「心は一つ、身体も一つ。――でも、魂は二つ!? 聖女エレナと最強戦士エレン、入れ替わりファンタジー!」 祈るしかできない少女・エレナ。 剣を振るうしかできない戦士・エレン。 ──ひとつの体に、ふたつの魂。 かつて戦場を駆けた戦士は、いま、記憶を失って聖女見習いの少女と共に生きている。 昼は人々を癒す光となり、 夜は悪を討つ刃となる―― 身体を共有するふたりが、 静かに世界を変えていく。 グールの出現に揺れる王国で、 “奇跡”はふたりの心から始まる。 ────────────── 【作者の一言】 はじめまして!初めてのファンタジー作品に挑戦中です! この物語は、 “祈るしかできない少女・エレナ”と、剣でしか語れない戦士・エレン ふたりでひとつの体を共有する、魂の物語です。 旅の中で出会う人々、戦いの緊張感、そして“温もりのある冒険”を届けられたらと思っています。 特に、エレンの戦闘シーンにはこだわっていて―― 最強だけど、無敵じゃない。 技術と戦術眼で戦う彼が、“制約のある体”でどこまでやれるのか、ぜひ見ていただきたいです!
View Moreシイナが私の一撃を、常人離れした体捌きで辛うじて防いでみせた。 その反応速度、危機的状況での冷静な判断力…。 この男、シイナ。 彼は単なる魔法研究所の研究員という仮面の下に、恐るべき戦士の素養を隠し持っている。 「まさか、初手から本気で首を獲りに来るとは……。あなたの戦い方は、本当に予測がつきませんね」 額に滲んだ汗を手の甲で拭いながらも、シイナの瞳からは先ほどまでの驚愕の色が薄れ、 代わりにどこか挑戦的な、それでいてこの状況を楽しんでいるかのような獰猛な光が宿っていた。 焦りの色は見て取れる。 それは、純粋に、力量差に対する焦りだ。 私はその言葉に答えず、ただ静かに、抜き放った剣の冷たい切っ先を揺らぎなく彼に向けた。 「さあ、次の一手はどう出る? 私を驚かせてみろ」 「はは……言ってくれるじゃないですか。ならば遠慮なく、これで行きますよ!」 先ほどまでの構えから一転、 シイナの両の手に瞬時に魔力が奔流のように集中し、金属質の重々しい輝きと共に二振りの細身の剣をその場で練成する。 そして、風を裂く青白い軌跡を描きながら、|一気呵成《いっきかせい》に私へと斬り込んできた。 鉄属性による武器生成、そして流れるような双剣術。見事な練度だ。 ――速い。 そして、一撃一撃は軽いと見せかけて、その実、的確に人体の急所を抉らんと迫る。 だが、その太刀筋は、今の私にとっては手に取るように、いや、その先の先まで手に取るように読める。 ギィンッ! ガンッ! カキィィン!! 小気味良い金属音が連続して闘技場に木霊する。 彼の繰り出す無数の斬撃は、一切の無駄がなく、剃刀のように鋭利だ
渾身の力を込めた私の回し蹴りが、寸分の狂いもなくシオンの顎を捉え、その衝撃で彼の意識を刈り取った。鍛え上げられた彼の身体は、力なく闘技場の硬い床へと崩れ落ちる。──そして、数瞬の静寂の後、どれだけ待っても彼が再び起き上がってくる気配はない。『しょ、勝者ぁぁぁぁ!!!! エレンゥゥゥ!!!! またしても圧勝! 魔法なき剣士、その強さ、底が知れなぁぁい!!!!』実況の絶叫にも似たシャウトが闘技場に木霊したその瞬間、先ほどまでの静寂が嘘であったかのように、会場全体が地鳴りのような割れんばかりの大歓声に包まれた。それはもはや称賛というよりも、畏怖と熱狂が入り混じった、人間離れした者への賛歌のようだった。数秒後、白い制服に身を包んだ治療班らしきスタッフたちが、慌ただしく担架を持って舞台下から駆けつけてくる。「おい、意識確認! 大丈夫か!?」「すぐに動かすぞ! 肩を貸せ!」「ああ、いくぞ、せーのっ!」しかし、屈強そうに見えるスタッフ2人がかりでシオンの身体を運ぼうとしたが、その見た目からは想像もつかない重みに、彼らの顔が明らかに苦悶に歪む。「……お、おもっっ!?!?!? なんだこれ、鉄塊でも抱えてるみたいだぞ!?」「だ、ダメだ、これじゃ運べん! もっと人を呼べ! 一体なんなんだ、この人の異常な重さは……!」……それは、さすがに口に出して言ってやるな、と私は内心で苦笑する。恐らく、彼のあの流麗かつパワフルなトンファー捌きを可能にしていたのは、この異常なまでに高められた筋肉の密度なのだろう。それはもはや、常人のそれとは比べ物にならないレベルに達しているに違いない。私自身、先ほどの攻防で彼の攻撃を柔の構えで受け流したつもりだったが、いまだに手のひらがジンジンと痺れている。あの細身のどこに、あれほどの質量が隠されているというのか。結局、屈強なスタッフがもう一人加わり、三人がかりでようやく担架に乗せられ、完全に白目をむいたシオンが、まるで戦場から運び出される傷病兵のように運ばれていった。その姿に、観客席からは労いの拍手が送られている。私はその光景を静かに見送ると、ただ静かに闘技場の舞台を後にする。(エレン、今日も本当に素敵だったよ! ハラハラしたけど、最後はやっぱり圧巻だったね!)控室へ向かう通路を歩いていると、エレナが心の底から嬉しそうに、そして少し
私は、あの独特の喧騒と期待感が渦巻く円形の舞台に、再びその身を置いていた。今日の対戦相手は――“風薙ぎの傭兵”と異名を取る、風使いのシオン。資料によれば、風の魔法を巧みに用いた“トンファー”術の使い手で、魔法使いでありながら、本人の近接戦闘における肉体の練度も相当に高いらしい。一筋縄ではいかない相手だろう。先のグレンという若き騎士との戦いもそうだったが……この魔法闘技という舞台、存外、私の渇きを癒してくれるのかもしれない。強者との真剣勝負は、いつだって私の心を昂らせる。(エレン、今日も油断しないで、頑張ってね。応援してるから)エレナの、いつもと変わらぬ優しくも真剣な声援が、意識の奥でそっと響く。(おうとも。この私に抜かりはない。君は安心して見ていてくれ)私は短く、しかし絶対的な自信を込めて応じた。『さあさあ、レディースアンドジェントルメーン! 本日もやってまいりました、魔法闘技! 現在、人気・実力ともに最注目の剣士、エレン選手の登場だァァァ! そしてそのエレン選手を迎え撃つは、神出鬼没の風の傭兵、シオン選手の入場だァァ!!』闘技場全体を震わせる実況者の声が、まるで開戦の号砲のように高らかに響き渡る中、闘技場の反対側のゲートから、私の対戦相手が静かに、しかし確かな存在感を放ちながら姿を現した。息を呑むほどの、中性的な美貌。すらりとした長身で、しなやかな肢体。整いすぎた顔立ちは、一見しただけでは男か女か、判別がつかないほどに中性的で、どこか人間離れした、近寄りがたいほどの美しさを湛えている。艶やかな濡羽色の髪は、耳元までの長さに切り揃えられており、その一部が左目を隠すように、ミステリアスに流れている。身に纏うのは、濃紺色の地に銀糸で風の紋様が刺繍されたロングチュニック。それは肩から裾へかけて、まるで風の流れを体現するかのように緩やかで優美なラインを描き、対照的に袖は肩口から大胆に切り落とされたノースリーブ仕様で、鍛えられた白い両腕が惜しげもなく晒されている。その静かな立ち姿は、どこか捉えどころのない風そのもののようで、その深淵は容易には読めない。彼は私の方へゆっくりと歩み寄り、優雅な仕草で一礼すると、鈴を転がすような、性別を感じさせない透き通った声で名乗ってきた。「初めまして、エレン殿。私はシオンと申します。ご覧の通り、風属性の魔法使い…
『勝者は――エレンだァァァ!! 圧倒的! 魔法を使わぬ剣士、初陣を見事勝利で飾りましたァァァ!!』割れんばかりの大歓声と、実況の興奮しきった声が、巨大な闘技場全体を揺るがし、私の鼓膜を激しく震わせる。先ほどまでの剣戟の金属音はもう聞こえない。ただ、熱狂だけがそこにあった。(……ふぅ。エレン、お疲れ様。すごい戦いだったね。ちゃんと満足できた?)エレナが、試合の興奮冷めやらぬ私の意識の奥で、労うように静かに問いかけてきた。その声には、安堵が混じっているような気がする。(ああ。初戦の相手としては申し分なかった。久々に血が騒ぐ感覚を味わえたよ。実に楽しかった。)私は内心の満足感を隠すことなく答える。(なんだか……最後の方、ちょっと師匠みたいだったよ? グレンさんのこと、すごく見定めるような目で見てたから)エレナが、くすくすと楽しそうに笑う気配が伝わってくる。ふっと、私自身も思わず笑みがこぼれてしまう。確かに、あの若き騎士グレンの、荒削りながらも非凡な才能と、何よりあの燃えるような闘争心を感じた瞬間――私は無意識のうちに、弟子を導いていた時のような目で彼を見ていたのかもしれない。磨けば光る原石、というやつか。(……さて、エレナ。名残惜しいが、そろそろ代わろうか。長居は無用だろう)(うん。わかった。ありがとう、エレン)私はゆっくりと意識の主導権を手放し、身体の感覚がエレナへと戻っていくのを感じながら、意識の表層へと浮上していく。白銀の髪が陽光を吸い込み、再び柔らかな金色へと変わっていく。深紅の瞳は、澄んだ碧空の色を映す。金の髪に、碧の瞳――私、エレナとしての姿に、完全に切り替わった。闘技場の喧騒が、少しだけ遠くに感じられる。(ねえ、エレン。せっかくだから、他の選手の試合も少し観ていかない? 面白そうな魔法を使う人がいるかもしれないし)(ふむ、それも一興だが……確か君は今日、昼過ぎから教会で大切な用事があったはずだが? 忘れたわけではあるまいな?)エレンの、少し呆れたような、それでいて冷静な声が響く。――そうだった!! すっかり、綺麗さっぱり忘れてしまっていた!!エレンのあまりにも楽しそうな試合運びと、闘技場の熱気に当てられて、今日の午後に予定していた「祈りの時間」のことが、頭から完全に抜け落ちていたのだ!(わぁぁ! ありがとう、エレン
土埃が舞い、観客たちの熱狂的な声援がドーム状の闘技場に反響していた。先程までの激しい攻防で抉れた地面に、グレンはゆっくりと、しかし確かな意志を込めて立ち上がった。その肩は大きく上下し、額からは汗が滝のように流れ落ちている。「アンタ……とんでもない動きするな……!まるで疾風だ」掠れた声でグレンが絞り出す。その瞳には、驚愕と、それ以上に強い闘志が宿っていた。「ふふ。あいにく魔法は使えなくてね。その代わり――肉体の動きやしなやかさ、反応速度、それらを誰よりも研ぎ澄ませてきたのさ」私は、鞘に収めるにはまだ早いと判断し、剣の切っ先をわずかに下げただけの構えを解かずに微笑む。観客席からの興奮した声が、耳に届いていた。「へへっ……なにが“魔法が使えない”だよ。あんたの動き、どう見ても魔法で肉体強化してなきゃ無理なレベルだぜ。そうでなきゃ、俺の剣をあんな紙一重で避け続けられるもんか」グレンの声はまだ震えている。しかし、それは恐怖から来るものではない。強者と対峙した武人としての本能が、彼の全身を高揚させているのだ。いわゆる武者震い――いい目をしている。「ならば、“肉体魔法”とでも呼ぼうか。私が編み出し、私だけが使える、至高の魔法だ」軽口を叩きながらも、私はグレンの一挙手一投足を見逃さない。彼の指先が微かに動いた。次に来るのは――「……さっきは不覚を取っちまったが! 今度こそ俺の番だァ!!」グレンが吠えると同時に、その両の手のひらに揺らめく炎が宿った。直径30センチほどの炎の塊が、周囲の空気を歪ませる。私にいきなり飛びかからず、まずは魔法で牽制、あるいは足止めするつもりか。構えを見るに、騎士道を重んじる実直な男なのだろう。好感が持てる。私は、意識を集中させた。次の瞬間、グレンが右腕を振り抜き、灼熱の火球を放ってくる。ゴウッ、と空気を焦がす音を立てて迫るそれに対し、私は地を強く蹴った。火球の軌道を冷静に見極めながら、最短距離でそれをすり抜けるように右へと疾走する。「なんだその速度……!?目で追うのがやっとだ……!でも、まだだァァァ!!」彼は私の動きを捉えようと懸命に視線を動かし、そして見事に次の行動を予測してみせた。私の移動先を塞ぐように、時間差で放たれた第二の火球が、的確に私の正面へと飛んでくる。だが、その程度で私の歩みを止められると思う
数日後。その日は、まるで世界の始まりを祝福するかのように、一点の曇りもない、どこまでも突き抜けるような紺碧の青空が王都の上に広がっていた。王都の中央、巨大な円形闘技場の上空には、それ自体が高度な魔法技術の結晶であり、一つの芸術品とさえ称されるべき、いくつもの巨大な“魔導結晶”が、まるで天空の星座のように魔法の力で静かに浮かんでいる。それらは、これからこの闘技場内で繰り広げられるであろう数々の激闘のハイライトや、出場する選手たちの勇姿を、様々な角度からリアルタイムで鮮明に映し出し、闘技場の外にいる人々にもその熱狂を伝えていた。まるで、未来の出来事までも見通すかのような、魔法仕掛けの巨大な鏡のようだ。地軸を揺るがし、天を衝くかのような、勇壮極まりないファンファーレが高らかに轟く。それに呼応するように、闘技場を埋め尽くした何万という観客席から、まるで堰を切った激流のごとく、割れんばかりの歓声が一斉に沸き上がった。熱狂の渦が、古の巨人を思わせる巨大な競技場全体を揺るがし、包み込み、そこにいる全ての者の魂を震わせている。「さあ皆さま!! 長らく、長らくお待たせいたしました! 王都が一年で最も熱く燃え上がり、興奮に染まるこの季節がついにやって参りました!栄光と誇りを賭けた魔法の祭典、魔法闘技――ただいまより、いよいよ華々しく開幕でございます!!」闘技場の一角に特設された、まるで鳥の巣のような実況席から、この国で知らぬ者はいないほど有名な司会者の、魔力によって増幅された張りのある声が、闘技場の隅々にまで、まるで神の啓示のように響き渡る。「出場する栄えある選手たちへ、そしてこれから紡がれるであろう新たなる伝説へ、熱き魂のこもった声援を送る準備は、果たしてできているかーーーッ!!?」「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!」観客席から、もはやそれは声援というよりも、一つの巨大な生き物が咆哮しているかのような、腹の底から絞り出す地鳴りのような声が、天に向かって力強く湧き上がった。ビリビリと、足元から空気そのものが震えているのが肌で感じられるほどだ。私はそのころ、これから戦いに赴く選手たちが慌ただしく準備をする受付ブースの、さらにその奥まった一角に設けられた、貴賓用の小さな控室にいた。外界の喧騒が嘘のように、そこだけは奇妙なほどに静か
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