司の頭の中に、真夕の小さく清らかな顔が浮かんだ。彼女の唇は柔らかく、ほのかな香りが漂っていた。
彩がキスをしようとした時、司は顔を背けてそれを避けた。
キスに失敗した彩は、不満そうに言った。「なぜ避けたの?」
司自身も、自分がどうなっているのかわからなかった。彼は彩が好きで、愛しあう男女がキスするのは普通のことだ。
彼は真夕が好きではないし。
しかし、彼は真夕とキスを交わしたばかりで、その時の感覚を思い出すだけでゾクゾクする。潔癖症の男として、彼は二人の女性をこうやって切り替えることはできなかった。
彼はそれを不快に思い、どこか汚らしく感じた。
その時、「コンコン」とドアを叩く音が聞こえ、外から清の声が聞こえた。「社長、解毒剤を持ってまいりました」
解毒剤?
彩は一瞬戸惑った。彼女は薬を飲んだのに、彼は秘書に解毒剤を探しに行かせたのか?
司は彼女の手をそっと外し、立ち上がった。
彩は怒って枕を掴み、彼の整った顔をめがけて投げつけた。「司、あなたって男なの?」
彼女は自分を彼に差し出し、薬まで飲んで盛り上げようとしたのに、彼は彼女に触れようとさえしなかった。
司の顔から枕が絨毯に落ちた。彼は無表情のまま、彩を見つめた。「早く休んで」
そう言いながら彼は足早に出て行った。
彩「……」
彼女は怒りでたまらなかった。
……
司は書斎に入り、窓際に立った。その時、清が入ってきた。「社長、彩さんが解毒剤を服用されました」
司は振り返らずに言った。「中庭のほうにも解毒剤を送ったか?」
清は言った。「アシスタントを向かわせましたが、彼が部屋に入った時には誰もおらず、奥様はすでに立ち去られたようです」
司は振り返り、眉をひそめた。彼は唇を噛みながら言った。「真夕はどこに行った?」
真夕が勘違いしていた。あの男は司が解毒剤を届けるために送ったのだった。
清「社長、奥さんは誰かに連れ去られました」
連れ去られた?
あんなに強い薬を飲んだのに、彼女を連れ去ったのは誰なのか?
司はさらに眉をひそめた。「連れ去ったのは、男か女か?」
清「それは……」
司はその話を遮った。「もういい、知りたくないし」
男か女か、彼には関係ない。
彼は真夕が好きではないし。いずれ離婚するつもりだった。
どうでもいい。
司「もういいよ」
「かしこまり