槙島律(まきしまりつ)が10歳の時、父は刑務所に入れられ、母は自ら命を絶った。両親は心優しく彼を家に迎え入れ、十年以上にわたり、自分の子供のように育ててくれた。失恋した彼は私にプロポーズし、余生を誓ってくれた。私は長年の片思いを実らせ、ついに幸せを手に入れた。その後、両親が亡くなり、律は「海外にいてパスポートを無くして帰れない」と言った。私は一人で両親の後始末をし、遺影を抱えて家に帰った。しかし、帰国できないはずの律は元カノと昔のように体を寄せ合っていた。元カノが教えてくれた。両親が事故に遭う直前、律にビデオ通話をかけてきたのを、彼女がうっかり出てしまったらしい。その時、二人はキスをしていた。……両親は交通事故で即死した。病院に着くと、医師は手術室ではなく、遺体安置所に案内してくれた。私は全身が冷たく、前に進む度に胸が裂けるような痛みを感じた。看護師が遺体安置所の扉を開けた。あの瞬間、ベッドに横たわる両親の姿が目に入った途端、頭の中が真っ白になった。体から力がスーッと抜けていって、そのままドサッと床にへたり込んだ。「ご愁傷様です」私は無感覚になり、律からの電話を受けるまで何も感じなかった。彼は泣き声を上げて、ひどく苦しんでいた。「沙羅、ごめん。こんな時に俺は沙羅のそばにいられない」「パスポートを無くして、帰れないんだ」「俺はお父さん、お母さんに最後の顔を見せてあげられない」彼は涙ながらに言った。私は死にたいほど苦しんでいたが、彼を慰めることだけは忘れなかった。律が帰らなかったので、私は一人で両親の葬儀を取り仕切らなければならなかった。葬儀が終わった後、私は友人の「家で数日休んでいけば?」という誘いを断り、両親の遺影を抱えて家に帰った。リビングに足を踏み入れた瞬間、目に入ったのは、リビングから寝室にかけて散らばる男女の服だった。数秒間、思考が止まった。そのとき、寝室から男の声が聞こえてきて、ハッと我に返った。「彼女の友達に電話したよ。今日、彼女は帰らないって」「明日また、あの亡くなった二人の前で『いい子』のフリをしなきゃいけないなんてね」私は体が震え、こんな言葉を律が言っているなんて信じられなかった。律とは幼少期からの隣人で、幼馴染だった。でも、
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