All Chapters of 今さら恋になんてときめくもんか!と思ってた私が、幸せになるなんて: Chapter 1 - Chapter 10

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第2話 屈辱

 デスクに戻れば、作るべき資料は山のようにある。遥はすぐに分析作業に没頭していった。AIは早い。もちろん遥もAIはフル活用する。けれど、そのAIに指示を出すのも、出た結果を検証するのも、やっぱり人だと思う。 あっという間に時間は過ぎ、昼休みのベルが鳴る。 ベルを合図に少し背伸びをして肩を回すと、遥はスケジュールアプリを開き、午後の予定を確認する。  打ち合わせが2件。片方は社内の定例ミーティングだからいいとして、もう一件は広告代理店との打ち合わせだ。こちらのマーケティングの方針を的確に伝え、認識の齟齬が起きないようにしないといけない。要件確認の最後の会議だから、ここで間違えると、後戻りの被害が甚大だ。 準備はできているが、資料の最終確認ぐらいはしておいた方がいい。 小さく息を吐くと、昼食のために外に出ていくことを諦め、引出しから小さな栄養補助食品を取り出した。「水野さん。それ、お昼ごはんのつもりですか?」 向かいのデスクから見とがめたような男性の声が飛んでくる。 同じ企画アシスタントの後藤だ。一つ期が下だが、とても優秀で次に自分を抜いてくのだとしたら、この後藤だろう、と遥は内心思っている。「そうよ?悪い?」 そっけなく応えると、栄養補助食品の袋をぴり、と破る。 資料なんか多少粗くたって、堂々としている方がいいのよ。 そう言った後輩の子たちの声が耳の中によみがえる。 もしそうなんだとしたら、今から自分がお昼ご飯を犠牲にしてやろうとしていることは、馬鹿すぎるかもしれない。 でも、これが自分の性分だ、しょうがない。 そっと周りを見渡して、ほとんどのメンバーがランチに行ったことを確認すると、資料を開いて、他の資料と突き合わせながらチェックを始めた。 デスクの向こうから、後藤がこちらをじっと見つめていたが、遥は気が付かなかったことにする。 今回のプロジェクトには、後藤は関わっていないのだから。  ✿ 投影資料をギリギリまで調整し、遥はノートPCを抱えると慌てて社外会議室へと走る。「あれ~水野さん。まだ会議室に行っていなかったんですかぁ?鈴木さん、とっくの昔に行来てますよぉ」 朝、柱の陰で、これからの時代は分析はAIが、とうそぶいていた後輩、小田だ。 よぉ、に、侮りの色をまた微妙ににじませる。 陰口だけでなく、こうやって堂々と面
last updateLast Updated : 2026-08-13
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第3話 出会いはInstagram

 ぷしっ、と缶ビールを開ける音が、遥の家のリビングにに二つ響く。 そのままごくごく、とビールを飲み干すと、遥と麻衣はぷはーっと大きく息をついた。 月の始まりだが、曜日は金曜。週末だ。 目の前のテーブルには、ホットプレートの上でお肉がおいしそうなにおいを立てて焼けている。二人はまずは腹ごしらえ、と、肉を取りサンチュに巻いてパクリ、とかぶりつく。 「遥。あんた優しすぎ。あの小田をのさばらせておく必要ないよ」「そうだけどさ。あの『氷の機械』の目の前で事を荒立てると、後が面倒じゃん。PCのセッティングぐらい、別にどうってことないし」「それはそうだけどさ」 ぐいっ、と麻衣はまたビールを一口飲む。 遥は黙々と新しいお肉をホットプレートに並べ、週末だからもういいよね、と言いながらニンニクのスライスを少しならべた。香ばしいいいにおいが立ち込める。「ところで遥、その藤堂さんと、会議の始めに見つめ合ってなかった?」 麻衣が香ばしいにおいに鼻をひくつかせながら、突然の爆弾発言をぶち込む。 遥はぶはっ、と飲みかけのビールにむせた。「ななな、なにを突然」「慌てるってことは、図星じゃん」 麻衣がどんどん焼けた肉をぱくついていくから、遥も負けじとサンチュにとって巻いて口に入れる。「えっとその……推しに似てたからじゃないかな」「なに?例のショートドラマ?」「うんそう」 わかってる。今の日本でニッチすぎる分野だってことは。 けれど、見慣れたアジア人なのに、欧米人かと見まごうばかりの美貌、そして繊細な演技。見てしまえば惚れないわけがない。「それにしても、そのドラマ?どこで知ったのよ」「インスタ見てごらんよ。絶対広告で流れてくるから。やたらビンタしてるし、愛人は大きい顔してるし、ショーワの昼メロかよって突っ込めるよ」「ショーワの昼メロって、また古いじゃん」「でも一周まわって、逆に新鮮よ。最近のテレビドラマじゃ見ないじゃん」 へーとでも言いたげな顔で、ビール片手に麻衣がスマホをくるくるとスクロールさせる。「あ?これ?」 麻衣がスマホの画面を見せてくるから、遥はグラスを置いてじっくり見る。「そう。でもこれ、AIドラマだね。最近は本当に多くなっちゃって。確かに見目麗しいけど、イケメンの鑑賞って感じじゃないんだよね。AIだから超絶イケメンだけどもさ」「
last updateLast Updated : 2026-08-13
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第4話 運命の人?

「あら。なんか、男みたいな人がいると思ったら、水野さんじゃないですか」 ……これが一体どういうシチュエーションなのかはちっともわからないけど、長身を引き立てるマーメイドドレスを着ている。こんなドレス着ていて、どうやったら男みたいという比喩ができるのかと、遥は発言の相手、小田日向子を見つめた。遥から鈴木を奪い取っていた職場の後輩だ。確かに、ふわふわの実に女子らしいドレスをまとってはいるが。「ねぇ水野さん。知ってました?修平って本当は、バリバリ働くタイプじゃなくて、家事得意で男性を立てる、かわいらしいタイプの方が好きなんですってよ」 ねちっこい嫌な笑い方をして、小田は遥を追い詰める。 おかしいな。悪意はある子だけど、こんなに嫌な言い方する子だったっけ。 これじゃまるで、ショートドラマの悪女じゃないの。「あーーっ!!」 遥は思わず大きな声を出す。 わかった。これはまた夢だ。昨日みたいに、いきなりビンタされるところから始まるよりましだけど、でも小田にここまで言われる始まりも、心臓によくない。 そして、修平――もう鈴木をしたの名で呼んでるのか、と思うが、それが現実なのかどうかわからないし、彼氏としてはもうどうでもいい。 夢なら気を悪くするかも、なんて考えなくてもいいんだから、この場を離れよう。 そう思って踵を返したのだが。「きゃぁぁっ」「日向子!どうした!」 悲鳴とともに何かをパチンとたたく音がした。 そしてそのあとすぐに続いた聞き覚えのある声に、いやおうなしに遥は振り向く。 えぇぇ。またでてきた、敵役の男として鈴木が。 そして、小田が自分の右頬を押さえて、目に涙をためている。 なんなの。ビンタはされてないけど昨日の夢の話が続いているのか。 嫌味な母の代わりに、嫌味な今カノが新キャラクターか?「わたし、スレンダーなドレス、すごく大人っぽくって似合ってますね、わたしかわいいドレスしか似合わないからうらやましぃんです、って言ったら、水野さんが突然……ビンタを……」 潤んだ目で、小田は鈴木に訴える。 なんと。今日はわたしがビンタをする番だったのか。いや、してないけど。 あまりのことにのけぞりそうになったが、遥は何とかこらえる。 それにしても、しっかり「遥にはかわいいものは似合わない、似合うのはわたし」という人を下げる味付けをしながら
last updateLast Updated : 2026-08-13
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第5話 はがれ始めるメッキ

 今日は、いつものイタリアンでランチね。午前中の仕事は、きっちり終わらせておいてよ。  社内チャットで麻衣から連絡が飛んできて、わかった、と遥はいいねマークを押した。昼休みぐらい、フロアの好奇心から遥を守るために外に連れて行く、と言う麻衣の優しい意志を感じて、遥の気持ちが少し緩む。 だけど、本当にランチ行けるかな。 少し不安に思いながらチーム定例の場についた。 もともと、このチームでは修平が実務リーダーで仕切ってはいたが、昇格したことでより堂々と議事を進行していく。 緊張感をはらみながら進捗状況が共有される中、遥は痛む胃をこらえながら手を上げる。「あの。製造部門から、最終試作品の上りが一週間遅れる、と連絡があり……」「どういうこと、それ」 すべてを言う前に、修平がとがめるように声を出す。「試作の上りが遅れたら、製品写真撮りのスケジュールが狂っちゃうじゃん?なんでちゃんと調整しないわけ?」「調整はっ……」 反論しようとする遥を見ることもなく、修平が言葉をかぶせてくる。「でも遅れるんだろ?仕事は結果がすべてだよ。遅れてしまうなら、調整したって言わないんだよっ」 吐き捨てるように修平が言う。視界の端に、嘲笑を浮かべた日向子の顔も目に入った。さすがに遥の頭の血が逆流する。 口を開こうとしたとき、横から冷静な声が響いた。麻衣だ。「お言葉ですけど鈴木さん。バッファを見てスケジュールを立てていた水野さんのブツ撮りの日程を強引に前倒ししたのは鈴木さんですよ。一か月も前のことですからもう忘れました?議事録出しますけど」 同時に、大型ディスプレイに一か月前の議事録が投影される。 たしかに、鈴木が製品写真撮りのスケジュールを前倒しすることを決定した、と記録されている。「だっ、だけど、それを承知した方にも責任があるだろう!」「水野さんは間に合わないリスクが高い、と発言したことが記録されています。そのあと、製造部に知り合いがいるから根回しするから前倒せ、って言っている鈴木さんのお言葉も記録されていますよ。よくご覧になってください」 麻衣がとどめ、とばかりに鈴木の発言の個所をズームインする。「根回し、どうなっているんですか?」 ぐ、とつまった鈴木を見て、マネージャーの原が仲裁に乗り出す。「ま、鈴木もこのところ昇格で負担が増えていたからしょうがない。
last updateLast Updated : 2026-08-13
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第6話 反撃ののろし

 涼やかな後藤の声がフロアに響いた。「ミスを隠してどうにかしようなんて、いつの時代の話ですか?今の世の中、もう令和ですよ。何でも透明性を確保して進めるのが一番です」「おまっ」 鈴木がガタッ、と立ち上がり、その場の雰囲気が一気に悪くなる。  自分が起こした行動で思わぬ波紋が広がり、遥は思わず痛み始めた胃のあたりを押えた。そして場を収めるために口を開こうとした瞬間。「鈴木、落ち着け。ちょっといい気になりすぎだ。後藤の言い方もどうかと思うが、一理ある」 いつも鈴木の肩を持つマネージャーの原が静かに声を上げた。「お前がいつも、何かの調整をするときに今回の水野のように投稿する癖さえつけていれば、俺はお前が製造部に根回ししてないということに気が付いてフォローもできた。だが、お前は常にどこにも投稿しないし報告もしてこないから、『今回も見えてないだけで、根回ししているんだろう』と思ってしまった」 原は短く息をつく。「すべてうまくいけばいいが、やはり抜けてしまうこともあるだろう。今回のように。鈴木、少しやり方を考え直せ。……水野」「は、はい」「チャンネル投稿は間違ってないから気にするな。悪いがリスケのフォロー、頼む」 今までマネージャーの原にフォローされた記憶のない遥は、何が起きているかよくわからないながら、何とか頭を下げて了解の意を伝える。「打ち合わせ、行ってくる」 原はノートPCをパタリ、と閉じると小脇に抱えて会議室に向かってしまう。 原がとりなし、その後すぐ退場したことでようやく弛緩した空気の中。 ほとんどのメンバーがPCに向き直って仕事を再開していっているというのに、小田だけは険しい笑顔でこちらに歩いてきた。 逃げた方がいいかもしれない。 本能的にそう思った遥だが、うまくその場を離れる方法を思いつくことができない。小田はあっという間に遥の前までやってきた。「鈴木さんのあとは、マネージャーに鞍替えですか?意外と男好きするんですね、水野さん」 嫌味な嫌な笑顔で、痛烈な皮肉を言う。 あの、麻衣と飲んだ夜に見た夢での小田、そっくりな笑顔と発言内容だ。 ……あの夢、あながち間違いじゃないんだなぁ。 まさかの夢と同じ現実に思わず毒気を抜かれ、反撃も忘れ呆然と歩き去る小田の背中を、遥は見送る。 がん、と大きな音を立てて鈴木が席に座り直したこ
last updateLast Updated : 2026-09-17
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第9話 反撃ののろし

「わたしに主担当になれ、ってのはただ、仕事を円滑に回したいだけだとは思うんだけどさ」 藤堂と短い打ち合わせをした、翌日の昼休み。 少し早めに職場を抜け出して、見晴らしのよい窓際のカウンター席で、遥は麻衣と昼食を取る。ついでに、主担当になってほしい、という藤堂のある意味爆弾発言を、なるべくなんでもないかのように麻衣に聞かせた。 このところずっと胃の調子が悪い遥は、売店のレトルトのおかゆだ。社食備え付けの電子レンジが役に立つ。 温め過ぎたおかゆで舌を火傷しないよう、そおっとスプーンでおかゆを口に運んでいる遥を横目に、麻衣はサンドウィッチとスープで優雅にランチを楽しむ。「とはいえ、あの『氷の機械』がよくもまぁ、そんな越権行為のようなことを言ったわわねぇ」 たしかに、チーム人員のやりくりは外から口出しすることでもないし、そもそも藤堂は受注側だ。発注側の人員配置にに口を出すなど、とんでもないことのはずだ。そして、それがわからない藤堂でもないはずだ。「それはそう!」 遥は、まず麻衣の言い分に同意をし、さらに引っかかり続けていることを口にした。「でもなんでわたしなんだろ。鈴木君が気に入らないなら、普通、その上位のマネージャーを指名しない?」「あんたが気に入ったんじゃないの?」 思わず熱いおかゆをそのまま飲み込みそうになって、遥は慌てる。「き、き、気に入ったって……そ、そんな対した働きぶりを見せたわけじゃないわ」 明け方の夢の、壁ドンしてきた藤堂の姿を思い返して、心臓の鼓動が乱れる。 麻衣は夢を知らないんだから、そんな好いた惚れたの方向では絶対言ってない。 麻衣は自分にそう言い聞かせて、あえて「働きぶり」という言葉を使い、注意深く仕事の話として平静を保つ。「そう?はたから見ていたら、あのリスケの調整の仕方は十分シゴデキよ?」「そうかなあ」 麻衣が、仕事ぶりの話に振ったので、早とちりしなくてよかった、と遥は安心する。 しかし、麻衣はあっさりそんな遥の気持ちを裏切った。「でも本当に、遥のことを異性として気にし始めたかもしれないわよ?」「ちょっ」 おかゆを呑み込んだ後でよかった、口に何か入ってたら、確実に吹き出してた。 壁ドンをしてきた藤堂のイケメンぶりが浮かび、遥はうろたえる。「まぁ、異性として、っていうのは冗談としても。あの藤堂さんなら
last updateLast Updated : 2026-09-22
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