『着いたわよ』
メッセージが届いた事に気がついた並木廉が、VIP個室を出た。
今日、彼と一緒に集まりに参加する予定の女が店に着いたというので、1階まで迎えに降りる為だ。
彼は階段を降りながら、さっき耳にした長谷直也の言葉を思い出した。
確か白井麻衣と、他にもいるって言ってたな…。
廉がサッと1階フロアーを見渡すと、そのグループはすぐに目についた。
今日の雪乃は最近までの姿と違っていて、長い黒髪を片側に寄せて一つに緩く纏め、その白くて細い首筋を露わにしていた。
耳には派手すぎないピアスが煌めき、軽く揺れている。
服もいつも着ていたような落ち着いた色あいのひらひらしたワンピースなどではなく、ミディアム丈の艶のある、黒のボディコンシャスワンピースだった。
そこから伸びる細い脚は形も良く、彼女の引き締まったウエストラインから脚までの流れるような曲線は、そのスタイルの良さを際立たせていた。
そこへ聞こえてきた白井麻衣の言葉に、面倒くさそうに答える雪乃。
心配するなとただメッセージを送ることがそんなに面倒なのかよ!
廉の苛立ちは舌打ちという形で表れた。
それに反応して振り向いた彼女たち。
だが廉の予想に反して、雪乃はじっと自分を見つめただけで次の瞬間、ふいっ…とその顔を背けたのだった。
いい度胸じゃないかよっ。
並木廉にとって〝那須川悠一〟という存在は神にも等しい憧れの、絶対的なものだった。
そんな彼の弟分である自分もその他大勢の仲間たちからは特別に扱われる存在で、彼女たちのように無視していいものではなかった。
廉は雪乃が悠一の〝妻〟であっても、まだ自分の方が敬われる存在であると信じていた。
「まさか無視されるとはね。雪乃さん、あんた悠一兄の女だからってずいぶん調子に乗ってるみたいだけど、結婚早々こんなとこに男と遊びに来るなんて、呆れてものも言えないよ。まったく、ただのビッチじゃねぇか。あんたなんか、悠一兄に相応しくないよっ」
「……」
ざわついていたフロアー内が、BGMを残してシン…とした。
雪乃は廉を冷めた瞳でただじっと見つめていた。
麻衣は「こいつ終わったわね…」と思っていた。
友香と男たちは、この突然の暴言にびっくりして目を瞬いていた。
「なんも言い返せないのか?はっ!そりゃそうだよな!」
廉は意地悪な目つきで雪乃を馬鹿にしていた。
彼女があまりにも静かなので言いたい