和也の容態はすべて正常だった。
看護師は静かに病室を後にした。
そのとき、扉の外から清の声が聞こえてきた。「社長、手の怪我はもうこれ以上放置できません。今すぐ処置しないと、手がダメになってしまいますよ」
真夕は顔を上げた。扉の向こう、司のすらりとした姿が見えた。彼はずっとそこにいたのだ。
清は真夕を見て、懇願するように言った。「奥様……社長の手、ずっと血が止まっていないんです。どうか……ひと言だけでもお願いします」
真夕は床に点々と広がる血を見た。彼の手は、おそらく何針も縫わなければならないほど、深く傷ついている。
真夕は立ち上がり、扉の方へ歩いていった。
司は彼女が近づいてくるのを見て、その長身がわずかに動き、瞳に微かな光が宿った。
清は嬉しそうに言った。「やっぱり奥様は社長のことが心配なんですね。社長、これでやっと……」
だがその次の瞬間、真夕は無言で扉に手を伸ばし、バタンとそれを閉めた。
バタン。
司と清の顔面に、扉が閉まることによる無慈悲な風が吹きつけた。
清「……」
司の瞳に灯った光は、たちまち消えていった。小窓越しに病室の中を覗くと、真夕は再びベッドのそばに戻り、和也の手を握ったまま、ベッドに突っ伏して眠っていた。
司は、皮肉めいた笑みを唇に浮かべた。
それから一週間が経ち、司は和也が目を覚ましたことを知った。和也の回復は順調で、すでに容態は安定している。
司は社長室で書類に目を通していた。そのとき、スマホが鳴った。堀田家の老婦人からの電話だった。
前回、真夕に連れ出されてミルクティーや足湯マッサージを楽しんだせいで、老婦人はしばらくの間、外出禁止を言い渡されていた。
「……もしもし、おばあさん」
「司?あなたも真夕も、最近ぜんぜん家に帰ってこないじゃない。おばあさん寂しいのよ。今晩は真夕を連れて一緒に晩ご飯を食べに帰ってらっしゃい。ふたりに会いたいの」
司の左手には、まだ真っ白な包帯が巻かれていた。今回の怪我で、彼は23針も縫ったのだ。その傷口はいまだに癒えていない。
右手でスマホを持ちながら、彼は黙っていた。
この一週間、真夕はずっと病院に付き添っており、一度も离れなかったことを彼は知っている。
「司?ちゃんと聞いてる?真夕を連れて、今晩は一緒に帰ってくるのよ」
司の端正な顔に、感情の起伏は見られなかっ