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All Chapters of 新解釈「聖女」: Chapter 11 - Chapter 20

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第11話

「ちょっと待て」混乱する頭を整頓するため、ルシアンはアリアに待ったをかけた。ルシアンの制止に、何かを言おうとして開いていた口をアリアが閉じる。(素直だな)視線を少し外して、ルシアンの要求通り『待つ』姿勢のアリアにルシアンは新鮮な驚きを覚えた。ルシアンにとって、レオンハルトのような一部を除き、貴族とは話しをよく聞かない相手だった。特に、ルシアンの元にやってくる貴族令嬢たちは話を聞かない。ルシアンとて、丁度よく性欲が発散できると言っても、鬼畜生ではない。関係を持っても、結婚という形で責任をとる気はないと伝える気でいる。だから「待て」というのだが、彼女たちはルシアンを落とすという目標に焦っているため、ルシアンの話を聞かずに襲い掛かってくることが多い。ただ、貴族令嬢側にも事情はある。ルシアンにとっては彼女たちの夜這いの目的は「貴族の地位を失いたくないため」という認識である。確かに、これも間違いではない。ルシアンの思っている通り、彼女たちはルシアンの貴族籍が欲しくて魔塔にやってくる。彼女たちはルシアンの容姿も知らずに魔塔に来る。目的は貴族籍なので、醜くてもいいというのが彼女たちの認識。魔塔から出てこないルシアンなので夫婦生活はないに等しいだろうし、見映えのよい男性を愛人として側に置くことは王都にいる貴族夫人にとって珍しいことではない。そんな気持ちでやってきた彼女たちは、ルシアンの容姿に驚くことになる。華やかな王都で美男を見慣れている彼女たちも息を飲むほど、ルシアンの容姿は王都でもトップクラス。社交界で一、二を争うレベル。ルシアン本人は至極面倒臭がりだが、神様は彼を作るときにかなり手間暇をかけたようだというのが、レオンハルトの評価である。よって、ルシアンを一目見た瞬間に、彼女たちのやる気は最大値になる。言葉を変えれば「なりふり構っていられない状況」になり、関係を持っても結婚はしないとルシアンが明言しても「大丈夫です」と納得する振りをして、とにかく関係を持つことを目標としてしまう。することも多い。その結果、「私を抱いたのに」と泣く女性を前に、「責任は取らないと言ったのに」とルシアンが困ったことが何回かあり……。(だから貴族令嬢の「大丈夫」など信じないのだが……いや、いまの問題はそれではない)「えっと……そもそも、どうして俺に求婚を
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(この女は、王位を獲る……獲れない理由も、止める言葉も、全く見つからない……なるほど、それで、俺に求婚か)ここにきてようやく落ち着いたルシアンは、アリアの求婚の理由を察した。「法典か」王配となる男がいないと、女性は女王にはなれない決まりがある。「王位は奪うのに、法典は守るのか?」「王位を奪ってはいけませんって、法典に書いていないでしょう?」当たり前である。でも、とんでもない理屈だが、ルシアンにはアリアの言いたいことがなんとなく分かった気がした。 ルクスハイム王国には王制があるが、法治国家である。例え、王様といえども、法典は守らなければいけない。(ヴァングリム家は国に対する忠誠心の高い家。王家ではなく、法典に従うということか……)ルシアンは一人勝手に想像して、ジンッと感動していたが、それは違う。ヴァングリム家は、ルールに関しては幼い頃から厳しくしつけられている。ルールを守ることは、厳しい北の地を生き抜くための必須条件。ヴァングリム家で一番重要とされるルールは、人の食べ物はとらないこと。魔物と戦い続けるヴァングリム家は常に腹を減らしており、食べ物に対する執着心は半端なものではなく、あのアリアを溺愛する父ローデリヒすら、アリアが彼の分の食事を奪うと怒るのだった。だから、アリアが法典を守るのはただの条件反射。法典を重く見ているわけでも、国に対する忠誠心でもない。「法典って厄介ですよね」「厄介なのが法典。それで、なんで、俺なんだ?」「女王になることは比較的簡単にできると思うのです。うち、攻めるの得意なので」「そうだな。牙は最強の武力集団だもんな」(そもそも、彼女の三人の兄が攻めれば数分で王城は陥落するだろう……なんだろう。その三人が、武装はしていないだろうが、傍にいる気がする)ルシア
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それができるほど、ルシアンの魔力は膨大だ。高位貴族でも珍しい魔力量である。そんな子どもが平民の両親から生まれたため、母親は不貞を疑われた。父親は「俺の子じゃない」と言ってルシアンを殴り、不貞を責めて母親を殴り、母親は血を流しながら「化け物」と泣き喚いてルシアンを叩き続けた。ルシアンの幼い頃の記憶は、そんな地獄の風景に染まっている。そんなルシアンを、うわさを聞き付けた先代魔塔主が引き取った。彼はルシアンに、魔力を制御させることを覚えさせた。桁違いの魔力を隠さなければ、ルシアンを武器として使う者が出てくると、先代魔塔主はそれを危惧していた。いまルシアンの魔力を計測しても、本来の魔力の三十分の一ほど。それでも、魔塔の主の位は揺るがない程度の魔力量になっているのだが、ほとんどの魔力を抑え込んでいるせいで、ルシアンは常に疲れている。(常に防御魔法を展開することで魔力が消費できれば、俺にとって悪い条件ではない。さて、この女は俺の“できること”を知ってどうする?)アリアは革命を起こそうとしている。それなら、戦力はあるだけいいだろう。(……笑って、いる?)アリアの反応は、ルシアンの想像しているものと違った。「何か、おかしいことを言ったか?」「だって、あなたは究極の面倒臭がりと聞いていたので……」「……それが?」本気で分からずにルシアンが聞くと、アリアの笑い声が大きくなった。「侵略戦争とか、すっごく面倒臭いではありませんか」「そうか? 土地が拡がれば、資源も増えるぞ?」「だって、文句を言う人の数が増えるだけすよ。いまルクスハイム王国は悪政を敷いているからそこかしこで王族の悪口ばかりですが、どんなに善政を敷いたって口の数が多ければそれだけ文句も増えます。それを聞くなんて、想像するだけでゾッとします」「なるほど。確かに、それは面倒臭いな」想像して、ルシアンはゾッとした。「ですよね!」アリアが声を出して笑う。最初はクスクスとご令嬢らしい笑い方だったが、次第に抑えられなかったのか「アハハ」と元気な笑い声になった。「話を戻すが、俺は城を守ればいいだけなんだな」「ええ。でも、徹底的に守ってください。迎撃は気の向いたときでいいです」アリアが、ニコッと笑う。「前向きになりましたか?」「最初寄りは」「動かなくても、衣食住に困りませんよ」
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「え、いいんですか?」あっさりし過ぎたのか、今度はアリアのほうが戸惑った。一方的に驚かされ続けたルシアンとしては、驚くアリアの表情に楽しさを覚えた。(こんな顔もするんだな)「ああ」「結婚、面倒じゃないんですか?」「面倒だが、金があれば我慢できる」アリアは、目を輝かせた。「札束で、頬を張り倒した甲斐がありました」「国家予算の二割、分厚い札束だった」ルシアンは、再びベッドに倒れ込む。疲れたが、達成感があった。 (そうだった……)「俺からも、条件がある」「なんでしょう?」「俺は、ほんっとうに動かないぞ」「分かりました。膀胱炎だけは気をつけて、トイレにだけはちゃんと行ってくださいね」「……ああ」 「政治の手助けはしないぞ」「別に構いませんよ。私がやるわけではないので」「……君が、女王になるんだろう?」「いまの王様も政治をやっていないではありませんか」「確かに……宰相殿が頑張っているからな」「それなら、城を落としたあとは宰相様をスカウトに行ってきます」「おう、頑張れ」できる人に任せようという姿勢のアリア。意外といい統治者になりそうだとルシアンは思った。 「あと」「“あと”?」「恋愛もしない」「……はい?」怪訝そうな顔をしたアリアに、ルシアンは、少しだけ目を細めた。そんなルシアンを、アリアはジッと見る。そして、「あ」と気づいた。「もしかして、私が愛してほしいと言うと思っていますか?」「……まあ、な」「ルシアン様って、言われてみればイケメンですものね」ルシアンの顔が、怪訝なものになる。「言われてみればって……君にとっては違うのか?」「イケメンだとは思いますけれど、私が欲しいのはルシアン様の魔法です。恋心か魔法かどちらかと言うなら、魔法をとります。恋愛をしないことが条件なら従います」「さっぱりしているな」「二兎追う者、一兎も得ずというでしょう? 空腹は、嫌いなんです」「若いのに、達観しているな」(……妙な女だ)だが。「まあいい」そう言って、ルシアンは手を振った。「契約成立。攻め落としたあとの王城の防御は、完璧にしてやる」「ありがとうございます!」アリアは、深く頭を下げた。「これで、心置きなく王様たちを討てます」「おお、頑張れよ」やったーと言いながら、部屋を出ていこうとするア
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第13話

王太子セドリックはベッドからおり、足元のガウンを羽織るとまだ熱がくすぶる体を冷ますために窓辺に寄った。頭に浮かんだのは、数日前に受け取った手紙。【城に行きます】目安となる日時と、護衛の三人の兄たちの帯剣での入城許可。それだけ。『結婚』という単語も、『承諾』という言葉もない。当然だ。アリアのほうには全く結婚を承諾する意思はない。だが――。「素直じゃないな」セドリックは満足そうに微笑む。聖女アリア・ヴァングリムについては自分なりにセドリックも調べた。北の辺境伯家で生まれ、貴族であるが兄三人と違って王都には来ておらず、社交界にはデビューしていない。(北の城に閉じこもり、蝶よ花よと育てられた深窓の姫君か)大いなる誤解である。もう少し調べれば、アリアが深窓の姫君どころか、武器を持って辺境を渡り歩く戦姫だと分かるのだが、『セドリックなりに』はさっきのところが限界だった。.「ふふ……清廉で、頑なな少女か」情報は集めないくせに、セドリックの想像と妄想は進む。(王太子である私からの正式な求婚、さぞかし喜んだことであろう)アリアは結婚の申し込みを断らなかった。一般的に断れるはずがないだけなのだが、セドリックの脳は「喜んでいる」想像を湧き立てる。(よく見れば、【城に行きます】の字も少し震えて……緊張しているのか、可愛らしいものだ)緊張は、間違いではない。アリアは読み書きはできるが、字は読めればいいという考えの中で育ったので基本は殴り書き。エリスの厳しい監視のもと、「丁寧に書きなさい」と言われる中で書いた手紙のため、アリアの手は確かに緊張で震えていた。(王都に来ると、よけなことを書かずに私の正妃になることを慎ましやかに受けいれる姿勢も望ましい「辺境の田舎娘にしては悪くない」セドリックはワインクーラーからボトルをとると、グラスに赤ワインを注ぐ。(少し早いが、勝利の美酒だ)聖女は政治的な駒としては最上だ。民衆の支持は絶大で、今回の聖女の場合は最強の私兵団を持つ北の辺境伯との関係も強固になる。そして何より――(噂では、儚げで清楚な美少女だというからな)神に愛された美しい娘。その称号は、王太子である自分の隣に立つ女として申し分ないとセドリックは考えていた。(それに、俺には……)セドリックはワインを持ったままベッドに腰掛ける。
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第14話

「それでは……私はどうなるのです?」不安と期待が入り混じったマリアの目だったが、セドリックは気づかない。「聖女がこようと関係ない。私はお前を手放さない」「それなら……」マリアの表情がほどける。マリアも最初から正妃の座は狙ってなどいなかった。男爵令嬢では、側室である皇妃すらも難しいと分かっていたから。「私を、皇……」「お前はずっと私の恋人だ」当たり前のように、さらりと言ったセドリックの言葉に、マリアの顔が強張った。「いまと何も、変わらない」王家の血を絶やさぬためにも、王太子には複数の女がいて当然。正妃がいても、他に幾人の愛人を持っても何も問題はない。それが王族の在り方だとセドリックは、そう信じていた。「ほら、もう……無駄話はお終いだ」セドリックはマリアの耳元でそう囁くと、マリアの脚に手をかける。マリアは微笑み、セドリックの胸に顔を埋めた。(女を堕とすなんて簡単。清楚がどうした、清楚な女ほど堕とす楽しみがある)セドリックはくすりと笑う。神の娘が自分に縋る姿を想像し、セドリックの中に妙な愉悦が込み上げる。(辺境育ちの娘。王都の煌びやかな世界に触れれば、すぐに染まるだろう)セドリックは、自分が世界の中心にいると信じて疑わなかった。聖女が城に来る。それは、自分に傅くためだと頑なに信じている。それが、常識だから。「殿下……」マリアが縋るように腕を伸ばして来たことに満足し、セドリックは覆いかぶさる。だから、気づかなかった。マリアの顔は冷めきっていた。   * 翌朝、王都は朝日が昇ると同時に騒がしくなった。「北の辺境伯家のご令嬢が入城するらしい」「例の聖女様か」.セドリックは窓辺に立ち、城下を見て驚いた。城は高台にあるためかなり遠くまで見渡せるのだが、北の辺境伯家からきた聖女の護衛という私兵たちの列は、城の門から王都の目抜き通りを抜け、北の門からでて最初の丘までも続いていた。(確かに、護衛として大勢連れてくると事前に報告は受けていたが……北の辺境伯は、そんなに過保護なのか?)ローデリヒは娘に劇ラブ。過保護なところもあるので間違ってはいない。(これは、相当期待できる娘ではないか)過保護=美少女という図式しか浮かばないのがセドリック。いや、この場合はあまり悪くない。誰だって、こんなに堂々とやってき
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第15話

「なんだ?」「殿下。宰相閣下からのご連絡です。急ぎなので、口頭で失礼いたします」「早く言え」「はっ。聖女様より、兄三名の帯剣で入城する許可を殿下から頂いているとのご報告がありました。それが事実かの確認に参りました」「事実だ。護衛なのだから問題はないだろう」「あと、城の見学についても……」「もちろん、許可を出した。お上りさんというやつだ、多少無礼があっても目こぼしするよう通達してくれ。なにしろ、奴らは聖女の兄なのだからな」「……分かりました」侍従が下がると、セドリックは満足気にマリアに笑いかけた。強者こそ余裕を持たなければいけないとセドリックは思っていたのだが……。「……マリア? どうした、急に身支度を整えたりして?」「いえ、あの……よく考えれば、これからご正妃様をお迎えになるのに、先に私がいるのも……ご聖女様は気分を害されやしないかと」「そんなことを気にする必要は……」「いえ!」マリアは強く否定したあと、ハッとしていつもの優雅な笑みを浮かべる。「ご聖女様が気分を害され、十分に浄化の力が使えなかったら……そんなことになったら……」マリアは渾身の力で涙を流す。その涙は、目論見通りセドリックには健気に見えた。「分かった……でも、すぐに城に呼び戻す。それまでは我慢していておくれ」「はい」 .そうしてマリアが去った部屋で、セドリックは城の中庭を見ていた。軍馬と思われる大きな馬に乗った騎士が三人。その三人に守られるように中央にいた馬車がゆっくりと城の入口に止まる。(あれか……)思わずセドリックは身を乗り出す。扉が開いた。まず目に入ったのは、銀色。光が差し込んだかのように、その場の空気が変わる。セドリックは思わず息を呑んだ。(美しい……噂以上の、美しさだ)儚げな美少女。透
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第16話

「アリア、どうした?」城を見て足を止めていたアリアに、フィンが声をかけた。アリアはフィンに目を戻して、笑う。「真っ白で、目に眩しいなって思っただけ」どこにも欠けのない石畳。整えられた庭園。磨きあげられ、アリアの見る限り汚れひとつない白い壁。「あの魔塔とは同じ国の施設でもまるで違うよな」「魔塔の中の人たちは一生懸命働いていたわ」髪のセットに何時間かけたのかと思われる凝った髪型の文官。何をするにも邪魔そうな装飾品をつけた侍女たち。「お城って、暇そうな人がたくさんいるのね」「王都で汗水たらして働くことは野蛮で恥ずかしいことだと言われているからな」「なるほど……」北の騎士団の鍛錬にはアリアも参加していた。筋肉自慢のマッチョの聖地。規律正しく並ぶ城の騎士たちの、騎士服越しでも分かるややゆるんだ体形にアリアは苦笑した。「筋肉は……」「「「嘘を吐かない」」」四兄弟は仲良く父ローデリヒの口ぐせを詠唱して、城の案内係がやってくるのを待った。.「聖女様、どうぞこちらへ」アリアが先を歩く。その後ろを、三人の兄が続く。アリアは視線を伏せ、淑やかな歩幅で歩いていた。北を発つ前に母エリスのスパルタで身につけたご令嬢の動きに、軽やかなドレスの裾があわせて揺れた。彼女を囲む三人の男が、軽鎧とはいえ鎧姿なので、ドレス姿のアリアの華奢さが際立つ。むきっと右腕を折ってみせれば軽く筋肉が浮かぶのだが、アリアは儚げな印象を作るのに成功していた。三人の兄たちの、先頭に立つのは長兄のカイム。北部辺境伯の次期当主で、一騎当千の騎士という名声を裏切らない巨躯。その眼光は鋭く、歩くだけでその訓練の密度が分かる。その隣に並ぶレオンハルトは、均整の取れた体躯に、男装の麗人と
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第17話

そして、ついでに……。「こちらは、飾られているのはルクスハイムの国宝ですか?」父親世代と思しき白髪交じりの騎士に、アリアはそっと近づいて首を傾げた。上目遣い。わずかな距離。騎士の目じりは、一気に下がる。「ええ、そうですよ。こちらは建国以来の……」お父さん世代を転がすのは、昔からアリアの得意技だった。辺境では、父を筆頭に、父の部下たち相手に何度も使い、食べ物を中心に色々なものをせしめてきたものだった。いつもの調子で、少し甘え、大袈裟に尊敬してみせれば、彼らは誇らしげに語り出す。アリアは相槌を打ちながら、壁に掛けられた装飾品を観察する。金細工。宝石。古びた剣。(これはレプリカ……これは本物。あちらは……おおっ、あれは高く売れるわ)母エリスの手伝いで、異国の商人と値踏みをしてきた経験が生きていた。国宝は国の所有物であり、個人のものではない。だからこそ、国の歴史で、国の権威である。それを軽んじることは、誰にも許されていない。しかし、王家が見栄で飾っているものなら問題ない。その王家を滅ぼそうとしているのだ。そうなれば、元王家だった家でしかない。(これまでの悪政の償い、賠償金はちゃんと回収しないとね)ルクスハイム王国の金庫はほぼ空。革命後には多くの資金がいる。金の純度。宝石の透明度。加工の技術。売ればいくらになるか、アリアの目には値札がかかっているように見えた。(あれは五百枚……いや、七百枚はいきましょう。代わりに、こちらは三百程度にして……)いや、アリアが値札をつけていた。「王太子殿下は国でも一、二を争う宝剣のコレクタ
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第18話

(この少女が「聖女」……どこがだ)ヴァルターは笑い転げたい気持ちをグッと抑えた。北部辺境伯家の一団がついたという報告を受けてしばらくすると、城内は天からの使いのごとく清らかで儚い聖女様の話で盛り上がった。それ一色にならなかったのは、聖女の三人の兄たちの話題もそこかしこで花を咲かしていたからだ。それを耳にしながら、ヴァルターは「仕事をしろ!」と思った。(言っても無駄なので思うだけだったのだが)この国は腐り、私腹を肥やしたい貴族がこの国の中枢である城に手の内の者を縁故採用するせいで、城内で働く者は過剰なほどいる。真面目に働いているのは、ほんの一握り。ヴァルターはアリアの後ろで、少しフラフラしている自分の侍従を見る。(彼には申しわけなさしかない)国家を運営していくにはいくつもの部署がまるで歯車のようにかみ合わせながら動かなければいけない。どこかだけ動いてもだめなので、働く一握りの者たちを全部署に割り振る。そうなると各部署に一人か二人しか配置できず、そこで彼らは重圧を背負いながら頑張って仕事をしている。ある程度一人で仕事ができる三十代は、一人配置。これから仕事を覚える二十代は四十代以上とペア。二十代のほうには「仕事を教えるため」と言っているが、四十代以上には夜通しで仕事をするときは自分は仮眠をとり必要なら二十代のほうを働かせろと言ってある。鬼のような発言だが、四十歳を過ぎると徹夜がきつくなるのだ。確実に次の日に使い物にならなくなる。それなら仮眠したほうが圧倒的に効率がいい。判断は年寄りがするから、若手は体力を使ってくれという力技。これがいまの城の内情だった。 .―― アリア・ヴァルグリム嬢ほど聖女が似合う者はいないが、セドリック王太子殿下の妃に彼女ほど似合わない者はいない。(兄上の言葉の意味が、ようやく分かった……この少女に、王太子妃は似合わん)ヴァルターの胸が高鳴る。(この
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