たとえ、この恋が罪だとしても

たとえ、この恋が罪だとしても

last updateLast Updated : 2025-06-20
By:  泉南佳那Updated just now
Language: Japanese
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「モデルになってくれない?」 突然目の前に現れた人はきらきら輝く瞳と子どものような笑顔をもつカメラマン 坂道を転がるように彼に惹かれていったけれど…… わたしには婚約したばかりの恋人がいた。 *** 大手メーカーに勤める藤沢文乃は、会社の先輩、高柳俊一にプロポーズされる。何の疑問も持たずに、結婚の準備を始めた彼女の前に、突如現れた美形のカメラマン、安西瀧人。彼は熱心にモデルになってほしいと文乃を口説く。 安西を一目見たとたん、心を奪われた文乃。婚約者への後ろめたさを抱えながらも、坂道を転がり落ちるように安西に惹かれていき、そして…… ***

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Chapter 1

1・プロポーズ

神様だか悪魔だかわからない。

その、何かに引き寄せられるように

出会うはずのないわたしたちは出会い

そして恋に堕ちた。

引き返すことはできなかった。

たとえ、この恋が罪だとしても……

*************************************

〈side Ayano〉

「結婚してくれないか」

週末。

いつものように、ふたりで過ごしているときだった。

食後のコーヒーを飲みながら、彼は唐突に告げた。

わたしは藤沢文乃、25歳。

大手メーカーに勤める会社員。

隣にいる高柳俊一と付きあいはじめて、もうすぐ2年になる。

奥手だったわたしの、はじめての恋人。

新年会の帰り道、ふたりきりになったときに「きみが入社してきた日、一目惚れしたんだ」と告白されて。

大学卒業後、親のつてで大手メーカーに就職し、営業部に配属された。

俊一さんはわたしより4歳年上の、頼れる先輩だった。

一流企業勤務。高年収。性格は温厚。

ちょっと堅物すぎるぐらい真面目。

煙草は吸わない。お酒も適量。

ルックスもずば抜けてるってわけではないけれど、まあ、いいほうだと思う。

つまり、結婚相手として申し分ない人。

典型的な職場恋愛。

ふたりの未来もきっと、平凡を絵に描いたようなものになる。

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1・プロポーズ
神様だか悪魔だかわからない。その、何かに引き寄せられるように 出会うはずのないわたしたちは出会い そして恋に堕ちた。引き返すことはできなかった。 たとえ、この恋が罪だとしても……*************************************〈side Ayano〉「結婚してくれないか」   週末。 いつものように、ふたりで過ごしているときだった。 食後のコーヒーを飲みながら、彼は唐突に告げた。わたしは藤沢文乃、25歳。 大手メーカーに勤める会社員。隣にいる高柳俊一と付きあいはじめて、もうすぐ2年になる。奥手だったわたしの、はじめての恋人。 新年会の帰り道、ふたりきりになったときに「きみが入社してきた日、一目惚れしたんだ」と告白されて。   大学卒業後、親のつてで大手メーカーに就職し、営業部に配属された。 俊一さんはわたしより4歳年上の、頼れる先輩だった。一流企業勤務。高年収。性格は温厚。 ちょっと堅物すぎるぐらい真面目。 煙草は吸わない。お酒も適量。 ルックスもずば抜けてるってわけではないけれど、まあ、いいほうだと思う。    つまり、結婚相手として申し分ない人。典型的な職場恋愛。 ふたりの未来もきっと、平凡を絵に描いたようなものになる。
last updateLast Updated : 2025-06-04
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1・プロポーズ
身を焦がすような大恋愛の末に結ばれたってわけじゃない。でも、そんな恋なんて映画かドラマのなかだけの話だろう。 両親も見合い結婚だけれど、今はとても仲のいい夫婦だ。断る理由なんて、何もない。 わたしを望んでくれるひとと一緒になること以上の幸せなんて、存在しているんだろうか。「本当に、本当にわたしと?」 「じゃあ……」 「断るなんて、そんなわけ……うれしいに決まってる」俊一さんは目を細めて、わたしを見つめた。「ああ、よかった。ほっとしたよ。振られたら目も当てられないと思ってた。ひとり寂しく大阪に行くのかって」 「大阪?」「ああ、昨日、部長から内々に話があってね。向こうの企画開発部門に転属になるんだ」「じゃあ、企画部への転属希望がかなったってこと? わー、すごい! おめでとう!」俊一さんは、わたしの頬に手をそえて、自分のほうに向かせた。「あやの……大好きだよ。必ず幸せにするから」俊一さんの唇がわたしの唇に触れる。 手がわたしの身体を弄り始める。 そのままふたりでもつれ合ってソファーに倒れこむ。   あやの、あやの、とうなされたようにつぶやく俊一さん。   彼の重みを全身で受け止めながら、わたしも夢中で彼の背に手を回した……
last updateLast Updated : 2025-06-05
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2・理想のモデルはどこに?
〈said Takito〉「うーん、いいね。いい表情! それいただき! もっと、こっちに目線、そうそう。いいよ。もー、里奈ちゃん、サイコー!」「もぉ、安西さーん、いまどきそんなことを言うカメラマンさん少ないですよぉ」 彼氏を見つめるような表情でレンズに視線を向けたまま、レースの下着に男物のシャツを羽織っているだけの里奈は少し鼻にかかった甘え声でそう言った。「そお? もじゃもじゃ頭の大御所ぐらいか。そんなこと言うのは」 ふふっ、と楽しげな表情になる。そうそう、そのぐらいリラックスしてくれたほうがいい表情が撮れる。12月初頭の平日、午後2時。 昼下がりの東京は快晴。枯れ葉が強風にあおられて舞い散っているのが窓から見えるけど、スタジオのなかは適度な温度に保たれている。「じゃあ、次はそれ、脱いじゃおうか」カメラから視線を外さずに、里奈はシャツを肩から滑らせる。かなりきわどい下着姿の里奈は、お決まりの谷間ばっちりポーズを決めてくれる。お次は後ろを向いて、マシュマロみたいなお尻を惜しげなくさらす。Tバックなのでほぼ丸見え状態。 グラビア撮影のイロハが身についている子だ。やりやすい。それに、ここにキスして、と言わんばかりの胸元のホクロが超魅力的。  ここは表参道の裏通りにある古い民家を改装したスタジオ。持ち主は写真家、安西瀧人。 つまり、おれである。ついでに言うと、巷では千年に一度の女たらしとも呼ばれている。
last updateLast Updated : 2025-06-06
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2・理想のモデルはどこに?
まあ、別に否定はしない。だって可愛い女の子がいたら、声をかけないほうがどうかしてるじゃない、男として。しかも仕事柄、周りには可愛い女の子が掃いて捨てるほどいるし。今日の里奈ちゃんもそう。もちろん、撮影中は仕事第一。邪念は心の奥底にしまっておくけど、終われば欲望タンクは一気に満タン。メーターの針は一気に振りきれる。「お疲れー、良かったよ。おかげでいい写真撮れた」「ありがとうございました」 マネージャーの心配そうな視線をしり目に、里奈ちゃんがさっき脱ぎ捨てたシャツを手渡しつつ小声でささやく。「素敵な写真が撮れたお礼に、今夜一杯おごらせて」そしてさりげなく名刺を渡す。もちろんLINEのID入りの、プライベート用。  里奈ちゃんは一瞬おれと目線を絡め、可愛らしく微笑むと、もう一度軽く会釈をして帰っていった。今夜も楽しい夜になりそうだ。ひとりでにやにやしていたら、向こうの部屋から紗加がやってきた。「お疲れさま」濃紺のマニッシュなピンストライプのジャケットにタイトスカート。身体のラインにぴったり沿った服を憎らしいほどスマートに着こなしている。近藤紗加はこのスタジオの共同経営者。いや、おれは写真を撮るしか能がないから、実質的には彼女一人で仕切っていると言ったほうが正解だろう。英語、フランス語ともに堪能で容姿端麗、頭脳明晰、非の打ちどころのない才女だ。年齢不詳。たぶん、三十代半ば、かな。
last updateLast Updated : 2025-06-07
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2・理想のモデルはどこに?
「首尾はどう?」「ばっちり。もうIDも教えたし」ぱしっと頭をはたかれる。「イテっ」「そっちじゃなくて撮影のほうよ。順調に行けた?」「ああ。里奈ちゃん、なかなか勘のいい子でさ。今日は楽勝だった」「そう。終わったばかりで悪いけど、ちょっと話があるの。事務室に来てくれる?」 そう言って、先に立って歩いていく。 そうするとどうしても魅惑的に左右に揺れるヒップに目が行ってしまうは男の性(さが)だよな。 おれ、会社勤めじゃなくて良かった。 セクハラで、3日で首になりそうだ。********************************「さっきね、ある会社からオファーがあったの」打ち合わせ用のテーブルにつくと紗加は早速、話を切り出した。いつも冷静な彼女には珍しく、頬が少し上気して、あきらかに興奮している。「オファーなら珍しくないだろ。別に」「でも……〝MOGA〟誌からのオファーなんだけど」「えっ、MOGAって、あのMOGA? フランスの雑誌の?」「そうなのよ! しかも巻頭で! 瀧人の名前も前面に出すって」老舗ファッション誌からのオファー? もしかして、十把ひとからげのグラビア写真家から抜け出せるチャンスじゃないか、それって。 
last updateLast Updated : 2025-06-07
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2・理想のモデルはどこに?
「ネットにアップしてたプロモーション用の写真があったでしょう? リンク張ったメールを手当たり次第送っておいたら、なんとMOGAの編集長の目に留まったみたい」彼女はさらに眼を輝かせて、おれを見つめる。「ちょうど日本特集を組むので、まだ世間にあまり知られてない有望な日本人写真家を探してたんですって。オリジナルの写真を提供してほしいそうよ。ブランド縛りとかもなしで、好きに撮ってくれって」 「……詐欺じゃないよな。その話」「まあ、そう思うのも無理はないけど、日本法人の事務所から来た電話だったし、確認でかけ直してみたけど、ちゃんとオフィスに繋がったから大丈夫よ。とりあえずスケジュールが聞きたかったみたい。締め切りは3カ月後の2月末」「すげー……、すげー話だよな……なっ、紗加」 「ええ、おめでとう。瀧人」    紗加はすっと立ち上がり、おれの横に立った。  そして肩に手を置き、腰を屈めて耳元でささやく。   「さすが、わたしが見込んだだけあるわね。ただのグラビア撮りで終わらせる気ははじめからなかった」「みんな、紗加のおかげだよ」紅色に染まった爪先がおれの頬をすべり、そのまま唇をなぞってくる。 とたんにしびれるような感覚に襲われる。
last updateLast Updated : 2025-06-08
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2・理想のモデルはどこに?
「今夜はお祝いね。家に来てちょうだい。ゆっくり対策を練りましょう。とっておきのシャンペンもあるから」「って、旦那は?」「今日から出張よ。海外だから二週間は帰ってこないわ。タイミングがいいことに、ね」紗加は言った。瞳の奥に媚の色をまとわせて。頭脳明晰な共同経営者は、おれの淫奔多情な愛人でもあるのだ。 久しぶりに、この鎧(よろい)のように隙がない服を脱がせて、西洋彫刻の女神みたいに完璧な紗加の裸を拝めるってことか……  里奈ちゃん、ごめん。また今度な。****** その夜、紗加の家でグラスを傾けながら、ふたりで作戦会議をした。 何しろ一生に一度巡ってくるか来ないかの大チャンスだ。しくじるなんて許されない。海外の媒体だから、やはり日本らしさを前面に出したい。じゃあ日本のどのイメージを切り取ろうかという話になった。最終的にふたりの意見が一致したのは、小津安二郎の映画に登場する女優のような、クラシカルな雰囲気を持っているモデルを使うこと。「奥ゆかしさとか芯の強さなんかも表現できたらいいんじゃないかしら。ただ美しいってだけじゃなく」「ああ、そうだな」 「わたしたちふたりで、世界をあっと言わせましょう」  紗加はシャンペングラスを少し持ちあげて、くっと一気に飲み干した。  さて、仕事はこのくらいにして、この後はお楽しみが待ってる。 シャンペンでほろ酔い加減の紗加の全身から、隠し切れない欲望が妖しく匂い立っている。  おれはそっと近づくと、その細い肩に手をかけた。 「瀧人…」  首筋に唇を這わせ、爪を立てて背すじを撫で上げると、つぶやきはすぐに吐息に変わっていった…… 
last updateLast Updated : 2025-06-08
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3・よぎる不安
〈side Ayano〉 中学、高校とコーラス部に所属していたわたしは、社会人になってからも私設の合唱団『ムジーカ・アルモニーア』に所属していた。「文乃ちゃん、声の調子良さそうね」発声練習をしていると、リーダーの美紀さんに声をかけられた。「はい、ネットで『大根の蜂蜜漬け』というのを見つけて、作ってみたら喉の調子が良くなって」「へえ」「明日、皆さんにも作ってきますね。はじめてのコンサートですし」「まあ、ありがとう。みんな喜ぶわ。あっ、そうそう、彼氏は観に来てくれるの?」「残念ながら、出張で大阪に行っているので」「あら、そうなの。お会いしてみたかったのに」「また次の機会に連れてきます」たぶんそのときには、「彼氏」じゃなくて「夫」として紹介するんだと思うと、なんだかくすぐったい気分になる。今から2カ月前のこと。美紀さんが、相談があると言ってみんなの前で話しはじめた。「『聖ヨハネ教会』ってご存知かしら。そこの牧師様から、12月15日の日曜日の礼拝の後で、讃美歌を中心に信者さんの前で歌ってほしいというご依頼があって。どうかしら。やってみる?」「まあ、素敵!」と真っ先に声を上げたのは最高齢の待子さん。
last updateLast Updated : 2025-06-09
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3・よぎる不安
「ぜひやりましょう。教会でコンサートなんて素敵。日ごろの練習の成果を天国の主人に聞かせたいわ」西園寺待子さんは御年83歳。でも背筋がしゃんと伸びていてとってもお元気。七十代と言っても充分通じる。笑顔がチャーミングな、とても可愛らしいおばあさん。合唱団のメンバーはみんな待子さんが大好きだった。待子さんがそうおっしゃるならと、異を唱えるひとはいなかった。「じゃ、決まりね。それでは教会での初コンサートに向けて頑張って練習はじめましょう」衣装づくり、歌の練習、パンフレットづくりと、多忙な2カ月はあっという間に過ぎていった。いよいよ、明日が本番。でも大阪に行くとなったら、こうしてみんなと一緒に歌えなくなるんだ。そう思うと、少し寂しい気分になった。****************いつもより熱の入った練習を終え、帰宅したのは午後9時すぎ。ベッドに入ったのはもう日付が変わったころだった。 遅いかなと思いつつ、どうしても声が聞きたくなって俊一さんに電話をかけた。「……それでね、明日も集合が早いのに、みんな練習にすごく力が入って、なかなか終わらなくて――」5分ほど話した後だった。「文乃」不機嫌そうな声で俊一さんが話を遮る。「もう、そろそろいいかな」「えっ?」
last updateLast Updated : 2025-06-09
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3・よぎる不安
「明日さあ、こっちも朝早いんだよ。それにまだ、あっちの部署宛に報告書も書かなきゃなんないし。忙しいんだよ」 「ご、ごめんなさい。コンサートなんてはじめてだから、つい……」「そっちはお遊びだろ? こっちは仕事なんだから」 「……うん、わかった。じゃあ、切るね。ごめんなさい。明日気をつけて」 「ああ、じゃあ」通話が切れたあとも、電話を持ったまま、しばらくぼんやりしていた。出張のことを気にしなかったわたしがもちろん悪い。 でも「明日がんばれよ」って、一言はげましてほしかった。わたしが真剣に合唱に取り組んでいることを、俊一さんはわかってくれていると思っていた。ふと、灰色の紗幕が頭のなかを覆った。 もしも……結婚したあともこんなふうだったら?俊一さんは多忙で疲れて寝るだけの毎日。 そしてわたしは知らない土地で、相談や気晴らしをする相手もなく、ひとりっきりで過ごすことになるのだろうか?  ううん、きっと疲れていて虫の居所が悪かったんだ。 いつもはあんなふうに話を遮ったりするひとじゃない。 気のせいだ。誰でも環境が変わるときは不安になるもの。 わかってほしいというのは、わたしのわがまま。 わたしの方こそ、彼の気持ちをもっと考えなきゃ。そう思おうとしたけれど、一度浮かんだ不安の影はなかなか消えてくれそうになかった。
last updateLast Updated : 2025-06-11
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