岡田理仁(おかだ りひと)が金銭的に生活を援助してあげていた、貧困女子大生・久保美咲(くぼ みさき)が、ある日恩を返しにやってきた。何事にも全力で挑む彼女は、入社数日で6億円もの契約を取り、一躍トップ営業成績を叩き出した。打ち上げの後、美咲がインスタを更新する。それは、理仁が膝をつきながら、彼女の膝の傷を手当している写真だった。【これこそが本当に欲しかったご褒美。ボーナスなんて比べ物にならない】その前後にも、会社の飛躍を祝う投稿が並んでいたのだが、理仁はその投稿だけにしかいいねを押していなかった。私、岡田加奈子(おかだ かなこ)は散らかった服を片付けた後、酔い潰れて寝入っている理仁を揺り起こす。「私たち離婚しよう」信じられないという顔で、理仁は言った。「いいねをしたから?」「うん。あなたがいいねをしたから」理仁は状況が飲み込めないのか少し唖然とした後、薔薇の香水の香りをほのかに漂わせながら近づいてきて、私の額にキスをした。「もう、お前ってやつは。もういい大人なんだから、子供みたいにヤキモチなんか焼くなよ」理仁はもともと、甘ったるい香りは苦手なはずだったのに。そして私が知る限り、この香りを纏っているのは美咲だけ。「美咲はこの契約を取るために、本当に頑張っていたんだよ。今井社長と商談のチャンスが欲しくて、膝をついてまで懇願したんだから。それに、あの子は純粋でいい子だ。だから、俺に恩返しをしようっていう気持ちを無碍にはできないだろ?明日の会議で着るスーツにアイロンをかけたら、もうお前は早く寝ろよ。仕事のことは何も分からないんだから、せめて家のことぐらいは完璧にこなしてくれよな。これ以上、俺に余計なことをさせないで」そう言い捨てると、理仁は寝返りを打ち、また深く眠りに落ちた。私は立ち上がり、口紅がついたシャツを洗濯機へ投げ込むと、なんだか自分が情けなくなった。結婚して5年が経った。理仁は忘れているのだろうけど、私だって一流大学の金融学科出身なのだ。創業当時に苦労して胃を壊した彼の食事なんかに気遣わなければ、こんな風に使用人同然の毎日を送ることなどなかったのに。朝から一日中働き、家に帰れば洗濯、夕飯作り、掃除……理仁はこれを当たり前だと思っているのか、金銭的に余裕ができてからも、使用人を雇うこ
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