香澄は鼻で笑い、離婚協議書にちらりと目を落とすと、うんざりした表情を浮かべた。「修司、予定では今ごろ海外で商談中のはずでしょう。ここで私にくだらないことを言っている時間じゃないわ」「3分後には会議が始まるの。もう帰って」まともに取り合おうともしない香澄を見ていると、笑いさえ込み上げてきた。口を開こうとしたそのとき、アシスタントの相原颯人(あいはら はやと)がいきなりドアを開けて入ってきた。「高宮社長、準備できました。そろそろ遊びに行きましょう……あれ?桐谷社長もいらしたんですね。僕は席を外します」颯人が残念そうに引き返そうとすると、香澄はすぐに呼び止めた。「いいのよ。この人はもう帰るから」眉をひそめて俺を見る目には、さっさと出ていけという気持ちがありありと浮かんでいた。俺はゆっくりと離婚協議書を開き、署名欄を指で叩いた。「署名してくれ。そうしたらすぐに帰る」香澄は立ち上がり、眉間に深いしわを寄せた。俺をにらみつける目に、怒りが渦巻いている。室内の空気が張り詰めた。入り口にいた颯人は異変を感じ取ったのか、すぐにうつむいて俺に謝った。「すみません、桐谷社長。契約のお話をされているとは知らず、お邪魔してしまいました。失礼します!」そう言いながら、傷ついたような目で香澄を一度見て、部屋を飛び出していった。香澄の顔色がたちまち変わった。焦りをあらわにしながらペンをつかむと、乱暴な字で署名した。「ルールを破ったんだから、帰ったら罰を受けてもらうわよ」冷たく言い残し、人目も気にせず颯人を追いかけていった。誰もいなくなった社長室で、俺は小さく笑った。香澄は何事も決めたとおりでなければ気が済まず、ルールにも異常なほど厳しかった。結婚してからというもの、家庭内のあらゆることが香澄の作ったスケジュールに沿って進められてきた。少しでも時間に遅れたり、予定どおりにできなかったりすれば、香澄は何日も口を利かず、家庭の予定から相手を締め出した。初めのうちは、日和にも容赦なく注意していた。だが、やがて日和まで香澄のやり方を真似るようになり、家庭の中で責められるのは俺だけになった。結婚して7年。香澄が取り乱す姿など、一度も見たことがなかった。それなのに昨日の誕生日会では、酔った香澄が颯人に抱きかか
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