小田桐涼一は、コンテストの締め切りに追われる駆け出し作家志望の青年。ある日、街中で体調を崩し倒れそうになったところを、編集者の桃瀬郁也に助けられる。偶然の出会いは、実は中学時代にバス停で遠くから見つめ合っていた二人の運命的な再会だった。涼一のトラウマを抱えた過去と、郁也の優しくも情熱的な性格が交錯し、互いに惹かれ合う二人。 郁也の世話焼きなサポートと、涼一の純粋な想いが織りなす日々の中、料理を共に作り、名前で呼び合い、そっと手を繋ぐ瞬間を通じて、二人の距離は縮まる。涼一の過去の傷を乗り越え、郁也の愛に支えられながら、彼は作家としての夢にも一歩近づく。
View Moreその日、俺はいつものように印刷所からの帰り道、会社に戻る途中で昼飯を済ませようとしていた。
スクランブル交差点を渡り切る瞬間、雑踏の中から細身の影がふらりと俺にぶつかってきた。 信号は点滅し、赤に変わる寸前。なのにそいつは、周りを押しのけるように突っ込んでくる。足元がふらつき、まるで今にも倒れそうな様子に、咄嗟に声を上げた。
「おい、危ねえぞ!」腕を掴むと、そいつはぐらりと俺に倒れ込んでくる。
「っ……なんだ!?」驚きつつもそいつの体をしっかりと抱きとめ、慌てて交差点を渡り切った。抱えた腕から伝わる異常な熱。これはただ事じゃねえ。
「大丈夫か? めっちゃ熱があるぞ」
人混みをうまく避け、路地裏の静かな場所まで連れていき、そいつをそっとしゃがませた。
「大丈夫……です。締め切りが……もうすぐで、行かなきゃ」掠れた声で呟いた瞬間、そいつは力尽きたように俺にもたれかかり、荒い息を繰り返す。その声は、どこか中性的に耳に聞こえた。
「女かと思ったら男か。締め切りって郵便局か?」
支えながら視線を落とすと、そいつの手に握られた茶封筒。そこにはライバル出版社「緑泉社」のライトノベルコンテスト応募先の文字。出版社勤めとしては、複雑な気分に陥った。
とりあえずそいつを背負い、知り合いの医者が経営する病院へ向かった。「ももちん、昼休みなのに! 大人の急患連れ込むのやめてよ~!」
高校の同級生で、アレルギー専門の小児科医、周防武(すおう・たけし)が不満げに迎えた。
「いい加減、ももちんって呼ぶのやめろ。コイツ、めっちゃ熱あるんだ。診てくれ」
周防の文句を無視して診察室に踏み込み、そいつをベッドにそっと下ろした。
「うわ、これは……」
「な? かなりヤバそうだろ」 「ドストライクだね」聴診器も当てず、腕を組んでそいつをしげしげと眺める周防。
「流行りの病気か?」
「いやいや、ももちんのタイプでしょ? 清楚で綺麗な美青年って感じ♪」そう言って、なぜか俺の頬をつんつん突いてくる。長年の付き合いで、俺の好みを熟知してるこいつ。確かに、そいつの顔は悪くねえ。
「ドストライクってほどじゃねえよ」
そっぽを向くと、周防はニヤリと笑い、ようやく聴診器を手に取った。
「でもさ、似てるよね。高校んとき、ももちんが好きだった中学生に」
「あ? そうだったか?」 「似てる似てる! あっちはもっと気品漂う、私立中の制服だったけどね」楽しげに言いながら、体温計をそいつの脇に差し込む。
「ちなみにどこで拾ったの? 相変わらず面倒見いいな~」
「スクランブル交差点でぶつかってきたんだ。ふらふらしてたから、病気だろって連れてきただけ」肩を竦めたタイミングで体温計がピピッと鳴り、周防が眉をひそめた。
「病気もドストライクだよ。インフルエンザ。子どもらの間で流行ってるからね」
「マジかよ……」 予防接種はしてるが、感染しない保証はねえ。やべえな。「点滴と解熱剤の座薬、すぐ用意するよ」
周防が手際よく準備を始めるのを見ながら、俺は手を差し出した。
「なに? 手伝うの?」
「当たり前だろ。周防の昼休みを潰しちまったんだ。座薬くらいなら俺でもできる」俺としては真剣に言ったのに、周防のやつはなぜか顔を赤らめる。
「もしかして、ももちんのナニを座薬と一緒に」
「アホか! インフル患者を襲うわけねえだろ!」そいつのジーンズと下着を膝まで下ろし、ゴム手袋を手早くはめて、ワセリンを塗った座薬をさっと挿入してやった。
「ん……っ、ぁ――」
つらそうな表情のまま、掠れた声が漏れる。
「薬入れたからな。もうちょっと頑張れ」
ジーンズを履かせ直し、布団をかけてやる。その間に周防は点滴を準備し、細い腕に針を刺して液を調整。普段はなよっとした話し方だが、医者としての手際はさすがだ。思わず見惚れる。
「よし、できた。……って、ももちん、じっと見すぎ! どうしたの?」
「白衣ってだけで、カッコよさが2割増しだよな」 「ふふ、でしょ? ももちんが白衣を着たら、ママさんたちが子どもを無理やり病気にして連れてきそう」笑いながら肘でつついてくる周防。
「隣の点滴室に移すから、ベッドを押してくれる?」 「了解」キャスターのロックを外し、ゆっくりベッドを移動させる。隣の部屋で椅子を引き寄せ、そいつのそばに腰掛けた。
「ももちん、仕事はどうすんの?」
「病人と接触しちまったし、今日はこのまま休む」 うんざり気味に言うと、周防はなぜかニヤニヤした。「じゃあ、なにかあったらナースコール押してね。襲っちゃダメだぞ~」
意味不明な忠告を残し、周防は病室を出て行った。
「だから、病人襲わねえって!」
聞こえねえだろうけど、ついデカい声で叫んだ。
(……っと、病人がいるんだった )
とりあえず仕事を休むために、編集長に連絡しなきゃと思い直し、病室を出て三木編集長に電話をかける。インフル患者を病院に運んだ話をした途端に、
「危険人物! 今日の用はねえ! とっとと帰れ!」
危険人物扱いになったことがおかしくて、苦笑いしながら電話を切り、病室に戻ると、そいつがうんうん唸ってる姿が目に留まった。
「おい、どうした? 苦しいのか?」慌てて抱き起こすと、うっすら目を開けたそいつが掠れた声で呟く。
「水……喉が、苦しくて」
「わかった。すぐ持ってくる。ちょっと待ってろ」自販機で水を買い、病室に戻る。ペットボトルの蓋を開け、抱き起こして手渡すが、そいつの手は震えてうまく持てない。
「すみません。体が、言うこときかなくて」
「しょうがねえ。こんな熱じゃな。飲ませてやる」ペットボトルを口元に持っていくが、飲み込むのも辛そうだった。ちびちびしか飲めねえ。肩で荒い息をする姿を見て、このまま起こしてるのは可哀想に思える。
(――編集長、悪い。忙しい時に休むかも……) 「ちまちま飲むと体力使うぞ。目をつぶれ」 「はい?」 「いいから、言うこと聞け。なにも考えるな」怪訝な顔で大きな瞳を閉じるそいつ。俺はペットボトルの水を口に含み、形のいい唇にそっと重ねた。そしてゆっくり水を流し込む。
「っ……ん」
驚いた様子だが、冷たい水を受け入れてくれる。
「悪い。こっちのが楽だろ?」
零れた水を手で拭ってやると、そいつは熱のせいか、顔を真っ赤にして俯いた。
「す、すみませんでした……見ず知らずなのに、こんなに世話かけて」
「いいって。俺、桃瀬郁也。お前は?」 「小田桐涼一です。助けてくれて……ありがとうございます」水のおかげか、声が少しハッキリした。
「まだ飲むか?」
俺が顔を覗くと小田桐は視線を泳がせ、なぜか俺の唇を見つめた。
「遠慮すんな。飲めるときに飲んどけ」
「じゃ、じゃあお願いします!」慌てて両手で口を押さえる小田桐。素直で可愛い反応に、つい笑っちまう。
「はは、素直なヤツは嫌いじゃねえよ」
頭をぐしゃっと撫でると、小田桐はますます赤くさせた。
「じゃ、さっきと同じ。目をつぶって」今度はわかってるだけに、ぎゅっと目を閉じる。肩に力が入ってるのが見て取れた。
「おい、力抜けよ。唇、ちょっと開けてくれ」 笑いながらお願いすると、言うとおりに体の力を抜く。そっと肩を抱き寄せ、唇を重ねた。冷たい水が流れ込み、触れ合う唇の感触に、俺まで少しドキリとした。 水を飲み終えて唇が離れる瞬間、小田桐の瞳が揺れる。 「ん……っ?」水が止まり、ただ唇が触れ合ってる状態に、小田桐が小さく声を漏らす。俺はつい、角度を変えて唇を重ね、そっと舌を絡めた。
「っ、んん!」
驚く小田桐の口に、ミントタブレットを滑り込ませる。
「どうだ? ミンティア。熱で口の中が熱いだろ。スーパークール味、サービスな」
「これ、わざわざ口移ししなくても……手で渡せば」小田桐がぼそっと呟く。確かにその通りだが、つい意地悪したくなった。
「これくらいのサービス、受けてくれてもいいだろ」
「何かいろいろ、ありがとうございます」少し警戒した目で俺を見る小田桐。でも行き倒れを助けた俺を、悪い奴だとは思ってねえよな?
「あのさ」
「は、はい?」なぜかビクッと体を竦ませる。怯えなくてもいいのに。
「お前が持ってた緑泉社の封筒。ライトノベルの原稿だろ?」
「はい、明日が締め切りで……速達で出そうとしたら倒れちゃって」 「それさ、ウチのコンテストに出さねえ?」背広のポケットから名刺を差し出す。
「桃瀬さんって、ジュエリーノベルの編集者?」
小田桐の目が驚きで丸くなる。
「俺、人を見た目で判断できる。お前の顔、面白いもん書けそうなツラだ」
「 作品を読まずにそんなこと……」 「だから、ウチに出せよ。緑泉社の締め切り、間に合わねえだろ?」 「でも――」 「俺に頼めば、緑泉社に間に合うよう出してやる。けど、俺としてはウチに欲しい。どうする?」封筒を揺らしながら、小田桐の顔をじっと見つめた。俺の視線を感じて、目の前でゴクリと喉を鳴らす。
「桃瀬さんは審査員なんですか?」
「いや、今回は編集長と他の奴らがやる」 「じゃあ……今ここでその原稿を読んで、感想を教えてください。そしたら、どこに出すか決めます」(――なるほど。面白いことを言うじゃねえか )
「編集者を試すなんて、いい度胸だな」
「偶然の出会いに、賭けてみたくなっただけです」小説家志望の小田桐と編集者の俺。偶然か、運命か。胸がざわつく。
「わかった。読んでやる。覚悟しろよ」
笑いながら封筒を開け、原稿を取り出し、眼鏡をかける。小田桐がじっと俺を見つめる視線を感じながら、ページをめくり始めた。
郁也さんは凝り性な人だ。三木編集長さん曰く、『桃瀬は痒いところに、手が届く男』 なぁんて賞賛されてるくらい、マメなひとなんだけど。その情熱がどこかで追求されちゃうと、時として周りが迷惑することがある。 今日はベッドの明かりをつけてしたいっていうから、渋々OKしたのだけれど、郁也さんが僕のことを見る視線が、いつもの違っていた。 理由は簡単。さっきまで周防さんと太郎くんの絵を、一生懸命に描いていたから。描き足りないというんじゃなく、次の被写体を探してる感じなんだろうか。 ――只今、行為の真っ最中!「ああっ……ん、っ……はぁん……」 なんて甘い声をあげる僕を、上から眺める郁也さん。何故か、両手の親指と人差し指を使って四角を作り、僕の顔に枠をあわせるんだ。「も……アングル確認するの、あぁん……やめてってば……っん!」「止めてと言いつつも、どうして中がいつもより、うねりまくっているんだ? しっかりと感じまくってんじゃねぇか」 心と身体はウラハラ。どうにも調整が出来ません。「ホント、涼一の顔、すっげぇいい感じ。今すぐに見ながら、描いてやりたい気分」「イヤだよ。あぁん……いい加減にして」 僕の顔に浮かぶ、いいのを見ようとしているのか、執拗に感じる部分を擦りまくってきた。「ああぁっ、僕もうガマン出来ないっ! イっちゃうよっ……あぁあぁ、くぅっ――」 イってしまった僕の顔も、しっかりアングル確認してる桃瀬画伯……正直興ざめである。(――んもぅ、ムカついた!)「郁也さん、僕の顔を描くよりも、もっと面白いものがあるよ」「ん? 何だ?」「郁也さんの自画像。個人的に、すっごく見てみたいなぁ」 もうイったあとなので、余裕がありまくり、思い切ったお願いをしてみた。ていうか、郁也さん僕の中に挿れたまま、よく平気でいられるな。「涼一のお願い事なら、何だって聞いてやるよ。喜んで、描いてやろうじゃないか!」 その後余裕綽々の郁也さんに腹が立ち、僕が上になって、ここぞとばかりに責め立てると、呆気なくイってしまったのは、ここだけの話。 ――何だかんだ、結構ガマンしていたようだ(笑) 絵の出来上がりは、画集に掲載する予定です。お楽しみに(・∀・) めでたし めでたし?
もう夜も更けてきたし、寝ようかなぁと、パソコンの電源を切る前に、メールチェックをした。一件の新着メールをハケ-ン!!(o・ω『+』 何かなぁとクリックしたところに、背後から忍び寄る郁也さんの手が、にゅっと伸びてきたのを目の端で捉える。 「んもぅ、ちょっとだけ待っててよ。すぐに終わらせるから」 パジャマの裾から忍び込んできた右手を、ぎゅっと掴んで引きとめ、画面に視線を移した。 これは―― メールの内容を読んで、はーっとため息をつくしかない。これを言ってしまうと間違いなく喜んで、今から着手しちゃうだろうな。「郁也さん宛てに、メールで絵の依頼が来たよ。どうするの?」「ん~なになに? 桃瀬さんに是非、太郎くんを描いてほしいなと思います♪ あ、周防さんとツーショットの絵も、良いかなぁ\(//∇//)\」 読みながらニヤニヤする横顔を、複雑な心境で眺めた。「太郎くんの似顔絵は以前、描いたモノのがあるから、描かなくていいと思うんだけど、周防さんとのツーショットは、画集の花になりそうだね」 画集の花と言って表現してみたけれど、頭の中には前に郁也さんが描いた、太郎くんの似顔絵と周防さんの似顔絵がぼんやりと浮かび上がり、ふたつを組み合わせてみて、ひょえーってなっていたりする…… 僕が言った言葉に喜ぶかと思ったら、なぜだか神妙な顔をし、顎に手を当てて考え始めた郁也さん。「あれ、どうしたの? 浮かない顔して」「いや、そのな。今までは単体でしか描いてないだろ。ふたつのものを描くのって、初めてだと思って。余白のバランスとかふたりの立ち位置とか、結構高等技術が必要だぞ」 郁也さんが困るのも、無理はない! だってこの人の絵は目から描くから、そのあとの輪郭とかバランスを取るのが、すっごく難しくなっちゃう。 ――だって、ふたり分なんだもの。「無理なら断ろうか? それとも別なものを」「いいや、俺はやる。やってやるさ、見ていてくれ涼一」 僕をぎゅっと抱きしめてから、いつも絵を描くソファに座り、さらさらと描きはじめた。 前回は、オカメインコとワカメを掛けたけど、今度は何を描くんだろうな。 郁也さんの下書きは早いので(1分クオリティ)ひょいと後ろから覗いてみる。 書いてある文字に、ぷっと吹き出しそうになった。難しい依頼に、やっぱりテンパっていたんだろう(
それは突然の出来事だった。 リビングでパソコンとにらめっこしながら、さくさくと執筆活動をしていたときのこと――「画集を出したら、どんな反応がくるかな?」 ソファに座った郁也さんが、信じられないことを口走ったんだ。 うぉぉぉぉぉ!!! 僕の聴き間違いじゃないよね? 画集って言ったよね? 写真集の間違いじゃなく? 胸の中にぐるぐると渦巻く疑問を抱えながら、そっと問いかけた。「いっ、郁也さん、いきなりどうしたの。画集ってなに?」「ん? このスケッチブックに描いたものを画集にしたら、どんな反応がくるだろうって思ったんだ。涼一はどう思う?」 ド━━━(゚ロ゚;)━━ン!! ……聴き間違いじゃなかった。この問いかけに、何て答えたらいいのやら。「えっとですね、どんな反応だろう。想像つかないや、アハハ……」 あさっての方向を見ながら答えた僕の顔を見て、ふーんと面白くなさそうに、気のない返事をした。 頭の中には、小さくなった出川○郎が、『ヤバイよ! ヤバイよ!』 なぁんて叫びながら、何人も走り回ってる状態。「それを画集にするなら、全部に色をつけたら、まぁまぁそれなりに見えるかもよ?」 そんな適当なことを言った自分。 郁也さん本人が写されたであろう写真集ならきっと、たくさんの人がこぞって買うんだろうなって思えるんだけど、この絵に関して、どんなジャッジが下されるのか、容易に想像ついてしまう。「そっか。なるほどな! さっすが涼一、いいことを言う」 ぱっと顔を輝かせ、傍においてあったカバンから色鉛筆を取り出すと、早速塗り始めたではないか。 ――墓穴を掘ってしまったらしいΣ(|||▽||| ) ショックで固まる涼一と、楽しげに色塗りをする郁也。近く画集が掲載される予定、かも――?
「たらいまー!」 周防さんの家から、夜遅くに帰ってきた郁也さん。予想通り呑んでいるらしく、ご機嫌な様子だ(苦笑)「お帰りなさい、そんな状態でよく家まで帰って来られたね。足元が、ふらふらしてるじゃないか」 はーっと呆れながら言ってやると、持っていたカバンから、スケッチブックを取り出してぱらぱらめくり、顔色をパッと輝かせて、僕の手に強引に押し付けた。 ――また、いつものヤツを見なきゃならないのか…… 渋い顔をしながらソレを見てみると、どうやらオカメインコだというのが分かる。きちんと特徴を捉えているのが、郁也さんの絵なんだ。 しかし――「ねぇ郁也さん。どうしてオカメインコが、ワカメを食べているの?」 僕の質問にキッチンで水を飲みながら、何故か苦笑いをした。変なことを言ったつもりは、まったくないんだけどな。「どうして、周防と同じことを聞くんだ。オカメだからワカメだろ」 ( ̄▼ ̄)ニヤッ! 何故かこんな顔をした郁也さんを、どんな顔をして、迎え撃てばいいのか…… いくら言葉が似てるからって、ワカメを食べさせるとか、意味が分からないよ。ここはこの絵から回避しないと、変な地雷を無意識に踏んで、キズつけちゃうかもしれない。話題変換しないとな――「周防さんの家に、オカメインコがいたんだ?」「ああ。太郎が旅行に行ってる間、世話を押しつけられたらしい。よく喋る鳥でさ、タケシスキスキッて煩く騒いでたぞ」「ぷぷっ。それは聞いてるだけでも、周防さんがムダにテレまくってる姿が、想像ついちゃうかも」 真っ赤な顔して、オカメインコと向かい合ってる周防さん。なかなか可愛い絵面だな。「それだけじゃなくてな、随分と自己愛が強い鳥なのか、時折アイムスキという言葉を喋っていた。変わってるよなぁ」「アイムスキ?」 アイムスキ アイムスキ 歩、好き……あ、だからか! オカメインコとワカメをかける郁也さんだからこそ、気がつかないのかもしれない!「郁也さんそれって、歩好きっていう言葉だったんじゃないの? それなら辻褄が合うよ」 くすくす笑いながら指摘してやると、(; ̄Д ̄)なんじゃと? なーんていう表情を浮かべた。「俺が突っ込んだら、周防は否定しなかったし」「そりゃそうでしょ。恥ずかしがり屋で素直じゃない周防さんだからこそ、誤魔化すことが出来て、ラッキーだと思っただろ
*** 小説の執筆で、思いっきり煮詰まってしまった僕。ここは気分転換したほうがいいと、すぐさま判断して、郁也さんに声をかけた。「郁也さん、今、暇かな?」「ああ、どうした?」「あのね、この間言ってた、お絵描き講座やってほしいなって」 いそいそしながら、紙とペンを手渡す。「実は僕、もう描いちゃったんだけど」「何を描いたんだ?」「……周防さん。身近な人物なら、特徴捉えやすいかなって思ったんだ」「確かに身近な人間なら、特徴を捉えやすいよな。周防がモデルか、う~ん……」 しばし白紙を見つめ、意を決してから、さらさらっと描き始めたのだけれど。「いっ、郁也さん、ちょっと質問っ! どうして目から描いてるの?」 普通は顔の輪郭を描いてから、目などのパーツを描くと思うのに。「だってよ、その人が持つ、一番の特徴だから。大事な部分だから、最初に描いてるんだ」 うーん、言ってることは間違っていないと思うんだけど。そこから描くと、輪郭のバランスとるのが、すっごく大変じゃないのかな。 僕の心配を他所に目を描き終えると、慣れた手つきで輪郭を描き、鼻やその他の顔のパーツを描き始める。 もう誰が何といおうと、郁也さんワールドの絵が、どんどん展開されていき――「よしっ! いいのが出来た。周防に見せてやりたいぞ」 なぁんて自信満々に言い放つ郁也さんに、僕は微笑んであげる。(実際は苦笑いかも)「あは、ははは……周防さんの特徴、ちゃんと描かれているね。すごいや」 郁也さんが周防さんを見たまま描いたらしい絵なのだけれど、もう何て言っていいのか、分からないΣ(|||▽||| ) いつもこの絵は目から描かれてるから、絶妙なバランスが保たれているんだなぁ。 なぁんてことを絵をじっくり見て、考え込んでしまった。「それよりも、涼一のを見せろよ」「あ、うん。これだよ」「何だよ、この出来は……」「えっと、サラサラって描いてみました」「しかもこれ、逆だろうが」「逆って何が?」 ムスッとした郁也さんは、僕が描いた周防さんに、ばしばしっと指を差す。「何でこんなに、周防がたくましいんだ。どうして太郎が女々しく描かれているのか、理解できないぞ」 その言葉に、ワケが分からず首を傾げるしかない。「だって周防さん、年上だしさ。それに、しっかりとリードしてるじゃないか。僕の中
「……郁也さん、またお願いがあるんだけど」「どうした? 何でも言ってくれ」 嬉しそうに聞いてくる顔を見て、複雑な心境になる。「えっとね、絵を描いてほしいって、リクエストがきちゃったんだ」「ほー、何のリクエストがきたんだ?」 “o(* ̄o ̄)o”ウキウキ♪ ――ああ、もぅ、どうにでもなれ!!「リクエストはヒツジです! 描いたことある?」「あるぞ。新年パーティのお題に出たから。その絵を披露した時は、会場が騒然となった」 違う意味で騒然となったのだろうと、簡単に予測できた。 アセアセ( ̄_ ̄ i)タラー「じゃあ、今すぐに描けるね。お願いします!」「おおぅ、任せとけ!」 手渡した紙に、いそいそと描いたんだけど。何故だか、2枚も使って描いていた。 どうしてだ? (・_・o)ン? (o・_・)ン? (o・_・o)ン? いつも通り、ものの数分で描き終えて、ニコニコしながら見せてくれたのだが。「どうだ、驚いたろ?」「…………」 何て言っていいのだろう。 コレは一体!? ( ̄□ ̄;)!!「……郁也さん、コレ、だれ?」 僕はヒツジを描いてくれって言ったのに、『しつじ』を描いている。しかも誰なんだ、このファンキーな人は。「これは、尚史naotoが書いた小説に出てくる、執事のキサラギってヤツ」 どうして、その人を描いたというのだろう? 実物を見たら分かるけど、やっぱ悲しくなるな。「郁也さん、ヒツジは描いたのかい?」「もちろんっ! ほらよ」『しつじ』の後ろに隠れてた紙を、堂々と手渡してきた。 ド━━━(゚ロ゚;)━━ン!! こっ、これは――「どうだ、参ったか」「……うん、さすがだね郁也さん。期待を裏切らないトコがホント、尊敬しちゃう」 わざわざモフモフと書いてたり、鳴き声まで入れてたり、彼なりにアレンジして頑張って描いたのだ。褒めてあげなければ……「僕、まったく絵心ないから、さらさらっと描けるのが羨ましいな」「じゃあさ、今から描き方、教えてやるぞ」 (; ̄Д ̄)なんと?「いっ、今はいいや。これから小説の執筆したいし……また今度ね」 どうしよう、このままだと桃瀬画伯のお絵描き講座に、入門しなきゃいけなくなる。 困ったな――おしまい※ちなみに桃瀬画伯の絵は、尚史が描いているのではなく、別の人間が描いていますw
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