エレベーターの中で電波が入らず、長松藍那(ながまつ あいな)からの電話を一本取り損ねた。次の瞬間、届いたのは婚約破棄の知らせだ。【婚約はなかったことにしよう。もう和磨と結婚する気はないの。奏の具合が悪いから、今は彼の家で看病してるの。邪魔しに来ないで】それは、藍那が時田奏(ときだ かなで)のために、俺へ突きつけた99度目の婚約破棄を告げる知らせだ。けれど今回は、あまりに辛すぎて、引き留めることさえできなかった。その時、不意に視界いっぱいへコメントが流れ込んできた。【なんでまだ藍那ちゃんを引き留めに行かないの?彼女は和磨くんのことが大好きなんだよ!ただ気持ちを伝えるのが下手なだけ!】【藍那は奏のことなんて好きじゃない!彼に近づくのも、婚約破棄を繰り返すのも、全部和磨にやきもちを焼いてほしいからなんだよ!】【本当に来てほしくないなら、自分がどこにいるか教えるわけないでしょ!早く迎えに行って、ちゃんと機嫌を取ってあげて!】思わず眉をひそめた。――まさか藍那は、本当は俺のことが好きなのだろうか?けれど、そんなふうに伝わってこない想いなんて、もういらない。疲れ切った体を引きずるようにして立ち上がり、家へ戻って荷物をまとめ始めた。その一方で、流れるコメントはなおも藍那をかばい続けている。【行かないで!藍那ちゃんは本当に和磨くんのことが大好きなんだよ!あの「入っちゃダメ」って言われてる部屋には、和磨くんを想ってる何よりの証拠がすべてしまってあるんだから!】思わず息を飲み、振り返って固く閉ざされたあの部屋を見つめた。藍那は、一度だってあの部屋へ入らせてくれたことがない。一度だけ、こっそり入ろうとしたことがあった。けれど、すぐに見つかってしまった。あの時、彼女はひどく怒って、婚約を破棄すると言い出した。婚約破棄という言葉が、初めて彼女の口から出たのは、あの時だった。俺は惨めなくらい必死になって、一晩中謝り続けた。「藍那、ごめん!もう二度とあの部屋には近づかない。だから、お願いだから怒らないでくれ」それ以来、あの部屋には近寄ることすらできなくなった。だから俺は、あの部屋にはきっと、藍那と奏の思い出がぎっしり詰まっていると信じ込んでいた。なのに、あのコメントは言った。あの部屋には、藍那が俺
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