遊莉

遊莉

last updateÚltima actualización : 2025-10-11
Por:  空蝉ゆあんActualizado ahora
Idioma: Japanese
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高校2年生になった美穂は掴み所のない、不思議な少女遊莉と出会った。 引き寄せられながら、彼女の魅力に溺れていく。 純粋出甘い百合小説

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Capítulo 1

1話 三つの視線

 私は彼女の背中を見ている。近くにいるはずなのに、一番遠い存在ーーそれが遊莉《ゆうり》だった。

 表立って意見を出す事はない。何かしらの変化を求めて改革《かいかく》をする訳でもない。彼女はその空間の中で存在している。ただそれだけで、周囲の視線を攫《さら》っていく。

 彼女と出会ったのは高校二年生の頃だった。一年の時とは違う、学校と言う環境に慣れて、当たり前になっていた。

 ここに生きているはずなのに、生きている感覚がしない。全ての色が鮮明さを失い、からっぽになった私の心のように色褪《いろあ》せていく。

 ただ彼女の存在を感じている瞬間は違った。心臓の奥からドクドクと知らない音が解き放たれ、幸福感と快楽を感じている。

 それはまるで依存薬のようで、一度知ってしまうと抜け出せなくなる。

「美穂、どうして私を避けるの?」

「避けてなんかないよ、気のせいだから」

「本当に?」

 数日前まで普通に話す事が出来ていたのに、変に意識し始めたせいか、無意識に避けるようになってしまった。

 本当は彼女……遊莉と笑い合いたいのに、それが出来ない。

 同性の相手に特別な感情を抱くのは、人生の中で初めての経験だった。私の当たり前が歪になり、日常が非日常へとすり変わる。

 自分から縮《ちじ》めたのに、自分から離れていく。彼女からしたら、私の行動が不思議で仕方ないのかもしれない。嫌われていると勘違いしている可能性もある。

 その反対なのに、目の前に彼女が現れると何も出来ずに固まってしまう。

 

 初めての感覚の中で行き場を失った私は、窓辺に寄り添《そ》いながら、外の景色に視線を注いでいく。昼ごはんを食べ終わった男子生徒達は、残りの昼休みを満喫《まんきつ》しようと、楽しそうにサッカーをしていた。

 あんなに走ってボールを追いかけるの、どうして楽しいと感じるのだろう。心と体は繋がっている。精神的に脆くなっている今の私は、彼らのように出来ない。

 「はぁ……何やってんだろ、私」

 昼休みは遊莉と過ごしていた。彼女の魅力に充《あ》てられた私は、一人で過ごすようになっていく。

 黄昏《たそがれ》ている私を見つめている遊莉の視線に気づく事なく、時間を持て余していた。

 私の高校は進学校でもあり、スポーツで有名な高校でもある。特進クラス、アスリート、進学クラス、その他諸々《もろもろ》。

 特に行きたいと思う高校がなかった私は、なんとなくこの高校を受け、特進クラスで二年まで上がっていった。

 朝は六時に起きて、半には出ないと間に合わない。電車通学をしていた私は、わざと実家から距離のあるこのルートを選んでいる。

 憂鬱《ゆううつ》な気持ちを少しでも忘れたい、ただその感情だけで今の生活を繰り返していた。

 遊莉は帰宅部だ。私とは違って、自分の考えている通りに動ける彼女が眩しくて仕方ない。

 周囲の人達が部活に入っているから、これ以上浮かないように適当に部活に入っている。最初は全く興味のないジャンルだった。それでも、いざやってみると面白くて、楽しい。

 私は吹奏楽部に入っている。

 本当は遊莉と一緒に帰りたいけど、そこは我儘《わがまま》言えない。

「どーした美穂。ぼんやりして練習に身が入ってないぞう」

「ひゃぁ」

「ふふふ。これで目が覚めたかなぁ~?」

 三年の実崎《さんざき》先輩がいつものように後ろから抱きついてきた。耳元で息を吹きかけると全身の力が抜けてしまいそうになる。

「美穂の弱点は耳でーす」

「ちょっと先輩!」

 部活が始まって一時間くらい経過すると、こんなふうに遊びに来る。先輩も練習があるはずなのに、どうしてだか抜け出しちゃうみたい。

嫌われているよりはいいけど……

「はぁ~、癒される。美穂って癒し系だよね。小動物みたい」

「へっ?」

「傍から見てるとさ、リアクションとか面白いんだよね、観察対象って感じ。皆に声かけて美穂の観察日記でも書こうかしら?」

 実崎先輩に言われて初めて、自分が浮いている事実に気づく。なるべく目立たないように気配を消して生活しているはずなのに、どうやら周りにはバレバレらしい。

 急に恥ずかしくなってきた私は、時間が経過すると、顔を真っ赤にさせていった。自分がどんな表情をしているかも知らずに、無防備な姿を先輩に見せつけていたの。

 実崎先輩の瞳が揺れた気がした。いつものようにムードメーカーな雰囲気は消え、大人の女性の表情へと変化していく。

 その事実に気付かずに、一人パニックになっている私がいる。

 彼女は私を見つめる

 私は遊莉を追う

 遊莉は二人の姿を観察している

 一日の疲れがドッと溢れ出ている。自室で寛いでいると、三時間が経過していた。自分の中では一瞬なのに、時計を確認すると思った以上に時が経っていた。

 実家と言っても、一人で過ごす事が多い。家族が全員揃う事は、中々ない。あったとしてもしょうもない事で喧嘩になってしまうから、各々が距離を開けて生活をしている。

 これが私にとっての家族の形。

 濡れていた髪を乾かすと、ほったらかしにしていたせいか、少し絡まっている箇所がある。化粧台に置かれている櫛を取ると、ゆっくりとかしていく。

 髪が長いとこれ以上に絡まってしまう。きちんとケアをすれば問題ないだろうが、面倒臭がりな私にとっては難しいだろう。

 肩に付くか付かないかの長さでキープしている。ショートの方が楽だけど、やっぱりおしゃれは楽しみたい。

 高校卒業までまだ先は長いようで短い。だからこそ学校生活を思い切り楽しめたらと思っている。

 後は遊莉との関係性が以前のようになればいいけど、簡単じゃない。一度意識してしまったからこそ、この気持ちを無かった事にはしたくない。

 グルグルと複数の思考がぶつかりながら私の頭をパンクさせていく。

 そんな時に、スマホが小さく鳴った。いつもなら音を切っているのに。

「実崎先輩の仕業だ」

 スマホを貸してと言われ、素直に貸した私は設定を弄られている事に今更気づく。深いため息をつきながら、メッセージの内容を確認していった。

「今から会えない?」

 簡易《かんい》的に要件だけを綴《つづ》っている。誰からのメッセージだろうかと首を傾げながら確認してみると、遊莉からだった。

 急な事に心拍数が増殖していく。私は高鳴る胸を抑えながら、無意識に微笑んでいた。

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1話 三つの視線
私は彼女の背中を見ている。近くにいるはずなのに、一番遠い存在ーーそれが遊莉《ゆうり》だった。 表立って意見を出す事はない。何かしらの変化を求めて改革《かいかく》をする訳でもない。彼女はその空間の中で存在している。ただそれだけで、周囲の視線を攫《さら》っていく。 彼女と出会ったのは高校二年生の頃だった。一年の時とは違う、学校と言う環境に慣れて、当たり前になっていた。 ここに生きているはずなのに、生きている感覚がしない。全ての色が鮮明さを失い、からっぽになった私の心のように色褪《いろあ》せていく。 ただ彼女の存在を感じている瞬間は違った。心臓の奥からドクドクと知らない音が解き放たれ、幸福感と快楽を感じている。 それはまるで依存薬のようで、一度知ってしまうと抜け出せなくなる。「美穂、どうして私を避けるの?」「避けてなんかないよ、気のせいだから」「本当に?」 数日前まで普通に話す事が出来ていたのに、変に意識し始めたせいか、無意識に避けるようになってしまった。 本当は彼女……遊莉と笑い合いたいのに、それが出来ない。 同性の相手に特別な感情を抱くのは、人生の中で初めての経験だった。私の当たり前が歪になり、日常が非日常へとすり変わる。 自分から縮《ちじ》めたのに、自分から離れていく。彼女からしたら、私の行動が不思議で仕方ないのかもしれない。嫌われていると勘違いしている可能性もある。 その反対なのに、目の前に彼女が現れると何も出来ずに固まってしまう。 初めての感覚の中で行き場を失った私は、窓辺に寄り添《そ》いながら、外の景色に視線を注いでいく。昼ごはんを食べ終わった男子生徒達は、残りの昼休みを満喫《まんきつ》しようと、楽しそうにサッカーをしていた。 あんなに走ってボールを追いかけるの、どうして楽しいと感じるのだろう。心と体は繋がっている。精神的に脆くなっている今の私は、彼らのように出来ない。 「はぁ……何やってんだろ、私」 昼休みは遊莉と過ごしていた。彼女の魅力に充《あ》てられた私は、一人で過ごすようになっていく。 黄昏《たそがれ》ている私を見つめている遊莉の視線に気づく事なく、時間を持て余していた。 私の高校は進学校でもあり、スポーツで有名な高校でもある。特進クラス、アスリート、進学クラス、その他諸々《もろもろ》。 特に行きたいと思う高
last updateÚltima actualización : 2025-10-01
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2話 心の繋がり
遊莉《ゆうり》とメッセージのやり取りを数回して、彼女がいる場所を教えてもらった。私の実家で会う事も考えたが、近くのコンビニで待ち合わせをする事にした。 九時が回っている事もあり、人が少ない。いつもなら車が沢山行き交っているけど、この時間帯になると、殆《ほとん》ど見る事はなかった。 周囲は田んぼに囲まれている。遊莉の家は少し離れた所にある。二年生になった時に転校生として紹介された、あの時の事を思い出しながら、自転車を漕《こ》ぎ始めた。 「今日からこのクラスの一員になる源《みなもと》遊莉さんです。皆! 仲良くしてあげてね。源さんも一言、挨拶どうぞ」 「初めまして。東京から越してきた源遊莉です。よろしくお願いします」 紹介が終わると、男子生徒達が高らかに声をあげる。同性の私でさえ見惚れてしまう程の美少女なのだから、当然だろう。 「それじゃあ、神楽《かぐら》さんの隣の席を使ってね。神楽さん、色々教えてあげて」 「はい」 私の隣の席が空いていた。何故だかこの席だけ空席だったのを覚えている。もしかしたら遊莉と仲良くなる為に、用意されたものなのかもしれない。 人と話す事が苦手な私は、彼女の顔色を確認しながらオドオドと会話をしている。他の女子は私の態度が気に入らないらしく、距離を置かれる事が多かった。 そんな私にふんわりと天使のような笑顔を見せながら「よろしくね」と言葉を向けてくれる。私はただ頷く事しか出来ずに、ドキドキしていた。 今思えば、あの時から彼女の事を意識していたのかもしれない。原因不明の不安定さも、動悸《どうき》も、全て遊莉と会話を交わす時に起きていた。 一目惚れなんてした事のなかった私の心を掴んで離さない。そんな彼女の眼力《がんりき》に吸い込まれていった。 あの時の衝撃《しょうげき》を思い出しながら、風をきっていく。これ以上、彼女を待たせたくない私は、全速力で目的地へと到着する。 コンビニの駐車場は異様に大きく、広い。トラック専用の駐車場も完備されている。使っている所を見た事はないが、長距離運転手の為に作ったのだろう。 店の前に視線を流すが、誰もいない。もしかしたら店内で待ってくれているのかもしれない。そう思った私は、息を切らしながらも、駐輪場に止め、店内へ足を進めた。 グルグルと中を確認すると、ぼんや
last updateÚltima actualización : 2025-10-02
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3話 文化祭
私達の青春は確実に存在している。そうあの瞬間は今でも瞼《まぶた》の裏で輝いて、こびり付いていた。 文化祭の季節になると、各クラスで露店《ろてん》を出す計画書が発案《はつあん》された。今回は食べ物をメインに出していきたいと、皆の意見が一致した所で、何を出すのかを話し合っている最中。 私と遊莉《ゆうり》は別の班に分けられている。席順も関係しての構成《こうぞう》となっていた。最初は、班の中で何を出したいかを議論し、意見を擦り寄せながら決めていく。それぞれの班の意見を最終的に提示《ていじ》し、クラスで多数決を取るシステムを採用している。 「皆の意見を聞きたいから、考える時間を与えるね。食べ歩きしやすいものがいいから、それを踏まえて考えを纏《まと》めてほしい」 「分かった。じゃあ考えようか、三分くらいでいい?」 この班の中心になっているのは幼なじみ同士の日雪《ひゆき》とメグだ。この二人はいつでもセットなイメージがある。くじ引きで決めた席順もこうやって運だけで手繰《たぐ》り寄せている所が凄い。 私にもそんな能力があれば、遊莉《ゆうり》と一緒な班になれたのにーー 夏休みが終わった時に席替えがあったのだ。隣同士だった私と遊莉はくじ引きと言う運命の悪戯《いたずら》によって、引き裂かれてしまった。 まるでロミオとジュリエットのように。 あの時の事を思い出すと苦しくて堪《たま》らない。今まで当たり前に話していた事も、叶わない。遊莉《ゆうり》に興味を抱いている生徒が多いからだ。 休み時間に彼女の席に向かおうとしたが、中々遊莉と二人きりで話す事が儘《まま》ならない。 誰にも気づかれないようにため息を吐くと、気持ちを切り替えていく。このタイミングで思い出すのはアウト。表情に出やすい私は、少しの油断《ゆだん》も許されない。
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