私は彼女の背中を見ている。近くにいるはずなのに、一番遠い存在ーーそれが遊莉《ゆうり》だった。 表立って意見を出す事はない。何かしらの変化を求めて改革をする訳でもない。彼女はその空間の中で存在している。ただそれだけで、周囲の視線を攫っていく。 彼女と出会ったのは高校二年生の頃だった。一年の時とは違う、学校と言う環境に慣れて、当たり前になっていた。 ここに生きているはずなのに、生きている感覚がしない。全ての色が鮮明さを失い、からっぽになった私の心のように色褪《いろあ》せていく。 ただ彼女の存在を感じている瞬間は違った。心臓の奥からドクドクと知らない音が解き放たれ、幸福感と快楽を感じている。 それはまるで依存薬のようで、一度知ってしまうと抜け出せなくなる。 「美穂、どうして私を避けるの?」 「避けてなんかないよ、気のせいだから」 「本当に?」 数日前まで普通に話す事が出来ていたのに、変に意識し始めたせいか、無意識に避けるようになってしまった。 本当は彼女……遊莉と笑い合いたいのに、それが出来ない。 同性の相手に特別な感情を抱くのは、人生の中で初めての経験だった。私の当たり前が歪になり、日常が非日常へとすり変わる。 自分から縮《ちじ》めたのに、自分から離れていく。彼女からしたら、私の行動が不思議で仕方ないのかもしれない。嫌われていると勘違いしている可能性もある。 その反対なのに、目の前に彼女が現れると何も出来ずに固まってしまう。 初めての感覚の中で行き場を失った私は、窓辺に寄り添いながら、外の景色に視線を注いでいく。昼ごはんを食べ終わった男子生徒達は、残りの昼休みを満喫しようと、楽しそうにサッカーをしていた。 あんなに走ってボールを追いかけるの、どうして楽しいと感じるのだろう。心と体は繋がっている。精神的に脆くなっている今の私は、彼らのように出来ない。 「はぁ……何やってんだろ、私」 昼休みは遊莉と過ごしていた。彼女の魅力にあてられた私は、一人で過ごすようになっていく。 黄昏《たそがれ》ている私を見つめている遊莉の視線に気づく事なく、時間を持て余していた。 私の高校は進学校でもあり、スポーツで有名な高校でもある。特進クラス、アスリート、進学クラス、その他諸々《もろもろ》。 特に行きたいと思う高校
Last Updated : 2025-10-01 Read more