シャンデリアの光が、大理石の床に幾重にも反射していた。 王宮の大広間には、国中の貴族が集められている。今宵は、王太子ルシアン・アルヴェイン殿下の生誕を祝う舞踏会。私、ヴィオラ・フォン・ローゼンは、婚約者としてその隣に立っていた。 ──いつものように。「ヴィオラ様、今夜も凛としていらっしゃいますね」「相変わらず、殿下の隣がよくお似合いだこと」 すれ違う貴族たちの声には、賞賛の皮を被った棘がある。私はそれに気づかないふりをして、小さく会釈を返した。 冷たい令嬢。高慢な公爵家の娘。婚約者という立場を笠に着ている女。 そう噂されていることは知っている。けれど、いちいち弁明したところで、何が変わるわけでもない。私は昔からそうやって、感情を表に出さずにやり過ごすことを覚えてきた。「ヴィオラ」 低い声に呼ばれ、顔を上げる。ルシアン殿下が、こちらをまっすぐに見ていた。その瞳には、これまで見たことのない硬さがある。「殿下、いかがなさいましたか」「皆の前で、話しておきたいことがある」 その言葉に、周囲のざわめきがすっと静まった。楽団の演奏が止まる。何百という視線が、私たちに集まっていくのがわかった。 殿下は一歩前に出ると、広間全体に届くほどの声で告げた。「ヴィオラ・フォン・ローゼンとの婚約を、本日をもって解消する」 一瞬、何を言われたのか理解できなかった。いや──理解したくなかったのかもしれない。「……理由をお伺いしても?」 私の声は、自分でも驚くほど平静だった。「君は、王妃にふさわしくない。感情を見せず、常に人を値踏みするような目で見る。そんな女性に、この国の未来を任せられない」 会場のあちこちから、小さなどよめきが上がる。同情の視線、好奇の視線、そして──嘲笑を隠しきれない視線。 殿下は続けて、扉のほうへと手を差し伸べた。「代わりに、私の婚約者として紹介したい女性がいる。セシリア・ベルナール男爵令嬢だ」 淡い水色のドレスを纏った女性が、しずしずと歩み出てくる。柔らかく微笑む顔。誰もが好感を抱くだろう、あたたかな空気を纏った人だった。「はじめまして、ヴィオラ様……その、このような形になってしまい、申し訳ございません」 セシリア嬢は、私に向かって深く頭を下げた。悪意は感じられない。むしろ戸惑っているようにさえ見える。 ああ、この人は
Terakhir Diperbarui : 2026-10-20 Baca selengkapnya