Soul Link ─見習い聖女と最強戦士─

Soul Link ─見習い聖女と最強戦士─

last updateTerakhir Diperbarui : 2025-10-12
Oleh:  渡瀬藍兵Baru saja diperbarui
Bahasa: Japanese
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「心は一つ、身体も一つ。――でも、魂は二つ!?」 聖女見習いエレナの身体には、記憶を失った最強の戦士エレンが宿っていた。 昼は聖女が祈りを捧げ、夜は戦士が剣を執る——一つの身体を分かち合う、二人だけの秘密。 ある時、エレナは極秘任務を告げられる。 かつて世界を創造した"魔神"が砕け散った聖域「禁足地」にて、未知なる膨大なエネルギーが観測されたと。 聖女見習いと四人の異能者、そして夜の帳が下りる頃に現れる、彼女だけの騎士。 五つの魂を乗せた旅が、今、始まる。

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第0話:魔法の起源

 遥かなる古、万象が未だ若く、世界が静寂の中で息づいていた時代のこと──

  人々は、ただ一柱の神に祈りを捧げていた。

  その神の慈悲は、世界の隅々にまで行き渡った。乾いた大地には豊穣の約束を、日照りに苦しむ地には恵みの雨を、病に蝕まれた者には癒やしの光を、果てなき争いに疲れ果てた者らには安寧の秩序を──

  生きとし生けるものすべてに、その愛は太陽のように等しく、そして深く注がれていた。

  人々は神の御業に心からの畏敬を捧げ、敬愛を込めてこう呼んだ。

  **「魔神様」**

  絶対なる庇護者。この世で唯一無二の完全なる存在として。

  しかし、その永劫の平穏を破る者が現れた。

  一人の男──彼にとって神とは、信仰の対象ではなく「研究対象」でしかなかった。

  男は巧妙に神の信頼を騙り、聖域へと忍び寄る。その目的はただ一つ。神の奇跡の力を**我が物とすること**。

  その心には、一片の敬虔さも宿っていなかった。

  そして、純粋なる裏切りの果てに──

  **魔神様は砕けた。**

  いかなる怒りも、いかなる悲しみも浮かべることなく、まるで長き役目を終えたかのように、静かに音もなく崩れ落ちたのだった。

  次の瞬間、天と地を覆い尽くさんばかりの凄絶な爆発が起こった。

  神の聖なる身体から溢れ出た無尽蔵の**魔力の粒子**は、目に見えぬ風に乗って色鮮やかな光の雨となり、大地に染み込み、広大な海を渡り、蒼穹の果てまで届いて──

  やがて、世界そのものと不可分に混じり合っていった。

  永い刻が流れ、世界が神の遺した魔力で満たされた後──

  その混沌たる力に**適応**し、新たなる理をその身に宿した者たちが歴史の表舞台に現れ始める。

  彼らの血は神の残滓に触れて熱く滾り、その肉体は人ならざる強靭さを獲得し、魂の奥底には失われた神の記憶の欠片が微かに、しかし確かに宿っていた。

  彼らは疑いようもなく”人”でありながら、同時に”人”という枠を遥かに超越した存在へと変容を遂げていた。

  この世の理を超えた絶対的な力──**魔法**を自在に扱う者たち。

  人々は、畏れと羨望、そして一抹の不安と共に、彼らをこう呼ぶようになる。

  **「魔人《まじん》」**

  それは、神の力を受け継ぎ、新たなる時代を担う者たちの名だった。

  魔法とは、砕け散った神の本質そのものであり、それは世界に十の明確な姿をもって顕現した。

  **万物を焼き尽くす原初の【炎】**

  **万物を育み流転させる【水】**

  **万物を停滞させ絶対零度を現す【氷】**

  **万物を引き裂き罰を与える【雷】**

  **万物を吹き運び自由を謳歌する【風】**

  **万物を支え不動を誇る【土】**

  **万物に芽吹きと循環をもたらす【樹】**

  **万物を断ち切り武具となる【鉄】**

  **万物を深淵に誘い影を落とす【闇】**

  **そして、神の慈悲と奇跡の残照たる【聖】**

  これら十の属性こそ、魔法の源流であった。

  だが、神が世界に遺した最も重要な法則がある──

  **魔人は、生まれた瞬間からこの十の属性のうち、ただ一つだけをその身に授かる。**

  二つの属性を同時に宿す者は、決して現れない。

  その理《ことわり》に例外は、世界の始まりから、ただの一度として存在しなかった。

  それは、砕けた神が世界に遺した最後の戒律であり──

  魔人たちが生まれながらにして背負う、絶対なる宿命でもあったのだ。

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第0話:魔法の起源
 遥かなる古、万象が未だ若く、世界が静寂の中で息づいていた時代のこと──   人々は、ただ一柱の神に祈りを捧げていた。   その神の慈悲は、世界の隅々にまで行き渡った。乾いた大地には豊穣の約束を、日照りに苦しむ地には恵みの雨を、病に蝕まれた者には癒やしの光を、果てなき争いに疲れ果てた者らには安寧の秩序を──   生きとし生けるものすべてに、その愛は太陽のように等しく、そして深く注がれていた。   人々は神の御業に心からの畏敬を捧げ、敬愛を込めてこう呼んだ。   **「魔神様」**   絶対なる庇護者。この世で唯一無二の完全なる存在として。   しかし、その永劫の平穏を破る者が現れた。   一人の男──彼にとって神とは、信仰の対象ではなく「研究対象」でしかなかった。   男は巧妙に神の信頼を騙り、聖域へと忍び寄る。その目的はただ一つ。神の奇跡の力を**我が物とすること**。   その心には、一片の敬虔さも宿っていなかった。   そして、純粋なる裏切りの果てに──   **魔神様は砕けた。**   いかなる怒りも、いかなる悲しみも浮かべることなく、まるで長き役目を終えたかのように、静かに音もなく崩れ落ちたのだった。   次の瞬間、天と地を覆い尽くさんばかりの凄絶な爆発が起こった。   神の聖なる身体から溢れ出た無尽蔵の**魔力の粒子**は、目に見えぬ風に乗って色鮮やかな光の雨となり、大地に染み込み、広大な海を渡り、蒼穹の果てまで届いて──   やがて、世界そのものと不可分に混じり合っていった。   永い刻が流れ、世界が神の遺した魔力で満たされた後──   その混沌たる力に**適応**し、新たなる理をその身に宿した者たちが歴史の表舞台に現れ始める。   彼らの血は神の残滓に触れて熱く滾り、その肉体は人ならざる強靭さを獲得し、魂の奥底には失われた神の記憶の欠片が微かに、しかし確かに宿っていた。   彼らは疑いようもなく”人”でありながら、同時に”人”という枠を遥かに超越した存在へと変容を遂げていた。   この世の理を超えた絶対的な力──**魔法**を自在に扱う者たち。   人々は、畏れと羨望、そして一抹の不安と共に、彼らをこう呼ぶようになる。   **「魔人《まじん》」**   それは、神の力を受け継ぎ、新たなる時代を担う者た
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第1話:二つの魂
**────エレナの視点────** 朝露に濡れた草葉が陽光にきらめき、鳥たちのさえずりが夜の静寂を押し上げていく。 その響きに応えるように──鐘が鳴った。 低く、力強く。空の高みにまで届く荘厳な音色が、今日もまたベルノ王国の一日の始まりを告げる。 王国の揺るぎない象徴。民に平和と祝福を届ける“祈りの音”。 私は、その祈りを誰よりも大切に受け止める者。 陽光を含んだ金の髪、澄んだ碧の瞳──王国に仕える聖女見習い、エレナ。 まだ見習いとはいえ、人々の病や苦しみを祈りで癒す力を授かった私には、この国に生きる者としての使命がある。 世界がほんの少しでも優しくあれるようにと、祈り続けること。 この手には何の武器も握っていない。けれど私は、私にできることを信じて、今日も静かに祈りを捧げていた。 そのときだった。 **バンッ!** 「エレナ様っ!!」 教会の重厚な扉が凄まじい勢いで開け放たれ、息を切らした男性が転がり込むように聖堂へ駆け込んできた。 私は祈りを中断し、顔を上げる。 額に汗をにじませ、肩で荒く息を吐く男性の目は恐怖に見開かれていた。何かに怯えきったように、わずかに震えている。 「こんにちは。本日も、良いお天気ですね。……何か、お困りですか?」 私は穏やかに立ち上がり、声をかける。少しでも、この人の心を覆う不安の影を和らげられるように。 「さ、昨晩……! この街のすぐ近くの森に、グールが出たんです!!」 グール──人の生肉を喰らう魔物。人間の体格を模した不気味な姿、緑の粘液に覆われた皮膚、鋭利な爪と牙を持つ凶暴な魔物。 ベルノ王国にグールが現れるなど、本来なら万に一つもないはずだった。国境は精鋭の騎士団によって厳重に守られ、魔物は境界で排除されているはずだから。 「グール……ですか。冒険者ギルドには、すでにご連絡を?」 「し、しました! でも、ギルドの方が言うには……どうも様子が妙なんです! 討伐隊が出たというのに、奴らの痕跡がまるで見当たらなくて、まるで霧か何かのように消えてしまったみたいで……!」 男性の声には、隠しきれない動揺と焦燥がにじんでいた。 (霧か何かのように消えた……?) 「だから……どうか、“エレン”殿に……! ギルドより教会経由で依頼した方が早くて
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第2話:グールの捜索
**────エレンの視点────**  夜風が、ぴたりと凪いだ。  肌を撫でていた空気が、まるで研ぎ澄まされた刃のように、冷たく張り詰めたものへと切り替わる。  その感覚と共に──私は目を開ける。エレナが閉じた瞼の裏で、もう一つの意思を宿した瞳が、深い闇を射抜いた。  覚醒した意識は水鏡のように冴え渡り、周囲のあらゆる情報を正確に捉え始める。白銀へと変わった長い髪を慣れた手つきで束ね、外套のフードを深く被った。顔を覆い隠すほどに。  腰の剣の柄に一度だけ指先を触れ、低く呟く。 「……捜索を開始する」  声は夜の冷たい大気に吸い込まれ、誰の耳にも届かずに消えていった。  ***  夜警の騎士団の巡回ルートを避け、人通りの絶えた裏道を選ぶ。石畳が足音を吸い込むかのように、影から影へと滑るように身を移す。闇に紛れることは、呼吸と同じほど自然な行為だ。 (……騎士団は表通りばかりだね。やっぱり、下水道の線が濃いのかな?) (ああ。実務よりも形式を重んじるのは……騎士団の悪癖だな)  エレナの少し心配そうな声に、私は心中で短く応じる。一切の迷いなく街の暗部へと続く地下への入り口へと足を向けた。重い鉄格子の扉は、わずかな力を加えるだけで軋みもせずに開く。  ***  ぽた、ぽたん、と水滴が壁面を伝い落ちる音が、湿った石壁に鈍く反響している。鼻腔を刺すのは、吐き気を催すほどの腐臭。汚泥と、錆びた鉄と、そして腐敗した何かの有機物が混ざり合った、重く澱んだ空気だ。 (うぅ……やっぱりここの臭い、キツそう……。エレンは、大丈夫なの?) (……問題ない。慣れている)  エレナと意識の片隅で言葉を交わしながらも、私の集中力は寸分も途切れることはない。神経を研ぎ澄まし、一歩、また一歩と、闇のさらに奥深くへと慎重に進んでいく。  その時──ぴちゃり、と粘性の高い液体が床石を打つような、ぬめった水を引きずる微かな音が、前方の暗闇から聞こえてきた。 (……何かいるな。それも、複数だ)  音から伝わる気配の〝重さ〟が、この下水道に棲むただの害獣とは根本から異なっている。  即座に腰を落とし、音の発生源へ疾風の如く踏み込もうとした──その瞬間。 「きゃあああっ!!」  甲高い、少女の悲鳴。  思考よりも早く、本能が反応する。即座に方向を変え、悲鳴が上がっ
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第3話:得意個体のグール
**────エレンの視点────** (エレン……大丈夫? 数が多いけど……)  エレナの、隠しきれない不安が意識の深層でさざ波を立てる。私は夜の静寂に溶けるほど小さな声で、しかし揺るがぬ自信を乗せて短く返した。 (エレナ、問題は数ではない。司令塔を潰せば、残りはただの烏合の衆だ)  フードの端をかすかに引き、深紅の瞳が捉える獲物──奥にいる「司令塔」へと焦点を絞る。その手前にいる四体は、単なる障害物にすぎない。  予備動作なく、跳んだ。  石畳を強く蹴り、身体は放たれた矢のように敵陣の中央へ滑り込む。  最短距離で一体目の胴を袈裟懸けに裂き、その勢いのまま手首を返して二体目の首を刎ね、身体の捻りを加えて三体目を心臓ごと貫く。一息も置かない。三つの命を摘むための、ただ効率的な連続動作。  ズシュッ、グシャリ、ドチャッ!  生々しい断末魔が重なり、鮮血が闇夜に三日月の軌跡を描いた。  数瞬前までの喧騒が嘘のように、動きはぴたりと止まる。  残る二体のグールは、仲間が一瞬で肉塊に変わるのを見て戦意を失った。じりじりと後退するその瞳には、もはや原始的な恐怖だけが宿っている。 「悪いな。これ以上の被害は出せない」  逃げ出した一体に向け、右手の長剣を躊躇なく投擲する。回転しながら飛んだ剣は肉を貫き、胸から血に濡れた銀色の切っ先を覗かせた。 「グエェッ!」  断末魔と共に崩れる敵へ疾駆し、背に突き刺さった剣の柄を掴んで力任せに引き抜く。最後の一体が恐怖で硬直した瞬間、その重心が浮いたところへ反転し、渾身の蹴りを叩き込んだ。  ──鈍く重たい衝突音。顔面一点に集中させた一撃で、グールは宙を舞い、硬い石壁に叩きつけられて崩れ落ちた。  足元には虫の息の二体。ためらいなく、その首を正確に斬り落とす。再び、完全な沈黙が訪れた。  鼻を刺す血の匂い。剣先から滴る血を一瞥し、剣を大きく払うと、刃にこびりついた肉片が血と共に飛び散った。 (よし、エレナの身体は汚れていない。返り血も最小限だ)  そのときだった。 「うわぁ……! す、すごいです!」  背後から慌ただしい足音。先ほど助けた少女が駆け寄ってくる。恐怖で震えていた姿は消え、瞳を爛々と輝かせていた。 「あ、あなた……もしかして、エレン様ですよね!? あの有名な、“夜だけ現れる教会騎士”
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-05-19
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第4話:戦う者と祈る者
**────エレンの視点────** 夜の闇に慣れた深紅の瞳が、前方の異形を正確に捉える。 右手に長剣、左手に逆手の短剣。二刀を、水が流れるように静かに構えた。 目の前に立ち塞がるのは、先ほどまでの雑魚とは比べものにならないほどの瘴気を放つ特異個体。 腐肉と膨張した筋繊維が不規則に重なり合い、皮膚の隙間から紫黒の体液が滴っている。石畳に落ちた液がじゅっと音を立て、鼻を突く悪臭がさらに濃くなった。 「……来るがいい。その首、刎ねてやる」 挑発に応えるかのように、魔物が喉を震わせ、低い唸り声と共に爪を振り下ろす。 風を裂き、鋭利な死の刃と化した爪が迫る。 私は最小限の体捌きで身をひねり、紙一重でかわした。直後、爪が壁を叩き割り、砕けた石片が飛び散る。破片が頬をかすめ、皮膚を浅く裂いて血の筋を刻んだ。 (まずは眼を潰す。視界を奪えば、ただの的だ) 着地と同時に踏み込み、全体重を乗せた突きを放つ。 長剣の切っ先が巨大な右目に吸い込まれ、ぶちりと肉を裂く感触が柄を通して伝わる。 瞬間、魔物が絶叫した。湿った空気を震わせるような叫びが下水道を揺さぶり、耳の奥に鈍痛が走る。 横薙ぎの反撃。 私は大きく跳躍し、空中で身をひねる。右目に突き刺したままの剣を強く握り、力任せに引き抜いた。ぶしゃりと紫の血が噴水のように散り、鉄錆に似た匂いが喉に張り付く。 (……次だ、もう一つの目も潰しておこう) 左手の短剣を順手に握り直し、残された左目へと渾身の斬撃を叩き込む。 刃が眼窩の奥へ沈み込み、ぐじゅりとした抵抗のあと脳を抉る重い感触が伝わった。 両目を失った巨体は狂ったように暴れ、巨腕が壁を砕き、濁った水が大きく跳ね上がる。 (……ふむ、脳を抉られてもまだ死なないとは。見た目通り、タフじゃないか) 動きは無秩序だが、その膂力と肉体の硬度は依然として脅威だった。 一瞬の隙を逃さず、背後に踏み込む。剣を高く振りかぶり、背骨を狙った。 刃が皮膚を裂き、硬質な抵抗を噛むような感触で止まる。鋼鉄に阻まれたような手応え。 私は即座に剣を引き抜き、喉元へと返す刃を放った。だが鈍い衝撃が刃を止め、骨のような組織が防壁となっていた。 (エレン……もう、いいんじゃないかな。魔物といってもこれ以上苦しませるのは……見てい
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第5話:討伐報告
**────エレナの視点────** 「本当に……本当に、ありがとうございました! エレナさん、そしてエレンさんにも、どうかよろしくお伝えください!」  ギルドの受付カウンターで、快活な受付嬢さんが身を乗り出すようにして、深々と頭を下げた。  その声には、心からの感謝と安堵が混じっていて、周囲の喧騒の中でもひときわ真っ直ぐに響いてくる。 「依頼を受けたのは主にエレンです。次に本人が顔を出したとき、直接たくさんお礼を伝えてあげてくださいね。きっと、喜びますから」  私はにっこり微笑みながら、安心させるようにそっと言葉を添える。 「もちろんです! しっかりと感謝を伝えますね! それにしても……今回の特殊個体のグール、ギルドに所属する他のSランクの冒険者の方々でも、単独での討伐はかなり難しかっただろうって、討伐後の調査チームから報告が上がってきているんですよ」  受付嬢さんは言いながら、感嘆したように胸に手を当てる。その仕草からも、今回の件がどれほど衝撃的だったかが伝わってきた。 (S級冒険者の人たちでも……? )  私は思わず小さく息を呑んだ。S級冒険者といえば、一国の“戦略的戦力”と呼ばれるほどの選ばれし実力者たち。そんな存在でも苦戦必至の相手だったというの? 「そ、そんなに……手強い個体だったんですか……?」  驚きと戸惑いが声に出てしまう。  受付嬢さんはこくりと静かに、しかし重々しく頷いた。 「ええ……討伐現場の体組織を魔法研究所で分析したところ、通常の魔物とは異なる、未知の反応を多数示していたそうです」 「それに──」  彼女はそこで一度言葉を切り、周囲を見回す。耳打ちするように声を潜めた。 「その規格外のグールをほぼ完璧な形で倒せたのは、皮肉なことに、“魔法が一切使えない”エレンさんだったからこそ……というのが、ギルド上層部の正式な見解なんです」  その言葉に、胸の奥を鋭いもので突かれたような衝撃が走った。  もし他の冒険者だったなら、既存の魔法体系に縛られ、対応を誤ったかもしれない。 (たしかに……そうかもしれない)  私自身だって慢心していた。「グール程度なら神聖魔法で祓える」と、心のどこかで思い込んでいた。  けれど私は見た。エレンの意識の中から、彼の五感を通じて、すべてを。  あの異形のグールには常識も経験
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-05-19
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第6話:魔法闘技の開幕
**────エレナの視点────**  ──数日後。  その日は、まるで世界の始まりを祝福するかのように、一点の曇りもない紺碧の青空が王都の上に広がっていた。  王都の中央、巨大な円形闘技場の上空には、いくつもの“魔導結晶”が、天空の星座のように魔法の力で静かに浮かんでいる。それらは、これから繰り広げられる激闘の一部始終を鮮明に映し出し、闘技場の外にいる人々にまで熱狂を届けていた。  地軸を揺るがすかのようなファンファーレが高らかに鳴り響く。  それに呼応して、観客席を埋め尽くした何万という人々から、堰を切った激流のごとく歓声が沸き上がった。 「さあ皆さま!! 長らくお待たせいたしました! 王都が一年で最も熱く燃え上がるこの季節がついにやって参りました! 栄光と誇りを賭けた魔法の祭典、魔法闘技──ただいまより、華々しく開幕でございます!!」  魔力で増幅された司会者の張りのある声が、闘技場の隅々にまで届く。 「出場する選手たちへ、そしてこれから紡がれる新たなる伝説へ! 熱き魂のこもった声援を送る準備はできているかーーーッ!!?」 「うおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」  地鳴りのような咆哮が天を震わせ、空気そのものが波打つ。  私は控室の窓越しにその光景を見つめながら、胸が高鳴るのを抑えられなかった。 *** 「エレナ君……そろそろ、時間だ。エレン君と交代してくるといい」  静かに声をかけてきたのは、王都大教会の司祭様。  私たちが“二人でひとつ”の存在であることを知り、見守ってくれる、数少ない理解者の一人だ。 「……はい。今から、エレンと交代してきますね。司祭様、いつもありがとうございます」  一礼し、私は人気のない一室へと足を運んだ。ここが、私たちが意識を交換するためのささやかな聖域。  重厚な扉を閉じると、外の喧騒が遠ざかる。私は目を閉じ、深く内へ沈んでいった。 (エレン、準備はできてる? 緊張は……してないと思うけど) (ああ、問題ない。むしろ楽しみだ。人間相手に、しかも衆人環視の中で剣を交えるなど……ふっ、少しだけだが、この腕が鳴る)  いつもよりわずかに熱を帯びた声。その高揚が伝わってきて、私は眉を寄せる。 (だ、だからって……くれぐれも、やりすぎないでよ! 相手は魔物じゃないんだからね!) (善処は
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-05-19
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第7話:焦燥する炎の騎士
**────エレンの視点────**  灼けた砂の匂いと、耳をつんざくような大歓声が、円形闘技場を揺らしていた。  先程までの激しい攻防で抉れた地面に、グレンがゆっくりと、しかし確かな意志を込めて立ち上がる。大きく上下する肩、滝のように流れ落ちる額の汗が、彼の焦りを示していた。 「アンタ……人間離れした動き、しやがって……!」  掠れた声でグレンが絞り出す。その瞳には、驚愕と、それ以上に純粋な闘志が宿っていた。 (恐怖ではない。強者と相対したことによる昂揚……武者震いか。いい目だ)  私は剣の切っ先をわずかに下げ、静かに応じる。 「あいにく魔法は使えなくてね。その代わり、この身一つ、誰よりも研ぎ澄ませてきた」 「へっ……なにが“魔法が使えない”だ。あんたの動きは、どう見ても魔法による肉体強化の領域だぜ。じゃなきゃ、俺の剣をあんな紙一重で避け続けられるもんか」  彼の声の震えは、興奮に変わっていた。強者との戦いを渇望する騎士としての本能が、彼の全身を高揚させているのだ。 (次が来る――!)  彼の指先が微かに動いたのを見て、私は即座に思考を切り替える。 「さっきは不覚を取っちまったが! 今度こそ俺の番だァ!!」  グレンが吠えると同時、両の手に揺らめく炎が宿り、灼熱の火球となって放たれた。 (牽制、あるいは足止めか。だが、狙いが浅いな)  ゴウッ、と空気を焦がす音を立てて迫る火球。私はその軌道を冷静に見極め、最短距離で右へと疾走する。 「オラァァァァァ!!!」  私の移動先を塞ぐように、時間差で放たれた第二の火球が的確に正面へと飛んでくる。  だが、その程度で私の歩みは止まらない。迫る灼熱の塊に対し、私は一歩も引かない。半身に構え、剣の腹をしならせるように使い、柳に風と受け流す。轟音と共に闘技場の壁に叩きつけられた火球が、爆ぜて消えた。 「はぁ!? 火球を剣で弾く!?」  グレンの口があんぐりと開く。その驚愕が、ほんの一瞬、致命的な隙を生んだ。  私はその好機を逃さない。迷わず懐へ飛び込み、彼が慌てて振り下ろす剣を紙一重で回避――がら空きになった顎へ、体重を乗せた右膝を突き上げる。  ゴシャッ、と骨が軋む鈍い音が響き渡り、観客席から悲鳴に近いどよめきが上がる。 「ぐっ…………!」  短い呻き声と共に、グレンは糸が切れた人
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第8話:まるで奇跡のような魔法
**────エレンの視点────** 『勝者は――エレンだァァァ!! 圧倒的! 魔法を使わぬ剣士、初陣を見事勝利で飾りましたァァァ!!』  地鳴りのような大歓声が、巨大な闘技場全体を揺るがし、私の鼓膜を激しく震わせる。先ほどまで鳴り響いていた鋭い剣戟の金属音はもう聞こえない。ただ、人の作り出す熱狂の渦だけが、そこにあった。 (……ふぅ。エレン、お疲れ様。すごい戦いだったね。ちゃんと満足できた?)  試合の興奮冷めやらぬ私の意識の奥で、エレナが労うように静かに問いかけてきた。その声には、心からの安堵が混じっている。 (ああ。初戦の相手としては申し分なかった。久々に血が騒ぐ感覚を味わえたよ。実に楽しかった)  私は内心の満足感を隠すことなく答える。 (なんだか……最後の方、ちょっと師匠みたいだったよ? グレンさんのこと、すごく見定めるような目で見てたから)  エレナが、くすくすと楽しそうに笑う気配が伝わってくる。その言葉に、私自身も思わず口元が緩んだ。磨けば光る原石、というやつだったからな。つい、昔の癖が出たのかもしれない。 (……さて、エレナ。名残惜しいが、そろそろ代わろうか。長居は無用だ) (うん。わかった。ありがとう、エレン)  私はゆっくりと意識の主導権を手放す。視界が一度、真っ白に染まる。次に色が戻った時、身体に感じる重みや空気の匂いが、先ほどまでとは少し違って感じられた。 **────エレナの視点────** (よし、っと。私の身体、ただいまー)  闘技場の喧騒が、一枚の薄い膜を隔てたかのように、少しだけ遠くに聞こえる。これが、私の感覚なんだ。 (ねえ、エレン。せっかくだから、他の選手の試合も少し観ていかない? 面白そうな魔法を使う人がいるかもしれないし) (ふむ、それも一興だが……確か君は今日、昼過ぎから教会で大切な用事があったはずだ。忘れたわけではあるまいな?)  エレンの、少し呆れたような、それでいて冷静な声が響く。 (あ"っ……!!)  ──そうだった!! すっかり、綺麗さっぱり忘れてた!!  エレンの試合があまりにすごくて、闘技場の熱気に当てられて、今日の午後に予定していた「祈りの時間」のことが、頭から完全に抜け落ちていたのだ! (わぁぁ! ありがとう、エレン!! 教えてくれなかったら、大変なことになるとこ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-05-19
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第9話:風薙ぎの傭兵
**────エレンの視点────**  私は、あの独特の喧騒と期待感が渦巻く円形の舞台に、再びその身を置いていた。石造りの観客席から響く地鳴りのような歓声が、闘技場の乾いた空気を震わせている。今日もまた、強者との邂逅を求めて、この場に立っているのだ。  今日の対戦相手は――“風薙ぎの傭兵”と異名を取る、風使いのシオン。資料によれば、風魔法を巧みに用いたトンファー術の使い手で、魔法使いでありながら近接戦闘能力も極めて高いという。 (……一筋縄ではいかぬ相手だな。面白い)  先のグレンという若き騎士との戦いもそうだったが、この魔法闘技という舞台は、存外、私の渇きを癒してくれるのかもしれない。強者との真剣勝負は、いつだって私の心を昂らせる。 (エレン、今日も油断しないで、頑張ってね。応援してるから) (ああ。君は安心して見ていてくれ)  エレナの真摯な声援に、私は絶対的な自信を込めて応じた。彼女の支えがある限り、私に敗北はない。 『さあさあ皆様! 本日もやってまいりました、魔法闘技! 最注目の剣士、エレン選手の登場だァァァ! そして迎え撃つは、神出鬼没の風の傭兵、シオン選手の入場だァァ!!』  実況の熱狂的な声が響く中、闘技場の反対側のゲートから、私の対戦相手が静かに姿を現した。  息を呑むほどに中性的な美貌。すらりとした長身にしなやかな肢体。艶やかな濡羽色の髪の一部が左目を隠すように流れ、その静謐な立ち姿は、どこか捉えどころのない風そのもののようだった。まるで実体を持たない精霊が、人の形を借りて現れたかのような神秘性を纏っている。  彼は私の方へゆっくりと歩み寄り、優雅な仕草で一礼すると、鈴を転がすような、性別を感じさせない透き通った声で名乗ってきた。 「初めまして、エレンさん。私はシオンと申します。ご覧の通り、風属性の魔法使い……そして──」  その言葉と共に、彼は腰の一対の鉄製トンファーを、軽やかに、音もなく抜き放つ。その動作は水の流れのように自然で、一切の無駄がない。 「──風を纏い、風を操る傭兵でもあります。どうぞ、お見知りおきを」 (自らのスタイルを、臆することなく堂々と名乗るか。よほどの実力者か、あるいは私を試しているのか。どちらにせよ、実に興味深い)  ──ゴォォォォォォォォォォン  開始の鐘が、重低音を伴って鳴り響く。そ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-05-19
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