All Chapters of 元夫の初恋の人が帰国した日、私は彼の兄嫁になった: Chapter 221 - Chapter 230

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第221話

忍は尋ねた後、すぐに相手の正体を察した。ホスト。その衝撃は大きく、多分月子が再び静真と復縁するのを聞くのとほぼ変わらないくらいだろう。忍は持ち前の図々しさで、次第に月子と親しくなっていった。しかし月子からは冷たさだけでなく、真面目さも感じられた。遊び慣れているようには見えなかった。まるで時代遅れの人間のようだった。特に恋愛に関しては、以前会った時はまだ静真に振り回されていて、隼人とくっつけようとしても、まるでピンと来ていないようだった。今になって忍は理解した。月子は鈍感なのではなく、離婚届が受理されるまでは静真のことしか頭に無かったのだ。さらに、忍と月子が会う時は、いつも隼人が同席していた。つまり、二人きりで会ったことは一度もなく、彼女のプライベートな一面を知る機会などなかったのだ。忍は心の中で静真を罵った。あんな最低な男になんの取柄があって、月子は惹かれたんだろう?しかも、月子のその想いを踏みにじるなんて。月子は、みるみるうちに表情を変える忍を見て、紹介した。「阿部さんよ」そして要に言った。「桜井さん」要はすぐに「桜井社長、初めまして」と挨拶した。忍はすぐに状況を理解し、笑って近づきながら二人を見て言った。「驚いたな」月子は言った。「独身って、こんな風に遊ぶものなの?」忍は頷いた。「ああ、そうさ。あなたの独身パーティー用にイケメンを10人以上用意したんだ。服を脱がせても、文句を言わずに従うようなのをね」月子は言葉に詰まった。彩乃は言った。「私も行きたくなってきたわ」彼女は月子に真剣な顔で尋ねた。「行く?」月子は「行くなら、あなたが行けばいいじゃない」と言った。忍は月子と彩乃の間に座り、彩乃の方を振り返ってこう言った。「あなたの誕生日はいつだ?俺がパーティーを開いてやるよ。今日のより盛大にやるから」彩乃はそれが社交辞令だと分かっていた。忍に酒を注ぎ、彼の視線が月子に向いているのを見て、少しだけ会話を交わしたが、それ以上は何も言わなかった。「隼人を呼んで一緒に盛り上がろうか?」忍は月子に尋ねた。「人が少なすぎて、少し寂しいな」月子は言った。「……いや、それはいい」「見られたくないのか?」月子は忍が何を試しているのか理解していた。「別に会っても構わないけど、彼は私の上
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第222話

忍は疑うことなく言った。「やっぱり、彼女しか俺のこと心配してくれてないんだな……今バーにいるから、こっち来なよ」月子はようやく状況を理解した。一樹は、忍の独身のパーティーに行きたかったわけではなく、親に命令されただけだったのだ。忍は電話を切ると、月子に尋ねた。「構わないよな?」「人が多すぎだら、帰るからね」と月子は答えた。「分かった。じゃあ、あいつだけ。他の人には声をかけない」そう言いながらも、忍は何かを企んでいた。そして、グループチャットを開いた。このグループチャットには、隼人もいた。【月子さんが、俺が心を込めて準備した独身のパーティーに来てくれない!】修也:【お前が何か企んでるってバレてるんじゃないか?】忍:【企んでるってなんだよ?芸能界の友達も呼んでやったんだぞ。イケメンの独身ばかりだ。月子さんはもったいないことをしたな!】普段はよっぽどのことがない限りコメントしない賢もメッセージを送ってきた。【月子さんを説得できないなんて、お前は本当に役立たずだな】忍:【しょうがないだろ、俺が選んだ男たちじゃ気に入らないんだよ!】修也:【月子さんの目には、男なんて映ってないんだな】鷹司社長の目には女が映っていないのと同じように。忍:【本当に男に興味がないなら、俺も諦めがつくってもんよ。でも、そうじゃないんだよ!】賢:【んん?】修也:【?】忍:【今、彼女は親友と飲んでるんだ。イケメンホストを何人も呼んで、酒まで飲ませてもらってるんだよ】修也:【……嘘だろ?】忍:【俺が嘘つくような暇人に見えるか?】忍は話を切り上げ、月子に言った。「インスタに投稿したいんだけど、顔をぼやけさせておくから載せてもいいか?」月子は彼のインスタを見たことがあった。忍は人物も風景も上手に写真に収める。彼のフォロワーは裕福な人たちばかりで、しかも美男美女揃いだ。インスタを開くと、豪華絢爛な雰囲気を漂わせていた。「いいわよ」忍は数枚写真を撮って、月子に見せた。月子の顔は写っておらず、横顔だけだった。要も一緒に写っていたが、彼の顔もはっきりとは分からなかった。忍の撮影技術はなかなかのもので、バーの照明も相まって、どの写真も悪くはなかった。月子は雰囲気のある写真を選び、忍はそれをインスタに投稿した。
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第223話

静真は黙って、ひたすら酒を呷っていた。胃が少し痛んだが、眉をひそめただけで、また酒を口にした。一樹はそれを見て、思わず言った。「胃が悪いんだろ。そんなに飲むなよ」静真はグラスを持つ手が止まった。月子がよく用意してくれた二日酔いに効く薬や、翌朝に必ず届けてくれた胃に優しい弁当のことを思い出した。そう思うと、月子が今まで本当によくしてくれていたことを、認めざるを得なかった。しかし、考えれば考えるほど、静真の顔色は急に曇った。――離婚してから月子のありがたみに気付くなんて、本当に馬鹿げている。それに、二日酔いに効く薬や胃に優しい弁当なんて、金を出せばもっと良いものが手に入るはずだ。だから、月子は最初からいてもいなくても同じだった。今の自分は精神状態が不安定で、まともじゃないことは分かっていた。しかし、それは月子が離婚を急いだせいだ。静真からすれば、離婚するにしても自分から切り出すべきで、月子に決められる筋合いはないのだ。だから、静真は忠告に耳を貸さなかった。一樹は、もっとアルコール度数の低い酒に替えようとしたが、静真はそれを払いのけ、飲み続けた。一樹は眉をひそめて言った。「もう知らない」そして、霞と颯太に電話して、一緒に飲もうと誘った。霞は、静真が月子という厄介払いできたことを喜んでいると思っていた。まさか、やけ酒を煽っているとは思わなかった。彼女の顔色は少し悪かった。颯太も意外そうに、直接尋ねた。「嬉しくないのか?」静真は二人を見て、面倒臭そうに思っていたが、霞の顔色が悪いのに気づき、少し間を置いて言った。「もちろん嬉しいさ」颯太は言った。「嬉しそうに見えないけどな」霞が尋ねた。「月子に何かされたの?」静真はグラスを置いて、質問に答えず、二人を見て、低い声で言った。「月子をおじいさんの誕生日会に連れて行く。離婚のことは、しばらく内緒にしてくれ」颯太は眉をひそめて、不思議そうに尋ねた。「嘘をつくのか?」霞は再び呆気に取られた。静真は何を考えているんだ?とっくに月子とは終わりにしたがっていたんじゃなかったのか?静真は言った。「おじいさんの誕生日が終わってから、離婚のことを伝える」誕生日会にはたくさんの人が来る。皆の前で、月子が自分の女だと知らしめるのだ。た
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第224話

だいたい今じゃ誰もが自分が静真の妻だと思ってるんだから、月子が行ったところで、誰か気づかれることもないんじゃない?一樹は月子の話題にはもうとっくに飽きていた。「ここに友達がいるから、ちょっと顔を出してくる」霞が尋ねた。「誰?連れてきて紹介してよ」一樹は笑った。「彼はあなたたちに会ったことないし、来たくないって言うんだ。ちょっと行って、すぐ戻るよ」一樹はもうとっくの前から月子に会いに行きたかった。彼は月子たちがいる個室の前に着くと、ノックをした。忍が開けた。「お前は遅いぞ。来たくないならそう言えよ。他の友達を呼ぼうと思ってたんだ」一樹は静真と酒を飲んでいたせいで遅くなったのだ。しかし、そう言われると彼は嫌そうな顔をして、中に入った。部屋の中には4人しかいない。月子と忍、そしてホストが二人。それはどれをとっても、一樹にとって腹立たしいことなのだ。だけど、一樹はそれを表に出さず、麗しい笑みを浮かべて声をかけた。「月子、離婚したばかりなのに、随分と楽しそうじゃないか?」月子はその瞬間、自分と忍に対して、全く違う顔をしている一樹の変わり身の早さを目の当たりにした。「まあね」月子はそっけなく言った。「好きにくつろいでて」彩乃は仕事で電話をしに外へ出ていた。月子は彼の相手をしたくなかった。そもそも忍がここにいるのだ。一樹の相手をするのは自分の役目ではない。一樹は素早く要を一瞥した。このバカ、月子に色目を使っている。目玉をくり抜いてやりたい。次の瞬間、一樹は肩に忍の手が乗ったのを感じた。一瞬体が硬直し、振り払った。「触るな」忍はぽかんとした。「なんだ急に?」「お前にいい顔をするつもりはない」忍は言った。「……じゃあ、何しに来たんだよ!」「母がお前を心配してたから来たんだ。そうでなきゃ、来るかよ?」母親を口実に使うことは、一樹が最近よくやることなのだ。忍に近づく理由になるし、月子も疑わないだろう。忍は言った。「つまり、お前は自分の母親が俺を心配しているからと言って嫉妬してるってわけか?」そう言われると、一樹は何も言えなかった。彼は近くのソファに座り、新しいグラスに酒を注ぎ、一気に飲み干した。しかし、横目では要をじっと観察していた。このバカが月子に何をしているか、しっ
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第225話

月子は最初から茶番を見るつもりだった。そして今ようやく、なんとも言えない表情で忍を見つめた。彼女はホストという職業についてどうこう言うつもりはない。しかし、忍の言葉は明らかに一樹をホスト扱いしている。いとことして、これはないだろ。案の定、一樹は歯を食いしばって言った。「どういう意味だ?」忍は答えた。「お前がイケメンだって褒めてるんだ。イケメンじゃなかったら、ホストにはなれないんじゃないか」そう言うと、彼は何食わぬ顔で要に尋ねた。「だろ?」金持ち相手に接待していた要は、突然名前を呼ばれて驚き、一樹を思わず見てしまった。そして、要は思わず絶句した。やばい、死ぬかと思った。このイケメンは本当にかっこいいけど、目つきが鋭すぎる。桜井社長は冗談で人をからかって満足してるだろうけど、とばっちりを受けるのはこっちだ。要は言った。「桜井社長、私ごときが佐藤社長と比べられるわけがないでしょう」さっきの口論で、彼は佐藤和樹という名の知れた社長の名前を知ったのだ。忍は調子に乗って一樹をからかい続けた。「謙遜するなよ。まあ、やってみれば案外行けるかもしれないじゃないか」そして、一樹を見て笑った。「さあ、月子さんを喜ばせてみろよ」一樹は何も言えなかった。月子も何も言えなかった。月子は一樹が怒って帰ってしまい、二度と忍に会いに来ないと思っていた。ところが、一樹は急に立ち上がり、忍を睨みつけて、冷淡に言った。「はは、礼を言うよ」そう言いながら彼は、月子の方へ向かって歩いてきた。一樹は要に視線で「失せろ」と合図した。その視線には恐怖を感じたものの、要はすぐには動かず、月子の方を見た。彼女こそが自分が接待すべき相手なので、当然彼女の意見を伺うべきなのだ。月子は言った。「いいから、そこに座ってて」忍はさらに煽るように言った。「阿部さん、ちょっと席を外してくれ。この仕事ができるかどうか一樹の実力を見極めてやったらどうだ。それにあなたももしかしたら参考になるかもしれないじゃない」要と、彩乃が指名したイケメンホストは、呆気にとられていた。本当に笑える。この人は一体何を言っているんだ。忍は、月子が同意したかどうかなどお構いなしに、要を脇に追いやった。月子はこんなにふざけた人に会ったことがなく
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第226話

月子は何も気づいていなかった。しかし、一樹の心臓は高鳴っていた。ふと彼はホストになって月子の傍についているのも悪くないかもな、とさえ思った。そう思いながら一樹は彼女の言葉に便乗して言った。「忍の嘘を聞き入れるなよ。彼はずっと俺を虐めてるんだ」忍は言った。「また始まったか、一樹。お前は昔から本当に女々しい」一樹は呆れて笑った。「俺が女々しいだと?よく言うよ」忍は言った。「月子さん、どっちが酷いか、あなたが言ってくれ!」一樹は、偶然触れた肌の感触をまだ味わっていたが、表情には出さずに言った。「そうだ、月子に言ってもらおうじゃない」月子は言った。「二人で勝手にして」そう言うと、月子は部屋を出て行った。それを見た要は、すぐに立ち上がり、彼女の後を追った。一樹は内心舌打ちした。見間違いでなければ、要は座っている時、わざと月子にくっついていた。自分は10センチも距離を置いていたというのに。クソッ。忍は、一樹が要に敵意を抱いていることに気づき、嫌悪感を露わにして言った。「マジギレしてるのか?冗談も通じないなんて、子供の頃よりつまらなくなったな」一樹は吐き捨てるように言った。「お前は何も分かってない」忍は言った。「ホストだって悪くないだろ?人生は経験だ。いろんなことを経験した方が面白いぞ」一樹は忍と無駄話をする気になれなかった。月子の後を追うべきかどうか、考えていた。しかし、追いかけたとして、何を話せばいい?月子と何か進展させたいなら、もっと絡んでいく必要がある。月子の手助けをして、恩を売るか。あるいは逆に、月子に助けてもらって、借りを返すか。後者の方が良さそうだ……一樹が考え込んでいると、突然立ち上がり、忍に目を向けると、彼の新たな利用価値を見つけたようだった。すると、一樹は愛想笑いを浮かべ、何も言わずに立ち去った。忍は彼の突拍子のない行動にただ呆れるしかなかった。そしてスマホを取り出し、一樹の登録名を【一樹ちゃん・ホスト】に変えた。そして改めてグループチャットを確認しても、特に動きはないようだった。おかしい。一樹があんな騒ぎを起こしたのに、隼人は気づかなかったのか?一樹は元の個室に戻ると、霞と颯太しかいなかった。「静真さんはどこだ?」霞は答えた。「トイレに
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第227話

月子は、暗い顔をした静真を見て、契約離婚の翌日に彼に会った時のことを思い出した。今日、正式に離婚届を受け取ったというのに、よりによって、バーでホストを指名しているところを見られてしまった。本当に、悪縁というやつは切れないものだ。月子は静真を上から下まで見回した。隼人と喧嘩したばかりなのに、彼には怪我らしい様子もなく、すっかり身なりを整えていて、何もなかったかのように振る舞っている。静真は滅多に月子に見下されることがなかったため、さらに不機嫌そうに言った。「ここで何をしている?こいつは誰だ?」月子は思わず笑えて来た。「バーに来てお酒を飲む以外に何があるの?まさか入江社長、元妻の私が生活に困ってバーでバイトしているのを人に知られたいとでも思ってるわけ?」静真は冷たく言った。「話をそらすな」彼は要を睨みつけた。要は全身が硬直した。個室にいた佐藤社長も自分に敵意を持っていたが、それは冗談のようなもので、自分に不満があるのは分かっていたけれど、佐藤社長が何かをするとは思っていなかったので、安心感があった。しかし、今、目の前にいるこの男から、要は本物の恐怖を感じた。彼の視線が陰鬱すぎて、今にも襲いかかってきそうで、怖かった。180センチを超える大男である要でさえ、彼の視線に本能的な恐怖を感じたのだが、月子はいたって平然としていた。道理で彼女に相手にされなかったわけだ。格の違いは明らかだった。月子は言った。「彼が誰であろうと、あなたに説明する必要はない」静真が何を言おうとしているか分かっていたので、月子は先に言った。「それとも、私が他の男と一緒にいるのが気に入らないわけ?」月子は嫌悪感を露わにして言った。「そんなに早く私に浮気というレッテルを貼りたいわけ?あっ違う、私たちはもう離婚したんだから、私が誰と寝ようとあなたには関係なかったわね」そう言うと、彼女の顔から笑みが消え、「道をあけて」と言った。静真は「浮気」という言葉に激昂し、暗い表情で彼女を睨みつけ、行かせまいとした。「月子、いつからそんな口の利き方をするようになったんだ!」「生まれながらの権利よ。気に入らないクズには、好きなように言ってやらないとね!」月子は、自分の前で取り乱す静真に慣れないという気すらなった。なぜなら、以前は逆だったからだ
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第228話

だからこの時、月子は躊躇わず静真に皮肉を言った。これこそが彼女の鬱憤を晴らす方法だった。これ以上我慢する必要なんてない。もう遠慮はしない。それに、自分には隼人という後ろ盾もある。そんな月子にはもう迷いはなかった。隼人は、月子に彼を好きなように利用してもいいと言ってくれた。そして、その代償も月子にとっては負担にならないものだったから、彼女はもう何振り構わずに振る舞うことができるようになったのだ。一方で、静真は彼女のその態度に怒り心頭になり、呼吸を荒げた。彼は、その目で月子の全てを見透かそうとした。月子の本性を確かめたかったのだ。そして、静真は拳を握りしめた。彼は、突然自分がバカだったと思い知らされるようだった。月子が彼に従順だった頃は、楽ではあったが、彼女のことなど眼中にすらなかった。しかし、今のように月子が鋭く反抗してくると、腹は立つが、どうしても目が離せない。彼はさらに、月子がどんな大胆なことをしてくれるのか、期待さえしていた。静真が黙り込んだのを見て、月子は当然のようにその場を離れようとした。「どいて。あなたに会うと気が滅入る」しかし、静真は引き下がらなかった。「そいつを追い払え」月子は冷たく言い放った。「余計なお世話よ」静真は声を荒げた。「俺の言う通りにしろ!」月子は言い返した。「いいわよ。でも、他にホストを呼ぶから。あなたが四六時中、私を見張っているわけにはいかないでしょ。あなたの見えないところで、探そうと思えば私は男に困ることなんてないから、無駄なあがきはやめたらどうなの」静真は生まれて初めて、怒りで頭が真っ白になる経験をした。酒のせいもあるかもしれないが、とにかく今は、怒りで何も言えなかった。月子は冷笑し、彼を避けるようにして立ち去った。要は、驚きなのか、それとも別の理由からか、その場に立ち尽くしていた。月子は彼の手を引いた。「行こう」突然、静真は我に返り、月子の手を掴もうとした。そこに一樹が駆けつけ、その場面を目撃した。彼はとっさに静真を止めようとした。要は月子の盾になった。腕に激痛が走ったが、次の瞬間、静真に腕を振り払われた。静真は怒鳴った。「邪魔するな!」要は恐怖で額に冷や汗をかいた。「落ち着いてください」一樹は要を睨みつけ、静真の前に立ちはだかった
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第229話

隼人が突然現れたが、月子はそれほど驚かなかった。それに隼人がいれば、静真も羽目を外すことはない。バーで喧嘩騒ぎを起こせば、30分も経たないうちに社交界中に知れ渡り、正雄の耳にも入ってしまうからだ。だから仮に喧嘩をすることになっても、表に出ることはなく、役所の時のように、裏で済まされるだろう。まあ、そんな機会はもうないだろうが。結局のところ、二人とも28歳のいい大人だ。相手を傷つけたいなら、他にいくらでも方法がある。暴力に訴える必要はない。月子の予想通り、静真は明らかに冷静さを取り戻した。さっきまで静真は、一瞬、本当に怒りが抑えきれそうになかったが、隼人の姿を見ると、彼はたちまち冷静になった。そして、その顔には冷淡さを除く以外に何の表情も読み取れなかった。そして、静真は冷たく笑いながら、隼人に近づいていた。一樹は、この兄弟が二人きりでいるところを見たことがなかった。しかし、二人の仲が悪いことは知っていたので、止めようとした。静真は一樹の手を振り払い、隼人の隣まで行った。兄弟は体格も身長も似ていて、しかも二人とも強いオーラを放っているので、並んで立つとかなり威圧感があった。そのオーラに周りの人たちは思わず一歩後ずさりした。月子も例外ではない。もちろん要は、とっくに5メートルほど離れた場所に避難していた。彼は本当に怖かったのだろう。静真はさらに一歩踏み出し、隼人のすぐ隣に立つと、二人にしか聞こえない声で、最大限の皮肉を込めて言った。「見たか?月子はホストを指名しても、お前には目もくれない!」隼人は、その言葉に唇を強く噛みしめた。表情の変化はわずかなものだったが、静真は隼人のことを知り尽くしているので、見逃さなかった。隼人は明らかに動揺している。静真は大声で笑いたくなった。月子の反抗的な態度は気に食わないが、隼人が面白くない顔をしているのを見ると、その苛立ちも吹き飛んでしまう。だから、もう何も思い悩むことはない。そう言うと、静真は月子を見た。以前は月子を眼中に入れていなかった。まともに視線を向けることすらなかった。だが今、彼は月子をまっすぐ見つめている。普段よりもずっと真剣で、まるで人を吸い込みそうなほど深い眼差しで。そして落ち着いた口調で言った。「また後で話がある」月子が何か言
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第230話

今の自分は……何か逃してしまったのか?月子は隼人がここにいることに驚きはしなかった。忍のせいだ。彼は何かにつけては囃し立てたくなる性格だから。きっと、一樹がひと悶着起こしてからすぐ帰ったので、彼はまたじっとしていられなくて、隼人を呼び出したに違いない。月子は忍から距離を置こうと決めた。すると忍が驚いた様子で近づいてきた。「いつ来たんだ?呼んでないぞ!」月子は意外そうに隼人を見た。忍が呼んでない?自分で来たのか?隼人は忍を無視して、月子を見ながら低い声で尋ねた。「今、時間あるか?」月子はたとえ時間がなくても、あると言わなければならなかった。「あります」隼人は言った。「ちょっと一緒に来い」この言葉には逆らえず、月子は拒否できなかった。「鷹司社長、少し待ってください。個室にバッグを取りに行きます」月子が個室へ行くと、忍は待ちきれない様子で言った。「やっぱり俺の予想通りだったか……」隼人は忍を睨みつけ、冷たく言った。「もう二度とこんな真似をするな」忍は敏感に隼人の不機嫌を察知し、余計なことは言わないようにした。「グループチャットで愚痴を言っただけだ。まさか月子さんがホストを呼ぶなんて思わなかったんだ」隼人は黙り込んだ。ホストか。彼は要が去った方向を見つめた。忍は言い訳をした。「驚かなかったなんて言わないでくれよ。あまりに衝撃的だったから、グループチャットでみんなに話しただけだ。別に何か企んでたわけじゃない」正直、そう言うものの、忍自身ですらこの言葉を信じていなかった。隼人の冷たい視線も、それを物語っていた。忍は降参した。「もう、こんなことはしないよ」彼は説明した。「この前テニスをした後、修也がこっそりお前は月子さんのことが全然好きじゃないって教えてくれた。見ての通り、俺はその後すぐにJ市に戻ったから、騒ぎ立てる暇もなかった。今日は、本当にただの独身のパーティーを開いてあげようと思って来ただけなんだ」隼人は忍が手配した10人の男たちのことを思い出し、さらに顔が険しくなった。忍は言った。「……月子さんは来なかったじゃないか。本当面子が台無しだよ」それを聞いても、隼人は何も言わず、ただ視線で忍を掠めただけだった。そこを、月子がバッグを持って出てきた。隼人はさらに冷た
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