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美桜
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Romans de 美桜

もう一度あなたと

もう一度あなたと

幼馴染の夫は妹との子供を引き取り、2人の子として育てるよう言った。 10年彼女は双子の世話に追われ、その間冷たい夫からはほぼ無視をされ、子供たちからもいつの間にか嫌われて、最終的に棄てられた。 初恋に敗れ、身内に裏切られ、彼女は死ぬ間際この結婚を後悔した。 そして彼女は、過去へと戻ったことを知った。 愛していても報われないどころか殺されるなら、もう自分を偽るのはやめよう。 「君、変わったね」 「ぶりっ子はやめたの。悠一、別れましょう」 子供の頃、お転婆で自由な彼女に惹かれた気持ちを思い出し、彼は前世と違って彼女を囲い込もうとしてきた。 「雪乃、愛してるよ」 「ご冗談」 彼女は綺麗に微笑った。
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Chapter: 108.
「何するのよ!!」次の日の夕方。ボディーガードに連れられた春奈が、悠一の前に乱暴に投げ出された。「痛っ!」ドサッと床に倒れ込み、春奈は目の前に綺麗に磨かれた革靴を目にした。顔を上げると、そこには底冷えのするような冷たい眼差しの悠一がいて、咄嗟に身を引いた。だがー「きゃあー!」髪の毛をガッ!と鷲掴みにされ、無理やり顔を上向けにされた。「痛い…」涙目で訴えたが、ふんっと嗤われた。「この程度で泣き言を言うな」「……」どんなに哀れを誘うような顔をしても、見つめる瞳には嫌悪と憎しみしか宿っていなかった。なんで…?春奈は、自分がなぜこんなにも悠一に憎まれたのか、分からなかった。だから、怯えながらも尋ねずにはいられなかった。「どうして?どうして、こんなひどい事するの?」「分からないのか?」悠一の瞳に、益々憎しみが込められた。「お前が、あのガキ共に余計な事を吹き込んだせいで、雪乃は死んだんだ」「え…」死んだ?誰が……。お姉ちゃんが…!?呆然としていた春奈が、急に意識を取り戻して叫んだ。「待って!お姉ちゃん!?お姉ちゃんが死んだって、そう言ったの!?なんで!!」「……」悠一は目を眇めて、目の前で焦ったように喚いている女を見つめた。まるで、自分に罪がないみたいに言うんだな…。だが、「どうしてお姉ちゃんが死ななきゃいけないの!?」彼女がそう言った途端、湧き上がる怒りが抑えられなかった。「お前だ!!お前が!あいつらに雪乃がいなければって言ったんだろうが!!」「!」ゼイゼイと肩で息をして、怒りを吐き出す悠一の目には、涙が滲んでいた。ああ…そうか…。あの子たちまだ小さいのに。そんなことしちゃうんだ…。春奈の目から光が失われた。そして、ふふっ…と小さく笑うと突然立ち上がり、ここに来た時から目に映っていた子供たちに向かって、怒鳴った。「この人殺し!!」咲良は驚愕に目を見開いて固まり、陽斗は地団駄を踏んだ。「なんだよ!僕はママの為にやったんだぞ!」「うるさい、バカ!あんたのせいで、お姉ちゃん死んじゃったじゃん!!」「バカって言うママがバカ!!」2人の罵り合いに咲良は泣き、悠一はイライラと歯を食いしばっていた。そしてダンッ!!と床を踏み鳴らし、3人それぞれに視線を据えた。「お前ら全員が人殺しだ。母子3人、仲良く罪を
Dernière mise à jour: 2025-08-29
Chapter: 107.
邸の中は耳が痛くなるほどの静寂と、悠一の怒りのオーラが支配していた。小高を始めとした全ての使用人、邸のボディーガード、運転手、庭師に至るまで、全ての人間が集められた。「誰だ?」悠一の傍には先日の、雪乃を運んだという運転手が跪き、その彼の横には陽斗が転がされていた。まだ10歳程度の子供の頬は赤く腫れ上がっていて、泣きすぎて声も枯れていた。「うう…」「陽斗!大丈夫!?」連れて来られた咲良が横たわる弟に駆け寄り、目の前の使用人たちをギロリと睨みつけた。「誰よ!?」彼女は、弟が使用人の誰かに虐められたと思った。そして父親が、その犯人を今探し出している最中なのだと思った。だが…。「お前もそこに跪け」「え…」そうじゃなかった。悠一の冷たい声音に怯えながらも、彼女は納得がいかなかった。なんで私が…?だから、そう言った。すると、普段優しい訳ではないがひどくもない父親が、「あ"?」と睨みつけてきた。それにビクつきながら、それでもまた言った。「なんで私がそんなことしなきゃいけないの?私は、陽斗を虐めてなんかないわ!」「……」悠一はただ黙って、本邸から連れて来たボディーガードにクイッと顎をしゃくった。すると、そのボディーガードは咲良に近づいて来ると、ドンッと一切の容赦なく突き飛ばしてきた。「きゃあ!」床に強く膝を打ちつけて、痛みに涙が出た。「なにするの!?パパ!コイツをやっつけてよ!!」そう訴えたけれど、そこには彼の冷めた眼差ししかなかった。「パパ…?」そこで初めて何かがおかしいと気づき、咲良はキョロキョロと辺りを見回したのだった。だが誰もが彼女と目を合わせようとせず、怯えたように俯いていた。「ねぇ…これ、なに…?何が起こってー」「うるさい」その時、悠一の低い声が彼女の疑問を遮った。「いつまでもペラペラと…。少しは黙っていられないのか?」「パパ…」呟くと、一刀両断された。「俺はお前たちの父親じゃない」「!」「!!!!」そこにいる全ての人が皆、驚いて目を見開いた。泣いていたはずの陽斗さえ、ピタリと泣き止んだ。それを見た悠一が、皮肉げに嗤った。「確かに、お前たちには那須川の血が流れている。けど、それは俺の血じゃあない」「そ、それは…」小高が代表するように尋ねた。「どなたのお子さまなのでしょうか…?」
Dernière mise à jour: 2025-08-29
Chapter: 106.
前世ーキキーッ!!邸の前に、急ブレーキと共にバンッ!という乱暴にドアが閉められる音がしたと思ったら、玄関扉までが勢いよく開けられた。中にいた使用人や執事が一斉に振り向くと、そこには髪を乱して息を荒げた悠一が立っていた。「旦那さー」「雪乃は!?」小高の言葉を遮り、厳しい口調でそう問い詰める彼に、誰もが顔色を失くして俯いた。「答えろ!!雪乃はどうした!?」「……」「小高!」この邸の管理は彼が一手に引き受けている。その彼にも分からなかった。使用人たちが、奥さまを蔑ろにしていたことには気がついていた。あまりにもひどい時にはそれとなく注意していたが、悠一の態度が彼女に冷たいことから、彼(彼女)たちは、雪乃を粗雑に扱ってもいいと勘違いしていたのだ。小高は答えた。「申し訳ございません。私の落度です…」そう言った途端、悠一が拳を壁に叩きつけて怒鳴った。「そんな言葉で納得できるか!!」「……」「……」「……」鬼のような形相で皆を睨みつける悠一に、そこにいる人々はガタガタと震えていた。なんで…?奥さまのこと、嫌いなんじゃなかったの…?今まで何も言わなかったじゃん…。奥さま、どこに行ったんだよ…。雪乃が行方不明となって、既に5日が経っていた。2日間は待ってみた。どこか気晴らしにでも行っているのかと思ったから。だって、陽斗坊ちゃんが「ママは一人で遊びに行っちゃった」て言ったから…。そこへ、悠一の友人である長谷直也がやって来た。彼も急いで駆けつけたのか、服装が少し乱れていた。「悠一…」彼は、ソファに座って、両手で頭を抱え込んでいる親友の肩に手を置き、力強く言った。「こっちでも方々探してる。きっと見つかるさ」「……」悠一の眉間には深いシワが刻まれ、怒りのオーラが漂っていた。もしかして、雪乃は逃げたのか…?俺を嫌って?考えれば考える程、心が締め付けられる。わかっている。自分が、彼女にとっていい夫ではないことくらい。でも、彼女は自分を愛しているんじゃなかったのか!?本当に嫌いになったのか!?なぜ、俺から逃げようとするんだ!?悠一は、ギリギリと歯を食いしばって耐えていた。全ての使用人が集められ、何か気づいたことはないのか、誰も彼女を見ていないのか、一人ずつ厳しく問い詰められた。そんな時、一人の運転手が青い顔をしておずおずと
Dernière mise à jour: 2025-08-29
Chapter: 105.
3年後ー「雪乃、ただいま」出張から戻った悠一が、迎えに出た雪乃を優しく抱きしめ、額にキスをした。「おかえりなさい」それに微笑んで彼を見上げる雪乃に、邸の使用人たちも皆優しく微笑んでいた。悠一が言った。「雪乃、ことりを連れてスキーに行かないか?」「スキー?」首を傾げると、悠一は嬉しそうにある一枚の写真を出してきた。「君、子供の頃スキーに行ってみたいって言ってただろ?ちょうど良さそうな別荘があったから、買ったんだ。リフォームも済んだし、この冬はここで過ごさないか?」「……」一気に話す悠一の声を聞き流しながら、雪乃は写真を見て呆然としていた。そこはー彼女が絶望の中、その生を終えた場所だった。写真には懐かしい景色が写っていて、雪乃の指は微かに震えていた。悠一はそれに気づき、心配そうに尋ねた。「どうした?嫌だったか?」「ううん…そうじゃないの……」緩く頭を振ってそう言う彼女に、彼は眉を寄せた。雪乃はそんな彼を安心させるように微笑み、もう一度写真を見た。大丈夫。屋根の色も違うし、扉の形も違う…。「倉庫…食糧庫みたいなものは、ある…?」「倉庫?いや、ないな。必要なら作らせるが?」そう言われて、ホッと息をついた。そして顔を上げて言った。「いらない。その代わり、大型の冷蔵庫と冷凍庫が必要ね」「わかった。用意しよう」雪乃の何か吹っ切れたような、何か分からないがいつもと同じ微笑みに、悠一もホッとして微笑った。雪乃は思った。もしかして、前世も彼は、私の為にあの別荘を手に入れたのかもしれないわね。子供の頃に言ったっていう、私ですら忘れていた言葉を覚えてたのかも…。そう思うと、雪乃の気持ちは明るくなった。「そうだ!ことり用に、ソリもいるわ」楽しそうにそう言う彼女と悠一が、揃って2階に上がる階段に足をかけると、タタタッと小さな足音が駆けてきた。「パパ!」その声に振り向いた悠一が、満面の笑みでしゃがんで両腕を広げた。そして、全力でその中に飛び込んで来る可愛い娘に、言いようのない愛おしさを感じた。「ただいま、ことり」優しく頭を撫でて、抱き上げてやる。2歳になる娘はニコニコ笑ってギュウッと悠一に抱きつき、お土産をねだった。それを雪乃に窘められて、彼女は小さな舌をべッと出した。「ママばっかりずるい!ことりのパパなのっ」
Dernière mise à jour: 2025-08-29
Chapter: 104.
新婦控室に、悠一が現れた。今日の彼はいつもと違ってダークカラーではなく、眩しいほどの白いタキシードを着て、そのスタイルの良さを見せつけていた。雪乃は以前の結婚式で着たものをまた少し形を変えて仕立て直し、透き通るような肌との境界線が曖昧なドレスに身を包んでいた。何度新しく作ろうと言ってもこれがいいと言うから、好きにさせていたが…なるほど、よく似合っている。悠一は思わず控室の入り口で立ち止まって、雪乃に見惚れていた。「どうしたの?入って」不思議そうに首を傾げるその仕草も、なにもかもが愛おしい。スタスタと近寄って来て、悠一にふわりと抱きしめられた雪乃は、慌てて彼の胸を押し戻した。「お化粧が服に付いちゃうわ」「構わない」構うわよっ。……まったく。雪乃はため息をついて、そっと顔を上げた。「悠一」と呼びかけると、「ん?」と目を合わせてきた。「前のお式の時、すっごく嫌そうだったのは、なんで?」「それ、今訊く?」頷くと、不貞腐れたように答えた。「君を騙す為の式なんか、嫌に決まってる」雪乃は微笑み、心から囁いた。「悠一、あなたを好きになってよかった」「雪乃…」そっと近づいてくる悠一の唇を、雪乃は慌てて両手で塞ぎ、押し戻した。「まだ早いわよっ」「……」眉を寄せて抗議する悠一だったが、ふと、彼女の目の縁が赤くなっていることに気づいて目元を緩めた。そして自分の唇を押さえている彼女の柔らかな手を取って、その指先に口付けた。「!」顔を真っ赤に染めてその手を引っ込めようとするが、悠一は許さなかった。「君は俺のものだ。例え君自身でも、それを否定することは許さない」「悠一…」ガツッ…!次の瞬間、雪乃に頭突きをされた。「痛いよ、雪乃…」非難がましくそう言うと、彼女は腰に手をあてて言った。「私が誰のものか、決めるのは私よ!あなたじゃないわっ」「……」無言で額を擦る悠一に、続けて言った。「今は、私は私のもの。でもこの式が終わったら、あなたのものにもなるわ」その滲み出るような愛情の籠もった声を聞いて、悠一は満足そうに微笑んだ。「全部?」そう言うと。「バカ!」その言葉と共に、ゴンッと今度は頭に拳骨が落ちてきた。「痛いよ、雪乃…」上目遣いで見上げると、彼女は「まったく…」と呆れたようにため息をついた。「〝那須川雪乃〟はあなた
Dernière mise à jour: 2025-08-29
Chapter: 103.
ここに来てどれくらい経ったのか、全然分からない。最初は数えてたけど、変わり映えしない毎日にだんだんと面倒くさくなって、やめてしまった。ある意味、ここは楽園だった。嫌なことをしてくる人も、言ってくる人もいない。自分以外、誰もいないから。何もしなくてもご飯が出て来る。美味しくないけど。イジメみたいなものもないし、自由にしていられる。部屋の中だけだけど。雨の日以外は1日のうち30分、中庭に出て運動もできる。狭いし、囲われてるし、1人だけど。テレビもないし、ゲームもない。新聞も、雑誌も、何にもない。でも一日中ぼーっと過ごしてても、誰も文句を言わない。私…何してるのかしら…。春奈は今日も大きなため息をついて、今ではすっかり身体に馴染んだここの服を見下ろした。ダサ…。でも誰も見ないし、もう気にならなくなった。その時ー。カシャン…とドアの横にある小さな、猫とか犬が外に行く時に出入りするような大きさの、スライド式の扉?が開いた。そして、無言で食事の乗ったトレーが入れられた。見ると、もう見慣れた質素な食事が乗っていた。野菜スープにおにぎりが2つ。今日の中身は梅干しとおかかみたい。それからチキンの塩コショウ焼きと、目玉焼き。今日はソースが付いてた。あれ?どうしたんだろう?今日はデザートに果物が付いてる。3粒だけ春奈が首を捻っていると、いつもは無言の食事係が説明してくれた。「今日は那須川家の悠一様と、その婚約者の藤堂家ご令嬢、雪乃様の結婚式だ。朝食にはデザート、昼食にはジュース、夕食は、なんと祝膳が供される。ありがたく頂くように」「……」あなたが出す訳でもないのに、威張らないでよねっ。……そっか。お姉ちゃん、悠一と結婚するのね…。春奈はふっ…と笑った。おめでとう、お姉ちゃん!そうして春奈はトレーを手に取り、テーブルまで運んだ。始めはまったく口に合わなくて食べなかった食事も、お腹が空けば美味しく食べられる。それも今は普通に食べてる。春奈は所作だけは美しく、黙々と食事を口に入れた。そしてー「ん…」デザートに出された果物を口に入れて咀嚼した途端、彼女の頭の中に懐かしい記憶が再生された。「お姉ちゃん、私、まだ食べたいの。ちょうだい?」春奈が姉と一緒に那須川家に遊びに行った時、昼食の後出された果物が、驚くほど美味しかった。お姉ち
Dernière mise à jour: 2025-08-29
Your'e My Only Shinin' Star〜あなたに逢いたい〜

Your'e My Only Shinin' Star〜あなたに逢いたい〜

真田准(さなだじゅん)は名門真田家の一人息子であり、唯一の後継者だ。 彼は現当主、真田怜士(さなだれいじ)の弟夫妻の一人娘、真田芽衣(さなだめい)を誰よりも可愛がっている。 彼女は13才年下で軽い知的障害があり、それ故に純粋で、彼にとってなんの思惑もなしに一緒に過ごせる相手だった。 だが准の婚約者の座を狙っている女性たちにとって芽衣は邪魔者でしかなく、彼女はそんな女たちによって陰で執拗に虐められていた。 准がその事に気づいた時、芽衣は深刻な病気に罹り既に余命宣告も出されていた。 彼は芽衣に寄り添いつつ、彼女を虐めた連中への報復をした。 「芽衣はお星さまになるの」 彼女の最期の言葉に、准の涙は止まらなかった。
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Chapter: 70
集まっていた男たちは、互いに顔を見合わせて、そして言った。「1番と言われても、あまり大差ないんだが?」「じゃあ、具体的な資産を教えて」「……」さすがにこの言葉には、男たちの目付きが変わった。「なぜそんなことを?」「いい加減にしろ」「優しくしてやったらすぐこれだ。まったく女って奴は…っ」等と口々に捲し立ててきた。だが決定的な一言は言わなかった。〝黙って俺達の靴を舐めろ〟と。それは、いわゆる奴隷と何ら変わらない扱いだった。彼らは別に妻や恋人を求めているわけではない。珍しい女をコレクションしたいだけなのだ。それなのになんだと?資産を教えろだと?ふざけやがって!そんな感情が噴き出していた。ここにレリーの息子、リナトがいなければ、今頃こんな女など我らに連れ去られていただろう。その後どんな風に扱われようと、俺達の勝手だし、誰にも口出しはさせない。自分たちは、それだけの対価を贈っているではないか!「…っ」友梨は不穏な空気を肌で感じ、一歩後退った。理那人はそんな彼女を見て、内心もう面倒くさくて堪らなかった。もう…なんなんだ。面倒なことばっかり言いやがって…っ。彼は深いため息をつくと、ヴヴンッと彼らの注意を引いた。「皆さん、とりあえず落ち着いてください。友梨さんも、失礼な言動は控えてください」その言葉に、今にも立ち上がりそうだった男たちはソファに座り直し、友梨はホッと息をついた。「友梨さん」だが理那人の次の言葉に、彼女の中にあった彼への淡い期待も崩れ去った。「あなたにそんなことを問う権利は、ここではありません。僕の忠告を聞かなかったあなたの自業自得です。あなたが今するべきことは、彼らの忍耐力に感謝することであって、そうやって駄々をこねることではありません」「駄々…?駄々ですって!?どうしてよ!」どうして私が、私自身を託す相手を選んじゃいけないの!?少しでもいい人の所に行きたいと思うのは、普通のことでしょ!?「どうして、私にそんなに冷たいのよ!?私が何かしたっていうの!?」喚き散らすと、静かに聞き終えた理那人がはぁ…とため息をついた。「あなたは、怒らせてはいけない人を怒らせた。…それだけです」「はぁ!?」怒らせちゃダメな人って、誰よ!?友梨の目から、涙が零れ落ちた。そんな彼女に、彼は言った。「怒らせたでしょう?准さんを
Dernière mise à jour: 2026-03-26
Chapter: 69
理那人は一つため息をついた。「友梨さん、僕は昨日言いましたよね?男性からの贈り物は受け取ってはいけない、と」「……」「どうしますか?」友梨には分からなかった。彼女はただ、理那人を嫉妬させたかっただけだ。それなのに、たかがプレゼントを受け取っただけで、こんな身売りのようなことになるなんて思わなかった。でも…。彼女には、今、絶対に嫌だという訳にはいかない事情があった。昨夜、自室に戻って来てシャワーを浴び、貰ったプレゼントをもう一度手に取った。中身は皆、綺麗な宝石のついたネックレスやブレスレット、それにブローチやイヤリングなどの装飾品だった。どれも皆華やかで、そして高価な感じのするものだった。友梨は、高価なプレゼントを贈られるということは、自分がそれに見合う女なのだという証拠のように思って、心が満たされた。トゥルルルル…トゥルルルル…そうして満足の笑みを顔に浮かべた時、スマホの着信音が鳴った。「もしもし?」気分が良かったから、少し弾んだ声が出た。だが…『友梨……』相手は母親だった。しかも、なぜかとても暗い声だった。「どうしたの?」訝しげに問うと、信じられないことを聞いた。『友梨…。パパが、奥さんと離婚したんだって…』「え……本当に!?」良かったじゃない!そう言おうとしたところ、彼女の耳に母親の嗚咽が聞こえてきた。「え、どうしたの?まさか…離婚したのに、結婚してくれない…とか?」『違うの…っ』泣くばかりで要領を得ない母親をなんとか宥めて、そして聞き出したところによると、なんと父親の井岡康三の元妻から、全ての財産の差し押さえがきたと言うのだった。「すべて…」彼女が言うには、井岡は実は妻の家の婿養子で、今までの政治家としての影響力が薄れることを考慮して、元の名前を名乗っていただけだった…と言うのだ。そして彼は、友梨も知っているが、この国と同じで女の価値を低く見ている。だから婿養子であるにも関わらず自分が主であるかのように威張り散らし、妻の家のお金を自分のもののように使っていたのだ。自分の稼いだお金は適当な遊興費で使い切り、そもそも政治家を辞めてからはまったく稼ぎなどある訳もなく、だが妻から渡されていたカードを好きなだけ使ってもなんの支障もなかった為、彼はそれを自分のお金だと錯覚し続けていたようなのだった。そして友梨の母
Dernière mise à jour: 2026-03-26
Chapter: 68
もしかして、嫉妬してくれてるの…?他の男性からプレゼントを貰うな…なんて…。結構、独占欲が強いのね。そう思って、ふふっと嬉しそうに笑った。「……」理那人は、薄っすらと頬を染めて微笑む彼女を見て、呆れたようなため息をそっとついた。そして何事もなかったようにそのまま彼女を連れて、とある席へと誘ったのだった。「あなたの席はここです」「え?…あの、理那人さんは?隣じゃないんですか?」友梨は、大きな長テーブルの席につく女性たちを見て、動揺した。彼女は、今日は理那人の家族に紹介をしてもらえると思っていたので、当然彼の側にいられると思っていたのだ。だがー「すみません、僕の席は父の隣なんです」理那人はそう言った。彼の指差す方は、友梨の座る席からかなり離れた場所、広間の前方にあった。そこには男性ばかりが座っていて、見渡すと、女性はほとんどが皆、広間の隅の方に固められていたのだった。「……」友梨はこの国の特徴を思い出した。「彼女たちは?」それなら…と男性たちの座る席の比較的近くに座る女性たちのことを尋ねると、彼は何でもないことのように答えた。「彼女たちは、父や兄たちの妻や恋人たちです」「え…じゃあ、私は…?」私はなんなの?あなたの恋人じゃあないの?そう言うと、理那人は驚いたように目を見開き、言った。「僕たちはまだ、そこまでの関係ではありませんよね?」「は…?」そうなの?だったら、なぜここへ連れて来たの?友梨の頭の中は疑問だらけだった。自分たちの間には確かにまだ、なんの関係もない。ただ何度かデートをしたくらいだ。でも、実家に連れて行って、家族に紹介するっていうのは、恋人になるってことじゃないの?理那人は混乱している友梨を「じゃあ、また後で」と一言だけ残して、自分の席へと去って行ってしまった。「なんなの…」ボソッと呟いた友梨に、周りからクスクスという笑いと、面白いものを見たというような嘲笑の視線が向けられていた。「恋人気取りとか…図々しい子ね」「本当…何様よ?」クスクス…ヒソヒソ…と耳障りな雑音に、友梨は顔を真っ赤にして俯いていた。悔しい…っ。理那人さんってば、なんなの!?友梨は屈辱に震えていたが、やがてキッと顔を上げて周りを睨みつけると、後は無視した。彼女は食事の間中、理那人たち男性陣が座る席の近くにいる女たちを、じっと見
Dernière mise à jour: 2026-03-26
Chapter: 67
*夕方まで一休みした友梨は、改めて自分に用意された部屋を見て、満足気に微笑んだ。これが単なるゲストルームだなんて、相当なお金持ちね。その目には、所有欲がありありと浮かび上がっていた。准さんも素敵だけど、私に冷たいし…。理那人さんの方が優しくて扱いやすそうよね?そう胸の内で呟いた。彼女は今、目の前にある広くて豪華なゲストルームの値打ちを見ると共に、今日開かれるという家族の集まりで、どう自分に好印象を持ってもらえるようにするか…。その課題に頭を悩ませていた。理那人さんは「別に普通にしてればいいよ」て言ってくれたけど…。彼女は立ち上がって、彼が用意してくれたドレスを見てみた。「素敵…」それは薄いピンクの、軽やかな印象のワンピースだった。身体に当ててみると友梨の白い肌を引き立てて可憐に見せていたし、一緒に贈ってくれた白いハイヒールと合わせると、とても似合っていた。惜しむらくはアクセサリーを贈ってくれなかったことだが、もしかしたら着替えるときに使用人から渡されるのかもしれなかった。彼女はうきうきと、ドレスを身体に当てたままその場でくるりと一回転し、ひらりと揺れる裾をチェックした。うん。いい感じ。彼女は自分の脚の形の美しさを自覚していたので、いつもそこをきちんと魅せられるものを選んでいた。そういう意味でも、このドレスは合格だった。もう少ししたら準備を始めるだろう。友梨は今から楽しみで、知らず笑顔になるのだった。コンコンーそれからしばらくしてメイドが入って来て支度を手伝ってもらい、その時にアクセサリーも付けてもらったのだが…正直、がっかりした。なんというか…。よく言えばシンプルで清楚。悪く言えば質素で貧乏くさい。「……」友梨は鏡に映る自分に、不満げな顔をした。髪飾りに付いているのは小さなタンザナイトがいくつか。そして一粒ダイヤのついたショートネックレス。それとお揃いのピアス。…それだけだった。「…これ…理那人さんからなの?」尋ねると、メイドたちはキョトンとした。そして当たり前のように「違う」と言ったのだった。「それは、こちらがドレスに合わせてご用意いたしました。清楚で愛らしく見えるように」「……」清楚で愛らしい?いやいや、どう見ても、ただの貧相な女でしょう…?友梨の顔を見れば、彼女がこの仕上がりにまったく満足していないこと
Dernière mise à jour: 2026-03-26
Chapter: 66
声がした方を振り仰ぐと、その螺旋階段の一番上から友梨たちの方を見下ろしている一人の男がいた。「旦那様」その男が現れた時、全ての使用人たちが深く頭を下げた。旦那様!?…てことは、理那人さんのお父さん!?友梨は驚きに目を見開いて、一人顔を上げて彼を見つめていた。そんな彼女をレリーは面白そうに見て、後ろに控えていた男に何かコソッと囁いた。男はチラッと友梨に視線を向け、そして頷いた。え、なに…?友梨は不安そうに目を泳がせたが、次に顔を向けたレリーが人好きのする笑顔を見せたことでホッと胸を撫で下ろした。「君が、リナトの連れて来た女の子かい?」「あ、はい!関根友梨といいますっ」「友梨さん…。ふ~ん…」その値踏みするような瞳にほんの少し眉を寄せたが、続いた言葉にドキリとした。「悪くないね。…お前たち、彼女に対して失礼な態度を取らないように。わかったか?」「はい」深々と頭を下げる使用人たちに、友梨の胸はスカッとした。ほら、みなさいよ。今度あんな態度をとったらただじゃ済まさないんだからっ。彼女はふんっと、横目で執事らしき初老の使用人に嘲笑の視線を送ると、彼は一瞬、恨めしそうに睨みつけてきた。だが彼はこの家で長年勤め上げてきたのだ。容易には感情的に声を荒げたりはしない。「こちらへどうぞ」恭しく案内するのに、友梨は満足そうに目を細め、後をついていった。『……』そんな彼女の背中を見送って、レリーについていた男が言った。『お父さん、本気であんな女をうちに迎えるつもりですか?』その言葉に、レリーはぷっと吹き出した。『そんなわけないだろう?見たか?あのバカさ加減を』『でしたらー』『適当に泳がせとけ…とさ』『は?』それだけ言うと、彼はスタスタと書斎に向かって歩きだし、訳が分からず眉を顰めていた男、レリーの息子で秘書をしているAli(アリ)は、慌てて後を追った。『どういうことですか?』彼は気に入らなかった。既に後継から外れた弟のいうことをきかなくてはならないことが、忌々しかったのだ。その上、いきなり女を連れて来て、一族の集まりに参加させるなど…。許し難い暴挙だった。だが、感情的になってはならない。たかがこんなことで感情を乱すなど、ボスになる資格がないと判断されかねない。アリは先ほど父にこっそりと『リナトが連れて来た女だ』と言われた時、
Dernière mise à jour: 2026-03-26
Chapter: 65
「最悪だな」フッ…と呆れたような嗤いを零しながら呟く怜士に、准も頷いた。理那人たち2人は「こんな国には住みたくない」と切実に思っていた。小さい頃、父親に母の生まれた国のことを話してもらったことがあって、憧れていたのだ。女だからと理由もなく虐げられることがない国。本人の努力が認められる国。それに、誰もが皆平等に、豊かに見えた。もちろんその中での格差はあるだろう。でもそれさえも、努力で覆すチャンスがある国ー。理想郷ではないことくらい分かっていたが、理那人も有紗も、本当にこの国に来たかった。ファミリーは当然豊かすぎるほど豊かだったが、やはり「女」だというだけで有紗は軽く見られていたし、そもそもミックスというだけで2人は〝正妻の子〟であるにも関わらず、余所者扱いをされていた。「たぶん父もミックスで、この気持ちがよくわかっただろうから、きっとこの選択を許してくれたのだろうと思う」理那人はそう言った。彼は成人後も進学して勉強をしながら、父親に付いて事業の勉強もした。そんな彼を〝後継者として鍛えられている〟と勘違いした他の兄弟たちからは散々痛い目に遭わされたが、やっと18才になってこの国でも成人と見なされる年齢となってから、理那人は有紗を連れてさっさとI国を出たのだ…と言うのだった。准とは、父親から怜士のことを聞いていたようで、連絡先をどうやってか手に入れて接触してきた。会ったのはほんの数回。その頃の准もA国での基盤作りに忙しかった為、ほとんどが電話やビデオ通話による接触だった。彼らは不思議と気が合った。准にしても、自分に取り入らずとも立っていられる、いわゆる〝対等な立場の友人〟ができたことが嬉しかった。だから、彼らが藤原家であまり歓迎されていない状況をなんとかしてやりたかった。というか、それは怜士がやることでは?と思ったのだった。「つまりー」「あ〜、わかったわかった。もういい」准の言葉を怜士は遮った。「要するに、俺にその双子と母親の間を取り持てって言いたいんだろ?」どこかうんざりしたような口調に、准は眉を寄せて頷いた。「お願いします」そうして頭を下げる息子に、彼はため息をついた。「今回だけだ」そして今日、彼は架純の元を訪ねたのだった。まぁ、結果的に彼女はまったく彼らと会うことを拒否しておらず、苦労なく准からの頼みを叶えることがで
Dernière mise à jour: 2026-03-19
あなたからのリクエストはもういらない

あなたからのリクエストはもういらない

ピアニストになる夢を諦めて愛する人の為だけにピアノを奏でる日々。 夫は彼女のピアノを愛していたが、彼女自信にはとても冷たかった。 結婚当初あんなにも彼女の為に働き、彼女の機嫌を取ることに心血を注いでくれたのに、あっという間に彼は彼女の代わりを見つけてしまった。 その日も浮気相手の義妹に傷つけられた彼女を彼は冷めた目で睨みつけ、置き去りにした。 そうしてやっと目が醒めた彼女が離婚を決意した直後、彼女は事故で命を落とした。 だが彼女は過去へと戻り、そして自分の人生を取り戻す事を決めた。 「希純、離婚しましょう」 彼女を閉じ込める籠はもうない。 優雅に翼を広げ、愉しげに自由を満喫するその姿に、彼女の夫は涙した。
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Chapter: 173.結末(今世)
就業後。希純はさっさと仕事を終わらせて、中津の挨拶もそこそこに会社を後にした。運転手も、昼間の沈んだ様子の社長を見ていたので自然と顔に笑みが浮かび、問いかけた。「チケット、手に入れられたのですか?」車に乗り込んだ途端にホールへ向かうように言われ、始めはなんの為に?と疑問に思ったが、その嬉しそうな様子から事情を察して尋ねたのだ。「ああ。中津がくれた」「そうですか。よかったですね!」最近の社長はとても親しみがもてていいと思う。以前はなんだかピリピリしていることが多くて、中津さんがいない時はこんな風に話しかけたりできなかった。運転手の男は、バックミラーに映る希純の緩んだ目元を見て、感慨深げに微笑んだ。ホールに着き、ドアを開けて見送った時なんかは、さらっと「お疲れさま」とまで言われた。「ご連絡頂ければお迎えに参りますが?」そう言うと、彼は後ろ手に軽く振って「いいよ」と言った。そのご機嫌な後ろ姿に、男は丁寧に一礼した。*開演前のざわつきの中、希純は自分の隣が2席空いていることに気がついた。こんないい席なのに、まさか遅刻か?開演後に来ても、演奏中はもちろん会場に入れない。しかもこんな前の方なら、目立つこと間違いなし。希純は自分のことでもないのに、妙にそわそわとしていた。そこへー「お疲れ様です」「?」聞き慣れた声に振り向くと、そこには一人の女性を連れた中津の姿があった。「お前も来たのか?」眉を顰める上司にも怯まず、中津はニッコリと微笑んだ。「はい。彼女と一緒に」「井藤花果です」「……」その緩んだ顔に苛つきながらも、側でペコリと頭を下げた女性に視線を向けた。「こんばんは」「こんばんはっ」初めてあった中津の彼女は、可愛らしい感じの女性だった。彼らは希純を越えて隣に中津、その隣に花果が座った。2人は「間に合ってよかったね」「遅刻するかと思ったよ」などコソコソと囁きあっていて、希純は少しだけ疎外感を覚えた。そこで「彼女は如月尚のファンなんじゃなかったのか?」とそっと尋ねてみたのだが、振り向いた中津に「別にファンじゃなくても、来ていいでしょ」と冷たくあしらわれ、希純はそれ以上話しかけるのをやめた。その内コンサートが開演し、彼も舞台に集中して隣にいる2人には見向きもしなくなった。今回はクラシックだけのプログラムで、
Dernière mise à jour: 2025-12-08
Chapter: 172.佐倉希純(今世)Ⅱ
実際、中津は彼がチケットを手に入れられないことを予測していた。美月は今や老若男女を問わずに人気のあるピアニストで、大人が愉しむクラシックオンリーのものや、子どもも楽しめるいろいろな楽曲を集めたものなど、様々な形のコンサートを開催していた。たまには他楽器の演奏者をゲストに迎えながら合奏をしたり、抽選で選ばれた彼女のファンを招待して即興で連弾したり…ととにかく趣向を凝らしたコンサートが人気だったのだ。今回の〝特別販売〟は、チケット完売後にも拘らず問い合わせがあまりにも多かった為、本来ならば空けておいた最後列の席を当日券として販売することに、急遽決めたのだった。そういった理由で席数も僅かで、実は徹夜組もいるという情報を得ていた中津は、午後から行ったところでこのチケットは到底手に入れられないだろうと思っていた。彼は今、目の前で真面目に資料に目を通している希純を見て、会議の進行が遅れないように気を遣った。なぜなら彼には今日、就業後に予定があったからだ。残業も一切無しで帰りたい。その為にはー「はい、ちゃっちゃと資料読んじゃってくださいね〜。あと30分で会議始まりますよ!」「少し遅らせてー」「無理です」断固としてきっぱりと断られた希純は額に青筋を立てながらも、結局は中津の言う通り資料に集中した。そして全て読み終え、ふぅ…と息をついたところで他の業務の為に側を離れていた彼を呼び出した。『はい、中津ー』「終わったぞ」そう言って、返事も聞かずに電話を切った。中津は既にツーツー…と鳴っている音に苦笑して、手元の業務を片付け席を立った。コンコン!オフィスのドアをノックして開けると、そこには少し不機嫌そうな顔の希純が待っていた。「遅いぞ。何してた?」「すみません。明日の午前中はゆっくり出社していただけるように、前倒しで書類の整理をしてました」「っ……そうか」「はい」にこやかに告げられて、希純は不満を口にし辛くなってしまった。なんだよ。そういう気遣いできるならチケット取っといてくれよ。心の中でぶちぶちと文句を言って視線を逸らした。そうして彼は目を通した書類を手に、中津を連れて会議室へと向かったのだった。*会議後。「はぁ〜、疲れたな…」「お疲れ様でした」中津はオフィスに入るなり、グーッと背伸びをした希純を労った。今回の会議は重要度
Dernière mise à jour: 2025-12-08
Chapter: 171.佐倉希純(今世)Ⅰ
今世ー「社長、まだ決められないんですか?」「ん?」いや、ん?じゃなくて!中津は目の前で、どこかうきうきとスーツを選んでいる希純を見て、げんなりとした。オフィスの中にある小さなクローゼットには、急に必要になった時用に喪服と他、何着かの着替えが用意されている。希純は今その前に立ってあれこれとスーツを選び、その度に中津に「どうかな?」という視線を向けてくるのだ。そして中津は、律儀に「それはちょっと暗い」とか「華やかすぎて浮きそう」だとかアドバイスをしていたのだが、その時間が長くなってくると段々面倒くさくなってきた。も〜、いったい何分こんなことやってんだ?どれでも一緒だよっ。チラリと腕時計を見て、彼は希純を急かした。「社長、早く選ばないと、裸で行くハメになっちゃいますよ!」「ハハッ、何言ってんだー」そう言いながら自身も時計を見て、急にバッ!と勢いよく振り向いた。「おい!もうこんな時間じゃないか!なんで言わないんだよ!」え〜、言ったし…。なんだったら急かしたし…っ。中津は不満げに口を尖らせると、希純を無視して勝手にクローゼットを漁りだした。「おい!」彼は希純の怒りになど頓着せず、パッパとスーツの上下、それからそれに合ったシャツとネクタイを選び、「はい!」と押し付けた。「これで!」「……」無言で眉を顰める希純に、中津も無言で更にぐいっと押し付けた。やがて、仕方なさそうにため息をついてそれを受け取った希純を着替えに送り出し、中津ははぁ…と息を吐き出した。今日は、美月のコンサートが開催される日だった。希純は当初、海外で仕事を進めていた為このことを知らなかった。だが帰国後その情報を得て、なんとかチケットを買おうとしたのだが既に完売で、泣く泣く諦めていた。その為、彼は今後このようなことがないようにと美月のファンクラブに入会し、万全の体制を整えることにしたのだった。そうしていたところ、そのファンクラブからの通達で【当日チケット特別販売】があることを知り、こうして出かける準備に余念がないという訳だった。開演にはまだまだ十分に時間がある。だが枠の少ないチケットを手に入れる為には、早めに行かなければならない。今朝。希純は、中津を呼んで重々しく言い渡した。「今日の分の決裁は午前中に全て済ませる。俺は午後から出かけるから、後は頼むぞ」「
Dernière mise à jour: 2025-12-08
Chapter: 170.佐倉希純の場合(前世)Ⅲ
「はぁ?」尚の眉がピクッと跳ね上がった。「〝浮気はしてない〟ですって?あなたね、まさか〝身体の関係はないから浮気はしてない〟なんて甘っちょろいこと言ってんじゃないでしょうね?」「何が違う?」希純が問うと、尚は苛立たしげにドンッと足を踏み鳴らした。「バカじゃないの!?やったかやらないかじゃなくて、気持ちが動いたかどうかが問題なのよ!」「動いてない!」「ハッ!アンタのどこをどう見てそんなこと言ってるの!?誰も信じやしないわよ!」「っ…」希純は痛いところを突かれた様に、口を閉ざした。そんな彼を、尚は嘲笑した。「心当たりがあるんじゃない。本当、最低ね!」「……」項垂れる彼に、更に言った。「そんなアンタに美月を弔う資格なんかないわ。さっさと帰ってちょうだい」それに対し、希純は呟くように言った。「本当に、彼女のものは何もないのか…?」「……」「本当にー」「ないわ」「……」そう言い切ると、希純はゆっくりと掌でその顔を覆った。「……っ」しばらくして微かな嗚咽が聞こえたが、尚は聞こえないふりをした。彼女は部屋を出る間際、振り向いて言った。「気が済んだら帰ってちょうだい。声もかけなくていいわ」そうして希純は一人残された部屋で、声を殺して泣いた。「美月…すまない……すまない、美月…。俺が悪かった…」何度も呟いて、やがてふらりと立ち上がると泣き腫らした目をそのままに、彼は帰って行った。尚は窓からその後ろ姿を見送り、そっと息をついたのだった。*「尚…?」ぼんやりとしていた彼女に声をかけた聖人は、その男らしい眉を心配げに寄せていた。「ああ…まだいたの?」「……」その言葉に、聖人の瞳にはほんの少し悲しげな色が宿った。それを見て尚は申し訳なさそうに言った。「そんな意味じゃないの。ただ…」「わかってる。大丈夫」聖人は優しく微笑んだ。彼は、尚が彼女の親友の遺骨を手に入れる為、兄の怜士と取引したことを知っていた。だから希純から彼女の居場所を尋ねられた時、彼女の罪を見逃すことを条件にそれを教えた。そして怜士には、自分の相続権を放棄することを条件に、彼女を追いかけることを許してもらったのだ。聖人は尚が自分の元を去った時、いかに彼女を愛していたかを思い知った。いつの間にか姿を消していた彼女は事務所も辞めていたし、弟の英明に訊
Dernière mise à jour: 2025-12-04
Chapter: 169.佐倉希純の場合(前世)Ⅱ
A国ー。そこは年間を通じて穏やかな風が吹き、人々は親切で治安も良く、お年寄りや子どもにとってもとても過ごしやすい国だった。しかもここは昔から有名な音楽家や芸術家が沢山輩出され、その道を志す者にとってもチャンスの溢れる場所だった。尚はパソコンからふと視線を上げ、明るい日差しの入る窓の外を見た。彼女は美月の遺骨を抱えてたった一人この地に降り立ったが、その穏やかな気候と何かしらの事情を抱えた彼女にも親切に接してくれる人々に助けられ、心からここに来て良かったと思った。尚が選んだのは田舎にある小さな一軒家で、小さいとは言っても一人で暮らすには十分な広さのある間取りと、庭には色とりどりの花々が咲く今の暮らしに、彼女は満足気に微笑んだ。美月も喜んでるかな…。吹く風に感じる暖かさが、美月の魂の温度の様に感じられて、尚は手にしていたペンを置いた。そこへーキンコーン…キンコーン…とドアチャイムが鳴るのを聞いた。「はい」尚がドアを開けると、そこには佐倉希純の姿があった。「何しに来たの?」彼女は彼を見た途端に顔を顰め、迷惑そうに言った。だが希純はそれに取り合わず、真っ直ぐに彼女を見つめて口を開いた。「お前が盗んだのか?」「……」それは問いかけの形をとっていたが、断定だった。尚は胸の前で腕を組み、ふんっと鼻を鳴らした。「今頃気がついたの?遅いんじゃない?」「貴様!」その嘲るかのような口調に、希純の額に青筋が立った。激昂した彼を見て、尚は白けたように視線を流した。「とりあえず中に入って。近所迷惑だわ」「……」そのままスタスタと家の中に戻って行く彼女に従って、希純も中に入って行った。そしてリビングに案内されたと同時に、彼は急くように要求した。「美月を返せっ」「……」尚はそんな希純を振り返り、肩を竦めて軽く言った。「無理よ」「は?何が無理だっ。彼女は俺の妻なんだぞ!?返せ!」言い募る希純にも、彼女は冷静に応えた。「言ったでしょ。無理なの」「だから何でだ!?」バンッ!と手にしていた荷物を床に叩きつけ、希純は怒りのままに怒鳴った。尚はそんな彼を見てやれやれとため息をつき、ひとまずソファに座るよう手で示した。希純は憤慨しながらもドカリと腰を下ろし、ふんっと鼻から息を吐いた。「いくら欲しい?」「なんですって?」質問に眉を跳ね
Dernière mise à jour: 2025-12-04
Chapter: 168.佐倉希純の場合(前世)Ⅰ
2週間後。希純は父親の純孝と共に霊園へと向かった。彼は妻の好きだった花を花束にして供え、僧侶の言葉が終わるのを待った。そして係の者が美月の骨壺を取り出そうとして、戸惑ったように振り返るのを見た。「どうしました?」「それが……」彼は視線を泳がせ、僧侶の顔を見て、最後に希純に言った。「ありません…」「は…?」ありません?何が?何が無いっていうんだ?「まさか…?」その言葉に、彼は慎重に頷いた。「佐倉美月様の骨壺が見当たりません」「あり得ない…」希純は唇を震わせながら呟いた。そして、一気に激昂した。「なぜだ!?」希純は目の前にいる男の胸ぐらを掴み、答えのない問いを繰り返した。僧侶はこの事態に眉をひそめ、ひとまず希純を宥めた。「ここの管理者を呼べ」純孝は周りで青褪めている職員にそう言い、深いため息をついた。少し待つと、管理者の男が急いで走り寄って来た。「佐倉様…」彼は純孝に声をかけた。だが、「ここの管理はどうなってるんだ!?墓泥棒が入ったのにも気がつかなかったのか!?」希純がそう怒鳴りつけてきた。肩を怒らせて、ふーふーと息を荒げていた。「も、申し訳ありません。ですが、私共にも何がなんやらー」「言い訳はいい!!早く監視カメラを確認しろ!」希純の言葉に、男は慌てて事務室に駆け戻って行った。「希純…」それを見送って、純孝が無念そうに口を開いた。「とりあえず、警察に連絡しろ。彼女を取り戻したいなら冷静になれ」「……っ」希純はその場に膝をつき、頭を抱えた。誰だ?誰がやった!?ライバル社の連中の誰かか?それとも、骨壺と引き換えに金を要求しようとしてる奴がいるのか!?希純はギュッと目を瞑り、爆発しそうな怒りを堪えていた。純孝は周りが見えなくなっている息子の代わりに僧侶に頭を下げ、また改めて供養をお願いする旨を伝えた。「希純、とりあえず事務室に行こう」彼は、未だどうしたらいいのか分からずにオロオロしている男に片付けを頼み、希純を伴って移動した。「これを想定して遺骨を移したいと言ったのか?」「まさか!そんなこと、考えたこともないっ」希純は父親の質問に驚いて強く否定した。2人はそのまま、この霊園を管理している者がいる事務室へと入って行った。そしてわかったことは、今月始めにこの霊園内外の清掃などを請け負っている
Dernière mise à jour: 2025-12-04
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