九条蒼真は、私の実の叔父だ。このことを、学校の誰も知らない。別に、わざと隠していたわけじゃない。入学初日、蒼真に図書館の前で呼び止められて、無表情のままルールを言い渡された。「学校では叔父さんと呼ぶな。親戚だってことも、誰にも言うな」「なんで?」「俺、まだ大学3年だぞ。叔父さん呼ばわりされたら、何に見える」「年上の親戚」「お前のおばあちゃんに言っとけ。20年早く産んでくれって」言うだけ言って、蒼真はさっさと背を向けて歩き出した。私は慌てて呼び止めた。「じゃあご飯代なくなったらどうするの?」振り返りもせず、銀行のカードが一枚飛んできた。「LINEしろ。使い切ったら言え」それ以来、学校では赤の他人として振る舞った。蒼真は金融学科のトップで、成績も優秀、しかも顔もいい。学内一のイケメンとして通っていた。一方の私は新聞学科の1年で、全く存在感のない、その他大勢のうちの一人だった。だから私たちを結びつけて考える人間なんて、誰一人いなかった。学部一の美女、桜小路美月(さくらこうじ みづき)が蒼真に惚れるまでは。美月は、どこからか私と蒼真のLINEのやり取りを掘り当てていた。おそらく、コンテストの期間中にスマホを預けていた隙を突いて、誰かに中を見せてもらったんだろう。蒼真が毎月私に送金していること。私が数日おきにマンションへ出入りしていること。彼のカードでスーパーの牛乳を3箱まとめ買いしたことまで、しっかり握っていた。だが、私たちの本当の関係までは知らない。知ろうともしていない。1年の女子が学内一のイケメンのマンションに何度も出入りして、しかも金まで使っている。それだけで、美月にとっては十分すぎる証拠だった。認定式は、強制的に中止になった。私はそのまま学校側に呼び出され、職員室送りになった。隣の担当教員の田村恵子(たむら けいこ)は、チョークの粉を丸ごと一箱飲み込んだような顔をしていた。「桜井さん。このやり取りについて説明してもらえますか」「家族との、普通の会話です」私がそう答えると、恵子は眉をひそめた。「家族?九条くんの家族情報に、あなたの名前はありませんけど」「彼は、私の……」「彼氏だとでも言うつもりですか?」いつの間にか職員室に入り込んでい
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