今はグラビアをメインに仕事しているけれど、もともとアーティスティックな写真を撮っていて、写真学校在学中に大きな賞も受賞している。
今注目の若手カメラマン。弱冠27歳。
とにかく、すごい人だということがわかった。
本来なら100パーセント出会う確率のない人。
わたしとはまったく接点がないのだから。
安西さんが依頼されたという雑誌も、1920年代に創刊されたファッション誌の老舗中の老舗だった。
知れば知るほど不可能だ、という気持ちしか湧いてこない。
当たり前だ。ただの会社員のわたしにそんな大それたことが務まるわけがない。
だから時計を返すだけのつもりだった。
玄関口で渡して、そのまま帰るつもりだった。
「やあ、来てくれたね。ほら、入って、入って」
でも、待ちかねていたと言わんばかりに、玄関を勢いよく開け、あの時と同じ、人なつっこい笑顔で迎えてくれた安西さんを見たとたん、まるで催眠術にかかったように入口の敷居をまたいでしまった。
それにしても、安西さんは華のある人だ。
彼がいるだけで周囲がぱっと明るくなる。
雰囲気だけでなく、その容姿も人を惹きつけるのに充分なほど整っている。
秀でた眉、くっきりした二重瞼、すっと通った鼻筋。形の良い唇。