「美琴!!!!!!」僕の叫びが、虚しく宙に消えた。掴んだはずの手の感触はなく、代わりに、指先が触れていたのは、僕の部屋の、柔らかい布団の上だった。霞んでいた視界が、急速に晴れていく。目の前には、見慣れた親友の、心底驚いた顔があった。「うわぁ!!びっくりした〜…」翔太は、大げさに自分の胸のあたりを何度もさすっている。「お前っ…!まじやめろよっ…!ほんと心臓止まるかと思ったわ…」その言葉に、僕は自分が夢から覚める間際まで、必死に美琴の名前を叫んでいたのだと、ようやく理解した。張り詰めていた緊張の糸が、ぷつりと切れる。心臓が、まだドクドクと警鐘を鳴らしているというのに、全身から、急速に力が抜けていく。「ご、ごめん…」(って…どうして翔太がここに……?)何故、今、自分の家に、翔太がいるのか。状況が、まったく把握できていない。「美琴ちゃんから、お前のスマホで掛かって来た時は、驚いたんだぞ!何事だ!?ってよ」その言葉に、僕は少しだけ安堵する。そうだ…ここは、夢なんかじゃない。「美琴が…?」「あぁ。美琴ちゃん、酷く焦っててさ。とりあえず俺が呼ばれた場所まで行ったら、お前が気絶してるから、マジで焦ったぜ」その声が、僕の現実感を、さらに強くする。僕は、意識を失っていたのか。でも…それくらい、衝撃的な事実を知ってしまったのだから、無理もなかった。「で、俺が背負って、美琴ちゃんと、一緒にお前の家まで運んだ、って訳だ」「そう…だったんだ…。本当に、ごめん…」僕は、ただ、謝ることしかできなかった。「美琴ちゃんも、お前の傍から2時間くらい離れなかったから。後で、ちゃんとお礼を言っとけよ?」その言葉に、僕は窓の外を眺める。茜色に染まる空は、夜へと移り変わっていた。僕が意識を失ってから、かなり時間が経ってしまったようだ。「…うん。今から、メールだけしておくよ…」《美琴…ごめん。翔太を呼んでくれて、ありがとう。助かった》伝えたいことも、聞きたいことも、山ほどある。でも、今の僕には、この簡潔な言葉を送るのが、精一杯だった。「翔太も…ありがとう」僕は、親友に、心からの感謝を伝える。「ん? なんだ急に。当たり前のことだろ」彼の、こういう、何の計算もない、真っ直ぐな優しさに、僕は、いつも救われている。「おい悠斗、勝手にキッチン借りたけど、腹減り過ぎて…
Last Updated : 2025-07-22 Read more