林田家の本邸に着いた。
執事とメイドが玄関前で待っていた。
車から降りると、美咲はまだ上着を整えて膨らんだお腹を隠そうとしていた。
私はその様子を見て、内心で笑った。
手を差し出すと、メイドはすぐに駆け寄って私を支えながら中へ案内した。
食卓で、母は私の九ヶ月の大きなお腹を心配そうに見つめた。
「あかり、最近はどう?辛くない?体は大丈夫?」
「大丈夫よ」
私はブロッコリーを一つ箸で取り、笑顔で答えた。
父はお茶を飲み、美咲は背筋を伸ばして正座していた。
私が箸を伸ばしてもう一つ取ろうとした時、父は急に湯飲みを強く置き、表情を曇らせた。
「大学に入ってから、本当に躾がなっていない。目上の者が箸を付ける前に食べ始めるなんて、すっかり礼儀を忘れてしまったな」
私が何か言う前に、美咲が私の擁護を始めた。
「伯父様、あかり姉さんを責めないでください。今の大学は自由な考え方を重視していますし、あかり姉さんは専攻でもトップクラスですから、こういった......こういった古い習慣にとらわれず、家に帰ってきて一時的に忘れてしまっただけかもしれません。それに、今は妊娠中ですし......」
私は冷ややかに彼女を見た。前世では、こんなに要領の良い女だとは気付かなかった。
「それがどうした?そんな理由で躾がなってないことが許されるのか?甘やかしすぎだ。大学受験の時も、金融を学べと言ったのに、どうしても美術だと言い張って。お前は彼女の擁護なんかしなくていい。もし彼女がお前のように私の心配の種を減らして、金融を学んで会社を手伝ってくれていたら、私も十年は長生きできただろうに!」
「食べまくる、飢えた魂のように......」
父は角煮を取り分けて美咲の茶碗に載せた。
私の心は暗く沈んだ。そうだ、前世では最期に寒さと飢えで死んだのだから。
私がまた食べようとした時、突然美咲は口を押さえてトイレに駆け込んだ。
吐く音が特に響き、私は途端に食欲を失った。
両親は彼女の体調を心配したが、私にはそれが妊娠悪阻だと分かっていた。
美咲が戻ってきた時、母の心配そうな視線が彼女の引き締まった腹部に留まるのを見た。
「美咲、大丈夫?どうして吐いたの?具合でも悪いの?それとも妊......」
言葉の途中で、私は慌てて口を閉じた。
しかし、これだけの情報で、両親は十分察したようだった。
美咲は私を一瞬怯えたように見つめた後、母に呼ばれた。
「伯母様、大丈夫です。昨夜、何か悪いものを食べたみたいで」
美咲は慌てて説明したが、父が電話をかけ始めるのが見えた。
しばらくすると、白衣を着た医師が入ってきた。
父は彼に手招きして、親しげに「山田君」と呼びかけた。
しかし、私は彼を見た瞬間、頭が真っ白になり、目が震えて止まらなかった。
この男は......前世で私を凌辱したホームレスの一人だったはず......