黒曜魔塔・最上階。ルシアン・ノクスは執務室の隣、寝室のベッドの上で書類を読んでいた。指を動かすのも面倒臭く、ルシアンは魔術で書類を宙に浮かせて読んでいた。「……はあ」ルシアンがため息を吐くと、空中を漂っていた三枚の書類が壁のほうに飛んでいった。研究費削減により、研究できなくなった計画書だ。「世の中、金だな……」世知辛い呟きだった。. コンコン。隣の執務室と繋がった扉ではなく、廊下と繋がった扉からノックの音がしたため、ルシアンは首を傾げた。(あっちのドアがノックされるなんて珍しいな)ルシアンのところには研究の相談しかこない。ルシアンが研究の相談にしかのらないからだ。論文なら小難しい数式がたくさん並んでいても読む気になるが、予算案など単純な足し算だけで理解できる書類は読む気になれないルシアン。ルシアンはその手の書類の処理が得意な者を三名ほど補佐に任命し、彼らにその手の書類の処理を丸投げしている。彼らにはルシアンのサインを複写できる魔導具さえ渡してある。三人いれば、結託して横領などしない限り問題はない。それに魔塔に国事に関する決定権などなく、通達に対しては「諾」と言うしかないので、補佐たちがルシアンに代わって持つ権限など大したものではない。そして、ルシアンに研究の相談がある者は、執務室経由でルシアンの私室の扉を叩く。廊下に設置されている各私室のドアは、部屋の利用者の「どうぞ」という許可がなければ開かない仕様になっているが、執務室など公的な部屋の場合はその許可が不要。つまり執務室経由で入ってくればルシアンの許可を待つ必要がなく、ルシアンが面倒臭がりなことを知っている塔内の魔術士たちは「ルシアンに相談にのってもらう」という立場なので極力ルシアンの不興を買わないようにするのだ。その結果、ルシアンの私室の扉をノックして訪ねてくるのは二パターン。一つは掃除担当者。「ルシアン・ノクス様、いらっしゃいますか?」(若い女性? 夜這いか?)もう一つは、ルシアンと既成事実を作り、結婚になだれ込もうと企む女性。ルシアンは生まれは平民だが、魔塔の主となったときに男爵位を与えられている、通称「平民貴族」である。一代限りの爵位だが、貴族ではあるためルシアンは貴族の令嬢に人気がある。.貴族令嬢は生まれたときは『貴族』であるが、爵位を持つ貴族
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