしかない。「どういうことだよ……」「逢坂くん、あたしたちが想像もしてないような事情を抱えてるのかもね」 眉根を寄せるキョウと、深刻そうな顔をするありさ。私も同様に、ざわついて苦しい胸元のシャツをぎゅっと掴んだ。 教室に戻った律はいつも通りで、笑って女子と話している。きっとあれは上辺の笑
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-04-23
Baca selengkapnya
Sebelumnya
12345
Pindai kode untuk membaca di Aplikasi
DMCA.com Protection Status