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99回婚約破棄された俺は去る

99回婚約破棄された俺は去る

作家:  無敵爆買い完了
言語: Japanese
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概要

切ない恋

男性視点

後悔

エレベーターの中で電波が入らず、長松藍那(ながまつ あいな)からの電話を一本取り損ねた。 次の瞬間、届いたのは婚約破棄の知らせだ。 【婚約はなかったことにしよう。もう和磨と結婚する気はないの。 奏の具合が悪いから、今は彼の家で看病してるの。邪魔しに来ないで】 それは、藍那が時田奏(ときだ かなで)のために、俺へ突きつけた99度目の婚約破棄を告げる知らせだ。 けれど今回は、あまりに辛すぎて、引き留めることさえできなかった。 その時、不意に視界いっぱいへコメントが流れ込んできた。 【なんでまだ藍那ちゃんを引き留めに行かないの?彼女は和磨くんのことが大好きなんだよ!ただ気持ちを伝えるのが下手なだけ!】 【藍那は奏のことなんて好きじゃない!彼に近づくのも、婚約破棄を繰り返すのも、全部和磨にやきもちを焼いてほしいからなんだよ!】 【本当に来てほしくないなら、自分がどこにいるか教えるわけないでしょ!早く迎えに行って、ちゃんと機嫌を取ってあげて!】 思わず眉をひそめた。 ――まさか藍那は、本当は俺のことが好きなのだろうか? けれど、そんなふうに伝わってこない想いなんて、もういらない。

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第1話

第1話

エレベーターの中で電波が入らず、長松藍那(ながまつ あいな)からの電話を一本取り損ねた。

次の瞬間、届いたのは婚約破棄の知らせだ。

【婚約はなかったことにしよう。もう和磨と結婚する気はないの。

奏の具合が悪いから、今は彼の家で看病してるの。邪魔しに来ないで】

それは、藍那が時田奏(ときだ かなで)のために、俺へ突きつけた99度目の婚約破棄を告げる知らせだ。

けれど今回は、あまりに辛すぎて、引き留めることさえできなかった。

その時、不意に視界いっぱいへコメントが流れ込んできた。

【なんでまだ藍那ちゃんを引き留めに行かないの?彼女は和磨くんのことが大好きなんだよ!ただ気持ちを伝えるのが下手なだけ!】

【藍那は奏のことなんて好きじゃない!彼に近づくのも、婚約破棄を繰り返すのも、全部和磨にやきもちを焼いてほしいからなんだよ!】

【本当に来てほしくないなら、自分がどこにいるか教えるわけないでしょ!早く迎えに行って、ちゃんと機嫌を取ってあげて!】

思わず眉をひそめた。

――まさか藍那は、本当は俺のことが好きなのだろうか?

けれど、そんなふうに伝わってこない想いなんて、もういらない。

疲れ切った体を引きずるようにして立ち上がり、家へ戻って荷物をまとめ始めた。

その一方で、流れるコメントはなおも藍那をかばい続けている。

【行かないで!藍那ちゃんは本当に和磨くんのことが大好きなんだよ!あの「入っちゃダメ」って言われてる部屋には、和磨くんを想ってる何よりの証拠がすべてしまってあるんだから!】

思わず息を飲み、振り返って固く閉ざされたあの部屋を見つめた。

藍那は、一度だってあの部屋へ入らせてくれたことがない。

一度だけ、こっそり入ろうとしたことがあった。けれど、すぐに見つかってしまった。

あの時、彼女はひどく怒って、婚約を破棄すると言い出した。

婚約破棄という言葉が、初めて彼女の口から出たのは、あの時だった。俺は惨めなくらい必死になって、一晩中謝り続けた。

「藍那、ごめん!もう二度とあの部屋には近づかない。だから、お願いだから怒らないでくれ」

それ以来、あの部屋には近寄ることすらできなくなった。

だから俺は、あの部屋にはきっと、藍那と奏の思い出がぎっしり詰まっていると信じ込んでいた。

なのに、あのコメントは言った。

あの部屋には、藍那が俺を想っていた証が残っている、と。

信じられない思いでドアノブを握り、勢いよく扉を押し開けた。

目に飛び込んできたのは、一面に飾られた俺の写真だ。

何気ない日常の一枚。

卒業式の写真、旅行先で撮った写真、社会人になった日の写真。

成長してきた日々の一つひとつが、まるでずっと見守られていたかのように、写真へ切り取られていた。

机の上には、以前俺が勧めた雑誌まで並んでいた。

「つまらない」と口では言っていたくせに、陰では何冊も買い集めていたらしい。

その隣には、分厚い日記帳が積まれていた。

そこには、俺を恋しく思った瞬間、その積み重ねがびっしりと綴られていた。

信じられず、何度も何度も読み返した。

気づけば視界がぼやけていた。

――藍那、そんなにも俺のことを想ってくれていたのか。

だったら俺へ向けたあの冷たい仕打ちは、一体何だったんだ。

奏とのあの近すぎる距離は、一体何だったんだ。

それでも流れるコメントは、なおも彼女を弁護し続けている。

【藍那は自分に自信がないだけだよ。何度も和磨を突き放したのは、その気持ちを確かめたかったからに過ぎないと思う!】

【和磨くん、早く迎えに行ってあげて!藍那ちゃんは奏くんの家で、和磨くんが引き留めに来るのをずっと待ってるはず。このままじゃ、彼女は本当に悲しんでしまうよ!】

けれど今回は、もう彼女の機嫌を取るつもりはない。

荷物をまとめ終え、明日にはここを離れると決めた。

翌朝、目を覚ますと、藍那がベッドの脇に座っていた。目は赤く充血し、不機嫌そうな顔でじっと俺を見つめている。

昨夜、俺が迎えに行かなかったことが、よほど気に入らなかったのだろう。

彼女は何も言わず、俺を無視したまま着替え始めた。その拍子に、鎖骨から胸元にかけて無数に残るキスマークが、ちらりとのぞいた。

それがわざと見せつけるためのものだということくらい、わかっている。俺にやきもちを焼かせるためだけだ。

それでも、キスマークを目にした瞬間、胸がずきりと痛んだ。

俺の反応を見た藍那は満足そうに口角を上げた。だが次の瞬間には、冷え切った表情へ戻った。

「和磨、こうしたら私の気持ちが変わると思わないで。今回は本気よ。絶対に婚約は破棄するから」

――また、その言葉か。

婚約破棄を持ち出して俺を揺さぶるたび、彼女は決まって同じことを口にする。

それでも俺は、毎回「今度こそ本気かもしれない」と怖くなり、泥に這いつくばるようにすがりついてきた。

土下座して謝り、許しを請い、誓約書まで書く。

そんな日々が、この10年間のすべてだった。

俺が立ち上がると、藍那は勝ち誇ったようにこちらを見た。また以前のように必死に謝ると思っているのだろう。

だが俺は、脇に置いてあったスーツケースを手に取ると、そのまま部屋を出ようとした。

彼女は信じられないという顔で俺を見つめ、震える声を漏らした。

「立原和磨(たちはら かずま)!どういうつもりなの?」

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レビュー

ノンスケ
ノンスケ
試し行動は愛情に飢えている人がやることだけど、彼女はどこまでやれば気が済んだんだろうが。しかも流れてくるコメントは何ん?
2026-08-07 22:35:00
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第1話
エレベーターの中で電波が入らず、長松藍那(ながまつ あいな)からの電話を一本取り損ねた。次の瞬間、届いたのは婚約破棄の知らせだ。【婚約はなかったことにしよう。もう和磨と結婚する気はないの。奏の具合が悪いから、今は彼の家で看病してるの。邪魔しに来ないで】それは、藍那が時田奏(ときだ かなで)のために、俺へ突きつけた99度目の婚約破棄を告げる知らせだ。けれど今回は、あまりに辛すぎて、引き留めることさえできなかった。その時、不意に視界いっぱいへコメントが流れ込んできた。【なんでまだ藍那ちゃんを引き留めに行かないの?彼女は和磨くんのことが大好きなんだよ!ただ気持ちを伝えるのが下手なだけ!】【藍那は奏のことなんて好きじゃない!彼に近づくのも、婚約破棄を繰り返すのも、全部和磨にやきもちを焼いてほしいからなんだよ!】【本当に来てほしくないなら、自分がどこにいるか教えるわけないでしょ!早く迎えに行って、ちゃんと機嫌を取ってあげて!】思わず眉をひそめた。――まさか藍那は、本当は俺のことが好きなのだろうか?けれど、そんなふうに伝わってこない想いなんて、もういらない。疲れ切った体を引きずるようにして立ち上がり、家へ戻って荷物をまとめ始めた。その一方で、流れるコメントはなおも藍那をかばい続けている。【行かないで!藍那ちゃんは本当に和磨くんのことが大好きなんだよ!あの「入っちゃダメ」って言われてる部屋には、和磨くんを想ってる何よりの証拠がすべてしまってあるんだから!】思わず息を飲み、振り返って固く閉ざされたあの部屋を見つめた。藍那は、一度だってあの部屋へ入らせてくれたことがない。一度だけ、こっそり入ろうとしたことがあった。けれど、すぐに見つかってしまった。あの時、彼女はひどく怒って、婚約を破棄すると言い出した。婚約破棄という言葉が、初めて彼女の口から出たのは、あの時だった。俺は惨めなくらい必死になって、一晩中謝り続けた。「藍那、ごめん!もう二度とあの部屋には近づかない。だから、お願いだから怒らないでくれ」それ以来、あの部屋には近寄ることすらできなくなった。だから俺は、あの部屋にはきっと、藍那と奏の思い出がぎっしり詰まっていると信じ込んでいた。なのに、あのコメントは言った。あの部屋には、藍那が俺
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第2話
静かに彼女を見つめながら、俺は言った。「藍那がそう言うなら……わかった。今回は断らない。婚約はなしにしよう」藍那は目を見開いて俺を見つめた。だがすぐに何かを思い出したように鼻で笑った。「和磨、前にも家出したことがあったでしょ?1日ももたずに戻ってきて、許してくれってすがってきたの、もう忘れたの?また家出するつもり?今度はどれくらい続くのかしら?1日?3日?どうせまた捨て犬みたいに戻ってきて、許してくれって頼むんでしょ」俺は何も返さず、そのまま振り返ることなく家をあとにした。今回は自分でも驚くほど踏みとどまれた。丸々1週間、藍那のもとを訪ねることは一度もなかった。彼女はこれまでと同じように、わざと俺を挑発するように奏との仲睦まじい様子を送りつけてきたが、俺は会いに行かなかった。それを見ていられなくなったのか、流れるコメントが一斉に俺へ呼びかけた。【和磨!藍那がどれだけあなたに会いたがってるかわかってるの?お酒を浴びるように飲み続けて、血を吐くほどになってるんだよ!】【藍那ちゃんは本当に奏くんのことが嫌いなの!和磨くんにやきもちを焼いてほしいから、仕方なく仲良くしてるふりをしてるだけよ!】すべてを見通すようなそのコメントを目にしても、藍那が俺のためにそこまで苦しんでいるなんて、どうしても信じられない。今でもはっきり覚えている。大学の創立記念式典の日。新入生代表として壇上に立った藍那は、眩しいほど輝いていた。照明のスポットライトさえ、彼女を引き立てる脇役に思えるほどだった。俺はひと目で恋に落ち、勇気を振り絞ってラブレターを渡した。けれど彼女は、その手紙をみんなの前で読み上げ、俺の想いを笑いものにした。教室中が笑いに包まれる中、彼女は読み終えた手紙を何気なくゴミ箱へ放り投げた。あの日からずっと、俺は追いかける側だった。何度断られても、それでも諦めきれず、みっともなく彼女のあとを追い続けた。奏と比べられることが何度あっても、彼女を恨んだことは一度もなかった。ようやく付き合い始めたあとも、彼女はどこかよそよそしいままだった。だから俺は、この恋は無理やり手に入れたものなんだと思い込み、いつも顔色をうかがい、逆らうことなどできなかった。けれど真実を知った今となっては、これまでの自分がひどく滑
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第3話
二人は婚約指輪を交換し、互いの薬指にそっとはめると、そのまま人目もはばからず唇を重ねた。その瞬間、式場の天井からふわりと白い羽根が舞い始め、軽やかに招待客たちの肩へ降り積もっていく。俺は一枚の羽根を拾い上げた。羽根が舞う挙式にしたいという藍那の夢のために、たくさんの準備をしてきた。今の演出に使う羽根だって、俺が自分で選んで買いそろえたものだった。なのにそのすべては、藍那によって別の男のために使われている。目の前の幸せそうな光景に、会場は祝福の拍手と歓声に包まれた。その一方で、俺へ向けられる嘲笑も波のように押し寄せてくる。「やっぱり長松さんには時田さんのほうがお似合いよね。それにしても、お金持ちのお嬢様が昔、どうして立原和磨なんかを相手にしたのかしら」「しつこく付きまとわれてただけでしょ。ほら、婚約した今でもまだ未練がましく追いかけてるじゃない」「今日は長松さんと時田さんの婚約披露なのに、立原は何をしに来たんだ?まさか奪いに来るつもりか?見苦しいな」「あいつ、本当にみっともないよね」誰もが俺を指差して好き勝手に笑っている。報道陣のカメラまで一斉に俺へ向けられ、まるで婚約式を台無しにしようと現れた身の程知らずの男として映し出されていく。俺は慌ててカメラから逃げた。胸の奥では、憎しみだけが静かに膨れ上がっていく。――藍那、どうしてこんなことをしたんだ。どうして俺をここへ連れてきたんだ。どうして希望を見せておいて、最後にすべて叩き壊したんだ。そのとき、藍那も俺の落ち込んだ様子に気づいた。だが彼女は、それを俺がやきもちを焼いているからだと思い込み、むしろ満足そうに微笑んでいる。彼女は知らない。奏の手を取ったあの瞬間。みんなの前で俺が笑いものにされるのを見過ごしたあの瞬間。俺の中に残っていた彼女への想いは、すべて終わったのだということを。逃げるように控え室へ駆け込み、中から鍵をかけた。握り締めた羽根を壁に叩きつけ、拳を固く握りしめた。目頭が熱くなったが、歯を食いしばってこらえた。それでも、藍那は俺を逃がしてはくれなかった。隣の部屋へ、彼女が奏を連れて入ってくる音が聞こえた。やがて、唇が重なり合う気配と、藍那の熱を帯びた吐息が壁越しに伝わってくる。「んっ……奏……」奏は、俺がすぐ隣にいると
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第4話
俺は息をのんだ。何が起きたのか理解する間もなく、藍那が突然駆け寄ってきて、俺を押しのけた。そして奏の様子を心配そうにうかがうと、怒りに満ちた目で俺を睨みつけた。「和磨が奏を突き落としたの?」俺は必死に首を振った。「違う!俺じゃない!自分からわざと転げ落ちたんだ!俺に罪を着せようとしてるだけだ!」だが奏は苦しそうにうめきながら、俺を指差した。「藍那、俺を突き落としたのは立原だ!式場を俺に譲ったことを恨んで、俺を殺そうとしたんだ」俺がさらに言い返そうとした、その瞬間。パンッと乾いた音が響いた。藍那の平手が、俺の頬を強く打った。「もういい!和磨じゃなかったら誰なの?私と奏が婚約を結んだのが気に入らなくて、殺そうとしたんでしょう!やきもちを焼いてるのはわかってる。でも、ここまで卑劣な人間だなんて思わなかった。もし奏に何かあったら、絶対に許さないから」そう言い放つと、彼女はボディガードたちへ命じた。「この人を冷凍倉庫へ閉じ込めておきなさい。そこで頭を冷やして反省させて」頬の痛みを感じながら、俺は信じられない思いで彼女を見つめた。「藍那!違うって言ってるだろ!どうして防犯カメラを見ようともしないんだ?どうして俺の話を信じてくれない……」だがボディガードたちは俺の腕を乱暴に掴み、そのまま冷凍倉庫の中へ放り込んだ。重い扉が閉まる、その最後の一瞬。藍那は奏を支えたまま、少しずつ俺から遠ざかっていった。俺は絶望の中、壁を蹴りつけ、何度も扉に体当たりしたが、びくともしない。体温はどんどん奪われ、全身が激しく震え始めた。そのとき、また視界にコメントが流れた。【藍那ちゃんは表向きは怒ってるけど、本当はめちゃくちゃうれしいんだよ!和磨くんがやきもちを焼いてくれたって思ってるから!】【本当は藍那は罰したいなんて思ってないよ。彼女と奏は何もないし、全部和磨をやきもち焼かせるためのお芝居。でも最後まで演じ切らなきゃいけないから、和磨には我慢してもらうしかないんだ】その文字を見つめながら、俺は自分の目がおかしくなったのではないかと思い始めた。――藍那は、本当に俺のことを愛しているのか。もし本当にそうなら、どうしてこんな残酷なやり方で俺を傷つけられるんだ。寒さに耐えきれず、体を丸めた。冷気
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第5話
そう言い終えるよりも早く、塩水に浸された鞭が俺の体へ振り下ろされた。「ぁあっ!」焼けつくような痛みが全身を貫き、息すらできない。だがその人は手を止めようとせず、続けざまに二発目の鞭が叩きつけられた。肌が裂けるような激痛に震え、全身は血に染まり、逃げ出そうとしてもすぐに引き戻され、容赦なく鞭を浴びせられ続けた。宴会場の誰一人として俺を気の毒に思う者はいない。むしろ、この惨めな姿を見て笑っている。俺は怒りを込めて彼らを見据え、一語一語噛みしめるように言った。「藍那がこのことを知ったら、君たちを絶対に許さない!」だが、その言葉に返ってきたのは嘲笑だけだ。「何寝ぼけたことを言ってるんだ!長松さんがお前のことを一番嫌ってるのは誰でも知ってる!殴られてる姿を見たら、喜ぶに決まってるだろ!」「そうよ!長松さんが愛してるのは時田さんに違いないわ!あれだけ盛大な婚約式まで開いたんだから!あなたは一体何様のつもりなの?」「長松さんはお金持ちのお嬢様だぞ?お前みたいな身分違いの男を好きになるわけないだろ!夢を見るのも大概にしろ!」もう無理だ。冷凍倉庫へ閉じ込められたばかりの体は、とっくに限界を超えている。「時田……藍那が愛してるのは、俺なんだ。だから……もうやめさせてくれ。もし俺がここで死んだら……藍那は君を絶対に許さない……信じられないなら……藍那の部屋へ行ってみろ……あそこには……俺の写真しかない……」すると奏は、険しい目つきで俺を睨み返した。「藍那がお前なんかを好きなわけないだろ。立原、殴られすぎて頭がおかしくなったんじゃないのか?」周囲の人々も口々に笑い始めた。「長松さんに付きまとい続けたせいで、愛されてる妄想まで始まったか!」「どれだけ思い込んでも無駄だよ!長松さんが愛してるのは時田さんで、立原じゃないわ!」この街で、藍那が俺を愛していると信じる者は、一人もいない。――藍那、見えているか。君はみんなを完璧に騙し切った。望みどおりになったな。血だまりの中へ倒れ込んだ。意識が遠のくにつれ、これまでの記憶が走馬灯のようによみがえり始めた。死ぬ前触れだ。薄れゆく意識の中、最後に見えたのは、藍那が何もかもかなぐり捨てるように、俺のもとへ駆け寄ってくる姿だ。宴会場にいる者たちは、まだ事の重大さに
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第6話
――もし、あんな芝居を打たなければ。奏のプロポーズなど気にせず、あそこまで好き勝手に振る舞わせなければ。もし、あとほんの少しでも早く駆けつけて、和磨をこの腕で守れていたなら。何もかも、違う結末になっていたのだろうか。そのとき、不意に手術室の扉が開いた。「患者さんが大量出血しています!至急、輸血が必要です!」藍那は弾かれたように駆け寄った。「私の血を使ってください!お願いです……どうか彼を助けてください!」青白く横たわる俺の顔を見るたび、胸は締めつけられるように痛んだ。血を抜かれ続けるうちに、藍那自身も顔色を失い、ふらつき始めた。医師は輸血の中止を勧めたが、彼女は首を横に振った。「私はどうなっても構いません……この人さえ助かるなら、どれだけ血を抜かれてもいいです……」3日間眠り続け、ようやく俺は目を覚ました。傷口が焼けるように痛み、息をするだけでも苦しい。目を開けると、藍那がずっとそばに寄り添っていた。苦しむ俺の様子を見て、その表情は痛みに歪んだ。彼女は鎮痛剤を手に取り、壊れ物に触れるような手つきで俺の口へ運んだ。「和磨……まだ痛いの?」俺は残りの力を振り絞って、彼女を突き放した。「藍那……出ていけ。もう二度と君の顔なんて見たくない……」藍那の瞳が深く揺れた。俺の手を強く握り締め、涙を浮かべながら言葉を重ねた。「和磨……ごめんね……本当にごめん。私は自分に自信がなくて、気持ちを伝える勇気もなかった。和磨が私を好きじゃなくなるのが怖くて……だから、あんなひどいことばかりして、和磨の気持ちを試そうとしてしまったの……ずっと聞きたかったんでしょう……愛してるって。今、ちゃんと言うよ。愛してる。愛していたのは、ずっと和磨だけ。奏の存在なんて、和磨をやきもち焼かせるための手段に過ぎなかった……和磨が気に入ってた式場より、もっと素敵な場所を見つけるから。お願い……和磨さえ望んでくれるなら、今すぐ結婚してもいい。本気よ。もう二度と婚約破棄なんて言わない。もう二度と試すようなこともしない……」その告白を耳にしたのは俺だけではない。病室の外で様子をうかがっている者たちも、誰もが言葉を失った。藍那はいつもプライドが高く、決して弱さを見せない女性だった。そんな彼女が、ここまで取り乱した姿を見
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第7話
俺は静かに目を閉じ、それ以上、奏を見ることはなかった。その態度が俺を傷つけたと思ったのか、藍那は奏の頬を容赦なく打ち据えた。「もういい加減にして!何度も言わせないで。奏のことは別に好きじゃないし、ただ利用しただけよ。一度だって、本気で想ったことなんてない!」そう言い放つと、ボディガードたちへ命じた。「この人を連れて行きなさい。今すぐ!」奏はなおも叫び続け、どうしても現実を受け入れようとしない。だが鞭がその体へ振り下ろされるたび、悲鳴が響き渡る。それでも藍那は一度も振り返らず、ただ俺のそばで付き添い続けた。その姿を見て、奏はようやく涙を流しながら、自分がただの捨て駒にすぎなかったことを思い知った。藍那は何度も何度も俺へ謝り続けた。その場で、この街でもっとも格式の高い宴会場を10か所も予約し、「好きな場所を選んでほしい」とまで言った。それでも俺は、一言も返さなかった。藍那の瞳が赤く染まり、一粒の涙が俺の手の甲へ落ちた。「和磨……どうすれば許してもらえるの?」俺はまっすぐ彼女を見つめ、静かに言った。「藍那、実は数日前に、一度だけ……君を許そうと思ったことがあった。君の秘密は、もう知ってる。あの部屋を開けて、中も全部見た。だから、本当は君のそばを離れるつもりだった俺の気持ちは揺らいだ。宴会場へ連れて行かれたとき、君がようやく俺と結婚してくれるんだと思った。あの瞬間、本気で許そうとした。だけど君は俺じゃなく、奏の手を取った。みんなの前で俺を笑いものにした。あれが、許そうとした最後の瞬間だった。あの一度を逃した以上、もう二度とそのチャンスは来ない」言葉をすべて言い終えたとき、ようやく胸の奥に残っていた藍那への執着がきれいに消えていった。――もう、この人のために落ち込むことも、傷つくこともない。その言葉を聞いた藍那は、全身の血の気が逆流するような衝撃を受け、その場で倒れそうになった。彼女は思いもしなかったのだ。俺がとっくにあの部屋の秘密を知っていたことを。そして、一度だけでも本当に彼女を許そうとしていたことを。あのとき、俺の手を取ってくれてさえいれば。あの式場で、俺との結婚式を選んでくれてさえいれば。すべてはやり直せた。それなのに彼女は、なお俺を試そうとし、やきもちを焼かせようとし
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第8話
「でもね……私は臆病でもあったの。和磨が私の冷たい態度に愛想を尽かして、もう好きじゃなくなってしまうんじゃないかって怖くて……だから何度も和磨を突き放して、傷つけて……そんなやり方でしか気持ちを確かめられなかったの。どうしてなのか、自分でもわからない。和磨と出会ってからの私は、おかしくなってしまった。すぐ不安になって、疑って、近づきたいと思うとかえって離れてしまう。全部、和磨が好きだったからなの……」そう言いながら、藍那は突然、床へ膝をついた。「今日からはもうプライドは全部捨てる。今度は私が、惨めになってでも和磨を引き止める。お願い……もう一度だけ、私にチャンスをくれないの?」俺は何も答えず、苦しそうに目を閉じた。藍那は顔を青ざめ、慌てて身を乗り出した。「和磨?どうしたの?」布団をめくると、俺の傷口から再び血が滲み出しているのが見えた。その光景が、彼女の胸を容赦なくえぐった。藍那は慌てて医師を呼び、大切なものを失いかけた子どものように取り乱して泣き崩れた。後悔に耐えきれず、自分の頬を思い切り打った。「私なんか……和磨、ごめんなさい。全部、私のせいよ!」医師を呼び寄せ、最も高価な輸入薬まで用意させた。「和磨……熱いから気をつけてね」薬も食事も、壊れ物を扱うように少しずつ口へ運んだ。それでもまだ足りないと思ったのか、できたばかりのネイルまで無理やり剥がし、傷に触れて痛ませないよう、そっと薬を塗ってくれた。「和磨……痛かったら、ちゃんと言ってね。お願いだから、抱かせてほしい。嫌われてるのはわかってる。でも寒くないようにしてあげたいの。本当にごめんね。和磨は昔から寒さが苦手だったのに……冷凍倉庫へ閉じ込めるなんてことまでした……本当にどうかしてたの。許してほしい……」だが俺は、激しい痛みのあまり再び意識を失っていた。もちろん、その言葉に答えられるはずもなかった。藍那は丸1か月、俺につきっきりで看病を続けた。自身も貧血を抱えながら、それでも無理を押して、一歩たりとも俺のそばを離れようとしなかった。ようやく俺の顔色が少し戻った頃、彼女は初めて安堵の息をついた。俺をそっと抱き寄せ、この1か月間に起きたことを静かに話し始めた。俺へ私刑を加えた者たちは、拘留された者もいれば、有罪判決を受けた者もいる。
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第9話
その代わりに、俺から一通の別れの手紙が届いた。そこには、わずか数行だけが記されていた。【藍那へ。あのとき、君は俺を弄んだ。だから今度は、俺が騙してやった。遠い街へ行く。探さなくていい。忘れてくれ】その手紙を読んだ藍那は、胸を押さえたまま鮮血を吐き、その場で意識を失い、倒れ込んだ。その瞬間になってようやく彼女は知ったのだ。希望を抱かせたあとで、すべてを奪われる苦しみを。一方の俺は、身分も連絡先もすべて変えた。飛行機に乗り込み、空へと飛び立ったとき、ようやく心は本当の意味で解き放たれた。「藍那……さようなら」俺はヨーロッパの小さな街で、ギャラリーを開いた。穏やかで静かな日々。ようやく手に入れた安らぎだ。そんなある日、久しく姿を見せなかったコメントが、また視界へ現れた。【和磨くん、どうしてそんなに冷たくできるの?藍那ちゃんは和磨くんがいなくなって、自殺を考えたんだよ!】【和磨を探すために、使える伝手はすべて使って、昼夜を問わず探し続けたの。過労で倒れてICUに入るほどだったんだから!】【会社もボロボロだ。仕事なんて放り出して、ずっと和磨くんを探してるんだ】【お願い……藍那はもう限界なんだよ……一度だけでも会いに帰ってあげられないの?】その文字を見つめると、胸の奥がわずかに痛んだ。それでも、どうしても許すことはできない。もし何もかも許してしまえば、これまで味わってきた苦しみは一体何だったのか。コメントは藍那ばかりをかわいそうだと言っている。俺のことは誰一人として気にかけてくれない。今でも傷は疼く。雨の日になればなおさらだ。痛みで眠れない夜には、本当に死んだほうがマシだと思ってしまう。どうして誰も、俺の味方になってくれなかったんだろう。俺には愛される価値なんてないかもしれない。そう思っていた。だが、その3日後、櫻井澪(さくらい みお)という女性と出会った。俺の痛みに、本気で心を痛めてくれる人だ。最初は、新しい恋なんて受け入れられなかった。それでも彼女は急かさなかった。藍那のように近づいたり離れたりすることもない。いつだって、揺るがない安心感を与えてくれた。両親にも友人にも、「彼氏だよ」と堂々と紹介してくれた。SNSには、俺たちの写真ばかりが並んでいる。「好きだよ」
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