大学には、絶対に行く。しかも、自分の実力で帝都大学に合格するつもりだ。
たとえ朔良が行けなくても、たとえどんな結末も変えられなかったとしても、前世のように男のためにすべてを捨てる気なんて、これっぽっちもなかった。
明日香が「病院に行きたい」と言ったとき、まさか加藤が静水病院まで連れて行ってくれるとは思わなかった。
「お嬢様、着きました」
「うん」
車を降りると、明日香は診察券を取り、救急外来へと向かった。
看護師が包帯を外しながら、不思議そうに顔を上げた。
「どこか具合が悪いんですか?縫合糸をまた開けると、傷口が感染するかもしれませんけど......」
「ちょっと痒みがあって。もしかしたら炎症が起きてるかもしれないので、診てもらいたいんです」
「そうかもしれませんね。包帯がくっついてますから、少し我慢してくださいね」
そのとき、背後から声がした。
「明日香ちゃん?どうしたの、怪我したの?」
振り返ると、白衣のポケットに手を突っ込んだだらしない格好の哲朗が、そこに立っていた。明日香は彼の目を見た瞬間、強い嫌悪感を覚えた。
彼は遼一とつるんでいる。まともな人間じゃない。
哲朗はポケットから手を出し、看護師の持っていたハサミをひょいと受け取った。彼の笑顔は、女よりも艶っぽかった。
「俺がやりますよ。あなたは他の患者さんをお願いします」
看護師は哲朗の顔をまじまじと見て、ほんのり顔を赤らめて「はい」と小さく答え、部屋を出ていった。
哲朗の温かい指が、明日香の細い指をそっと包んだ。丸く整った爪は、艶やかに光っていた。
「明日香ちゃん、そんなにうっかりしてたの?炎症起こしてるよ。お兄さん、心配するだろうね」
明日香は、前世から彼に対してまったく好感を持っていなかった。哲朗は何かと彼女に手を出そうとしていたし、その卑劣な性格は、今も変わっていない。
彼の親指が手の甲をなぞるように動く様子は、まるで発情した獣のようだった。明日香は手を引きたかったが、怖くて動けなかった。
確かに傷の処置はしていた。でも、その手つきは妙に優しすぎた。
手当てが終わると、哲朗は意味ありげな笑みを浮かべた。
「せっかくの綺麗な手なのに、傷が残ったら台無しだよ。明日香ちゃん、次は絶対に水に触っちゃだめだよ」
包帯を巻き終わるとすぐに、明日香は手を引っ込めた。こ