「はぁ……はぁ……っ……」呪詛の最後の残滓が消え、アイナの巨体は、糸が切れた人形のように石畳へと崩れ落ちた。(とてつもない強さだったな……)(うん……エレンが……こんなにボロボロになるなんて……今まで一度もなかった)(ああ、はっきり言ってギリギリだった)アドレナリンの奔流が引き、代わりに全身を駆け巡るのは、灼けるような痛みと、鉛のような疲労。張り詰めていた意識の糸が、ぷつりと切れる。「だが……私たちの勝ちだ」その一言を最後に、私の身体もまた、膝から崩れ落ちた。「エレンさん!」「エレン!」「エレン様!」仲間たちが、それぞれの表情に焦りと安堵を滲ませながら、私の元へ駆け寄ってくる。その喧騒の中、か細い呻き声が響いた。『ァァァ……』アイナが、苦痛に身を捩っている。その姿に、シオンの顔が、絶望に彩られた。(シオンさんに…あんな悲しい顔……させたくない……)(ああ…私とて同じ気持ちだ)(だから……エレン、入れ替わろう)エレナが、静かに、しかし、揺るぎない意志を持って告げる。それは、仲間たちへ私たちの秘密を明かすということに他ならない。その言葉の重さに、私の思考が凍てつく。危険だ。聖女となる彼女の身が、常ならざる状態にあると知られれば、国が傾く。ベルノ王国にとって、エレナはそれほどまでに重要な存在なのだ。そして、もう一つの懸念。仲間たちが、私たちを拒絶する可能性。二人で一つの魂。その特異な繋がりを、彼らが「不気味だ」と感じ、離れていってしまうかもしれないという、冷たい恐怖。この仲間たちに限って、そんなことはあり得ないと、理屈では分かっている。だが、エレナのこととなると、私は臆病になる。(エレナ……本気なんだな?)私は、魂の奥底で、真剣な声音で問いかける。(うん……。確かに、ちょっと……ううん。すごく怖い)彼女の声が、微かに震えているのが伝わってくる。大切な仲間だからこそ、拒絶されるのが怖い。当然の感情だ。(でもね、さっきも言ったけど……みんなに隠し事をしなくて済むって、そう考えると、心が軽くなるんだ。ありのままの私たちで連携できれば、もっと強くなれる)それも、また事実だ。エレナが表にいる時は、全員で彼女を守る。私が表にいる時は、全員が攻撃に転じられる。私たちの力を最大限に引き出すには、この秘密を共有することが不可
最終更新日 : 2025-08-15 続きを読む