どのみち静奈は、彰人と離婚するつもりだ。もしこの縁で謙と結ばれ、雪乃の義理の姉にでもなれば、まさに鬼に金棒、これ以上のことはない。月曜日の午前。彰人が会議を終えて社長室に戻ると、弁護士の英則がノックをして入ってきた。「長谷川様。若奥様が、高名な浅野謙弁護士を代理人に立てました。恐らく、財産分与で法外な額を要求してくるものと予想されます。これは、こちらにとって非常に不利です」謙は、わずか数年で法曹界屈指の人物となった。どれほど困難な案件も、彼の手にかかれば必ず巧妙な突破口が見いだされる。彼は極端に仕事を選ぶことで知られ、並の人間がどれほど大金を積んでも、彼を動かすことは難しい。そんな彼がこの離婚訴訟を引き受けたということは、徹底的にやるつもりだということだ。彰人は目を細めた。朝霧静奈、なんと口先ばかりで、虚偽に満ちた女だ。表向きは何も求めず、争わず、こちらが提示した慰謝料さえも拒否した。その裏で、高名な弁護士と手を組み、大勝負を仕掛けてくるとは。夫婦であった免じて、彼女が残りの人生を不自由なく暮らせるだけの手切れ金をくれてやるつもりだった。だが、そこまでやるなら、こちらも容赦はしない。一円たりとも渡さぬよう、旧情など捨ててやる!「手段は選ぶな。あいつを、身一つで叩き出してやれ!」その頃。明成バイオテクノロジー株式会社。静奈は鼻がむず痒くなり、思わずくしゃみをした。管理部から社内チャットに通知が入り、十分後に会議が始まるとのことだった。会議室。各部門が先週の進捗と今週の業務方針を報告し終えると、昭彦が突然口を開いた。「抗がん剤の開発がこれほど順調に進んでいるのは、ひとえに朝霧君が提出した新案のおかげだ。熟慮した結果、私は朝霧君の役職を創薬開発シニアリサーチャーに昇格させることを決定した。今週から正式に就任してもらう」その知らせに、会議室は騒然となった。「ただのアシスタントが、試用期間も終わってないのに、いきなりシニアリサーチャー?いくらなんでも昇進が早すぎる!」「ああ、ロケットに乗っもこんなに早くは昇れないだろ」周囲からひそひそと囁きが聞こえる。静奈もまた、驚きの表情で、信じられないといった様子だった。「社長、それは、規則に反するのではないでしょうか?」
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