私は寺本眞理子(てらもと まりこ)。7歳の息子、榊原良一(さかきばら りょういち)がいる。夫の榊原淳矢(さかきばら じゅんや)は、その年になってようやく本性を現した。元恋人の中本有美(なかもと ゆみ)とその息子・津田竜太(つだ りゅうた)を連れ込み、私たちの生活を壊し始めた。町内の噂になっていることも、もう気にしなかった。ただ耐えていればいいと思っていた。だが良一が学校で竜太にいじめられたと知った時、私は決めた。もう黙ってはいない。「やり返しなさい」と、息子に言った。その夜、一ヶ月ぶりに淳矢が帰ってきた。笑いながら駆け寄った良一の頬に、父親の手が叩きつけられた。その瞬間、私の中の何かが音を立てて切れた。上品ぶった態度もなにもかも放り出して、淳矢を押しのけた。涙でぐしゃぐしゃの顔を上げ、良一が慌てて私にしがみつく。「ママ、痛くないよ。怒らないで」そう言われるほどに、胸が締め付けられる。自分が打たれたのに、親のあいだを取りもとうとするなんて、7歳のすることではない。淳矢は静かに私を見つめていた。その目は冷たく、感情の欠片もなかった。そして、言った。「お前たちには十分だ。もう、欲張るな」欲張る、か。思わず笑いが漏れた。結婚を迫ってきたのは彼の方だ。昔、家の反対で別れた女がいると聞いていたから、最初は断った。それでも彼は引かなかった。私が海外出張に出れば、翌日には向こうに現れ、ホテルも食事もすべて手配してあった。そんな男だった。物腰は柔らかく、決断は早い。強引なくせに、なぜか一線は越えない。一年もそんなふうに追われれば、どんな人間でも心が揺れる。結婚して5年。誰が見ても仲の良い夫婦だった。喧嘩をすれば三日で仲直りし、母には「五月蝿い夫婦だね」と笑われるのが当たり前だった。――それが、有美が戻ってきただけで、ここまで呆気なく崩れる。淳矢の目には、もう私たちが映っていなかった。はじめは記念日や良一の誕生日を忘れる程度だった。やがて仕事と称して家を空けるようになった。今では、隠す気もなく、あの母子を平然とそばに置く。つまり、もはや私の存在ごと無視しているのだ。耐えること自体は、まだできた。だが、あの子が私の息子を傷つけるのを黙って見ているくらいなら、母親でいる資格はない。良一を部屋に連れて行き
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