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泉南佳那
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Nobela ni 泉南佳那

蕩ける愛であなたを覆いつくしたい~最悪の失恋から救ってくれた年下の同僚に甘く翻弄されてます~

蕩ける愛であなたを覆いつくしたい~最悪の失恋から救ってくれた年下の同僚に甘く翻弄されてます~

梶原茉衣 28歳 × 浅野一樹 25歳 最悪の失恋をしたその夜、茉衣を救ってくれたのは、3歳年下の同僚、その端正な容姿で、会社一の人気を誇る浅野一樹だった。 「抱きしめてもいいですか。今それしか、梶原さんを慰める方法が見つからない」 「行くところがなくて困ってるんなら家にきます? 避難所だと思ってくれればいいですよ」 成り行きで彼のマンションにやっかいになることになった茉衣。 徐々に傷ついた心を優しく慰めてくれる彼に惹かれてゆき…… 超イケメンの年下同僚に甘く翻弄されるヒロイン。 一緒にドキドキしていただければ、嬉しいです❤️
Basahin
Chapter: 11・エピローグ
そして……わたしの母は一樹の紹介で、皇室方や政治家なども利用する、日本有数の大病院へ転院することができた。「冴木の祖母も心臓が悪くてね。そのとき、お世話になった先生。心臓病のスペシャリストだよ」数時間に及ぶ手術も成功し、今、母は退院して、父とともに、わたしたちと同じマンションで暮らしている。それからさらに1年後の6月。わたしたちは東京で挙式を終え、ハネムーンでオーストラリアに来ていた。 「茉衣、こっち向いて」夕暮れの海岸で、一樹はカメラを構えている。思えば、ふたりを結びつけてくれたのはカメラだった。 あの夜、一樹が永代橋に写真を撮りに来なければ、今、わたしたちはこうしていなかったかも知れないと思うと、とても不思議な気持ちになる。その場でしばらく待っていたけれど、結局一樹はシャッターを押さず、わたしの方に駆け寄ってきた。 「どうしたの?」「やっぱり撮るのやめた」「どうして?」 一樹は笑みを浮かべて、わたしを抱き寄せた。「こんなに綺麗な茉衣を見るのは俺だけでいい。他の誰にも見せたくない」「一樹……」斜めに傾けた一樹の顔が近づき、わたしは目を閉じる。重なり合った唇から、一樹が好きだと思う気持ちが溢れ出す。「好き」耳元でそう囁くと、手が頭の後ろに回ってきて、彼はより一層甘く激しくわたしの唇を喰んだ。 辺りが暗くなってゆく。夕日はもう水平線の彼方に消えたのだろう。それでもわたしたちは、まだ寄り添って海を眺めていた。 「まるでこの世に二人きりしかいないみたい」寄せては返す波音がまるでわたしたちを祝福してくれているようで……「茉衣、好きだよ」そして、そう囁く一樹の言葉が波音とともに、わたしを覆い尽くし、わたしのすべてを……満たした。 (了)   
Huling Na-update: 2025-04-16
Chapter: 11・エピローグ
「俺、兄に頼まれていたんですよ。婚約者である岡路さんの会社での様子を教えてくれって。なので、あなたのこれまでの行状、兄にくわしく報告しておきましたので。近いうちに正式に連絡がいくと思いますよ」留奈はへなへなとその場に座り込んだ。「そんなぁ……せっかくお父様がセッティングしてくれた、最高の玉の輿だったのに」  留奈にちやほやしていた男性社員たちも、さすがに呆れたらしく、全員一斉に、留奈に冷ややかな視線を向けた。一樹は改めてわたしに向き直ると、もう一度抱きしめてきた。「ねえ一樹、もう離して」ともがくわたしを逃さないように腕に力をこめ、耳元でしれっと囁く。 「だって、こうするしか茉衣を慰める手立てが思いつかないからさ」と。見えてはいないけれど、きっと、ちょっと悪い微笑みを浮かべているに違いない。これからも、こうして翻弄されつづけるんだろうな、この年下の恋人に。わたしも彼の腕のなかで笑みをこぼした。  ***それから……宣人は主任昇格を取り消され、さらに1カ月の停職と減俸処分を受けたけれど、会社は辞めさせられずに一樹と同じチームで仕事を続けている。解雇して、結果、ライバル社に行かれでもしたら余計にまずいことになる、と上層部が考えた結果らしい。一介の平社員に逆戻りしたプライドの高い宣人を、一樹は実にうまく使っており、社内での彼の評価は上がる一方だ。   一方、留奈はみんなの前で婚約解消を暴露された翌日から、会社に来なくなった。常務から部長に「娘は辞める」と一言あったらしい。 留奈にとって、ちやほやされない職場には用がないということだろう。   突然の辞職だったけれど、重要な仕事を任せられていなかったので、いなくても、業務上まったく支障はなかった。冴木の御曹司との破談は、ネットニュースでも面白おかしく取り上げられたので、おそらく、もう彼女が望む“玉の輿”は不可能だろう。まあそれは、わたしのあずかり知らぬことだけれど。
Huling Na-update: 2025-04-16
Chapter: 10・伊川のたくらみ
「えっ、何? どういうこと?」ずっと固唾を飲んで、二人のやりとりを見守っていた浅野推しの子たちがにわかに騒ぎだす。そんな騒ぎには素知らぬ顔をして、一樹はわたしのそばに歩み寄ってきた。「茉衣、大丈夫? 倒れそうな顔してるけど」わたしは頷きを返した。「あまりにも驚きすぎて、もう脳がパンク状態だよ。だって浅野家って……」「黙っててごめん。でも、茉衣には浅野家のフィルターを通して俺を見て欲しくなかったんだ」一樹の言葉が途中からくぐもって聞こえた。視界も遮られている。なぜかといえば、わたしは一樹に抱きしめられていたから。しかも「よしよし」と頭を撫でられながら。 えっとー。み、みんなの前なんだけど。「か、かずき……ち、ちょっと、だめだよ」そう抗議しても、一樹は一向にわたしを離す気配がない。 ようやくショックから立ち直ったのか、一樹推し女子たちの悲鳴が上がった。「えー、なんで、そんなことになってるんですか? 梶原さんは伊川さんの彼女だったじゃない!」 そして、そのそばにいた留奈はさらに大声を上げた。 「もう、どうしていい男はみんな梶原さんが持ってっちゃうのよ。わたしのほうが若いし、ぜーったい可愛いのに」伊川さんだって、わたしの方が可愛いよって言ってくれてたのに、と歯噛みして悔しがっている。一樹は一瞬、わたしを離すと、留奈に冷たい一瞥をくれ、それから言った。「岡路さん。SAEKIの専務の兄から伝言。『婚約はなかったことにしてほしい』って」「えっ?」留奈はきょとんとした顔で一樹を見上げた。 
Huling Na-update: 2025-04-16
Chapter: 10・伊川のたくらみ
一樹は正美を見て、ちょっと困った顔で頭をかいた。「えーと、そうです。はい。でも、それを知られるとさらにやりにくいっていうか」と一樹は少し困った声で答えた。でもすぐに、きっぱりと言いそえた。「誰の子どもであろうと、俺は俺なので。今までと変わらずに接していただけるとありがたいです」総合商社の浅野商事は日本で五指に入る大企業だ。驚きすぎたからか、わたしはめまいがして、その場に座り込みそうになった。たしかに、あのタワマンを所有している時点で相当の資産家とは思ったけれど。でもまさか、浅野商事の御曹司だなんて。正美が肘でつついてきた。「知ってたの?」と口が動いている。「知る訳ないでしょう。寝耳に水」とわたしは小声で答えた。そのとき、オフィスのドアが開き、宣人が入ってきた。「おい」とか「あ」とか声にならない声がそこここであがり、それからしんと静まった。 憮然とした顔で自席に着いた宣人のもとに、一樹が歩み寄った。「伊川さん」宣人は横目で一樹を見て、自嘲気味に笑う。「お前、どうせ、いい気味だと思ってるんだろうな。ご丁寧にあざ笑いにきたのか」「ああ、大馬鹿ですよ、あなたは」 一樹はチッと舌打ちする宣人の肩をつかんだ。そして椅子を回転させ、自分の方に向けると宣人を真正面から見据えた。 「もう、いいかげん、その狭い了見、捨ててくれませんか。男の沽券とかプライドとか、そんなのどうでもいいじゃないですか。俺は入社以来ずっと、あなたの背中を追いかけてきた。今もそれは変わりません。今回のプロジェクトだって、あなたなしでは成り立たない。お願いします。俺と一緒にプロジェクトを成功させてください」それだけ言うと、一樹は深く頭を下げた。一樹の言葉に、宣人は苦い表情を浮かべた。そこにいた誰もが、ふたりの器の違いを、そしてどっちがリーダーにふさわしいか痛感した。 さすがの宣人も一言も言い返せなかった。完敗だった。 「頭、上げろよ」 宣人はそう一言だけ残し、そのまま戸口に向かった。 一樹はその背中に声をかけた。「でも、梶原さんは絶対渡しませんから」 宣人は一樹に顔だけ向け、苦笑交じりに言った。「お前なぁ、その一言、余計」  
Huling Na-update: 2025-04-16
Chapter: 10・伊川のたくらみ
「その件について話すから、みんなちょっと集まってくれるか」と、後から一足遅れて戻ってきた部長が全員に声をかけてきた。「外部に情報を持ち出そうとしたのは伊川だ。未遂に終わったから実害はなかったが」 部長の話はこうだった。一樹のめざましい台頭に、部内トップの座が危ないと考えた宣人は、新製品情報を手土産にライバル社への転職を画策していた。だが、この夏頃、セキュリティを強化していたこともあり、データは得られず、さらに不正アクセスを試みたことがバレそうになった。そんな折、宣人が懸念した通り、一樹が自分を追い越してリーダーに抜擢された。そこで宣人は一樹に不正の濡れ衣を着せ、自己の保身と彼の追い落としの一石二鳥を狙った、というのが事の顛末だった。あまりにもお粗末かつ身勝手すぎる宣人のやり口に、そこら中でため息がもれた。「でも伊川さん、なんで、そんなこと、したんだろう」と女子の一人が言う。「そういえば最近、イラついていたな。会社が自分の実力を認めないってよく愚痴ってた。本当は浅野の台頭に怯えていたんだろうけど。一番じゃなきゃ気が済まない人だから」と同期の島田がまことしやかに口にした。「しかし、伊川もバカなことをしたな。絶対に不正を行うはずのない浅野にぬれぎぬを着せるとは」 部長の言葉に、みんな首を傾げた。「どういうことですか?」「浅野はSAEKI本社の社長のご子息だ。私もさっき知ったばかりだが。だから、うちの会社の不利益になることをするわけがないだろう」「えー、そうだったんだ」と驚きの声が上がった。「冴木社長の意向でこれまでそのことは伏せてきたそうだ。特別扱いされないようにと。ああ、言っておくが今回の昇進は純粋に浅野の実力が認められた結果だぞ。私が査定したんだから間違いない」「でも、なんで苗字が浅野なんだ?」と誰かが疑問を口にした。すると、部長の横に立っていた一樹が口を開いた。「冴木の実子ですが、俺は父方の伯父の養子で。すみません、結果として皆さんを騙すような形になってしまって」「え、って言うことは」と声を上げたのは正美。「伯父さん、浅野茂社長なの? 旧財閥系の浅野商事の」  
Huling Na-update: 2025-04-16
Chapter: 10・伊川のたくらみ
  正美は自販機でカップのレモンティーを買ってくれた。「これ飲んで、落ち着いて」「ありがとう」甘酸っぱいレモンティーは動揺するわたしの心を少しだけ鎮めた。「で、どうした?」「わたしのせいで浅野くんが……辞めさせられるかもしれない」「宣人がなんか、たくらんだってこと?」「たぶん……浅野くん、今、情報漏洩の疑いで社長室に呼ばれているみたいで」「そっか。でも、それなら浅野氏が「白」だってこと、すぐ判明するんじゃない? 社長の目は節穴じゃないよ。とにかく待つしかないよ」 「うん……」冷静な彼女の言葉に頷きながらも、わたしはまだ納得しきれず、ぎゅっと唇を結んだ。午後始業のチャイムが鳴った。彼女はわたしの肩をぽんと叩いて「戻ろ」と立ち上がった。 部屋に戻ると、宣人もいなくなっていた。これで彼が関わっていることも明らかになった。わたしは居ても立ってもいられない気持ちのまま、午後を過ごした。そして、終業間際になって、ようやく一樹が戻ってきた。わたしの姿を認めると、一樹は軽く手を上げた。 「かずき」わたしは小さく呟き、彼の側に行こうと椅子から立ち上がった。 けれど部の一樹推し女子3人の方が早く、一樹に駆け寄っていった。「浅野さん、会社辞めさせられるって、本当ですか?」一樹は目をみはった。「えっ、何? そんな話になってるの?」「浅野さんが会社の機密を漏らして、社長室に呼ばれたって」 それを聞いて、一樹はああ、と頷き、それから頬を緩めた。「それ、完全な誤解」「そうですよね! 誤解ですよね! 浅野さんがそんなことするはずないと思ってたんですけど、でも良かった〜」彼女たちは口々に安堵のため息をもらし、手を取って喜びあった。
Huling Na-update: 2025-04-15
たとえ、この恋が罪だとしても

たとえ、この恋が罪だとしても

「モデルになってくれない?」 突然目の前に現れた人はきらきら輝く瞳と子どものような笑顔をもつカメラマン 坂道を転がるように彼に惹かれていったけれど…… わたしには婚約したばかりの恋人がいた。 *** 大手メーカーに勤める藤沢文乃は、会社の先輩、高柳俊一にプロポーズされる。何の疑問も持たずに、結婚の準備を始めた彼女の前に、突如現れた美形のカメラマン、安西瀧人。彼は熱心にモデルになってほしいと文乃を口説く。 安西を一目見たとたん、心を奪われた文乃。婚約者への後ろめたさを抱えながらも、坂道を転がり落ちるように安西に惹かれていき、そして…… ***
Basahin
Chapter: エピローグ
「あ……っ」 「こんなに感じてくれてるんだ……。嬉しいな。でも、そんなに固くならないでリラックスしてごらん」 少し掠れたぞくっとする声でつぶやく。「文乃が行ったことのないとこまで、連れてってあげるから」  それから、指と唇でさんざん弄られて…… もう声を抑えることなどできずに、わたしは快楽の波に翻弄されるまま、あられもない声をあげていた。 頭が真っ白になって、気が遠のいていきそうになったとき、安西さんがわたしのなかに入ってきた。   「……はあっ、あや……の」  彼も抑えきれない欲望に声をあげてわたしを突き上げる。 好きという気持ちが心から溢れだして、わたしの全身に漲っていく。  その想いを注ぎ込みたくて、わたしは自分から彼の唇を求めていた。   「す、き……あなたが……好き」    発火しそうなほどの熱い口づけで、彼はその想いに応えた…… *** ふと目を覚ますと、窓の外が白んでいた。 新聞配達のバイクの音が遠くから聞こえてくる。  その音さえ、まるで祝福の鐘の音のように聞こえる。 隣で眠る安西さんの安らかな寝息も聞こえる。 わたしはそっと、彼の背中に口づけ、また微睡(まどろみ)のなかに引き込まれていった……〈the end〉*お読みいただきありがとうございました😊
Huling Na-update: 2025-08-02
Chapter: エピローグ
 ふわふわと宙に浮き上がっているような覚束なさに全身が支配される。 彼の唇はしばらくそこに留まっていたが、顔をあげて、今度はじっと見つめてくる。「頬が上気して薄紅色に染まってる。ああ、カメラに収めたいぐらい綺麗だ」  そんなことを言いながら、彼の手はわたしの足をさすりあげてくる。「でも……やっぱり誰にも見せたくない」  太腿に置かれていた手に力が加わって、左右にゆっくりと押し開かれた。   「あっ……いや……」  思わず閉じようをすると、さらに強い力で押さえられてしまう「そう? そんな蕩けそうな声出してるのに?」  そして、少し意地悪な口調でそんなことを言われる。  「……だって、恥ずかしい……です。そんなふうにじっと見られたら」   「商売柄かな。いつでも見ていたいんだ。美しいものは特にね」  安西さんはわたしを見つめたまま、内腿に舌を這わせていく。そして言った。「……今度は時間をかけて、たっぷり愛してあげるよ」    彼の舌がわたしのもっとも敏感な部分に触れた。「……!」  これまで味わったことのない快楽の波が襲ってくる。   「い、や……やめ……」  わたしは安西さんの髪をかき乱しながら、執拗なその舌を引き離そうとした。    彼の唇が離れた。  ほっと息をつくと、今度は彼の指がわたしのなかを弄りだす。
Huling Na-update: 2025-08-02
Chapter: エピローグ
 「ありがとう……。嬉しいです。そう言ってもらえると」 そう呟くわたしの髪を耳にかけて、露わになった耳たぶに戯れにそっと歯を立ててきた。 噛まれたと言っても、ほんの軽く触れられた程度だった。 でも、心も身体も敏感になっているわたしは、それだけのことでも思わず声をもらしてしまった。   「あ、うんっ……」 「……その声も好きだよ。そんな声を聞かされたら」 少しかすれた色めいた声で安西さんがつぶやく。「また……欲しくなってきちゃうじゃない」  安西さんの手がわたしの肩に触れ、静かに押し倒される。    彼の舌が首筋をさまよいはじめる。  そっと、舐めあげられたり、ときおり少し強く吸われたり。   そんなことをされると、背中がぞくぞくしてきて、思わず身をよじってしまう。 そんな反応が彼をまた刺激して、今度は指先が胸乳を弄りはじめる。 尖った先端をさすられると、身体の奥深くで得体の知れない何かが蠢きだす。 わたしは思わずびくっと身をこわばらせる。   「こうされると、気持ちいい?」  恥ずかしさに震えながらも、わたしは小さくうなずいた。 安西さんはふっと微笑みをこぼし、「じゃあ、これは?」と言って、  今度は右胸の乳暈を舌でやさしく舐めあげてきた。「……あん」  指とは違う湿った感触に、新たな快楽を掘り起こされて、自分とは思えないような声を出てしまう。
Huling Na-update: 2025-08-01
Chapter: エピローグ
 彼の部屋で、安西さんはありったけの情熱を注ぐかのようにわたしを抱いた。「安西……さん」 獣のようにわたしを貪る彼にこたえて、いつしか、わたしもあらぬ声をあげていた。   「まだ夢みたいだ。文乃とこうしているなんて」 「わたしも……同じこと、考えてました。今」 情事の余韻に浸ってぼんやりしているわたしに安西さんがつぶやいた。 彼の腕がわたしの身体の下に滑り込んできて、そのまま引き寄せられる。  背後から抱きしめられて、肩口にそっとキスされる。 こわれものを扱うように優しく。  そうした態度のすべてがわたしを幸福の極みに連れて行ってくれた。 あのときは、その幸福が怖かった。でも、今は違う。  そのことが心の底から嬉しかった。「なんで保育士になったの?」  わたしの髪をもてあそびながら、安西さんが尋ねる。「歌にかかわる仕事がしたくて。保育士になれば毎日子供たちと思い切り歌えるなと思って、それで通信で資格を取って……」「文乃らしいな。おれ、文乃の歌、好きだよ。とっても美しい澄んだ声をしてるから。子供たちが羨ましいよ」 そんなふうに褒められたのは初めてだ。  他でもない安西さんに言われたことも相まって、嬉しさがふつふつとこみあげてきた。
Huling Na-update: 2025-08-01
Chapter: 15・3年後
 そう言うと、今度はこれ以上ないほど真剣な表情に変わった。「会いたかったよ。文乃がどう思ってるかわからないけど、おれは今でも文乃が好きだ。その気持ちは少しも変わっていない」 もう、我慢できなかった。  堰を切ったように涙が頬を伝っていく。    店はほぼ満員だし、店員さんも近くにきそうだし、こんなところで泣いたらおかしいと、自分をいさめるのだけど、どうしても止まりそうになかった。「ご、ごめんなさ……い、お、おかしいですよね……こんなところで」 安西さんは優しい眼差しでわたしを見つめながら、ハンカチを差し出した。 そして、「出ようか」と言った。  それからすばやく立ち上がると、わたしをかばうように肩に手を回して歩き出した。 表に出て、駐車場に向かう途中の壁際で抱きすくめられた。「文乃……会いたかった……おれのあやの……」 そう言って、わたしの顎をすくいあげる。  懐かしい彼の唇の感触がわたしの心に灯りをともしていく。「文乃は? おれを好きでいてくれた? 今も変わらない?」  少し不安げにそう尋ねる彼の顔を、わたしは見あげた。「……変わって……ません。ずっと……ずっと好きでした。ずっと、会いたかった」 唇が重なる。  深く、激しく。 まだ、宵の口だし、誰か通りかかるかもしれない。  そんな考えが、ちらっと頭をよぎったが、それでもかまわない。  そう思った。 名残惜しげに唇を離すと、彼は切羽詰まった声音でささやいた。「もう、死んでも離さないから、覚悟して」  
Huling Na-update: 2025-07-31
Chapter: 15・3年後
 あのとき、自分は俊一さんへの罪悪感を少しでも薄れさせることしか、考えていなかった。 安西さんの、わたしを想ってくれる気持ちを軽んじたつもりはまったくなかったけれど、結果的に彼の気持ちを踏みにじってしまった。  結局、わたしは自分のことしか考えてなかった。  ひどいことをした。  安西さんの顔がまともに見られない。俯いたままで、わたしは言った。「ずっと、ずっと、あなたのことはもう忘れなければいけない、と思ってました。安西さんにとってわたしは、もう遠い過去になっているはずだって。 それに、本当に、わたし、安西さんみたいなひとには、ぜんぜんふさわしくないし……」    言葉が終わらないうちに、安西さんの手がわたしの頬に伸びてきて、軽くつねられた。 思わず顔を上げると、目が合った。  慈しみに満ちた表情でわたしを見つめている。 初めて会ったときから、わたしを惹きつけてやまない瞳。 その美しい瞳と見つめ、ようやくふたたび安西さんに会えたことの喜びが、わたしの心を満たしはじめた。「何言ってるんだよ。ふさわしいかどうかなんて、おれが決めることだろう」  そのまま、わたしの髪を優しく撫でながら、続けた。「おれが愛する女は、文乃だけだよ」  そう言ったとたん、安西さんはあわてた顔をして、自分の口を両手で押えた。  急にどうしたのだろうと思っていると……「うわ、やば。まじで歯が浮いてきた」と真面目な顔で言う。  本気であわててる姿が可笑しくて、思わず吹き出してしまった。 そんなわたしを見て、安西さんは嬉しそうに言った。 「やっと、笑ってくれたね。その顔が見たかったんだよ」
Huling Na-update: 2025-07-31
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