美香は18億円を借り入れたため、今や口座にはほとんど残高がない。
涼はよりによってこんな時に奈津美と婚約破棄した。
涼との関係がなくなった美香は、この界隈で完全に孤立していた。
以前は仲が良かった麻雀仲間も、涼と奈津美の婚約破棄を知ってから、美香の電話に出なくなった。
彼女はもう他に頼る人がなく、会長に縋るしかなかった。
会長はソファに深く座り、疲れたように言った。「三浦さん、私に何か用かね?」
会長の言葉には、冷たさが滲み出ていた。
美香は慌てて言った。「会長、実は奈津美と黒川様のことで、ご相談に上がりました」
美香は媚びを売っていた。
会長は冷淡に言った。「それは二人の問題だ。婚約破棄を選んだ以上、三浦さんが口を出すべきではないね」
最近の奈津美の行動は、会長の気に入るものではなかった。
ましてや、奈津美を黒川家の嫁にするなど、もってのほかだ。
美香は慌てて言った。「会長、奈津美がご期待に添えず、申し訳ございません。ですから...... 今回は、会長のお悩みを解決するために参りました」
「ほう? どういう意味かね?」
「会長、最近の奈津美が少し反抗的になっていること、また、会長が清水家のお嬢様を気に入っていらっしゃることも存じております」
美香はここまで言うと、会長の顔色を窺った。
会長の表情に変化がないのを見て、美香は続けた。「清水家のお嬢様は、小さい頃から甘やかされて育ったので、少しの苦労もできません。うちのやよいとは違います。やよいは性格が良く、素直で従順な上...... 家事も得意で、家柄もそれほどではありません。黒川様のお力添えがなければ、やよいは神崎経済大学にも入学できなかったでしょう。この間、会員制クラブで黒川様にお助けいただいたそうで、やよいは...... 黒川様のお世話をしたいと申しております。たとえ小さなメイドとしてでも、喜んでお仕えすると言っております」
美香の言葉は遠回しだったが。
会長にはその意味がよく分かっていた。
やよいを涼に近づけようとしているのだ。
それを聞いて、会長は笑った。「三浦さん、なかなか良い考えじゃない」
前は奈津美を送り込んできて、今度はやよい。
ずいぶん欲張りな女だ。
美香は会長の皮肉に気づいたが、そんなことは気にしなかった。
手に入れられるものがすべてだ。
奈津美