「自分で...... 嬉しそうに荷造り?」
涼はその言葉を聞いて、自分の愚かさに呆れ返りそうになった。
あの女はそんなに黒川家から出て行きたかったのか?
「社長...... 大丈夫ですか?」
鈴木は涼の様子を見て、なぜか少し怖くなった。
最近の涼は、家で急に機嫌が良くなったり、怒り出したりする。
「大丈夫だ!」
涼は冷たく言った。「奈津美がそんなに荷造りが好きなら、全部自分でやらせて、自分で下に持ってこさせろ! 手伝うな!」
そう言って、涼は部屋に戻っていった。
鈴木は何が何だか分からなかった。
涼は自分に怒っているのか、奈津美に怒っているのか?
しばらくして、奈津美はプロジェクトの契約書を一番奥の荷物にしまい込んだ。
彼女がスーツケースを立てた時、ドアの外で鈴木がノックをした。「滝川様」
「どうぞ」
奈津美は荷造りを終えた。
鈴木がためらいがちに立っているのを見て、奈津美は言った。「ちょうどいいわ、足が不便だから、スーツケースを下まで運ぶの手伝ってくれる?」
「それは......」
鈴木は困ったように言った。「社長から、滝川様にはご自分でスーツケースをお運びいただくように、というお話がありまして。私たちはお手伝いしないように、とのことなんです」
「また何なのよ?」
奈津美は思わずそう言ってしまった。
自分を追い出そうとしているのも涼だ。
怪我をしているのを知っていて、使用人に手伝わせないのも涼だ。
わざと嫌がらせをしてるのか?
鈴木も何も言えなかった。
涼の考えが、彼女に分かるはずがない。
奈津美は荷造り済みのスーツケースを見ながら言った。「いいわ、頼まない。自分で手配するから」
そう言って、奈津美はスマホを取り出し、ミニ引っ越しサービスを呼んだ。
ミニ引っ越しサービスの運転手は、黒川家の別荘の前に車を停めて、驚いた。
こんなに裕福な人が、ミニ引っ越しサービスを使うなんて?
涼は1階で食事をしていた。奈津美は下にいる運転手に声をかけ、荷物を運び出すように頼んだ。
運転手は親切にも奈津美を支えながら、階段を下りてきた。
1階にいた涼は、その光景を見て冷笑した。
ミニ引っ越しサービスに荷物を運ばせるなんて。
さすがだ。
そして、涼は視線を逸らし、奈津美のことなど見ていないかのように振る舞った。
「田