Todos los capítulos de どんな生活費の申請も夫の秘書に却下される件: Capítulo 1 - Capítulo 9

9 Capítulos

第1章

怜司が帰ってきたのは、すでに深夜だった。瑠奈に体を支えられ、2人で玄関を入ってくる。ソファに座っていた私と、目が合った。「まだ起きてたのか?」怜司は眉をひそめる。「今日は会社の食事会だって言っただろ」その口調はいつもどおりで、少し不満げだった。まるで何事もなかったかのように。ぴったり寄り添う2人の体を、私は黙って見つめた。私が口を開くより先に、瑠奈が慌てて一歩離れる。「紗月、誤解しないで。怜司さん、かなり飲んでたから、送ってきただけなの」怜司さん?一瞬、思考が止まった。瑠奈は大学時代、寮で同室だった友人だ。会社に紹介したのも私だった。そのころは、緊張した様子で怜司を久世社長と呼んでいたのに。いつの間に、呼び方まで変わったのだろう。瑠奈には答えず、怜司に視線を向けた。「どうして入院費を承認してくれないの?」彼は眉間をもみ、あからさまに面倒そうな顔をする。「お前の頭には金のことしかないのか?瑠奈が送ってくれたんだ。先にお茶くらい出せよ」私は座ったまま動かなかった。「56万円ものプレゼントをあげたんだから、送ってもらうくらい当然でしょ?」その言葉に、怜司の顔が険しくなる。「俺のスマホを見たのか?」こんなときまで、真っ先に私を責める。一瞬、沈黙が落ちた。先に口を開いたのは瑠奈だった。落ち着いた様子で近づき、私の腕をつかむ。「紗月、怒らないで。私があなたの友達だから、怜司さんは誕生日プレゼントをくれたのよ」私は、その手を見下ろした。1年前も、同じ手で腕をつかまれた。ただ、あのときの目に浮かんでいたのは懇願だった。「紗月、久世社長に頼んで、私を会社に入れてもらえない?いつか絶対、恩返しするから!」同じ大学で過ごした仲ということもあり、彼女がうちの会社に入社できるよう、私が手を回した。まさかその恩返しが、申請を何度も青で却下することだとは思わなかった。私は彼女の手を振りほどき、手首をこすった。瑠奈が傷ついたような目で怜司を見る。案の定、怜司は前に出て彼女を背中にかばい、冷たい目を私に向けた。「なんで瑠奈に当たるんだ?ルールを守ってるだけだろ。契約を取ってくれたから、その褒美にブレスレットを贈った。当然だ。いちいち揉め事を起こすなよ」私は腰
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第2章

目の前で書斎の扉が閉まり、2人のひそひそ話も聞こえなくなった。翌日、寝室を出ると、家にはもう誰もいなかった。食卓には使い終えた食器と、半分残った目玉焼き、コップに半分残った牛乳が置かれている。いつものように、私が片づけるのを待っていた。私は見なかったことにして、重い体を引きずり、自分の荷物をまとめた。子供部屋の小さな服も哺乳瓶も、申請を何度も青で却下されたあと、必死に節約してそろえたものだ。それらもまとめて、全部スーツケースに詰め込んだ。荷造りが終わると、仕事の先輩、藤野千晶(ふじの ちあき)に電話をかけた。母の教え子で、私が仕事を辞めたときには、長いこと思いとどまるよう説得してくれた人だ。千晶はすぐに来てくれた。私のお腹とスーツケースを見て、眉間に深いしわを寄せる。「本当に、ここまでするの?あのときはディープブルーの企画を怜司に無償で使わせて、ミレーナ市最大の取引先との契約まで取らせてあげたのに。それでも、怜司と別れられるの?」私は何も言い返さず、スマホに残っている、この2年間の生活費の申請履歴を見せた。画面を埋め尽くす青。それは、少しずつ失われていった私の自尊心のようだった。千晶はそれ以上、何も言わなかった。私の荷物を全部運び出し、帰り際にひと言だけ告げる。「紗月、目が覚めたなら、いつだって遅くないよ」お腹が少し張ったので、私はソファに座り、しばらく休んだ。スマホに通知が届く。会社全体のグループチャットだ。退職したあとも抜けずにいたが、みんな、私がいることなど忘れているのだろう。最新の書き込みは、瑠奈の新作発表だった。添付されたデザイン画を見て、指先が強くこわばる。あれは数か月前、私が2週間、夜を徹して描いたものだ。そのころは、もう一度デザイン部に戻りたいと思っていた。けれど、そのあと思いがけず妊娠し、怜司に、今はデザイン部に戻る時期じゃないと言われた。私の作品を瑠奈に渡すには、ちょうどいい時期だったらしい。私は1行打ち込んだ。【私のパソコンに入っていたデザイン画が、いつからあなたの作品になったの?】怜司がすぐに返信する。【グループででたらめを言うな】続いて、新たな通知が表示された。【瑠奈が紗月をグループから削除しました】会社へ行くと、背後
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第3章

いつも冷静な千晶が、怜司からのメッセージを見るなり、30分近く彼を罵った。私に向ける目にも、もどかしさがにじんでいる。「先生が生きていたら、あなたにどれだけ腹を立てたことでしょう」私はうつむき、小さな声で答えた。「もう弁護士さんが手続きを進めています。もらうべきものは、1円だって譲りません」千晶がため息をつく。「明日はまず入院しよう。体が一番大事だよ。お金は私が出す。でも、貸すだけだからね」私は小さくうなずいた。顔が、火であぶられたように熱い。情けなくて、みじめだった。午後、入院に必要な書類を取りに、千晶と家へ戻った。歩いたせいでふくらはぎがむくんでいた。そこをさすっていると、怜司が帰ってきた。手には折りたたみ式のペットカートを持ち、背後には瑠奈がいる。私を見るなり、彼は言った。「新しいデザインの原画を、瑠奈に渡せ」私は顔を上げる。「今、なんて言ったの?」彼の口調は相変わらず落ち着いていた。「瑠奈がプロジェクトを任されるのは初めてなんだ。彼女には今、自分の腕を磨くチャンスが必要だ。あの日、グループチャットででたらめを言ったお詫びとして、渡してやれ」ふくらはぎをさすっていた手が止まった。千晶が怒りに任せて立ち上がる。「怜司、よくもそんな図々しいことが言えるね!」千晶はそのペットカートを指さし、皮肉を込めて続けた。「一番大きな取引先を獲得して、一流の経営者たちの輪に入れるようになったのは、紗月のデザインのおかげでしょ。それなのに、また彼女の作品を取り上げて、別の女にチャンスを与えるの?今回は手ぶらじゃないんだね。ペットカート1台で買い取ろうってわけ?」怜司はうんざりした顔をした。「俺と紗月の問題だ。部外者には関係ない」瑠奈が横から説明する。「紗月、誤解しないで。これは怜司さんがポチに買ってくれたの。もう年で、歩けなくなってきたから。ベビーカーが必要なら、怜司さんに買ってもらえばいいよ」ポチは、彼女の犬だ。高級ブランドのロゴを見ていると、ばかばかしくなった。2週間前、子供のために4万円のベビーカーを買おうと、私は3回申請した。3回とも却下された。必要性がない、無駄遣いだ、予算オーバーだという理由で。それなのに、彼がペットカートを持っているのを
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第4章

私は立ち止まらず、そのまま病院へ向かった。手続きをすべて済ませてベッドに横になっても、下腹部にはまだ、下へ引っ張られるような重苦しさが残っていた。翌朝、弁護士から連絡が届く。【証拠はすべてそろいました。提訴に向けて準備を進められます】ほっと息をついたところで、千晶から電話がかかってきた。「紗月、怜司が先生のアトリエにいるの。荷物を持ち出せない」体がぐらりと揺れ、私は壁に手をついた。その瞬間、温かいものが流れ出すのを感じた。破水していた。そこへ瑠奈が、書類を手に病室へ入ってきた。「紗月、待っても無駄よ。お母さんのアトリエだって、ずっと怜司さんが家賃を払ってたんだから。鍵を開ける権利はあるの」少し間を置くと、彼女の口元の笑みが深くなった。「あなたのデザイン画も、お母さんの作品も、全部あそこにあるんでしょ」瑠奈は笑顔のまま書類を差し出す。「まず、これにサインして」最初のページを開くと、その内容に全身が冷たくなった。【西原紗月は、ディープブルー・プロジェクトに関する権利を、久世怜司に無償で譲渡する。以後のすべての派生デザインおよび改良について、西原紗月は一切関与できない】最後の条項には、こうあった。【離婚する場合、西原紗月は婚姻期間中に形成したすべての夫婦共有財産に対する権利を、自ら放棄する】手が震えた。「脅してるの?」「私じゃないわ」瑠奈はやんわりと否定するように手を振り、スマホを差し出した。電話の向こうから、怜司の落ち着いた声が聞こえる。「脅しじゃない。取引だ。サインすれば、お前の母親の作品は、すべてそのまま返してやる」温かい液体が太ももを伝って流れ続け、病衣を濡らしている。肌にまとわりついて、不快だった。「怜司、仕事を辞めるとき、あのアトリエを守ってくれることだけが条件だったのよ。約束したじゃない!」彼は一瞬黙った。それでも声は落ち着いたままだ。「紗月、俺はお前を愛してる。しかしお前が、どんどん欲張りになってるんだな」欲張り。この2年間、彼のために譲り続けてきた私が、彼には欲張りに見えていたのか。千晶の切迫した声が聞こえた。「怜司、すぐにやめさせて!その原画は折らないで!」それを聞いて、もう立っていられなくなった。私はその場に片膝
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第5章

合意書を手にして、怜司の最後の懸念も消えた。紗月は昔から気が優しい。サインさえしてしまえば、もう大したことはできない。彼は書類を助手に渡して保管させると、瑠奈を連れて自動車ディーラーへ向かった。手続きをすべて済ませ、瑠奈の手のひらに新車の鍵を置く。それでも彼女は、少し心配そうだった。「怜司さん、こんなに高価なもの、いいの?紗月が会社で騒いだら、あなたが困るんじゃない?」怜司は軽く手を上げ、自信たっぷりに言った。「心配するな。俺の個人口座から払ったんだ。誰も文句は言えない」瑠奈の目から不安が消え、甘い喜びだけが残った。けれど、彼女の従順な笑顔を見ていた怜司の頭に、紗月の顔が浮かぶ。紗月が仕事を辞めてから、無駄遣いを抑えるため、俺はルールを設けた。それなのに紗月は、いちいち俺に文句を言った。お金をもらうのが当然だとでも思っていたようで、感謝することを知らなかった。そのとき、スマホの画面が光った。紗月からのメッセージだった。怜司は反射的にうんざりした。もうすぐ出産だ。また金の話に決まっている。苛立ちながら開いたが、内容を見た瞬間、動きが止まった。申請ではなかった。離婚合意書が送られてきていた。瑠奈もそれを見た。「今回は、よっぽど怒ってるのかも。怜司さん、紗月のところへ行ってあげたら?」怜司は表情を変えず、スマホをポケットにしまった。「いつもの手だ。放っておけ。また申請してきても、青で却下しろ。少し思い知ればいい」瑠奈はうつむき、浮かんだ笑みを隠した。「わかった」2人は一緒に会社へ戻った。オフィスに入るなり、待ち構えていた助手が、青ざめた顔で駆け寄ってくる。「社長、大変です!」怜司は眉をひそめた。「何があった?」「たった今、ミレーナ市の取引先からメールが届きました。契約を打ち切ると!」怜司が勢いよく顔を上げる。「どういうことだ?」助手は瑠奈に目をやった。額に冷や汗がにじむ。「提出した新しい企画のデザインに、権利侵害があるとのことです……それに、その後のやり取りでも、こちらのデザイナーは専門性に欠け、態度も悪かったと。先方の意思は固く、翻意するつもりはないようです」瑠奈の顔に動揺が浮かんだ。慌てて言い訳をする。「怜司さん、先に
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第6章

怜司は、どうしても紗月と連絡がつかず、病院へ駆けつけた。だが、病室の前で千晶に止められた。「紗月に会わせろ!」「休んでるの」「訴えを取り下げるように言ってくれ。俺の子供を妊娠してるんだぞ。騒ぐにも限度があるだろ!」千晶が冷たく笑う。「まだ妊娠してる?騒いでる?怜司、あんたの頭は飾りなの?」中に入ろうとしていた彼の足が止まった。「どういう意味だ?」千晶は腕を組み、嘲るように言った。「紗月は早産したんだよ。あんたが、合意書にサインしろって脅していたときに!」怜司は勢いよく振り向き、背後の瑠奈をにらみつけた。「これのどこが深刻じゃないんだ?」瑠奈はうつむき、小さな声で答える。「わざと演技してると思ったの。すぐ意地になるって、あなたが言ったんでしょ?」怜司は彼女から視線を外し、声を落とした。「今の紗月には、俺が必要だ。入れてくれ」千晶は動かなかった。「一番あんたが必要だったとき、電話で話してたでしょ。今さら、あんたに何をしてもらう必要があるの?」彼の全身が、ぴたりと固まった。そこへ看護師が来た。「患者さんは休息が必要です。病室の前で騒がないでください」怜司は看護師を見て、紗月に出産が迫っていると告げられた日のことを思い出した。あのとき、自分は何をしていた?紗月が嫉妬しているだけだと思い、彼女の母親の形見を盾に、瑠奈にチャンスを譲るよう迫っていた。結局、千晶は警備員を呼び、2人を追い出させた。病院の入り口まで来ても、怜司はまだ、起きたことをのみ込めずにいた。瑠奈が横からなだめる。「怜司さん、怒らないで。紗月って、本当にわがままね。こんなことを他人の前で騒ぐなんて!」以前なら、怜司もその言葉にうなずいただろう。紗月が理不尽に騒いでいると思ったはずだ。だが、彼女が子供を産んでいる間も、自分は瑠奈の車を買いに行っていた。そのことを思うと、自分の頬を引っぱたきたくなる。怜司は瑠奈を見た。「早産したことを、わざと隠してたのか?」「早くサインしてもらいたかっただけよ。あなたのために……」怜司は拳を握った。瑠奈を見据える目が、次第に冷たくなる。「俺のためなのか、それとも自分のためか?」瑠奈は数秒、彼を見つめた。やがて、ふっと笑う。「今に
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第7章

審理の前に、私は一度だけ怜司に会った。その日は千晶がいなかった。彼は両手いっぱいに荷物を持ち、ベビーカーまで用意していた。「紗月、子供のために持ってきた」声は低く、以前の見下すような態度は消えていた。「今回は何色で承認したの?」彼の顔が、一瞬白くなった。「そんな言い方はやめてくれ」「でも、あなたがしてきたことでしょ」自分の声は、ひどく淡々としていた。彼はまた尋ねた。「子供は、なんて名前なんだ?」「花。西原花(にしはら はな)よ」彼は数秒、黙った。「離婚合意書には、サインしてない」「じゃあ、審理を待ちましょう。結果は同じだから」彼の唇が震え始める。「紗月、カードはまた使えるようにした。これからは、瑠奈に生活費の審査をさせない。あいつは解雇する。もう一度だけ、チャンスをくれないか?」私は花の服を最後の1枚までたたみ終え、顔を上げた。「無理よ」「それでも俺は、この子の父親だ!」「今さら父親ぶるの?私が入院したときは、どこにいたの?」彼の喉仏が動いた。「瑠奈にだまされてたんだ。本当に知らなかった」「デザイン画のことも、瑠奈にだまされたの?母のアトリエを使って私を脅したのも、瑠奈にだまされたから?それとも、車代800万円を承認したことまで、だまされたって言うの?」問いを重ねるたびに、彼の顔色が悪くなった。言い終えたときには、最後の血の気まで失せていた。長い沈黙のあと、彼がまた口を開く。「紗月、俺たち、これまで何年も一緒に過ごしてきたじゃないか。本当に、裁判沙汰にまでしたいのか?」私は彼を見た。「騒いでるんじゃない。自分のものを取り戻してるだけ。もともと、私のものだったものを」不意に、彼のスマホが鳴った。瑠奈からだった。怜司は私を見たが、結局、電話に出た。向こうから、女の泣き声が聞こえる。「怜司さん、私の車が差し押さえられたの!解雇の通知まで来たよ。どうして、そんなひどいことができるの!」怜司は動じなかった。「車を買う資金も夫婦の共有財産だ。お前に車を買ってやる権利は、俺にはなかった。それに、紗月がいなければ、そもそもお前は会社に入れなかったんだ」電話の向こうで、瑠奈が取り乱す。「でも、紗月を妊娠させれば、家であ
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第8章

審理の日、小雨が降っていた。被告席に座る怜司の目は、真っ赤に充血している。私の弁護士が、まず請求の内容を述べた。怜司が婚姻中に経済的な支配を行い、夫婦共有財産を移転したことなどを、一つずつ挙げる。すると、相手の弁護士が、出産の際に私が署名した合意書を出した。「婚姻期間中、原告と被告の関係は安定しており、実質的な破綻はありません。双方が自らの意思で署名したこの合意書からも、原告は妊娠中のホルモンの影響で、少し感情的になっているだけだとわかります。被告は婚姻関係の維持を望むのみで、原告に責任を問うつもりはありません」怜司に目をやった。彼はうつむき、何も言わない。あれだけ侮辱され、冷たく扱われてきたのに、それでも私が意地を張って騒いでいるだけだと言いたいらしい。私は口元をわずかにゆがめ、証拠を一つずつ提出した。ディープブルーの原画の著作権と、その登録日時。合意書への署名を強要されたときの録音。結婚後2年間にわたる、青の却下履歴。そこでようやく、怜司の顔色が変わった。次の瞬間、あの日の病室でのやり取りが、スピーカーから流れた。「サインすれば、お前の母親の作品は、すべてそのまま返してやる」「早産です!」「瑠奈の言うとおりにしろ。急ぐことはない」怜司の冷静な声、瑠奈がサインを促す声、私の弱々しい懇願。それが、法廷全体にはっきりと響いた。怜司は膝に置いた手を固く握りしめた。目に残っていた、どうにかなるかもしれないという期待も消える。彼の弁護士がまた口を開こうとしたが、怜司が手を上げて止めた。「もう、いいです」疲れきった声で、彼はひと言ずつ告げた。「異議はありません。原告の請求を、すべて受け入れます」裁判官が、さらに尋ねる。「財産分与についても、原告の請求を受け入れますか?」「受け入れます。それ以外にも、家と財産は、償いとしてすべて彼女に渡します。子供の養育費も負担します」怜司が協力したため、審理は短時間で終わり、その場で下された決定が効力を持った。裁判所を出ると、もう晴れていた。千晶も来ていて、私が雇ったベビーシッターさんと一緒に、花を抱いて少し離れたところで待っている。そちらへ歩き出そうとしたとき、背後から慌ただしい足音が聞こえた。怜司が追いかけてきた
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第9章

私は結婚してから住んでいた家を売り、新しく2LDKの住まいを買った。花が生まれて100日を迎えたとき、記念写真を撮りに連れていった。その帰り、瑠奈に会った。以前のように身なりを整えてはおらず、化粧もしていない。ずいぶん前から待っていたらしい。私を見ると、目に少し光が戻った。「紗月、車はもう売ったの。お金も返した。怜司さんに訴えられたの。会社の損失を弁償しろって。今はもう何もないし、どの会社も私を雇うのを怖がってる」私の腕の中で眠る花を見つめ、すがるように言った。「お願い。怜司さんに、ひと言だけ言ってくれない?訴えを取り下げてって」私は無表情で彼女を見た。「自分で選んだ道でしょ」瑠奈は何度も首を振り、大粒の涙をこぼす。「違う!最初から最後まで、私のせいじゃない!怜司さんよ!全部、あの人の指図なの。生活費の審査を私に任せて、あなたが逆らわなくなるようにしろって。あの人に頼らなきゃ生きていけなくするために!妊娠させたのも、あの人の計画だったのよ。どうして今さら、全部私のせいにするの!」私が黙っているので、同情してくれたと思ったのだろう。瑠奈は私の腕をつかもうとした。私は一歩下がり、その手を避けた。「私には関係ない。もう会いに来ないで。次に来たら、警察を呼ぶから」私はマンションの敷地に入った。背後で泣き声が聞こえたが、振り向かなかった。花が1歳になってから、私は新しく仕事を見つけた。仕事から離れていた期間が長く、最初は速いペースについていくのが難しかった。子供が寝たあとに夜更けまで図面に目を通し、黙々と踏ん張るしかなかった。幸い、つらい時期はやがて過ぎていった。私には、この業界で発表してきた作品も、経験もある。千晶が仕事につながる人を紹介してくれたおかげで、かつての自分の輝きを、少しずつ取り戻していった。作品が再び業界で注目されるようになり、私は少しずつ仕事の基盤を固めていった。ごく普通の週末のことだった。千晶が食材を持ってきた。「誘っても出かけてくれないから、家で鍋くらいならいいでしょ」私が答えるより先に、花が小さな両手を広げた。「たべる、たべる」私たちは笑った。千晶は野菜を鍋に入れながら、私を見てしみじみと言う。「やっと元気になった
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