優子は疑問を抱えたまま足早にその場を去ろうとしたが、智也に口を押さえられそっと脇に引き寄せられた。
彼の体からはほのかによく知った香りが漂っていた。優子はそれが智也だとすぐにわかり、驚くことはなかったが、彼が何をしようとしているのかが気になった。
智也は彼女に目で合図を送り、下を注意して見るように促した。
下?
二人は2階のバルコニーに立っていた。1階の芝生には、いつの間にか二人の人物が立っていた。
背中を向けているその一人を、優子は一目で認識した。
峻介だ!
彼は細身で白いドレスを着た女性の腕を掴んでいた。
その女性は、少し前に会ったばかりの葵だった。
峻介の目的は毒虫組織を一網打尽にすることだった。まさか、彼はすでにその人物が葵であることを知っていたのだろうか?
その可能性に気づいた瞬間、優子の背中は冷たくなった。
すぐに彼女は頭を振り、峻介は自分を愛しているのだから、こんなことで自分を騙すはずがないと考えた。
これは偶然に違いない。もしかすると、彼も今初めて何かに気づいたのかもしれない。
しかし、優子のその淡い期待はすぐに打ち砕かれた。
「放して!」葵の声は冷たかった。
「葵ちゃん、僕には君だとわかってる」峻介はかすれた声で言った。
「否定しなくていい。君が僕を気にかけていないなら、沖野豊が僕を殺そうとしたとき、命がけで止めには来なかっただろう?僕はもう一度、辻本恵の遺伝子検査をやり直したんだ」
葵は背を向けたまま、仮面の下の表情がわからなかった。
「なんでそんなことをするの?君の妹はもうとっくに死んだと思っていればいいじゃない」
この言葉で、彼女は自分が葵だと黙認したことが明らかだった。
バルコニーに立っていた優子は、すでに全身が凍りついたようだった。
峻介はずっと前から真実を知っていたのだ。それも、自分より早く。
恵の墓を掘り返したのは他人でもなく、彼だった。
おかしいのは、自分をずっと騙していたことだった。さらには自分に真実を追及しないよう丸め込もうとしていた。
なぜなら、真実は彼が両方を守ることができないことを意味していたからだ。
だから彼は自分にスープを作ってくれたのか。だから「子供はまたできる」と言ったのか。だから最近、彼が自分に対して妙に優しかったのか。
全てがつながった。峻介は、過去の2年間、