由衣が玄関のチャイムを鳴らしたとき、兄は石田真奈(いしだ まな)と食事をしていた。外は雨だった。一刻を争う状況で、由衣には家へ傘を取りに戻る余裕もなかった。そのせいで全身ずぶ濡れになっていた。大きな屋敷の中は明るく照らされ、ほどなくして使用人が玄関を開けた。由衣が中へ入った途端、真奈が眉をひそめる。「ちょっと待って!そんなびしょ濡れの格好で、誰が入っていいって言ったの?」由衣は相手にする気もなく、そのまま兄のもとへ向かい、死亡診断書をテーブルに叩きつけた。「紗良は本当に死んだの!あなた兄でしょ?それでも何もしないつもり?」直哉は箸を置くと、テーブルの上から紙ナプキンを一枚取り、ゆっくりと手を拭いた。由衣のほうを見ようともしない。「金が欲しいんだろ。紗良が戻ってきて真奈に謝るなら、いくらでも払ってやる」由衣は怒りで顔を青ざめさせると、テーブルの上の死亡診断書をつかみ、直哉の目の前に突きつけた。「何回言えば分かるの?紗良は死んだの!死んだのよ!死んだ人間がどうやって謝るのよ!これが死亡診断書!私の言うことが信じられなくても、これなら信じられるでしょ?」直哉が目を細め、不機嫌そうに何か言おうとした、そのときだった。真奈が突然駆け寄ってきて、由衣の手から死亡診断書を奪い取り、びりびりと何度も引き裂いた。「こんなの誰が信じるの?あなたは紗良の親友でしょ?お兄ちゃんがあなたの言うことなんて信じるわけないじゃない」床に散らばった紙切れを前に、由衣は信じられないものを見るように目を見開いた。それでも直哉は、真奈を咎めるどころか庇った。「真奈の言うとおりだ。俺の妹は真奈だけだ。紗良とはとっくに縁を切ってる。どうしても謝らないっていうなら、もう帰れ」宙に浮かびながらそれを聞いていた私は、由衣と同じように苦笑した。まさか五年も経った今でも、兄がたった一言の謝罪にこだわり続けているなんて。由衣は目を真っ赤にし、歯を食いしばった。「紗良に、どうしてあんたみたいな兄がいるのよ……」そう吐き捨てて踵を返す。だが玄関まで来たところで、五年前に私が話したことを思い出したのだろう。由衣は足を止め、涙をこらえながら、震える声で言った。「紗良が生前、一番望んでたのは死んだら家のお墓に入ることだった。遺骨
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