Se connecter十傑認定式の壇上に立った、その瞬間だった。 大スクリーンが、ふっと真っ暗になった。 次の瞬間、目を疑うようなトーク画面のスクショが、次々と映し出されていく。 会場を埋めた2000人の教職員と学生が、どよめいた。 映し出されたスクショのメッセージの送信者は私。受信者は最前列に座る、金融学部3年の九条蒼真(くじょう そうま)。彼は学内一の秀才で、学内一のイケメンだ。 スクショに並ぶのは、全部私が送ったメッセージだった。 【お金ない。10万円振り込んで】 【今夜そっちのマンション泊まるから、鍵開けといて】 【お金くれないなら毎日つきまとうから。社会的に終わらせてやるんだからね】 学部一の美女が、マイクを握って壇上に駆け上がってくる。そのまま私を指差し、声を張り上げた。 「皆さん、ご覧ください!桜井望(さくらい のぞみ)は清楚な優等生なんかじゃありません。お金のために九条先輩にしつこくつきまとって脅していた、たかり女です! こんな恥知らずが特待生の中でも特別な『十傑』に表彰されるなんて、絶対おかしいです!」 客席から突き刺さる、無数の軽蔑の視線。学校側の先生方の顔色は、真っ青だった。 学部一の美女が、勝ち誇った顔で私を見る。 「桜井さん。九条先輩は優しいから警察には言わないみたいだけど、今日この場で、ちゃんと反省してもらわないと」 画面に映る「たかり」の記録を見つめながら、私は思わず額に手を当てた。 本気なの? 蒼真は、おばあちゃんが歳を取ってから授かった、私の実の叔父だよ。 実の叔父のところにご飯をご馳走してもらいに行って、お小遣いをねだっていただけ。 それのどこが、恥知らずなたかり女なわけ?
Voir plus「じゃあ、牛乳一箱持って帰ってきてよ。おばあちゃん、あれ好きだから」「持って帰らない。この前3箱買ったんだ、まだ飲み終わってないんだろ」「それ、2ヶ月前の話でしょ」「一人じゃ、そんなに早く飲みきれないよ」「私もいるじゃん」蒼真は一瞬、黙った。「飲みたいなら自分で買え」「お金ない」「毎月、生活費振り込んでるだろ」「使い切った」「まだ15日だぞ」「夕奈に焼肉おごったの。あんたが出すって言ったんでしょ」蒼真は大きく息を吸った。ポケットからスマホを取り出すと、その場で1万円振り込んだ。「足りるか?」「足りる」「牛乳は2箱でいいから」「わかった」「もう俺のカードでお菓子買うなよ」「じゃああんたも、もう服押し付けてこないで。クローゼット、もう入りきらない」「あのコートは本当に着られないだけだ。押し付けたわけじゃない」「太って見えるって、自分で言ったくせに」「実際、太って見えるんだよ」「187センチ、70キロで、誰に対して太って見えるっていうの」通りかかった女子学生たちが、この会話を耳にして、明らかに歩調を緩めた。そのうちの一人が小声で言った。「あの二人、本当に叔父と姪なんだ……」もう一人が続けた。「それにしては、仲良すぎない?」蒼真の耳の先が、わずかに赤くなった。そのまま背を向けて歩き出した。「忘れ物すんなよ」「何のこと?」「お前のおばあちゃんに頼まれたマフラー、俺のマンションのテーブルの上にある」「なんで早く言わないの!」「今思い出した」蒼真は数歩歩いてから、また振り返った。「それと……期末、ちゃんと試験勉強しろよ」「点数悪かったら、おばあちゃんはあんたを叩くの、それとも私?」「俺を叩く」蒼真は無表情のまま言った。「だから、お前はちゃんといい点取っとけ」私は蒼真の後ろ姿が遠ざかっていくのを見つめた。通りかかる人は、もうひそひそ話をしない。スマホを掲げて写真を撮る人もいない。掲示板に投稿する人もいない。廊下に日差しが差し込む、なんでもない火曜の午後。まるで何も起きなかったみたいだった。だが、何かが変わったことを、私は知っていた。以前は、学校で私と蒼真はただの他人同士だった。今は、廊下で牛乳
水曜の午後、教務課からメールが届いた。【桜井望さん:確認の結果、『特待生(十傑)』の選考資格が回復しましたので、今週金曜日の午後、再表彰式にご出席ください。】再表彰式の規模は、前回よりずっと小さかった。大スクリーンもなければ、2000人の大集会もない。あるのは一つの会議室と、学校の上層部、学部の上層部、それに数人の教員だけだった。だが、あるべき手続きは一つも省かれなかった。学長が自らの手で、表彰状と証書を私に手渡した。「桜井さん、この件の対応には学校側の不備があったと認識しています。お詫び申し上げます」私は証書を受け取った。「ありがとうございます」隣にいた学部長が、一言付け加えた。「田村先生はすでに担当教員の職を外れています。今後は新しい担当教員が、あなた方の学年を担当する予定です」私は頷いた。それ以上、多くは言わなかった。式が終わったあと、蒼真が本部棟の入り口で待っていた。木に寄りかかりながら、両手にミルクティーを2杯持っている。「もらえたか?」「うん、もらえたよ」私は証書を掲げて見せた。蒼真はちらりと見て、頷いた。「よし、あとで写真撮って、お前のおばあちゃんに送っとけ」「あんたが送ってよ」「なんで俺が」「あんたが送ったほうが喜ぶから。実の息子からメッセージが来たら、1週間は機嫌がいいよ」蒼真は数秒、黙り込んだ。「その言い方だと、俺が普段連絡してないみたいじゃないか」蒼真はミルクティーを私に差し出した。「ほら、飲め」私はそれを受け取った。「叔父さん」「叔父さんって呼ぶな」「ありがとう」蒼真は一瞬、動きを止めた。それから視線をそらして、ミルクティーを一口飲んだ。「何がありがとうだ、あたりまえのことだろ」蒼真は少し間を置いた。「それに、厳密に言えば俺のせいだ」「何が?」「最初から隠させたりしなければ、あいつだってこれを利用できなかった」「じゃあ、これからも隠すの?」蒼真はしばらく考え込んだ。「もう隠さない」「じゃあ、叔父さんって呼んでいい?」「学校の外でならな」「学内では?」「先輩って呼べ」「それ、前と何が違うの?」「違うのは、お前が『先輩』って呼んでるのが実は叔父さんだって、今や全
月曜の朝、学校の調査委員会が正式に美月への聞き取りを行った。その話は、夕奈が学生自治会内部から聞き出してきたものだった。調査委員会は3人:学生課の主任、監査部門の教員一人、そして金融学科の担当教員。聞き取りの内容は公表されなかった。だが、その日の午後には、学校の公式サイトに一つの通知が掲載された。長くない文面だった。【桜小路美月さんの規則違反行為に関する処分通知調査の結果、以下の事実が確認された。一、桜小路美月は、九条蒼真がコンテスト期間中に学部へ預けていたスマートフォン内の個人的なチャット履歴を、第三者を通じて不正に入手し、スクリーンショットを取った上で公然と拡散した。二、桜小路美月は、学生自治会役員の立場を利用して、九条蒼真名義の銀行カードを無断で差し押さえ、その差し押さえ期間中に本人以外による利用が2件確認された。三、桜小路美月は、学部に対し虚偽の申立資料を提出し、その結果、桜井望の表彰資格が不当に取り消された。以上を踏まえ、桜小路美月に対し、以下の処分を科す。学生自治会副会長の職務を解任する。全校に対し、公式に譴責する。本学年における一切の表彰資格を取り消す。公開の場での書面による謝罪を命じる】通知が出た瞬間、掲示板はまた騒然となった。今度は本当の意味で炎上した。【桜小路、人のスマホを盗み見た上に、人のカードまで使って買い物?これ、窃盗じゃなくて何なの?】【スクショを悪用して人を貶めるとか、こんな人が2年も学生自治会役員やってたわけ?】【桜小路美月が謝罪一つするくらいで済ませるわけ?彼女が桜井望に償わないといけない事は、謝罪一つじゃ足りないでしょ】特にあの2件の利用履歴が、致命的だった。たった4000円ではあったが、問題は金額ではなく、役職を悪用して人のカードを差し押さえ、その上で勝手に使ったという事実そのものだった。コメント欄では、法学を学んでいるという学生が、さっそく学びを活かし始めた。【これ、厳密に言えば窃盗か横領が成立する可能性がある。金額は小さくても、行為の悪質さは別問題】美月はその日の午後、謝罪の投稿をした。今回の内容は、以前茉莉が見せてくれた下書きよりもずっと長かった。明らかに、学校が書き直しを求めた結果だった。投稿には、スマホの盗み
食事をしていると、蒼真の電話が鳴った。おばあちゃんからだった。「母さん」と言いかけたところで、電話の向こうが爆発した。向かいに座っていた私にも、テーブル越しにおばあちゃんの声が聞こえてきた。「あんた、どういうつもり!?姪っ子が3日もいじめられてたのに、放っておいたのね!」「母さん、俺はコンテスト中はスマホを提出してて……」「スマホだけじゃなくて足まで提出したの?走って帰ってくることもできなかったわけ?」「あれは缶詰め状態のコンテストで……」「何が缶詰めよ!明日、あんた家に帰ってきなさい!」電話は切れた。蒼真はスマホを置くと、無表情のまま豚の角煮を箸でつまんだ。私はおそるおそる尋ねた。「おばあちゃん、めっちゃ怒ってる?」「まあまあかな」「じゃあ、明日本当に帰るの?」「帰らない。帰ったら殴られる」蒼真はまた一切れ肉をつまんで、私の茶碗に入れた。「それより、お前のルームメイトの夕奈、この数日世話になったのか?」「うん、何回もおかず分けてくれた」「よし、今度何か奢ってやれ。好きなもの頼んでいいから、俺が出す」「お年玉、4000円しかないんじゃなかったの?」「給料がある」蒼真は3年生になってから、投資銀行でインターンをしている。月給は決して低くない。おばあちゃんにもらったお年玉を使わないのは、単に記念にとっておきたいだけだった。もっとも、4000円分の記念というのも、正直たかが知れているけれど。食事を終えて寮に戻る道すがら、学内掲示板を開いた。急上昇ランキングの1位は、もう入れ替わっていた。【九条蒼真、公衆の面前で桜井望が実の姪だと認める。たかり女疑惑、まさかの大逆転!】開いてみると、最も支持を集めているコメントはこう変わっていた。【つまり生活費をねだっていたのは実の叔父さんにってことで、マンションに行ってたのも叔父さんの家でご飯をご馳走してもらいに行ってただけってこと?私たち、彼女に濡れ衣着せてなかった……?】2件目――【桜小路が人のスマホを盗み見てチャット履歴をスクショしてたって、こっちこそ本当に処分されるべきでは?】3件目――【正直、親戚じゃなかったとしても、学生自治会に人の銀行カードを差し押さえる権限なんてないよね?桜小路って、権力使
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