جميع فصول : الفصل -الفصل 50

50 فصول

41食目・初めてのお仕事

「バサームあがったよ」 しばらくすると厨房からそんな声が聞こえて振り向く。 作業台には前にも食べた大きなサンドイッチ、バサームが三色のソースと一緒に置かれています。「はーいっ!提供行きまーす」 エルミラさんは元気よくまた駆け寄り、お盆にバサームを乗せてテーブルから向かっていきました。「お待たせいたしました、定番のバサームです!」 遠く離れていてもエルミラさんの声はよく届きます。 遠目になっても丁寧にお皿を並べて会釈、澄みましたと所作で戻ってきました。「今のお仕事が提供されます。出来上がったお料理をお客様に運ぶ仕事だよ。元気で明るく、たまに重たい料理を運ぶこともあるけど、注文した料理を出来立てのうちに最速でお届けするお仕事だね」「今はお客さんが少ないから頑張れそうな気がするけど、多くなったら気が抜けそう……」「そうだね。だから今は言わなかったけど、行く時はテーブル名もちゃんと伝えて持っていきますよ」「そうですか……。お料理を持っていくときに声掛けはしたかったですか?」「私が仕事をしますよーって仲間に宣伝してるからね。お仕事の見合いになっちゃったら大変ですか? わざわざあっちの人が案内して、たまに人がお会計してたらこの私がやるよ!って仕事伝えることで向こうは安心できるでしょ?取り込まなきゃ!でも料理が!焦らずによくなるの」「連携がしやすくなりますね」 そうそう、と笑顔で話しかけるエルミラさん。 指差した先では本物に髪を縦にやんわりと巻いたウェイトレスのお姉さんは入店した客さんの案内を、短髪でシュッとした見た目の男性は遠目ではレジのような箱の前に立っている。 言葉で聞く限り、皆その仕事固定って訳ではないのかな……。 その時、厨房から「カルスキュラあがったよ」と声が聞こえた。 私はエルミラさんに「おいで」と促進されて料理の前に立っています。「わっ、美味しそう……!」 目の前に出られたのは一見カレーのようなお米に茶色の液体がかけられた料理。 甘くてスパイスの香りが立ち上がる料理は上に白い粉のようなものが振りかけられている。「お料理は一つ一つあと思い出して行こうね。まずはこれを運んでくれる?」「え、私ですか!?」「何事も経験だよ♪」「ふぁっ、はい……!」 仕事を任されて、心臓がドキリと跳ね上がる。 お皿をお盆の上に乗せたエ
last updateآخر تحديث : 2026-01-01
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42食目・頑張った時は褒める!

「おかえりー!初めてのお仕事、どうだった?」 「あの、えっと、きっ、緊張してしまって……!か、噛んじゃったしお皿もカツンって鳴っちゃった……!」 「何を言ってるの、初めてにしては上出来だよー。お客様も笑顔だったでしょ?何事も経験!ちゃんとできて偉い偉い♪」 戻って来て、エルミラさんは最初から笑顔で薬指と小指を立てて顔の前で振る。  褒めてくれてるのだと思うけど、なんの動作だろう。「おー、新人ちゃん一発目の仕事お疲れ。見てたけど俺の時よりはるかにマシだった!」 「ヴィラはお客様の前で料理ひっくり返したものね。あれ、蹴躓いたんだっけ?」 「そうそう。お客様の服にはかからなかったけど、急ぎで作り直して貰った」 「そ、そんなことがあったんですか……」 厨房反対側の壁際から真っ直ぐに背の高いウェイターさんがやってきて、同じく指を立てて振った。  それはまるで挨拶のようで、やっぱり気になってしまうけど……それよりも初体験という名の過去の経験暴露が始まって血の気が引いた。  今の提供で私も同じ様に蹴躓き、ひっくり返してしまったらきっと立ち直れない。  ひっくり返さなくてよかった、とさえ思ってしまう。  私の考えを呼んだのか、ウェイターさんは「だから大丈夫だよ」と微笑んだ。「当たり前のように話すけど、ヴィラはちゃんとルシーちゃんに挨拶した?今日入った新人ちゃんなんだから、ちゃんとして」 「おっとそうだった!初めまして、俺はヴィエラト・バーバニエル。皆にはヴィラって呼ばれてるんだ、よろしくな」 「あ、えっと、ルシェット・サイファ=明音です。ルシーでどうぞ」 「え、ルシーちゃんで良いの?私も呼びたい!」 「ど、どうぞ……」 「やったぁ!私はエラでいいわよ。よろしくね」 「エラさんと、ヴィラさん……よろしくお願いしますっ」 エルミラさんは、エラさん。  ヴィエラトさんは、ヴィラさん。  こうして同じお仕事の人を知って、あだ名を知ると、仲良くなった気持ちになれる。  そうすると、自然と緊張がほぐれていく感
last updateآخر تحديث : 2026-01-02
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43食目・清掃係

「えっと……し、失礼しますっ」「む、君は……ルシェット・サイファ=明音」「は、はい!よろしくお願いしますっ」 エラさんに言われて男性のもとに行くと、男性は少しだけ顔を上げて視線を合わせてきた。 右目に被さるような前髪、後ろはひとつにまとめて背中側に流しているけど、細くてひょろっとした体躯と姿勢でミステリアスな雰囲気が醸し出されている。 見るからに物静かそうな人だ。「どうしてこっちに?」「今からピークに入るから、こちらでお仕事を見ててほしいって……あの、お隣に座ってもいいですか?」「なるほど、どうぞ」「えっと、失礼します……」 手のひらで椅子に案内されて、ゆっくりと座る。 男性は静かで、何一つ動かず、モップに首をもたげている。 何か話した方がいい?それとも静かで居た方がいい? 独特の空気感がどうしたらいいか分からなくて、不安になった。 正面ではエラさん達がお客様の相手をしている。 水を配ったり、注文を聞いたり。 今は多かった空席も少しずつ埋まって、もうすぐで半分ほどの席が埋まりかけていた。 そんな中、低い男性の声が響く。 「セントレリア・ヒェンメル=クォリア」「え?」「セントレリア・ヒェンメル=クォリア。ボクの名前ね」「あっ……えっと、セントレリアさん……」「セレンでいいよ。皆にはそう呼ばれているからね」「あ、はい……」 なにかと思ったら、自己紹介だった。 それはあまりにも突然で、ちょっと、びっくりした。 じっと真っ直ぐに正面だけを見て動かないけど、一体何を考えているのだろう。「……えっと、セレンさんのお仕事はウェイターじゃないんですか……?」「ボクは清
last updateآخر تحديث : 2026-01-03
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44食目・ピークタイム

「――テーブル空いたよ!」「お待たせしました、『ブロウ豚のステーキ』です!ガリオンソースをかけてお召し上がりください」「第2魔素席、会計終えました。清掃をお願いします」「第4ノクスィー席に『ジェプチャップ』、こっちは第1ルミオール席の『アグネッセ乗せバタール』、よろしく」「配膳いきます!」「じゃあ私はこっちを行くわ!」「ご新規2名様です!」 さらに時間が進むとお店の忙しさは最高潮になった。 お客さんの会話のガヤガヤも聞こえるけど、従業員側が動き続けてる。 云わばピークタイムだ。「め、目が回りそう……」 増える客、溢れる注文、客の声は大きくなって、その分従業員の声も大きく聞こえる。 でもそれくらいしないと聞こえないんだと肌で分かるくらいの大きさ。 お客さんはお客さんで注文を待つ間や食べながら、食事後にお喋りしてるし、それが重なるだけで結構な声量がある。 そんな中でエラさん達はあちこちを驚く様な速度で動いて回ってる。 走ってはいないしバタバタ動いてるわけじゃないけど、そうしないと追いつけないんじゃ、と思うくらいの動き。 見てるだけで緊張は高まって、次第に目が追い付けなくなっていく。 「その中に、君も混じるんだよ」 お店の喧噪に少しだけ頭痛を感じると、隣のセレンさんから低く、静かに返事した。「こんな中に自分が居ると思うと……流石に自信がないです……」「何を言ってるの。別に今すぐにとは言わない。少しずつ仕事に慣れていって、いつかは彼らのように主戦力として働くことになる――と言っているんだ。一週間ならまだしも君は初日、寧ろ初めての仕事なのだろう?」「そうですけども……」「あれでもヴィラは4年、エラは9年だ。今すぐにでも彼らのようになれとは、誰も言っていない。焦る前に、君はまず舞台にすら上がっていないだろう」「うっ」「今のうちに今の彼らをじっくり
last updateآخر تحديث : 2026-01-04
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45食目・落ち着いた後

 あまりにも目まぐるしいピークタイムが過ぎた。 それでもお客さんは少しずつ入るんだけど、終わりごろは会計とお皿の片づけの連続。 その時にはセレンさんが少しだけお仕事をして、私は「ルシーちゃん!おいでおいで」と呼ぶエラさんのもとへと向かう。 でも向かった所で、なんて声をかければいいか分からない。 『お疲れ様です』? それとも『ピークすごかったです』って感想? 何も考えず、『なんですか?』って声かけちゃっていいの? 迷いに迷って、私は「ピーク、見てました!」と声をかけてしまった。 見ろと言われたのだからそりゃ見るだろう。 見てなかったら怒られる案件じゃん!!「あはは、今日も大盛況だったねえ。ルシーちゃんも初日なのにお疲れ様!」 それでも笑って応えてくれるエラさんが優しい。 まるで天使みたい……。 「じゃあ今から15時までは片付けだよ!今からお皿を下げていくから、一緒にやって覚えていこう!」「わ、わかりました」 そう言って厨房に一番近いテーブル席へと移動する。 向かったテーブルは模様掘りされた装飾部分が紫色に塗られていた。 (紫色は確か闇属性だから、ノクスィー席……入口側が1だから、第7ノクスィー席か……) テーブルには大皿が2枚に取り分け用と思われる小さなお皿が3枚、コップも3つ、つまり大皿ふたつを3人で分けたのだろう、といった感じだ。 エラさんは「例題はこちらです!」とテーブルを指す。 「さあルシーちゃん、ルシーちゃんはこのお皿を片付ける時、どうやって片付ける?」「え?うーん、まずこの小さいお皿を重ねて、大きいお皿と一緒に運ぶ……?」「それだとコップのためにもう一度運びに来なきゃだね」「そうですね……」「そんな時間ありそう?」 じっと視線を合わせてくるエラさんの瞳が怖い。
last updateآخر تحديث : 2026-01-05
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46食目・新人の課題

 少しずつお皿の重ね方を考えて、お皿を下げる時は落とさないよう注意しながら、厨房前へと運ぶ。 お皿はガラス製や木製、陶器、金属製と料理によって様々で、大皿のものや小皿、鉄板だったり。 それだけじゃなくて、取り分け用なら重ねやすいけど特殊な形をしたお皿もある。 それだと重ねにくいから少しだけどうやって重ねようか戸惑ってしまう。 あとは鉄板とか、汚れがすごいお皿とか、そういうのを重ねるのはちょっとやだな……っていう気持ちの問題。 エラさんもヴィラさんも素早く片付けているけど、そういうのは気にならないんだろうな……。 いや、でも早くテーブル準備しないとお客さん入れられないもんね。私も気にしないようにしなきゃ!  それから運んだあとのテーブルの拭き方、お客さんからの要望があって出した調味料、その片付け場所も教えてもらって。 テーブルは木目に合わせて、ヘリも拭くとか。 テーブルの下や椅子の下も確認するとか。 どうしても汚い場合は洗浄魔法をかけてもらえるみたい。 ちなみにテーブルの下に落ちてるのがゴミとかならセレンさんが動いてくれるけど、これは忘れ物があった場合の話。 見つけたら全力ダッシュで追いかけてねって言われてしまった。 なお、それが危険物である場合が1階では多いみたい。 異世界、わりとものものしい。  そんなこんなで、異世界といえど学ぶことがいっぱいだ。 もしかしたらこっちの世界でもそれは変わらないかもだけど。 「もうちょっと、色々経験しておけばよかったな……」  いくらお仕事と言えど、ご飯の準備をしたりお皿を片付けたりできたのに。 少しでも経験があればなにか違う考え方もあったかもしれない。 それが少しもったいない気がして、つい、口に漏れた。 
last updateآخر تحديث : 2026-01-07
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48食目・万来堂の秘密

「んあ、おかえりィ。新人ちゃんお疲れ様ァ~」「あ、ルシーちゃんお疲れー!」  タイムカードの切り方を教えてもらって、マグサァさんと別れて更衣室に向かうと、ラリエーヌさんとエラさんに出迎えられた。 2人とも既に私服だけど、まさか待って貰ってると思っていなかった……いや、退店方法教えてもらわないとだもん!いてくれないと困る。 「これで本日の新人仕事終了ォ?そんじゃまずはご褒美タイムだねェ」「その前にお店の出方を教えてからね」「ンもう、看板娘のケチー」  ニマニマと笑うラリエーヌさんとエラさんの会話を聞きながら着替えていく。 待たせてるのが悪いなと思って少しだけ急いで、「お待たせしました!」と声をかけた。 「全然待ってないから安心して」「そんじゃ帰ろ〜」  エラさんの「帰り道はこっちだよ」という案内を受けて更衣室を出た私は廊下を真っ直ぐに歩いていく。 この先は事務室だけど……と思っていたら、2人は銀色の扉の前で立ち止まった。 「ルシーちゃん、今日は表から来たでしょ?明日からはこっちの従業員用の入り口から入ってね」「従業員用の入り口があったんですか?」「逆にこんな店だから裏口ないと無理っショ?いくら部屋主がいるとはいえ、表の部屋から各部屋通される仕様じゃ部屋主休めんじゃん?」「はっ、確かに……!」  ラリエーヌさんの言葉にはたと気付く。 部屋主ってなんだろうと思ったけど、万来堂は表から入ると毎度お兄さんに行き先を告げる仕様だった。 確かに、従業員の相手までしてたらお兄さんずっと働くことになっちゃう……! 「ほらほら、いつまでも立ち止まってないで、行くよォ~」
last updateآخر تحديث : 2026-01-09
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49食目・魔族について

「ちょ、ラリエーヌ!?」「ほらほら、帰っておいでェー」  いつの間にか目の前が真っ暗になって、顔面に何かが当たった。 そのまま顔を柔らかいものでわさわさとされて、くすぐった、いや、そもそも息、息がっ……――。 「――っぷああぁぁぁっ!!!」「ハイお帰りィ~」  目を開けるとにんまりと笑うラリエーヌさんの顔の横に真っ白でもわもわとした気持ちよさそうな棒があった。 何このもこもこ? 手を伸ばすと棒の方が寄って来て、また顔に当たる。 「うりうり」「はわっ……!」  頬に当たると綿を撫でるような気持ち良さ。 先端の方に撫でると癖になる滑らかさがある。 撫でてるだけで癒しがすごいというか、あ、一生このままでもいい。 …………はっ! 「な、なんですか?これ」「しっぽ」「しっぽ!?」「そう、アタシの」  ラリエーヌさんの言葉に棒の根元を辿っていくと、ラリエーヌさんのおしりに行き着いた。 やだ、私のハレンチ! 確かにしっぽ、しっぽがある。 「そういえばラリエーヌさんは魔族って言ってました……!わぁ、本当にしっぽがある……!」「ちゃんと飾りじゃないよ、ホラ」  そう言ってラリエーヌさんは自分の体はそのままに、しっぽだけを操る。 うにうにと動いてつい手を出しそうになって……なんだか私の方が猫みたい。 「あっはは、ルシーの食い
last updateآخر تحديث : 2026-01-10
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50食目・魔族について2

「ば、バフタイムってなんですか?」「バフはねー、冒険者の専門用語で『能力アップ』の意味だよ。一部の魔法やスキル、料理には付加能力があって、バフがつくんだ。冒険者は大事な戦いの前やここぞという時に自分にバフをかける、それをバフタイムって言うんだけど……そういうのには関係ない私達は、こういう休憩時間の食事や憩いの時間をバフタイムって呼んでるんだよ」「へぇ……」「さっすが冒険者オタク、詳しいねェ」「ふふん、まあね」  私の疑問をエラさんは細かく教えてくれた。 お料理に能力がつくこととかあるんだ……これもこの世界の不思議だなぁ。 付加能力、どんなものがあるんだろ。 「あの、付加能力って一体どんな……むぐっ――」「――だめだよ、ルシー」  気になった事を口にしようとすると、突然口を塞がれた。 耳元ではラリエーヌさんが囁く。 「ルシー、知ってる?オタクは目の前に餌を出されると食いついてしまうんだ。それも、周りなんて一切見えなくなって何もかも忘れちゃうくらい。ルシー、今日は今から何する予定だっけ?」「ご、ごはん食べます……!」「そ。気になることを聞くのは新人として良い姿勢だけど、時と場合を考えな。ね?」「ふぁ、ふぁい……!」  顔の横にラリエーヌさんの綺麗な肌があった。 もこもこの髪が顔に当たって、ふわふわで気持ちいい。 囁くラリエーヌさんの声がやけに綺麗に聞こえて耳に残って、心臓がドキドキする。 ついでにいい匂いもした。 なんか、なんかなんか、不思議な気分。 癒しがすごい。 「ちょっとちょっと、何イチャイチャ
last updateآخر تحديث : 2026-01-11
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