誕生日当日の夜明け前。私・水瀬若菜(みなせ わかな)は、藤堂清貴(とうどう きよたか)が用意してくれた会場にこっそり指輪を忍ばせ、彼を驚かせてやろうとしていた。思いがけず、扉の向こうでは、まだ明かりがついていた。床いっぱいに散らばった色とりどりの風船。その中心で、清貴は何事もなかったように、ひとつ、またひとつと風船を結んでいる。「別れるどころか、桃花まで呼んで誕生日会の準備をさせるなんて。お前、本気かよ?」誰かの声がした。清貴は退屈そうに煙草の火をもみ消した。「あいつ、すぐ傷つくからな。別れるのも面倒なんだよ」伸ばしかけた私の手が、扉の前で止まる。隣にいた佐伯桃花(さえき ももか)が、くすりと笑った。「私たち、賭けてるの。十二星座の恋人を先に全員そろえたほうが勝ち。負けたほうは、相手の願いを一つ聞くって。清貴にとっては、あの子がもう十一人目よ。今さらやめるわけないじゃない」扉一枚を隔てて、彼の声はあまりにもはっきり聞こえた。「当然だろ。次の相手なら、もう見つけてある」扉の隙間から見えた清貴の横顔。冷たくて、知らない人みたいな顔だった。指輪を外し、父に頭を下げて用意してもらったプロジェクト契約書と一緒に、近くのゴミ箱へ捨てた。それきり、私はもう二度と振り返らなかった。背後で、誰かが聞いた。「で、あの子は何座なんだっけ?」「さそり座」ねえ、清貴。さそり座の女が、いちばん執念深いって知らなかった?玄関まで来たところで、スマホの画面がふっと明るくなった。【若菜、明日の誕生日会、絶対気に入ると思う。かなり気合い入れて飾りつけしたんだぞ】清貴からのメッセージが、次々と画面に浮かぶ。風船。花束。楽しそうに笑う友人たち。どれも、彼がこの誕生日会にどれだけ力を入れているかを物語っていた。【なんで返事しないんだ?既読になってるだろ】【何かあるなら、ちゃんと話してくれ。二人で向き合っていかないと、長く続かないだろ】長く?一度でも、私と長く付き合うつもりなんてあったの?送信ボタンの上で止まっていた指を、そっと下へずらす。打ち込んでいた【清貴、別れよう】の文字を消した。彼に聞きたかった。少しでも、私のことが好きだったのかを。そして、今までの優しさ
Read more