「悠一」
奥のVIP個室。
直也が部屋に入ると、自然と皆が振り返り、ペコリと頭を下げる。
部屋の奥にあるバーカウンター近くの大きなソファは、彼の親友 那須川悠一の専用のようになっている。
直也が声をかけると、悠一は軽く手を上げた。
今日も彼はアルコール度数の低い酒を飲んでいる。
酔わない為でもあり、最近は子供の為でもある。
「今、1階に雪乃さんがいたぞ」
「……は?」
直也の言葉に悠一の片眉がピクリと動いた。
「誰といた?」
端的に訊かれて、直也も迷いなく答える。
「雪乃さんと、白川麻衣、あともう一人知らない女が一人と、男が2人」
「は?」
最後の言葉に過剰に反応する友人が可笑しくて、直也は言った。
「見に行くか?」
「いや…」
すごく気になるくせに、〝しつこくして嫌われたくない〟という心情が、実によく表れた表情をしていた。
悠一はポケットからスマホを取り出して、どうやら彼女にメッセージを送るようだ。
『楽しんでるか?飲みすぎるなよ』
何度か消しては入力して…を繰り返し、結局無難に送った。
しばらく待ってー
ピロン
着信の音にすぐさま確認した。
『ストーカーは犯罪よ!』
「………」
横目で全部見ていた直也がプッと吹き出した。
「ストーカーって……。雪乃さん、最高!」
くくくと肩を震わせて笑い、それを見て悠一はグラスを煽った。
「なになに?なんすか、楽しそうっすね〜。」
そこへ弟分の並木廉が近づいて来て、珍しく涙が滲むほど笑っている直也を見て、首を傾げた。
「何でもない」
悠一は不機嫌な声音だったが、雰囲気は悪くなかった。
「直也さん、なんスか?教えてくださいよ〜」
焦れったくて、弟分の特権で甘えてみた。
それに対して直也は頭を小突いてきて、悠一は無視していた。
いや、ちょっと拗ねてるっぽい。珍しい!!
廉は憧れの兄貴である悠一の、滅多に見ない表情に大興奮した。
「仲間外れはなしっスよ〜」
教えて教えて!何があってこんな感じに!?
急かす廉に、直也はやっと笑いを抑えて言った。
「悠一の奥さんが、悠一に〝ストーカー〟てー」
そこまで言って、直也の笑いがまた再燃した。
腹筋死ぬ…っ。
だがそれを聞いて、廉はムッとした。
「なんスか、ストーカーって。奥さん、酷いっスよ!自惚れてんスか!?」
そう本気で文句を言うと、途端にその場の空気がピリッとした。
「何だ?お前が雪乃の文