家に帰る途中、放心状態だった私は、通りかかったバイクにはねられて地面に倒れ込んだ。バイクに乗っていた中年の男は、悪態をつきながら何度も私を振り返った。「死ぬなら余所で死ねよ、人様に迷惑かけんな」脚に走る痛みと、男の怒りに満ちた視線に急かされるように、私は無意識のうちに瑛司に電話をかけていた。電話は繋がったものの、誰も出ない。聞こえてくるのは、男女が睦言を交わす、艶めいた声だけだった。「瑛司さん、私と婚約者、どっちがすごい?」「あいつか?何もかも申し分ないんだけどな、ベッドの上じゃまるで死んだ魚みたいで、反応がまったくないんだよ……」続いて聞こえてきたのは、顔が熱くなるような、際どい声だった。私は電話を切り、目を閉じた。心はすでに、冷たい灰と化していた。通りがかりの親切な人が、私を病院まで運んでくれた。診察したのは、瑛司の同僚である神谷隼人(かみや はやと)だった。足首の骨折だと診断されたが、私が妊婦であるため、迂闊に薬は使えないという。私がまだ妊娠のことを瑛司に伝えていないと知り、隼人は目を丸くした。「妊娠したのに、どうして言わないんだ?もしかしたら、それがきっかけで彼の記憶が戻るかもしれないだろう」私は苦笑いを浮かべた。「それで治るような人なら、そもそもきっかけも刺激も必要もないでしょうね」この何日も、瑛司のことで眠れず食も喉を通らず、体重は5キロ近くも落ちた。それでも瑛司は相変わらず、ほかの女の上で励んでいるのだ。隼人は私の頼みに押し切られ、渋々ながらも了承してくれた。とはいえ骨折した身では自力で帰れるはずもなく、実家の家族も皆遠方に住んでいる。「やっぱり瑛司さんに迎えに来てもらった方がいい。一人じゃ、道中で何かあったら心配だ」ところが電話が繋がって二言三言も話さないうちに、受話器の向こうで瑛司が何度も鼻で笑った。「足首の骨折だと?さっきまで普通に歩いてたのに、なんで急に骨折したんだ?早坂さんも、なかなかやるじゃないか。俺にまとわりつくために、自傷芝居まで打つとはな」隼人は同情するような目で私を見つめ、ほかに頼れる相手はいないのかと尋ねた。私は携帯の連絡先を何度も見返した末、長らく連絡を取っていなかった友人に電話をかけた。すべての手続きを終えた頃になって、私はようやく
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