お互いなにを喋ったらいいのかわからず、沈黙がしばらく続いた。周防さんの気持ちを郁也さんに伝えたものの、今すぐ受け止めて認めるっていうのは、正直酷な話だと思う。 だって、ずっと親友だと思って接してきた人が実は、自分を好きだったという衝撃的な事実。 「郁也さん……」 俯いてた顔を上げてそっと名前を呼びかけてみると、郁也さんは柔らかくほほ笑んだ。「涼一の言うとおり、やっぱ俺ってダメだな。自分の気持ちにゆとりがない分、相手のことを見れていない。だから周防が俺のことをそんなふうに想っていたなんて、全然気がつかなかった」 持っていたコップを静かにテーブルに置き、深くため息をついた。「いつから、周防に好かれたんだろうな。思い返してみても、さっぱりわからなくてさ。俺は今も昔もずっと、親友として接していたから」「うん……」「そういう態度ってさ、ある意味惨いことだよな。無意識に傷つけるのって、最低だって思――っ」 郁也さんの言葉を遮るように、その体をぎゅっと抱きしめる。これまでのことを考えながら深く傷ついてる姿を、これ以上見たくはないよ。「周防さんが郁也さんに気持ちを告げなかった理由は、そんな顔をさせたくなかったからだね。きっと……」「自分の無神経さを、今更だけど激しく呪ってる。反省しても、しきれないレベルだな」 腕の中にいる郁也さんが、少しだけ笑った気がした。「そんな郁也さんが、僕は好きだよ」「物好きなヤツ。呆れ果てて、嫌いになったりしないのか?」 僕が落ち込んだとき、郁也さんがいつもしてくれたように、ゆっくりと頭を撫でてあげる。お風呂上りだから、まだしっとりと髪が濡れていた。「さすがに今回のことは周防さんのことを思うと、居たたまれなくなっちゃったけど」「けど?」「郁也さんを嫌いになる、理由にはならないよ」「涼一……」「郁也さんが感じなければ僕が代わりに感じて、それを伝えればいいだけのことだと思うんだ」 髪を梳きながら、ゆっくりと頭を撫で続ける。こんなことくらいで、不安な気持ちはどうにもならないかもしれない。だけど、なにかせずにはいられない。「僕は郁也さんからたくさん愛情を貰ってるから。お返しには、ならないだろうけどね」 そう言うと、郁也さんはちょっとだけ笑いながら、頭を撫でている僕の手をぎゅっと握りしめて、甲にキスを落とした。
Last Updated : 2025-07-22 Read more