4歳のとき、私と弟の鈴木竜之介(すずき りゅうのすけ)は溺れて、私だけが助かった。それから母は、私のことを憎むようになった。夜になると、母は何度も「あめ」を持って、私に無理やり食べさせようとした。でも、そのたびに父が止めてくれた。その後、私は長い髪をばっさり切って、可愛いワンピースも着なくなった。竜之介のかわりになろうと必死だった。そうしたらやっと、母は私に目を向けてくれるようになった。それから3年後、母のお腹にまた赤ちゃんができた。「死んだ竜之介が帰ってくる!」って彼女は大喜びだった。母が喜んでいるのを見て、私も嬉しかった。竜之介が帰ってくるんだ。本当によかった……じゃあ、このお家にもう、私っていう代わりの子は必要ないんだ。私は、昔、母が飲ませようとしたあの「あめ」を見つけだして、静かに飲み込んだ。「あめ」は口の中で溶けると、苦味が広がり、私は思わず身を屈めてえずいた。胃から上がってきた酸っぱい液体が唾液と混ざり、口元までこみ上げてきた。これは3年前に、母がクローゼットのいちばん奥に隠してたもの。あのころ、彼女はよく夜中に私のベッドのそばに座って、うつろな目でこう言った。「どうしてまだ死んでくれないの?」今、私は母のあのときの願いを、叶えてあげるんだ。私は男の子用の制服を着ている。襟のところは擦り切れていた。これは竜之介が生きてたときに着ていたお古だけど、とっくに小さくなってた。でも、母が言ったんだ。ずっとこれを着ていないと、竜之介みたいに見えないでしょって。リビングから母の笑い声が聞こえてきた。聞いたこともないくらい、やさしい声だった。彼女はお腹をさすりながら、父に話しかけていた。「お医者さんがね、今度こそ男の子だって。すごく順調みたいよ」母の声は甘ったるかった。「もう……絢香(あやか)の顔を見なくてすむんだから」私は最後に、母の笑った顔が見たかった。ドアのところまで行くと、父が私に気づいた。彼は眉をひそめて言った。「絢香、宿題はいいのか?」父の視線が私の制服をかすめて、まるで何か見てはいけないものでも見たみたいに、すぐに逸らされた。母が振り向いて私を見ると、笑顔がぴたりと固まった。「誰が出てきていいって言ったの?また髪が伸びてるじゃない?竜之介みたいに坊主頭にするって言ったでしょ?」
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