美術担当はお面鬼の面をどうやって作成していますか？

木彫りや伝統的な技法に寄せて説明すると、まず良い木取り（素材選び）が何より重要だ。欅や桐のような木材を選び、木目や年輪を活かした表情作りを計画する。僕は彫刻刀で大まかな形を切り出した後、鉋や小刀で細部を整えていく。木は削るごとに表情が変わるから、直感でラインを決める場面が多い。

下地処理としては胡粉（ごふん）や膠（にかわ）を使った昔ながらの工程が基本で、これにより彩色の発色と耐久性が増す。彩色は顔料を何層にも重ね、最後は漆やニスで艶を調整する。穴や紐の取り付けはバランスを見ながら位置決めし、舞台用なら視認性を考えた明度差を強調する。

木彫りの面は時間をかけて味が出るのが魅力で、使い込むほどに艶や陰影が深くなる。古典的な工程を守りつつ、必要に応じて内側にフォームを入れて装着性を高めるなど現代技術を取り入れる余地もあると考えている。

デジタル原型と3Dプリントの導入について語ると、まずデザイン段階で細かい試作を短時間で回せるのが大きな利点だ。僕はZBrushのようなソフトで顔の細部を作り込み、必要に応じて表情違いを複数保存しておく。そこから3Dプリントして出力物をベースに、サンドペーパーや彫刻ツールで手作業の仕上げを加える。こうすると複雑な皺や毛穴感を安定して再現できる。

型取りは伝統的な方法と似ているが、3D出力は表面が硬いのでシリコーンを使った母型で滑らかに取る。注型材としては、可動部分が多い場合はラテックスフォーム、硬めの展示用ならポリウレタン樹脂を選ぶことが多い。彩色はUV対策を考えた塗料を重ね、エッジにエアブラシでグラデーションを入れると画面映えする。

映画の小道具制作で見たことがあるが、デジタルと手仕事を組み合わせることで量産とバラつき防止が両立する。最終的に装着感や視認性を現場で確認して微調整し、そこでようやく“使える”面になる感じが好きだ。

面の表情を決める段階から話すと、まずは資料とスケッチにどれだけ時間をかけるかで後の作業が大きく変わる。僕は最初に古い能面や民俗資料、現代のフィクションでの鬼像までいろいろ参照して、顔のバランスや角の出し方、頬の張りといった“骨格”を決める。粘土での原型制作に移ると、鏡面仕上げにするかテクスチャーを残すかで使う道具や指先の力加減を変える。粘土は表情の試行錯誤がしやすいから、ここで無理に完成させようとせず、細かい線や皺を粘土ナイフや針で入れていく。

原型が固まったら型取りだ。シリコーンゴムで母型を作り、ガラス繊維やプラスチックで外側の支え（フラッシュ）を作る。素材は用途に合わせて選ぶことが重要で、頑強で長く使う舞台用ならウレタン樹脂、身体に近い感触を求めるプロップならフォームラテックスやシリコーンが向く。注型後は離型処理と研磨、内側のパッド調整を行い、装着感を整える。

彩色は地色を整えてから何層も重ねる。アクリルを薄く何回も重ねて深みを出し、ドライブラシやウォッシュで皺や古びた感じを演出する。髪や牙、目の埋め込みは最後の仕上げで、接着は速乾性の高い接着剤を使い、耐久性を確保する。試着して照明下での見え方をチェックするのが僕のこだわりで、そこまでやって初めて“生きている”面になってくると感じる。