隆一は一晩の沈黙を破り、ようやく目に少し光が戻った。
「彼女を入れて」
「はい、白石社長!」
秘書は退室した。
数秒後、優雅なハイヒールの音が静かな部屋に響いた。
「隆一ちゃん」
甘く魅惑的な声、しなやかな身のこなし、風のように軽やかな美しい影が、すぐに隆一の前に現れた。
彼は目を細め、微かに唇を上げて、その女性をじっと見つめた。まるで自分が彫刻した芸術品を鑑賞しているかのようだった。
綺羅は月華間の経営者で、風俗の世界で生まれ育った女性だ。彼女の一歩一歩は魅力的で、下品さは感じさせず、むしろセクシーで挑発的な雰囲気を持っている。
しかし、彼女の本当に素晴らしい点はその顔立ちだった。
綺羅が部屋に入った瞬間、隆一は心臓が激しく鼓動するのを感じた。
黒い髪、赤い唇、そして自信に満ちた笑顔。数年かけて調整された彼女の顔が、桜子に驚くほど似ていた。
残りの2分は気品と独自の雰囲気。それはどんなに学んでも模倣できない、桜子にはないものだった。
「綺羅、こちらに来て」
隆一は微かに喉を鳴らし、指で彼女を招いた。
綺羅は素直に彼の前に歩み寄り、彼の腕を掴むと、引き寄せられるように彼の胸に飛び込んだ。
「隆一ちゃん......」
女性は情熱的な目で見つめ、細い指で彼のネクタイをゆっくりと引き下ろし、少しずつ下にずらしていった。その赤い唇には彼への欲望が満ち、ゆっくりと彼の冷たい唇に触れた。
「言ったことを忘れたのか?」
隆一の眼差しが急に冷たくなり、声も冷たく変わった。「お前は桜子に似ているだけだ。本物の桜子ではない。代わりをするなら、自分の役目をしっかりと果たせ。俺のキスは桜子だけのものだ」
「わかりました......ごめんなさい、隆一ちゃん。次からは気をつけます」
綺羅はすぐに手を引っ込め、まるで冷水をかけられたように動揺した。
隆一の部下で、唯一彼女だけが「隆一ちゃん」と呼ぶことが許されていた。
他の誰もそう呼ぶことは許されない。彼女が少し自由に振る舞える理由、それは彼女が桜子にそっくりな顔を持っているからだ。
綺羅は唇を噛みしめ、心の中で痛みを感じた。
彼女は15歳の時から隆一に仕えてきた。彼がどれほど長い間桜子を思い続けてきたかを思うと、胸が締め付けられる。
「隆一ちゃん、顔色が悪いようですが、桜子さんのことですか?」