紗枝は電話越しに聞こえる太郎の言葉に眉をひそめた。
太郎はなおも話し続けていた。「姉さん、僕がこの数年、どれだけの屈辱を味わったか分かるか?昔は僕が他人をいじめてたのに!」
「お願いだよ、姉さん。あんたが拓司に会ってくれれば、彼が僕たちを助けてくれる!」
紗枝はこれ以上聞く気になれず、電話を切ろうとした。すると太郎が突然口を開いた。「もし僕が母さんに騙されてなかったら、夏目家は潰れなかったんだ!」
「どういう意味?」紗枝はすぐに問い返した。
太郎は酔い潰れ、大通りに座り込んでいた。
少し前、彼は聖華から追い出されていた。鈴木世隆によってカードを凍結され、支払いができなくなり、その場で暴行を受けたのだ。
「僕たちのあんなに大きな財産が、どうしてたった3年で全部なくなったか分かるか?それは、母さんが金を全部、彼女の愛人である鈴木世隆に送金したからだ!
今になって鈴木家は金も力も持って、僕のカードまで凍結して、挙げ句の果てに僕を殴らせやがった!もし和彦が助けに来なかったら、僕は死んでたかもしれない!」太郎は過去の出来事を洗いざらいぶちまけた。
紗枝は黙って話を聞いていたが、その内容に衝撃を受けた。
彼女はこれまで美希が鈴木家の鈴木社長と結婚したのは、海外で知り合ったからだと思っていた。
「父が亡くなった後、美希さんがすぐに他の男と連絡を取っていたってこと?」
紗枝が問うと、太郎は少し酔いが覚めたのか、どもりながら答えた。「そ、それは分からない。
でも、とにかく姉さん、お願いだから黒木拓司に会ってくれよ!僕たちは血を繋いだ家族なんだ!僕がまた会社を立て直すれば、姉さんだって夏目家のお嬢さんのままだ!」
太郎がそう言い終わる前に、電話はすでに切られていた。
紗枝はスマホを握りしめたまま、その場に立ち尽くし、背筋に寒気を覚えた。
彼女はかつて美希が自分を愛していなくても、せめて父親への愛情はあったのだと信じていた。しかし、今やその考えが崩れ去ったのだ。
でも、とにかく姉さん、お願いだから黒木拓司に会ってくれ!僕たちは血の繋がった家族だろ?僕が会社を立て直せば、姉さんだって夏目家のお嬢さんのままでいられるよ!」
紗枝はこれまでも美希と鈴木家のことを調べていたが、情報があまりにも少なかった。
「分かりました」
雷七は即答した。
彼は辰夫の人