未央は頷いて何か言おうとしたが、それは大きなクラクションの音に遮られた。
「未央さん、悠奈の病状がまた悪化したみたいなんだ。急いで帰ろう」
悠生は車から降りてきて、焦った様子でそう言った。
未央はそれを聞いて驚き、目の前にいる博人に構わず彼をそこに置き去りにして悠生の車に乗った。
そして次の瞬間には。
未央を乗せた車はあっという間に目の前から消えていった。
博人はそのシーンを見つめ手に力を込め、近くにあった木を殴った。その拳からは血が滴っていたが、感覚はなかった。
しかし。
彼は昔の自分が雪乃のために何度も同じように、未央を無視して置き去りにしていたことなどは覚えていなかった。
それと同時刻。
車内の空気はとても重たかった。
未央は眉間にきつくしわを寄せた。「どうしたんです?悠奈ちゃんはずっと発作なんか起こしていなかったのに」
悠生の顔色も悪く、沈んだ声だった。「具体的にはどういうことなのか俺にも分からないんだ。使用人が言うには、今日あの子が突然昔の物を整理し出して、何かが刺激になったみたいで」
未央はとても焦っていた。家に着くとすぐに車を飛び出し、屋敷の方へと急いだ。
「悠奈ちゃん……」
彼女は鍵を取り出して玄関を開けた。すると悠奈は部屋の隅のほうに縮まって両手で膝を抱え顔を真っ青にさせていた。その体は小刻みに震えている。
それを見た瞬間、未央は心を締め付けられた。
「もう大丈夫だからね、帰ってきたよ」
未央は注意深く彼女に近づいていった。この一年間、治療は効果が現れていて、少なくとも悠奈が自虐的な行為をすることはなくなっていた。
「わ……私、また晃一の夢を見たの。誰かに殺されたって言ってた」
悠奈は恐怖に満ちた瞳をし、ぶつぶつと呟き続けていた。
未央は優しい声で彼女を落ち着かせた。そしてふいに目線が悠奈の手の中にある一枚の黄ばんだ写真に落ちた。
その視線の先に見えたのは、幸せそうな表情をしたカップルだった。街中で手を繋ぎ、とても親し気な様子だった。
それから。
未央が気になったのは、その写真の少年に見覚えがあるような気がしたことだった。
以前、どこかで会ったことがあるのだろうか?
未央は必死に自分の記憶を呼び起こした。そして、すぐにある葬儀のシーンを思い出したのだ。
白鳥家は製薬会社を営んでいた。しかし、数年