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All Chapters of ピロトークを聞きながら: Chapter 41 - Chapter 50

51 Chapters

ピロトーク:揺れる想い②

 お互いなにを喋ったらいいのかわからず、沈黙がしばらく続いた。周防さんの気持ちを郁也さんに伝えたものの、今すぐ受け止めて認めるっていうのは、正直酷な話だと思う。 だって、ずっと親友だと思って接してきた人が実は、自分を好きだったという衝撃的な事実。 「郁也さん……」 俯いてた顔を上げてそっと名前を呼びかけてみると、郁也さんは柔らかくほほ笑んだ。「涼一の言うとおり、やっぱ俺ってダメだな。自分の気持ちにゆとりがない分、相手のことを見れていない。だから周防が俺のことをそんなふうに想っていたなんて、全然気がつかなかった」 持っていたコップを静かにテーブルに置き、深くため息をついた。「いつから、周防に好かれたんだろうな。思い返してみても、さっぱりわからなくてさ。俺は今も昔もずっと、親友として接していたから」「うん……」「そういう態度ってさ、ある意味惨いことだよな。無意識に傷つけるのって、最低だって思――っ」 郁也さんの言葉を遮るように、その体をぎゅっと抱きしめる。これまでのことを考えながら深く傷ついてる姿を、これ以上見たくはないよ。「周防さんが郁也さんに気持ちを告げなかった理由は、そんな顔をさせたくなかったからだね。きっと……」「自分の無神経さを、今更だけど激しく呪ってる。反省しても、しきれないレベルだな」  腕の中にいる郁也さんが、少しだけ笑った気がした。「そんな郁也さんが、僕は好きだよ」「物好きなヤツ。呆れ果てて、嫌いになったりしないのか?」 僕が落ち込んだとき、郁也さんがいつもしてくれたように、ゆっくりと頭を撫でてあげる。お風呂上りだから、まだしっとりと髪が濡れていた。「さすがに今回のことは周防さんのことを思うと、居たたまれなくなっちゃったけど」「けど?」「郁也さんを嫌いになる、理由にはならないよ」「涼一……」「郁也さんが感じなければ僕が代わりに感じて、それを伝えればいいだけのことだと思うんだ」 髪を梳きながら、ゆっくりと頭を撫で続ける。こんなことくらいで、不安な気持ちはどうにもならないかもしれない。だけど、なにかせずにはいられない。「僕は郁也さんからたくさん愛情を貰ってるから。お返しには、ならないだろうけどね」 そう言うと、郁也さんはちょっとだけ笑いながら、頭を撫でている僕の手をぎゅっと握りしめて、甲にキスを落とした。
last updateLast Updated : 2025-07-22
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ピロトーク:揺れる想い③

*** 職場のデスクで思わず、笑みを浮かべてしまう。俺は幸せ者だと、思わずにはいられない。 目が覚めたとき目の前にいた涼一がおはようの挨拶をせず、いきなり――。「郁也さん、疲れてない?」 そう訊ねられて、言葉に詰まってしまった。いつもなら俺よりも寝ぼすけな涼一が、先に起きていて、自分を慮ってくれるなんて。「大丈夫だ、スッキリ寝られた。それよりもお前が、寝れてないんじゃないか?」「僕は大丈夫。眠たくなったら、いつだって寝れる環境にいるんだから」 眠そうな顔をしながらも、ちゅっとついばむようなキスをする。「おはようの挨拶が抜けちゃったね。今更だけど、おはよう郁也さん」 そんな目覚めたときの光景が、脳裏に展開された。 周防のことに関して過去を振り返ると、頭を抱えたくなるようなことばかりが盛りだくさん過ぎて、反省の余地なしという状態。知らないということが、どんなに罪なことか、思い知った次第である。 そこを踏まえて――。「過去は過ぎ去った思い出。終わったことは蒸し返さない。問題はこれからどうやって、周防に接していくか」 ひとえに、これに尽きるだろう。今までのように親友という関係を崩さず、適度な距離感で、接しなければならない。 というか難しい問題は後回しにして、目の前にある仕事に集中せねば! 気合を入れ直したとき、デスクの上に置いてあったスマホがブルブル震えた。ディスプレィを確認したら、周防の病院に勤めてる、村上さんという年配の看護師さんからだ。 以前周防が体調を崩し寝込んだときに、今後なにかあったときに連絡くださいと、お互い番号の交換をしておいたのだが。(――もしかして周防の身に、何かあったのか!?)「ちょっと私用の電話で、席を空けます!」 デスク周りの人間に声をかけ、そばにある会議室に篭る。「すみません、お待たせしました桃瀬です」「おはようございます、村上です。朝早くに、ごめんなさいね」 済まなそうに告げられ、こっちが恐縮してしまう。「いえ、大丈夫です。それよりも周防に、なにかあったんですか?」「そうなの。さっき電話がかかってきて、軽いぎっくり腰になったから、三日ほど臨時休院するって言われてねぇ」「ぎっくり腰、ですか?」 そりゃ大変だな、アイツの家に行って、なにか作ってやらなければ。「でも、太郎ちゃんがいるでしょ? だ
last updateLast Updated : 2025-07-23
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ピロトーク:揺れる想い④

*** 周防の病院前には、午後6時頃集合になった。仕事の打ち合わせが、思ってたよりも長引いてしまい、走って周防の病院に向かうと、既に涼一が来ていて、俺に向かって手を振ってくれる。(これがデートなら、気分が盛り上がるのにな――)「悪いっ、遅れた!」「大丈夫、それに待ってる間、家の明かりが点いたのを見かけたよ。周防さん、きっと中にいるね」 ふたり並んで、病院横にある玄関前に歩いて行った。そして呼び鈴を鳴らしたが、反応が返ってこない。「……アイツ、中にいるんだよな?」 言いながらドアノブに手を伸ばして引っ張ってみると、鍵がかけられていないらしく、簡単に開くではないか!「周防らしくない、こんな無用心なことするヤツじゃないのに」 目配せして涼一に中に入るよう促して先に入らせてから、きっちり鍵をかけて目の前にある階段を上がった。リビングに続く扉の前で、わかるように叫んでやる。「勝手にお邪魔するぞ、周防いるか?」 扉を開け放ち中を確認したらソファに座った周防が、睨むように俺たちを見た。その視線の怖いこと。「ももちんなにしに来たの? せっかくお休みを使って、昼間から呑んだくれて、ひとりで楽しんでたのに」(――おいおい、昼間から呑んでたのか。ますますらしくないぞ)「呑んだくれてって、お前それは呑み過ぎだろ。こんなに散らかして」 床に転がっている空き缶を手早く拾い集め、その場にまとめてみた。「あの周防さん、こんばんは。お邪魔してます」 俺の横でこじんまりとしながら、頭を下げて挨拶をする涼一。「ふたり揃ってなにしに来たの。まさかの恋人自慢?」「そんなワケないだろ。太郎はどうした?」 態度の悪い周防に苛立ちながら、疑問だったことを訊ねてみる。なのに華麗に無視して、手に持ってるビールを呷るように飲み干した。「おいっ、周防!?」「待って、郁也さん」 あまりの態度に、周防を正してやろうと手を伸ばしたら、涼一が俺の手首をぎゅっと掴んで動きを封じた。その真剣な瞳は自分に任せてほしいと、言ってるように感じられるものだった。 イライラしている俺よりも落ち着いてる涼一のほうが、うまくやってくれそうだったので頷いて了承する。 周防は相変わらず、傲慢な態度をとったままだった。驚いたのはそんな周防に、涼一がいきなり抱きついたからだ。「まったく――君に抱きつか
last updateLast Updated : 2025-07-24
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ピロトーク:揺れる想い⑤

 こんなふうに泣くヤツじゃないのに、それだけつらい想いをしているんだろう。「いつもタイミングの悪い、手遅れな恋ばかりして……」 手遅れな恋――俺にも太郎にも、そんな恋をしてしまった周防。なにか声をかけてやりたいのに、またしてもうまい言葉が出てこない。「手遅れなんかじゃない! まだ、はじまってもいないじゃないか!!」「……涼一くん?」 涼一が珍しく声を荒げて、周防に言い放った。「太郎くんのことが好きなんでしょ? 簡単に諦めていいの?」「だってアイツの本名もなにもかも、知らないことだらけんだ。それに――」 俺は周防を助けたい、大事な親友だから。「らしくないぞ周防。お前もっと、ガッツがあるヤツだったのによ」「しょうがないでしょ。恋は誰だって、臆病になるものだよ」 苦笑いして言うヤツの背中を、思いっきり叩いてやる。「いたっ!」「なんのための、親友なんだよ俺は! お前が病気の俺を助けてくれたように、俺だってお前を助けたいんだ!」「桃瀬……」 俺たちのやり取りを、涼一は柔らかく微笑みながら、見守ってくれた。そして――。「あのね太郎くんのこと、わかる範囲でいいから教えてほしいです。確か、大学生でしたよね?」(もしかして、涼一のヤツ……)「うん、そうだよ」「他にわかることはありませんか?」 涼一はポケットからスマホを取り出して、サクサクとメモを取る。「もしかして捜してくれようとしてる? だけど本当に、アイツの情報がないんだ」「この若さで死にそうな病気って、すごく手がかりになりそうな気がするんですけど、教えてもらっちゃダメですか?」「知ったところで個人情報になるからね。病院が簡単に教えるワケないと思うよ」「とある人に頼んで調べてもらったら、きっと全部調べつくして教えてくれると思うんです」 とある人――涼一は笑いながら俺の袖を引っ張って、とある人をアピールした。ソイツの笑った顔が頭に浮かび、途端にイヤぁな気分になる。「あー、アイツに頼むのか。それは間違いなく、捜し当てるだろうな」 正直、頼みたくないが周防のためなら、ガマンするしかない。「僕らの知り合いに、捜すのがうまな人がいるんです。だから教えてください」「でも……」「郁也さんも僕も周防さんの恋を、手遅れなんかにしたくないって思ってるんです」 涼一の言葉に首を縦に振って、
last updateLast Updated : 2025-07-25
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ピロトーク:揺れる想い⑥

 首を傾げて不思議顔した郁也さんを、じと目で見つめた。「ももちんの知り合いって、探偵とかそういう仕事を専門にしてる人?」 周防さんが、疑問に思ったことを訊ねる。「そういう仕事をしてる人間を、顎で使える人物」 郁也さんは不機嫌を示すべく、眉間に深いシワを寄せながら、吐き捨てるように言った。名前を出すのも、本当にイヤなんだろうなぁ。「ゲイ能人の葩御稜(はなお りょう)さん、なんですよ」 代わりに口を開いたら今度は周防さんが、ひどく困った顔をしてくれる。「涼一くんそれは、もしかして――」「あ、心配ないですよ。稜さん、ちゃんと恋人がいるので」「お前……その恋人とも、結構仲良くしてるじゃないか」 郁也さんは、不機嫌に輪をかけて言い放った。(あーあ、もうこうなると機嫌直すのに、えらく手のかかる人なんだよなぁ)「郁也さんだって稜さんに抱きつかれて、すっごく嬉しそうしながら顔を赤くして、鼻の下びろーんって伸ばしてたクセに」 対談のことを思い出し、口撃してみると、あからさまにしゅんとした。「ももちん……見境ないね。でも葩御稜なら俺もしょうがないと思うわ」 周防さんがなだめるように郁也さんの肩をぽんぽん叩くと、なぜかキッと目を吊り上げる。「なんで俺ばっか、ふたりにこれでもかと、責められなきゃならないんだっ」 郁也さんが頭を抱えて叫んだ瞬間、手に持っていたスマホが、軽やかな音を鳴らして僕を呼んだ。「もしもし、すみません。お忙しいときに……」 すぐに画面をタップして話しながら、いつものクセで無意味に頭を下げてしまう。『大丈夫だよ、涼一先生の頼みなら俺、なんだって聞いちゃうから。それでメールでくれた、情報のみなんだね?』「そうなんです。手がかりがそれしかなくて……」『病気持ちの高校生か――まずは大きな病院を当たれば、いい感じかな?』「はい、とりあえず軽井沢の病院を当たって頂ければと……」 稜さんが快く、引き受けてくれたのは助かった。『しっかし、添付されてたイラスト!』「はい……」 ――郁也さんが描いた、例の似顔絵。もう恥ずかしくて、この場に穴があったら入りたいって!「えっと、それは。あのですね……郁也さんが描いたモノなんですよ。なんか……本人の似顔絵だそうで」『克巳さんのエッチなマッサージが、ぴたりと止まっちゃうレベルって、マジでか
last updateLast Updated : 2025-07-26
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ピロトーク:揺れる想い⑦

*** いい加減、機嫌直ってくれないかな。電話から既に30分以上は経過してるのに……周防さんの家から歩いて帰る道すがら、不機嫌上等と書いた顔の郁也さんを、ちらりと横目で見やる。「手がかりは少ないけど太郎くん、早く見つかるといいね」「ああ……」(なにを言っても不機嫌なままか。悶々とムダなことを考えているのなら、吐き出させるのみ!)「あのさ郁也さん、なにに対して、腹が立ってるの?」「全部」 ――あ、あの。それじゃあ僕の質問に、答えていないのでは。「そのすべての中から、一番って決められない?」 恐るおそる訊ねてみると、顎に手を当てて一応考えてくれた。「アイツの存在、そのものがイヤだからな。言われたこと全部が、ムカつくんだよ」「あのね郁也さん、稜さんは冗談で言ってるんだよ。しかも今回は、周防さんのことを頼んでいるんだから、僕たちは低姿勢でいなきゃダメなんだってば」「しょうがないだろ。お前に関しての冗談なんて、受け流せるワケないって。絶対にガマンができない」「でも……」「あの男が平気で3Pだの、スワッピングだの言うたびに、その絵が頭の中に浮かぶんだ。想像だけで、気が狂いそうになる」 その絵というワードに、郁也さんが描いた似顔絵がぼんやりと浮かんでしまった。心情を読み取ることについて、苦手にしていることといい、受信アンテナの感度がどこか悪いのかもしれないな。 それともアンテナを立てる方向が、ちょっとだけ変なのかも? だから僕はストレートに、わかりやすい表現をして郁也さんに伝えてあげる。「郁也さん、そんなに想ってくれて嬉しいよ。ありがとう」 傍にある左腕に、自分の右腕をぎゅっと絡める。「お、おう」 とどめに上目遣いをしながら、ほほ笑んで見せれば完璧なハズ。絡めた腕から伝わってくる体温が、一気にはね上がったのが分かった。「周防さん、雰囲気が変わったよね」「だよな、丸くなったっていうか」「そうそう、柔らかくなったみたい」 ――話題転換、成功だな。「あんなふうに取り乱して泣いてるトコ、はじめて見たぞ。俺ひとりだったら、手に負えなかったかも」「本当に驚愕したよ。前回逢ったときと印象が、まるで違っていたし。なんかね、郁也さんを想っていたときの周防さんと、太郎くんを想ってる周防さん、全然違うんだ」 僕に郁也さんが好きなんだと言った、彼の
last updateLast Updated : 2025-07-27
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ピロトーク:絡まる意図

 天気のいい日曜の午前中。郁也さんは仕事で不在、僕は洗濯物を干して、ブレイクタイムをとるべく、キッチンで冷たい麦茶をコップに注いでいた。 そのとき、テーブルに置いたスマホがメールを知らせる。(こんな時間だし、郁也さんからだな。どれどれ……) 軽い気持ちで、ほいほいと画面を開いたのだけれど。その内容に、驚愕するしかなかった。「ちょっ、待ってよ。これは、非常に困る内容だよ」 それは郁也さん宛てに着た、周防さんからのメールを転送したもので。『ももちん、俺どうすればいい? 太郎の病室に行ったら、泣いてる男のコと出くわしちゃった。きっと病室に連れ込んで、いかがわしい事しようとしたんだよ。(ノД`)シクシク』 頭を抱えちゃうなんてレベルが超えているから、郁也さんは僕に送って寄越したに違いない――なんで、感動の再会じゃないんだ。悲劇としかいいようがないよ、どうしよう……。 おいおい、僕がオロオロしてもしょうがないんだ。一番困ってるのは、周防さんなんだから。(二番目は郁也さん)「とにかく泣いている彼について、きちんと事情を聞くべし。納得するまで、お互い話し合ったらいいんじゃないかな」 メールの文面をぶつぶつと口に出しながら、きちんと頭の中で吟味した後に、思い切って送信する。なんか先の見えない展開に、冷や汗が流れるよ。「いつも落ち着いてる周防さんが郁也さんにメールしちゃうくらい、錯乱しちゃったのかも」  一歩間違ったら修羅場になる、絶対に――話し合いが、どうかうまくいきますように。なにかあったら、また連絡が入るだろう。 キッチンに置きっぱなしにしていた麦茶を持ってきて、いつメールが着てもいいように待機する。気になって小説の執筆なんか、できる状態じゃない。「そもそも太郎くんって、浮気性なのかな」 一途な人もいれば、そうじゃない人だっている。郁也さんのことが好きだった、周防さんを落とした人だ。只者じゃないのは、確実だろう。 ――というか。大学生で大人の男を翻弄するって、すっごくやり手だって、気付かない方がおかしいか。 スマホを操作して太郎くんの画像を見てみる。どんな生活を送ったら、そんなやり手になるんだろう。一度逢って、じっくりと話をしてみたいな。 そんなことを考えていると、太郎くんの写メから、メールの受信画面に切り替わった。郁也さんから、周防さん
last updateLast Updated : 2025-07-28
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ピロトーク:絡まる意図②

***「涼一っ!」 ただいまを言わずに家の中に入ると、涼一が俺に向かって飛び込んできた。その身体を無言のまま、ぎゅっと抱きしめる。周防のことがなんとかうまくいき、嬉しさのあまりに言葉が出てこない。 しばらく、抱き合ってから――。「……お前がいてくれてホントに助かった。じゃないと、あんなナイスなアドバイスなんて、俺は思い浮かばなかったぞ」 ありがとうの気持ちを込めて頬にキスをしてやると、目の前で照れくさそうな顔をして、口元に笑みを浮かべた。「太郎くんの素性がわかっても、それ以外のことは全然知らなかったからね。驚愕する事実ばかりで一瞬、頭の中が真っ白になっちゃった」「俺も周防からのメール読んでて、手が震えちまった。迷うことなく、涼一に転送したんだ」「やっぱりね。ひとりで抱えるより、ふたりでって感じ?」 結果オーライ、涼一の機転で危機を乗り越えられた。「今まで、あんな修羅場に遭遇したことないからさ。どうすればいいか、さっぱりお手上げだった」「それって僕が修羅場に遭遇してるから、うまく切り抜けられるって思われたのかな」「え? いやいや涼一なら俺よりも、機転が利くと思って」「その機転も経験からだよ。いろいろとくぐり抜けてるからね」 じと目をしながら、涼一は俺を見上げる。なんだろう、このモヤモヤした感情は。過去のことなんだから終わってるのに、嫉妬せずにはいられない。(……修羅場になるようなすごいことを、コイツはくぐり抜けてるのか。知りたいけど、知りたくない――)「なぁんてね。ウソだよ」「は――?」「修羅場体験なんて、全然してないから。だから周防さんの件がうまくいって、本当に良かったって胸を撫で下ろしたんだ」 その言葉に、俺も胸を撫で下ろす。「郁也さん、僕がすごい過去の持ち主だと思ったでしょ?」 ふふふと笑いながら、わざわざ俺の耳元で告げてくる。「全然! 涼一にそんな過去があるなんて、考えてもいないし」 目を逸らしながら言うと、頬っぺたをぎゅっとつねられてしまった。「ウソが苦手な郁也さんっ。バレバレなんだからね、まったく――」「涼一、結構痛い」「ウソをついたバツ、きちんと受けてね」 バツと言いながら、なぜか俺にちゅっとキスをする。「これが僕の、修羅場みたいなものだから」「なんだよそれ……俺がなにかしてるって言いたいのか?
last updateLast Updated : 2025-07-29
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ピロトーク:恋をするふたりの姿

 郁也さんと店の前で並んで待っていると、通りの向こうから、周防さんと太郎くんが、やって来るのが目に入った。 わっ、手を繋いでいるよ!「こんばんは!」「ちーっす。相変わらず仲がいいんだな」 郁也さんも手を繋いでやって来た周防さんたちを見て、意味深に笑う。「仲がいいワケじゃないよ。病み上がりのコイツが、医者の俺がいるのに道端で倒れたりしたら、それこそ洒落にならないでしょ」 振り解きながら言ってくれたけど、頬が赤くなってるのをしっかりと確認させてもらったからね。「へえぇ、なるほど」「周防さん、本当に面倒見がいいですね」 この言葉を郁也さんは、真面目に受け取ったのかな? でもきっといつもと違う、周防さんの顔色でわかっちゃうよね。 あまり笑っちゃ悪いと思い口元を隠して、向かい側にいるふたりを見ていたら、太郎くんと目が合う。「はじめまして。郁也さんと一緒に暮らしてます、小田桐と言います」(――そうだよ。僕だけが彼と初顔合わせなんだった) 慌てて頭を下げて挨拶をしたら、間髪入れずに周防さんが太郎くんの頭を思いっきり殴る。うひぃ、かなり痛そうな音していたけど……。「一番年下のお前が、先に挨拶しないでどうするよ?」「怒らないであげて下さい。僕がいきなり挨拶したんですから」 出会い頭にきちんと挨拶しなかった、僕が悪いのに。「でも……」 そんなやり取りを太郎くんは真顔でやり過ごして、きちんと頭を下げてくれる。「挨拶が遅れてすみませーん。タケシ先生のカレシです」 その挨拶に顔をピキッと引きつらせた周防さんが、またもや頭を殴る。「なに言ってんだ! きちんと自分の名前を言って挨拶しろ」「タケシ先生のカレシの太郎でーす、はじめましてでーす」「お前――」 ふざけているようで、太郎くんは僕に周防さんと仲がいいところを、きっと見せたいんだって伝わってきた。「ふふふ、本当におもしろい人だね、太郎くんって」「おもしろいというか、頭おかしいんだコイツは! どうして、本名で挨拶しないんだよ」「本名よりも、タケシ先生に付けられたこの名前のほうが、気に入ってるから。可愛がられてるって感じするし」「可愛がってなんていないんだからな。お前みたいなバカ犬は知らん!」 ああ、もう――こっちが見ていられないくらい、熱々なんですが。「周防がこんなに簡単に翻弄されて
last updateLast Updated : 2025-07-30
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ピロトーク:恋をするふたりの姿②

*** 周防たちと別れ、涼一と並んで自宅まで歩いて帰る。「周防さんが翻弄されるの、わかった気がしたよ。あれじゃあ大変だよね」 人通りが少なくなった通り道に入ってから、俺の左腕を抱きしめるように、自分の右腕を絡めてきた涼一。じわりと伝わってくるぬくもりが、なにげに愛おしい。「あんなふうに、ズバリと言われちまったら、こっちとしては、すごすご帰らなきゃならないよな」「正直僕たちって、お邪魔虫だったかも。だけど――」 潤んだ瞳で上目遣いをし、俺を見つめる。「太郎くんの物言いを、少しだけでも郁也さんに学んでほしいって思っちゃった」「ああいう露骨で、ストレートな言葉を言えって言うのか!?」 焼肉も終盤になった辺りで、太郎が唐突に言ったのだ。『俺、早く帰って、タケシ先生のソーセージが食べたい!』 そのときのことを思い出して顔を引きつらせると、涼一は心底おかしそうに、ふふふと微笑む。「あそこまでは求めてないよ。ただもう少しだけ、僕を求めるような言葉がほしいなって」「言ってるつもり、なんだが」「言ってるつもりじゃ、つもりで終わってるからね」「ワガママだな、涼一は」 立ち止まると、そのまま顔を寄せてキスをしてやる。 外でこういうことをするのは、俺としては結構、勇気のいることなんだ。まぁ涼一が髪を伸ばしてるおかげでパッと見、女に見えるのがまだよかった。 唇を離すと名残惜しかったのか、俺の頬に手を添えて、吐息を奪うように唇を押しつける。「――ワガママを言えるのは、それを聞いてもらえるのが、わかってるからだよ」 涼一はひとしきりキスを楽しんでから、やっと口を開く。「お願いを聞くと、お前の嬉しそうな顔が見られるからさ。できることは、なんだって聞いてしまう」 細身の肩を抱き寄せて、ゆっくりと歩き出した。 本当は早く家に帰って涼一を抱きたい気分だけど、こうやってふたり並んで、ダラダラと歩くのも悪くない。「なんだか今日の郁也さん、いつも以上に甘い感じがする」「そうか? 変わらないと思うぞ」「ううん、身体からじわぁって伝わってくるよ。酔っちゃいそう」 肩まで伸びた髪を、さらさらと揺らしながら俺を見上げる。「周防さんと太郎くんの仲の良さに、見事あてられちゃったね」「アイツらに負けない自信、俺はあるんだけどな」「どうやって、それを証明してくれる
last updateLast Updated : 2025-07-31
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