「それでは、こちらへ」湊が襖を開けた。智恵子は立ち上がり、玲玄へ頭を下げる。「今日は、ありがとうございました」「いえ」玲玄も軽く頭を下げた。「こちらで確認できることが分かりましたら、ご連絡します」「お願いします」智恵子はそう答えたものの、すぐには部屋を出られなかった。どうしても気になる。振り返る。自分が座っていた場所の後ろ。玲玄が何度も見ていたあたり。もちろん何も見えない。「……真琴は」声が漏れた。玲玄が顔を上げる。「はい」「私が帰ったら、どうなるんですか?」自分でも妙な質問だと思った。どうなる。どこへ行く。そんなこと、生きている人間についてなら聞く必要もない。けれど今、自分の目には見えない娘がこの部屋にいるという。自分だけ帰っていいのだろうか。真琴をここへ置いて帰るような気がして、急に不安になった。「真琴も、一緒に帰れるんでしょうか」玲玄の視線が智恵子の後ろへ移る。少しの間。それから、「今のところ、森川さんについて行くと思います」「今のところ?」言葉が引っかかった。玲玄は穏やかに説明する。「亡くなった方が、ずっと一か所にいるとは限りません」「そうなんですか」「はい。亡くなった場所にいる方もいますし、人についている方もいます。物の近くから離れない方もいます」智恵子は聞きながら、また後ろへ目を向けた。「真琴は、私についてるんですか?」「今は、そう見えます」「じゃあ……帰ったら、家にも?」「おそらく」胸の奥が少しだけ緩んだ。怖いと思うべきなのかもしれない。幽霊なのだから。それでも真琴なら、怖くはなかった。「私が話しかけたら、聞こえてるんでしょうか」「聞こえている可能性は高いです」「返事が聞こえなくても?」「はい」智恵子は唇を噛んだ。それなら。この半年間も。仏壇の前で話したこと。写真に向かって謝ったこと。今日あったことを何となく口にしたこと。あれも全部、聞いていたのだろうか。「先生」「はい」「真琴は……今、何か言ってます?」玲玄は一度、智恵子の背後を見た。数秒。「今は何も」「そうですか」少し残念だった。けれど同時に、ほっともした。これ以上何かを聞いたら、また立っていられなくなるような気もする。「また、真琴と話せますか?」「真琴さんがいれ
Última actualización : 2026-10-09 Leer más